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PEOPLE / 寄稿者連載

地方から発信し続けていく意味とは?

目黒浩敬さん連載「アルフィオーレの農場日記」第5回

2016.06.13

当たり前のことが最高に贅沢。

福島県相馬郡新地町。
そこで生まれて、そこで育ちました。
10分東に走れば海、10分西に走れば山という環境で、幼少期を過ごしました。
学校が終わると、ミミズを拾って川で鮒を釣ったり、茸やアケビを採って食べたり。
自然と共に遊び、四季折々の風景を、そして自然の大きさや偉大さも感じて育ちました。


連載:目黒浩敬さん連載







田舎に住む子供は、大抵、都会に憧れを抱きます。
でも、私は高校生になっても、田舎にいることがなぜだかあまり苦には感じませんでした。
高校卒業にあたって、東北の大学なども勧められながらも、親元から離れた独り暮らしに憧れて、関東の大学に進学しました。
そこで初めて食べたお米や、口にした水道の水。
衝撃が走るくらい、酷かったのを覚えています。

やがて、料理人の道を目指し、関東のイタリア料理店などで働いて、生意気にも感じたのが、素材が良くないし、値段も高いということでした。
漁師さんが浜で茹で上げたシラスをもらって食べたり、日々の食卓に当たり前のように並んだFarm to Tableの野菜、天然キノコのごはん、親戚の海苔の佃煮、キチジの開き……。
何もかも、当たり前だったことが最高に贅沢だったんだと、関東に来ることで再認識できたように思います。
それは、私が独立を決意する時には、やはり地方でやろうと確信する要因にもなりました。

実感しなければ、知ったことにならない。





2005年1月、地元から1時間圏内の仙台で、「アルフィオーレ」を開店させました。その2年後には、仙台を一望できる場所に移転。10年間、店を続けたことになります。
開店からしばらくして気付いたら、来店いただくお客様のうち、県外の方々が8割を占めていました。
正直、すごく悩んだ時期もあります。
地域の方々に、地域の良さを感じてほしくて、そういうコンセプトを打ち出して、試行錯誤しながら料理を作り続けているのに、どうして県外の方々が圧倒的に多いのだろう、と。
地方イタリアン特集だとか、数々のメディアの方々のご縁にも恵まれ、取材のお問い合わせも増えていました。考えてみれば、至極当たり前だったのかもしれません。

食が大好きな人は、地方へ行けば、その土地のおいしいものを探します。仙台へ来る人も同様でしょう。
しかし、仙台という場所は、東北でも最大の都市であり、関東資本の飲食店が多数出店している……。関東の流行を持ってきては、そこに仙台の人たちが集うという流れができている。それが普通の流れです。

前置きが長くなってしまいましたが、それでは、都市と地方が互いに上手く循環していくとは、どういうことでしょうか?

間違いなく、簡単に情報をインターネットで引き出せる世の中になっています。情報の収集は、簡単に誰でもどこでもできます。
しかし、本当にその情報は、正確なのでしょうか?
見ていると、わかった気になりがちですが、インターネットからは、その人の言葉や場所の空気感、風、料理……本質までは、引き出せません。
レストランであれば、その料理店に誰かが行って残したコメントや写真だけはつかめますが、人それぞれ好みも感じ方も違うはずです。

農場であっても、それが人であってもしかり。
こういう時代であっても、本質を知ろうと、たくさんの方々が、うちの農園に訪ねてきてくださいます。
そこで感じたり、話したり、食べたことは事実で、本質以外の何ものでもありません。
そして、その本質を感じて都市に帰り、その感じた事実を元に、料理を表現したり、伝えたりすることで、よりリアルにお客様に感じてもらえるだろうことは、言うまでもありません。
結局は、情報化が進んでも、「実感」できなければ体験したことにならないのです。
5月のアルフィオーレ農園。ピノグリージョ、山ソーヴィニヨン、ナイアガラ等、さまざまな品種の芽が、それぞれの成長スピードで育っています。連夜、萌芽した芽をムシに食べられないよう1500本もの樹を見て回る毎日。


芽かきの時期を経て、夏が近づくと開花が始まります。




地方と都市の良い関係とは?





では、情報や技術を世界レベルで集中させて新たにクリエイトしていくのが都市部であれば、地方から発信していけることとは、何でしょうか?

都市になくて、地方にあるもの。

それは、豊かな自然環境に他なりません。
贅沢極まりないたくさんの広大な大地で、田畑を耕し、海で漁をする、いわゆる一次産業、食の宝庫だということでしょう。
穏やかに流れていく時間、豊かな食卓、都内ではそうそう体験できないことを、提供し続けていくことこそ、地方の目指すあり方ではないでしょうか。

めずらしいことをしようと考えていくよりも、今、目の前にある良さを、再認識したり、探したり……。
そんな、当たり前のことを、日々感じて感謝しながら、暮らしていくことこそが、都市部に向けて発信していくことに繋がるのです。

そして、都市から訪れてくださる方々に、日々の暮らしを紹介できるようになること。自分の地域の良さを良いと自慢できること。これも大切だと思うのです。

そうしていくうちに、自然に都市部と地域がつながっていくと思います。都市の現在の事情や需要も、聞くことができますし、そういう需要にも応えられるようになる。
そんなつながりが自然じゃないでしょうか?

少なくとも私は、そういう地域の魅力を探し続けていきたいと思います。
まだまだ知らないことばかりだから、毎日が発見だらけなんですよ。
畑の草の名前、鳥の種類、虫の数……。
知っても知ってもキリがないくらい(笑)

地方に住んでいるみなさんは、もっともっと地元をクローズアップしてみてください。
そして、都市部に住むみなさんは、機会を作って、地方でつながりのある人たちに、たくさん会いに行ってください。

それこそが、地方と都心の良い関係になり得るすべてだと思っています。

目黒浩敬(めぐろ・ひろたか)
1978年福島県生まれ。教師を目指して大学に入るが、アルバイトで料理に目覚め、飲食店などで調理の基本を身に付ける。2004年渡伊。05年、仙台市青葉区に「アルフィオーレ」を開店するも、いったん閉めて、2007年現在地に再オープン。自然志向を打ち出した創作イタリアンとして評価を得る。2014年から宮城県川崎町の耕作放棄地にぶどうを植樹。2015年、店を閉め、農場づくりに本格的に取り組み始める。 https://www.facebook.com/hirotaka.meguro



























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