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PEOPLE / 寄稿者連載

アル川崎町でのコミュニティ構想

目黒浩敬さん連載「アルフィオーレの農場日記」第6回

2016.07.11

より良き「農」を、未来の子供達へ手渡すために。

自然豊かな東北の地で、なるべく自然に負荷をかけない「農」を中心としたコミュニティの新しいカタチを、日々、実践の中から考えています。
いまだ美しい里山の風景が残る宮城県川崎町。その自然の力に導かれるように、私たちは農業という選択肢を選びました。
農業は、とても誇り高い仕事だと、心から思います。しかし、現実はといえば、全国の地方どこを見渡しても、過疎化が進み、学校が廃校になり、農業従事者の高齢化が進み、離農する人も後を絶たず、耕作放棄地が進み……少しずつ衰退していっているように思えてなりません。

連載:目黒浩敬さん連載





レストランを12年間営んでいる間、生産者さんから聞こえてくる、そういった声が後を絶たず、とても心苦しい思いをしていました。
ならば、自分たちで誇り高い農業を実践しよう。そうすることで、この豊かな環境を、遠い未来の子供達へ残していきたいという、強い思いに変わっていったのです。
アルフィオーレにて、シェフや生産者、志を共にする仲間と




コミュニティとは?

2013年よりFattoria AL FIOREワイナリーを立ち上げる活動を開始して以来、当初からの構想に入れていたように、わずか3年ですばらしい仲間が2組も増えました。
思い描くコミュニティをカタチにしていくためには、Fattoria AL FIOREというワイナリーを中心とした一つの経営体では十分ではありません。目指すものを共有する小規模農業の集合体であることが望ましい。それぞれが独立採算で営まれる小さくて強い経営体が、構想段階からヴィジョンを共有することで、矛盾なく強い体系が築けて、地域にしっかり根付けるのだと確信します。
互いの営みの中で、分担したり、協力したり、いつも密にコミュニケーションを図ることによって、農繁期の負担が軽減され、一人で抱える悩みなどがなくなります。担う農業の種類は違うけれど、むしろ業種の異なる仲間による多角的な視野からのアドバイスが得られ、積極的な意見交換を行うことで、本当の意味で地域をまとめ上げる共同体となり得ると思うのです。
様々なジャンルの人々が集まり、定住し、一機能を担うことで、その地域は無理なく持続的に機能していくのです。それこそが真のコミュニティではないでしょうか。
セルフビルドで建築中のみんながくつろげる小屋




「物語」を書き始めること。

アルフィオーレという「レストラン」から始まった物語は今、「農家」という括りへ発展し、そして、まだわずか3つの個人事業ではありますが、苦楽を共にできる「農協」へと進化しつつあります。並列した3つの経営体が各々のパートを受け持つことで、より専門性やクオリティが高くなるのです。
さらに、それらが合わさった時、3倍ではなく、3乗以上の革新が生まれます。
仕事も経営も、初めは楽なことなんて一つもありません。でも、それさえも楽しみながら、本質を捉えた食を追求したい。おいしいこと、楽しいことを目指して、日々努力しています。
(左)初めて、みんなで植えた苗木。(右)耕作放棄地を耕したばかりの農園


今年4月のブドウ畑


今年はまず、新しく加わりたいというスタッフを受け入れるにあたり、川崎町の空家バンクを利用して、一軒家のシェアハウスを借りました。
当たり前のことですが、そんなに宿もない不便な場所にいろんな方が訪れるのは難があります。農作業の体験をしたい。目黒の農園に遊びに来たい。たくさんの方がそう思っていても、足がなかったり、泊まれなかったり。すると、来てくださる機会は減ります。
多くの人に足を運んでいただき、自然や環境を身近に感じ取っていただくことこそが、食や農を再認識させ、感性を育み、気付きの場になり得ると思うのです。
訪れてくださる方々のひと握りでいい。農業や過疎化していく地域を盛り上げていく立役者となる人材が生まれてくれたらと思うのです。

今秋から、さらにスタッフが増えます。
まさにこのコラムの読者です(笑)。
今あることから目を背けず、地道に、真剣に取り組み、日々、継続していくこと。そして、発信していくことこそが自ずと物語に変わっていくのではないでしょうか。
物語には必ず、起承転結がありますよね。自然と共に向き合いながら、日々暮らしていくということは、毎日が違うし、毎年同じように農業を営んでいても結果は必ず違ってくるはずです。それは、ブドウだけでなく、自然なくしては生きていけない私たちすべての人間に当てはまります。その中で、いかにして調和を図っていけるか。そこを意識している人とそうでない人では、結果はまったく変わってくるでしょう。
どんなに自分の理想を掲げても、必ずしも理想通りの結果にならないこともまた物語。失敗すること、うまくいったこと、それも含めて、その人の生き様すべてが、同じ人間である読者の心を動かす一番の物語のような気がします。

川崎町でのコミュニティ構想は、その実現のために始まったばかりです。
訪れてくださる人すべての心に響く物語をお話しできるよう、今日も明日も、日々、目の前のことを真摯に受け止めながら過ごしていく毎日です。

目黒浩敬(めぐろ・ひろたか)
1978年福島県生まれ。教師を目指して大学に入るが、アルバイトで料理に目覚め、飲食店などで調理の基本を身に付ける。2004年渡伊。05年、仙台市青葉区に「アルフィオーレ」を開店するも、いったん閉めて、2007年現在地に再オープン。自然志向を打ち出した創作イタリアンとして評価を得る。2014年から宮城県川崎町の耕作放棄地にぶどうを植樹。2015年、店を閉め、農場づくりに本格的に取り組み始める。 https://www.facebook.com/hirotaka.meguro



























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