ココナッツが鮮烈に香る。選ばれる「メロンパン」に必要なこと。
ヴィーガンパン・レシピ02 東京・新宿「モアザンベーカリー」
2023.11.16
text by Miyo Yoshinaga / photographs by AKANE
ヴィーガンパン専門店の登場とともに、植物性の食材のみで作るパンのレシピが注目されています。動物性の旨味や油脂によるマスキングがなく、発現性を高めたい素材の味がダイレクトに伝わるというメリットを生かし、パン好きも満足するヴィーガンパンを焼く、職人たちの知恵と工夫に迫ります。
東京・新宿「モアザンベーカリー」
神林慎吾シェフ
焼成中に、パン生地がベールを被る
ヴィーガンメロンパンは「モアザンベーカリー」神林慎吾シェフの会心の作だ。「長年パンを焼いてきて、メロンパンにもう驚きはないと思っていたけど、このパンを食べた時は新しさに目を見張りましたね」とニヤリ。
決め手は、ココナッツの香りが鮮烈に際立つクッキー生地である。そもそもメロンパンは卵とバターを使った表面を覆うクッキー生地のリッチな甘さで食べるパン。このクッキー生地を植物性でいかに魅力的に作るかを考えたところ、ココナッツのクリーミィな甘い香りを主役に、繊細で深みのあるメープルシロップの甘味を添え、素朴でありながら、郷愁を誘う懐かしい味わいに思い至った。「子供の頃に好きだったココナッツサブレのようなイメージです」
このクッキー生地を作る時、扱いが難しいのがココナッツ油だ。植物性油脂はそれぞれ融点が異なるため、油脂分の多い生地の場合、慎重に温度管理をする必要がある。ココナッツ油はバターよりも融点が低く、一気に流動性の高い液状になる一方、一度冷やしてしまうと作業できないほどガチガチに固まる。このため、ココナッツ油のクッキー生地は作業ごとに冷やす工程を挟むのだ。
まずは材料を捏ねてから冷蔵で生地を寝かせ、20℃で生地をゆるませてから、シーターで伸ばして型抜き。再び冷やした後に、てんさいグラニューをまぶし、三たび冷却して待機。最終発酵を終えたタイミングで冷蔵庫から取り出し、パン生地にのせて急いで窯へ突っ込む。
焼成前は、帽子のようにちょこんとのったクッキー生地が、焼成中にベールを被るようにパン生地に寄り添っていく姿がなんとも愛おしい。
「ヴィーガンメロンパン」材料と作り方
[材料]
<クッキー生地>※作りやすい分量
薄力粉(クーヘン「江別製粉」)・・・1020g
てんさいグラニュー糖・・・540g
ココナッツファイン・・・105g
ココナッツ油(バージンココナッツオイル「正栄食品」)・・・750g
豆乳・・・160g
メープルシロップ・・・215g
<パン生地(約40個分)>
粉類
強力粉(ベル・ムーラン「日清製粉」)・・・800g(80)
強力粉(ブリザードイノーバ「日清製粉」)・・・200g(20)
てんさい糖・・・150g(15)
塩(五島灘の塩「菱塩」)・・・15g(1.5)
生イースト(USイースト「オリエンタル酵母工業」)・・・40g(4)
ルヴァン・リキッド・・・50g(5)
氷水・・・620g(62)
パームオイル・・・100g(10)
豆乳クリームバター(無塩)(ソイレブール「不二製油」)・・・50g(5)
※グラム数の後ろの()はベーカーズパーセント
<ルヴァン・リキッドの役割>
ルヴァン・リキッドは自然発酵種発酵機「ルバン30」で管理。ライ麦と水で起こしたものに、準強力粉(10P09「江別製粉」)と温水で毎日種継ぎを行う。「ルヴァン・リキッドは風味を上げることと、pH値を下げて製パン性を向上させるため。イーストの働きが活性化して、卵がないと不足しがちな生地の伸展性も上げられます」
<材料の特徴① 粉の配合>
国産小麦ではなく、製パン製の高い外麦を選択。タンパク値が高く、窯伸びする「ベル・ムーラン」(日清製粉)をメインに、冷凍耐性が強い「ブリザードイノーバ」をブレンド。
<材料の特徴 ② ココナッツ油>
クッキー生地には、ココナッツのやさしい甘い香りを加えるため、無精製のバージンココナッツ油を使う。液状で混ぜ合わせて冷蔵で寝かせた後、作業に適した温度に戻し、伸ばして型抜き。再び冷やしてからてんさいグラニュー糖をまぶして、再度冷やして待機。パンの最終発酵が終わった段階で冷蔵庫から取り出して組み立て、焼成へ。
<目指す「焼き上がり」と「断面」>
