~食のバリアフリープロジェクト・FREEなレシピ~
フィリップ・コンティチーニシェフに教わるグルテンフリースイーツ
2018.03.10
text by Rieko Seto / photographs by Bungo Kimura
フランスを代表するトップパティシエ、フィリップ・コンティチーニさんが今、精力的に取り組むグルテンフリーのお菓子作りについて、その考え方と作り方を直々に教わるMEETUPが、4月6日、GINZA SIXの「PHILIPPE CONTICINI」で開催されました。
誰もが作れるレシピを追求。
体質、宗教、年齢などの制約や制限に関わらず、食卓を囲む同士が分かち合って食べられる料理を生み出せないものだろうか……そんな思いで立ち上げた「食のバリアフリープロジェクト」。毎月、「FREEなレシピ」と題して、ヴィーガン、グルテンフリー、デイリーフリーなど様々なテーマに光を当て、雑誌『料理通信』とWEB「The Cuisine Press」で連載しています。
そのリアルな体験版をMEETUPで実現。
グルテンフリーやシュガーフリーといったアレルギー対応レシピの開発に力を注ぐフィリップ・コンティチーニさんを囲み、デモンストレーションを交えながら、グルテンフリーのお菓子2品を題材とするレクチャーをしていただきました。
2015年にはシュガーフリー、2016年にはグルテンフリーおよびラクトース(乳糖)フリーのレシピブックをフランスで出版し、大きな反響を得ているコンティチーニさん。アレルギーフリーのお菓子レシピに取り組むようになったきっかけを次のように語ります。
「ひとつめの理由は、インスタグラムとフェイスブックのフォロワーから、アレルギーをはじめとする様々な問題解決のための質問が日々寄せられること。関心の高さをひしひしと感じていました。ふたつめは私自身が今、毎日、自宅でお米を食べていること。必要に迫られたわけでなく、好きで食べていたら、自然にグルテンフリーの生活になっていた。その“好き”という気持ちが身体に対して一番健康的なのではないか、と気付いたことがすべてのスタートになりました」
コンティチーニさんのお菓子作りの3箇条は、
1.シンプルであること、2.グルマンディーズ(おいしいこと)、3.現代性。アレルギー対応レシピを考えるにあたっても、これら3箇条を大切にしたと言います。
とりわけ意識したのが「シンプルであること」。と聞くと、“ヴェリーヌ(グラスデザート)”の発案者にしてタバコの葉を使うなど複雑で革新的なデザートで人々を驚かせてきたコンティチーニさんを知る人には、ちょっと意外かもしれません。
「アレルギー対応レシピで私が目指すのは、特別なテクニックを使って作るプロのお菓子ではなく、誰もが家庭で失敗せずに作れるレシピです。そのためには、シンプルであることが必須と考えました」
20~30年前の自分だったら、プロである以上、少しは複雑にしなければと思ったかもしれない、とコンティチーニさんは笑います。
「時代が求めるお菓子とは、少しずつ変化し、進化していくもの。私の取り組みも時代と共に変化しています」
今、コンティチーニさんが追求するのは、生地の密度や食感、湿度。「口に入れた時に、どうセンセーションを巻き起こすか」だそうです。
「シンプルさを意識しつつ、ただのシンプルでは終わらせないところが、自分の持ち味でしょうね」とコンティチーニさん。「誰もが作れるシンプルさ――構造のシンプルさ、手順のシンプルさ――の中に、ちょっとした複雑な味わいを持たせたくて、長い時間をかけてレシピを突き詰めたんですよ」。
食感にも味わいにも豊かな表情を持たせる。
デモンストレーションでは、小麦粉不使用の「サブレ・ヴィエノワ・オ・ショコラ」を披露。
「サブレ・ヴィエノワ・オ・ショコラ」で使う粉は、トウモロコシ粉(コーングリッツ)と栗粉です。ショコラの風味は、クーヴェルチュールとカカオパウダーで出しています。
