ビーチで料理をふるまい、環境を語る。料理人のラジオ番組。
「北海シェフからの便り」vol.6
2022.07.05
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text & photographs by Aya Ito
連載:北海シェフからの便り
海洋資源を巡るエコシステムを創る「北海シェフからの便り」
2018年4月~2020年2月にかけて、全9話でお届けした記事を再公開します。一人の料理人の思いが北海のエコシステムを変えることになった、その道のりを紹介します。
毎週金曜放送、「北海シェフ協会が紹介する今週の魚」。
北海シェフ協会の代表、フィリップ・クライスさんは、夏のバカンスの間も協会の活動のために奔走している。
クライスさんはベルギー・ブルージュ市郊外の二ツ星レストラン「ドゥ・ヨンクマン」のオーナーシェフ。夏は観光客がたくさん訪れる繁忙期だ。それでも奔走するのは、「ラジオ2」*の仮設ラジオ局の企画番組に、2017年から関わっているためである。
「ラジオ2」はベルギー・フランドル地方の第2番目のラジオ局だが、10年ほど前から7月第2週~8月最終週のバカンス期間、ベルギーの主要なビーチスポットに移動式の仮設ラジオ局を設置して、バカンス地からの話題を発信している。人々の生の声からダイレクトに伝わる海岸の様子や情報は、非常に評判が良く、約20%の聴取率を得ているという。
*ラジオ2は、フラマン語を公用語とする北部フランデレン地域を対象とした、ベルギーの公共放送局VRT(フランデレン・ラジオ・テレビ放送協会)傘下にある。
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夏の間、ビーチに仮設ラジオ局を開設。
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ビーチに集まる人々の生の声をすくいあげる。
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クライスさんたちの周りには人だかりができる。
約8週間にわたる仮設ラジオ局を企画・運営するのは、400以上もの番組を手がけてきたピーター・ヘルマンさん。北海シェフ協会の活動を応援する中でクライスさんに「ぜひ、北海シェフ協会として企画参加をしてほしい」と要請したのだった。
キリスト教徒が魚を食べる習慣のある毎週金曜日に、北海シェフ協会の番組を設定。番組タイトルは「北海シェフ協会が紹介する今週の魚」。毎週、水揚げされたばかりの魚介の料理を観衆にふるまうと同時に、そのレシピはもちろん、魚をめぐる環境の話を、司会者がクライスさんから引き出す。
2017年の反響が良く、2018年も番組を続行することになったのだった。
料理をふるまいつつ、環境の話も。
2018年7月27日、ヴェンデュイン市のビーチ。ここは、ブルージュ市から電車で約1時間、ゼーブルージュの魚市場からは15kmほど南下した所に位置し、ゆったりのびのびとした海岸が人気のビーチだ。
「ラジオ2」の仮設ラジオ局には、早朝からすでにたくさんのビーチ客が集まっていた。クライスさん、そして、北海シェフ協会メンバーでゲント市にある「グルメ・インヴェント」シェフ、トム・ヴァン・デル・エッケンさんが、運んできた食材で料理を始めている。クライスさんは必ず毎回メンバーの一人を伴って、彼らのレストランの紹介もしている。
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この日の食材は捕れたてのカニ。
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北海シェフ協会のメンバーとその場で調理。
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ほぐしたカニの身とジャガイモのピュレにハーブを散らして。
本日の水揚げされた魚介の主役はカニだった。捕れたてのカニのほぐし身とジャガイモのピュレに、ディルなどのハーブを散らして、オリーブオイルをかけた料理が、観客に行き渡る。フレッシュなカニの甘味と温かなジャガイモのマリアージュを楽しんでいる観客から、「北海シェフ協会の取り組みを知っている」という声もあがった。様々なメディアからの発信もあり、ベルギーの一般の人々にすでに知られてきているのだ。また、バカンスをビーチで過ごす人々にとって、ビーチクリーンイベントにも参加する北海シェフ協会の活動は関心の的と言っていい。
2018年の夏は世界各地で猛暑を記録。おのずと今後の地球温暖化が海に及ぼす影響に話が及ぶ。
「スペインでは45℃にも至る猛暑となり、ベルギーでも今までにない暑さを記録しています。その影響で、ベルギー近海に生息していた魚たちが北上してしまい、スペインで捕れるはずのアンチョビがこの辺りで大量に水揚げされるという現象が起きています」と注意を喚起するクライスさん。地球温暖化による異常事態は、報道の中だけでなく身近な生活に及んでいること、すでに脅かされつつあることに、多くの人々に気付いてほしいと願ってのコメントには説得力がある。
「目の前に見える海はこんなにも美しいのに、その海で何が起きているかには案外無頓着で、知らないことだらけでした。今日のクライスさんの話から、環境に対してより注意を払いたいと思った」という参加者も。
「一人でも多くの人に海の豊かさ、海の現実を知ってもらいたい」
今年(2019年当時)の夏もクライスさんは番組を続ける。
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美しい海!この海の中で何が起きているかを伝える。
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<OUR CONTRIBUTION TO SDGs>
地球規模でおきている様々な課顆と向き合うため、国連は持続可能な開発目標 (Sustainable Development Goals) を採択し、解決に向けて動き出 しています 。料理通信社は、食の領域と深く関わるSDGs達成に繋がる事業を目指し、メディア活動を続けて参ります。
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食材として未利用魚の可能性を探る。
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未利用魚のレシピを広め、価値を高め、魚種ごとの漁獲量が偏らないようにする。
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国境を越えて料理人と漁師、卸業者と連携をとる。