表面は、ココナッツの香りがストレートに伝わるクッキー生地。土台のパンのボリュームは控えめながら、しっとり、ほんのりヒキのある存在感のある食感に。どちらが主張しすぎることもないバランス。卵不使用のパン生地は焼きすぎるとパサつくため、焼き色は薄めに。同じパン生地でドーナッツやチョココロネにも展開している。
【工程表】
<皮生地>
ミキシング
粉類にココナッツ油を加え、低速1分
豆乳とメープルシロップを加え、低速で3分
↓
冷却
冷蔵庫で1時間
↓
20℃で一晩
型抜き
シートに伸ばして10cmセルクルで抜く
↓
冷凍
↓
表面にてんさいグラニュー糖をまぶし、冷蔵
<パン生地>
ミキシング
低速3分、中速3分、高速3分
パームオイルと豆乳クリームバターを加え、低速で3分、中速で3分、高速で3分
捏ね上げ温度21℃
↓
分割
50g
↓
1次発酵 ー4℃で10時間
↓
復温
30℃・80%のホイロで16℃まで復温
↓
成形
↓
最終発酵
30℃・80%で50分
↓
皮生地をのせて焼成
上火・下火とも180℃で12~13分
【作り方】
[1]クッキー生地を作る。ココナッツ油を溶かす
ボウルにココナッツオイルを入れ、軽く火にかけて溶かす。粗熱を取る。
[2]粉類を合わせる
別のボウルに、ふるった薄力粉とグラニュー糖、ココナッツファインを加え、混ぜ合わせる。
POINT:粉類はあらかじめボウルで合わせておくとダマになりにくい。
[3]
ミキサーボウルに1と2を入れ、低速で撹拌する。
[4]
粉気がなくったら、豆乳とメープルシロップを加え、低速で3分撹拌する。
POINT:分離しないように、粉気がなくなってから豆乳を加える。
[5]捏ね上がり
ドロドロしていた状態がひとまとまりになる。
[6]生地を冷やす
天板にスチロールシートを敷き、クッキー生地を取り出し、ゴムベラで平らにならす。表面にラップをかけて冷蔵庫で1時間冷やす。
POINT:グルテンを落ち着かせる
[7]成形する
20℃のパイルームで一晩置き、生地が軽くゆるんだら、リバースシーターで2.7mm厚に伸ばし、直径10cmのセルクルで抜く。
[8]生地を冷やしておく
打ち粉をしたスチロールシートに重ならないように並べ、ラップをして冷凍する。
[9]
クッキー生地を冷凍庫から取り出し、霧吹きで表面に水をかけ、両面にてんさいグラニュー糖(分量外)をまぶして冷蔵庫で冷やしておく。
POINT:常に冷たい状態に戻さないと、ココナッツ油が溶けてしまい、生地が柔らかくなりすぎる。
[10 ]パン生地を作る
ボウルにルヴァン・リキッド、生イースト、水(暑い時期は氷水)を入れて混ぜる。
[11]ミキシング
スパイラルミキサーに10の発酵種と粉類を入れて、低速で3分回す。
[12]
生地がまとまり、ボウルの内壁から離れてきたら、中速で3分回す。
[13]
さらに高速で3分回す。
[14]
パーム油と豆乳クリームバターを加え、再び低速で3分、中速で3分、高速で3分回す。
[15]捏ね上がり
捏ね上がり。捏ね上げ温度は21℃。
生地をつまみ左右に引っ張り伸ばした時、ごく薄い強い膜ができる。かなり薄く伸ばしても破れない。
[16]分割~丸め
スケッパーで50gずつ分割する。
表面の生地を軽く張らせるように丸める。
[17]オーバーナイト〜一次発酵
天板の上にスチロールシートを敷き、生地を並べ、ドウコンディショナー(-4℃・10時間)に入れる。
POINT:できるだけ長く時間を置き、イーストがギリギリ動く温度での発酵を促す。
[18]復温
生地をばんじゅうに移し、ホイロ(30℃・80%)で16℃まで復温させる。
復温後の生地。生地が緩み、表面にはツヤが出る。
[19]成形・最終発酵
打ち粉をつけて丸め、天板に並べてホイロ(30℃、湿度80%)で50分発酵させる。
最終発酵後の生地。生地は約1.5倍に膨らむ。
[20]
9を冷凍庫から取り出し、最終発酵が終わったパン生地の上にのせる。
[21]焼成
上下火180℃のオーブンで12〜13分焼成。8〜9分後に一度天板を180度回転させる。
焼き上がり。焼成中に、クッキー生地がパンの表面全体を包んで覆う。
◎MORETHAN BAKERY モアザンベーカリー
東京都新宿区西新宿4-31−1
☎03-6276-7635
8:00~18:00
無休
Instagram:@MORETHAN BAKERY
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