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JOURNAL / 世界の食トレンド

Germany [Berlin] エネルギー危機で大打撃を受ける製パン業界に「アンチ・インフレ・パン」が登場!

2022.11.10

text by Hideko Kawachi

ロシアからの天然ガス供給が減少したことから、エネルギーコストが高騰しているドイツ。エネルギー危機で大打撃を受けているのが製パン業界だ。

ドイツの製パン業者の多くはガスオーブンを使っているのだが、今後ガス代は(会社によって違いはあるが)4倍近くなると予想されている。さらに2021年から続いているインフレに続き、戦争や気候変動の影響により小麦を中心とした穀物の価格が急上昇。粉や砂糖の値段は前年比で約45%、乳製品や卵は30%も上がっているという。

多くのパン屋が値上げを余儀なくされているが、毎日食べるパンはあまり高いと売れないというジレンマも。パン業界は今冬から大きな廃業の波が来るのではないかと戦々恐々としている。そんな中、通常のパンより安い「アンチ・インフレ・パン(ANTI-Inflationsbrot)」を売り始めたパン屋がある。創業1905年、西ドイツに20の支店を持つ「ベッカー・シューレン(Bäcker Schüren)」だ。

(写真)オーナーのローランド・シューレンさん。

(写真)オーナーのローランド・シューレンさん。


オーナーのローランド・シューレンさんは、2010年からカーボンニュートラルを目指し、オーブンシステムを一新。冷却システムには地熱を利用し、電力は再生可能エネルギーのみ。その大半が、工場やオフィスの屋根に設置した太陽光発電装置から得たものと徹底している。これによりエネルギーコストの大幅削減が可能になり、価格に反映できたとシューレンさんは胸を張る。

「アンチ・インフレ・パン」は、売れ残ったパンを生地に加えることで小麦粉の使用量を20%節約。通常のオーガニック・パンが750gで3.86ユーロのところ、2.88ユーロで販売している。古いパンは細かく切り、しっかり焼いてから生地に混ぜ込むため、クラストだけでなくクラムの部分も香ばしくなり、しっとり度もアップ。「このパンに興味を持って店に来てくれた人が、他のパンも試して常連になってくれれば最高ですね」とローランドさん。

革新的なアイデアがドイツパンの未来を救うのか、期待したい。

(写真トップ)「アンチ・インフレ・パン」を手にしたパン職人マイスター学校の生徒、カロリーネさん(左)とブピンダーさん。

(写真)オーガニックのパンを細かく砕いたもの(写真奥)を加えて焼き上げた、「アンチ・インフレ・パン」2.88ユーロ/750g。

(写真)オーガニックのパンを細かく砕いたもの(写真奥)を加えて焼き上げた、「アンチ・インフレ・パン」2.88ユーロ/750g。



*1ユーロ=147円(2022年10月時点)

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