トウモロコシ粉の軽く粒々した食感、栗粉の深みのある味わいが、まさにコンティチーニさんの言う「グルマンディーズ」な趣き。口に入れるとホロリと崩れて、カカオのほろ苦さが広がり、フルール・ド・セルの塩気や底面に付いたグラニュー糖の甘味と食感がアクセントになっています。
参加者からは、使用する素材の特徴や選び方、生地の混ぜ具合について質問が投げ掛けられました。
「材料表に大豆バターとありますが、手に入らない場合は、何かで代用できますか?」との問いに、「大豆バターの代わりにココナッツバターで作っても大丈夫です」とコンティチーニさん。「サブレ・ヴィエノワ・オ・ショコラ」に限らず、大豆バターはココナッツバターに置き換えていいですよ、というアドバイスに、参加者のみなさんが一斉に「家に帰ったら、作るぞ」という表情に。
続いて、紹介されたのが、「ブリオッシュ風蒸し菓子 バニラとあられ糖」。
こちらも小麦粉は使わず、米粉、もち米粉、ジャガイモでんぷん(片栗粉)で作られます。生地をココットに流し入れ、蒸してから、グラタンのように表面を焦がします。
名称に「ブリオッシュ」とあるけれど、ブリオッシュとは異なるホロホロした食感。
「あれ? ちょっとブリオッシュとは違う?」……参加者の戸惑いの表情を楽しそうに見ていたコンティチーニさん、「ブリオッシュの味はするけれど、見た目や食感は似て非なるものですよね。その通り。これは、そういう発想で作った新しいデザートなんです」と解説。
「サブレ・ヴィエノワ・オ・ショコラも、ヴィエノワとしての特徴ある形は踏襲していますが、レシピや味はまったく違います。単に素材を置き換えるのではなく、いかにおいしく、いかに自分なりの味わいを作れるかを考えるのが、私のアプローチなんです」
“食のバリアフリー”とは、おいしいものを作るクリエイションの一部。
「単に素材を置き換えるのではなく、いかにおいしく、いかに自分なりの味わいを作れるかを考える」という言葉を聞いた参加者から、コンティチーニさんに次のような感想が伝えられました。
「グルテンフリーやシュガーフリーと言うと、ヘルシー志向だったり、ストイックなイメージが強くて、グルマンディーズな印象を持っていませんでした。でも、一流のパティシエが作ると、こんなにも華やかで楽しくて、おいしくなるんだなと思いました」
「グルテンフリーやシュガーフリーを単なる流行りとは捉えたくありません。“食のバリアフリー”とは、おいしいものを作るクリエイションの一部なのだと教えていただきました」
「『ブリオッシュ風蒸し菓子』のように、形に囚われないのは目からウロコでした。トウモロコシ粉を使うことで小麦の全粒粉のような質感が出るのもおもしろく、何か作りたくなりました」
「日本では今、アレルギーのために、おやつのおいしさや食べる楽しみを知らない子が多くいます。今日のお菓子を食べたら、きっと『わあ!』ってなると思う。そういう子供たちにおやつを食べる楽しみを知ってほしいと思いました」
「どれもおいしかったのはもちろん、コンティチーニシェフがプロセスをロジカルに説明してくださったのがよかった」
「単に別の粉に置き換えるだけではなく、いろいろな粉や素材を組み合わせて、独創性や遊び心が表現されていて感動しました」
最後に、コンティチーニさんからは、「皆さんがとても興味を持ってくださって励みになりましたし、自分のアプローチをどう広げていくべきか、方向性が見えてきた気がします」との言葉。
コンティチーニさんにとっては、30年わたってお菓子を革新し続けてきたことと、誰が食べてもおいしいグルテンフリーレシピを考案することは、新しい領域を切り拓くという意味において、きっと同じ方向性の上にあるのでしょう。グルテンフリーのお菓子が、そのおいしさや新しさによって、スイーツ界全体をリードしていく時代も夢ではないかもしれません。
◎ PHILIPPE CONTICINI
東京都中央区銀座6-10-1 GINZA SIX B2
☎ 03-3289-4011
10:30~20:30(19:30LO)
営業日はギンザシックスに準ずる
http://conticini.jp/
https://www.instagram.com/philippe_conticini_JP/