サバイバルレシピ08 熊本・山都【焼き米】
避難バッグに1袋! “スロー”で“FREE”なインスタント食品
2022.03.07
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text and photographs by Yukiko Imamura
連載:サバイバルレシピ
⾷糧難、災害時をどう乗り越える?
人口爆発による食糧難や自然災害で、これまで当たり前にあった食物が手に入らなくなったとき、求められるのは限られた資源でサバイブする「生きる力」です。日本各地に残る保存食、発酵食、郷土食に、自然の恵みを無駄なく食べつなぐためのサバイバル・テクニックを探ります。今回は、熊本で古くから保存食として親しまれ、災害時の非常食として新たに見直されている「焼き米」の製造現場を、熊本在住のライター、今村ゆきこさんが案内します。
目次
それだけでも、そのままでも食べられる万能食
米は昔から日本人にとって大事な栄養源で、全国には米にまつわる様々な食文化が残っている。その中でも、東日本大震災以降、災害でライフラインがストップして水や熱源がない状況でも、そのまま食べて栄養補給ができる非常食として注目を集めている伝統食が、熊本県の山間の農村、山都町矢部地区に残る「焼き米」だ。
米を釜で炒り、平らに潰した保存食で、コーンフレークのように、そのまま食べることができる。口いっぱいに広がる芳ばしい香りと米の甘味を感じ、米が持つビタミンなど栄養補給にもなる。「歯が強くなるように」と地元の保育園では、子どもたちに積極的に食べさせているという。私はもっぱら酒のつまみに、そのままバリバリ食べるが、お湯でふやかして砂糖や味噌を加えたり、スープに入れてリゾット風に・・・など、様々な食べ方がある。
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焼き米は、添加物フリーで、約1年間保存可能。約40gでご飯茶碗1杯分に相当する。
焼き米の歴史を辿ると、室町時代まで遡る。肥後国の氏族・阿蘇家が戦の際に陣中食として携行していたことに由来するという。阿蘇家は「阿蘇神社」を創建した神様にまつわる家で、阿蘇家が矢部(山都町・旧矢部地区)の岩尾城を居城とした際に、焼き米が伝わったと言われている。600年以上も農家を中心に、人々に食されてきた伝統食だ。
寒さ厳しい年明け、現在も焼き米を作り続けている「成瀬水車(なるせすいしゃ)」へ。成瀬人司さん・百合子さんご夫妻を訪ねると、声をかき消すほどの機械音の中、すでに焼き米の製造がはじまっていた。
焼き米は、籾(もみ)の状態で水に浸けた米を釜で炒って(一番釜炒り)冷まし、精米したものを再度釜で炒り(二番釜炒り)、機械で潰して完成する。材料は米だけ、室町時代から伝わる製法を受け継ぎ、保存料など添加物は一切加えない。
実は、現在、熊本に流通している焼き米の大半を2人が生産している。私がこれまで食べてきた焼き米のほとんどを、成瀬夫妻が作っていたということだ!
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「成瀬水車」成瀬人司さん・百合子さんご夫妻。二人三脚で焼き米を作り続けている。昔はこの水車で精米をしていたが、現在は、家族の憩いの場として活躍している。
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一番釜炒りの様子。籾の様子や音から、上げどきを見極めるため、長年の経験が必要な作業。
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一番炒り後、精米した米。昔は、日陰などで生育が遅れた稲穂(八分ほどみのり、青味が残ったもの)を使っていたそうだ。
地元の焼き米生産者は年々減少しており、以前は、旧矢部地区の老人会が保存活動を行なっていたが、それも高齢化が原因でなくなってしまったという。「昔は、米の収穫が始まる前に日陰の青籾を焼き米にし、これから始まる農繁期のおやつにしていたんです。うちが精米所だったので、次第に、みんなが持ってくるようになったんですよ」と百合子さん。当時は籾を牛馬の背に積んで運び、成瀬水車の周りには牛馬の行列ができたそうだ。保存食としてだけでなく、子どものおやつにも重宝していたため、1年分の焼き米を作る習慣は、秋の風物詩だったに違いない。
小学生の頃から焼き米づくりの手伝いに駆り出されていた人司さんは、その道、70年のベテランだ。「今みたいに灯油はなかけん、燃料は薪。常にくべていないといかんけん、子どもの頃はずいぶん叱られながらやっとったよ」と懐かしそうに当時を振り返る。
焼き米を商品化したのは、人司さんの代に替わった昭和48年。回転釜を導入してお米に火を均一に通すことで、保存性をさらに高めた。さらに、パリッとした歯応えも加わり、焼き米は熊本県内に広まって郷土の名産品になった。人司さんは、ヒット商品の生みの親なのだ。
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二番炒りと「ひしゃぐ」工程は百合子さんの担当。炒りすぎると米が砕けてしまうため、目が離せない。
室町時代の製法+進化した、「焼き米」の作り方
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1.籾を水に浸す
三日三晩、たっぷりの水に籾を浸す。乳酸発酵によって、米の甘味と旨味が増す。ザルに上げて水気を切る。
POINT: 気候によって水に浸す日数が変動し、冬は15日間浸ける場合も。芽が出る直前を見極め、水から上げるのがポイント。
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2.一番炒り
釜(家庭だと中華鍋がおすすめ)に入れ、少しずつ炒る。パチパチと籾の弾ける音がし始めたら、手でもんでみて、籾殻がむけるようになったらOK。これを熱いうちに臼に入れて杵でついた行程が室町時代から戦時中まで伝わる製法。
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3.冷ましてから精米
炒った籾を麻袋に入れて2日間かけて完全に冷ます。完全に冷めてから精米する。
POINT:通気性の良い麻袋に入れて水蒸気を出しながら冷ますことで、均一に冷めていき、かつ、虫がつきにくくなる。
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4.二番炒り
再び釜で炒る。きつね色に色付いたら取り出す。
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5.押し機でひしゃぐ
米が熱いうちに押し機に入れ、ひしゃいで(平にして)いく。炒りすぎると米が壊れて粉になってしまうので、4~5はスピードが命。十分冷ましてから保存容器に入れる。
【動画をcheck!】「焼き米」の作り方
おやつに、おつまみに!「焼き米フレーク」
そのままバリバリと食べるだけでもおいしいが、それだけではもったいない焼き米。地元で幼い頃から焼き米を食べてきた、焼き米ラバーの料理研究家、相藤春陽(あいとう・はるひ)さんに、超簡単なアレンジレシピ「焼き米フレーク」を教えてもらった。
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料理研究家。熊本県出身。熊本市にて、食の実験室「ハルラボ」を構え、料理教室を主宰。熊本地震などの災害時には、離乳食を調理・配布するボランティア活動を行う。生産者サポートなど社会貢献活動へ積極的に取り組む。
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フライパンで焼き米100g、オリーブ油小さじ2(またはバター10g)を入れて弱火で炒め、ほんのり膨らんできたら塩小さじ1を加えてよく混ぜる。さらに、カレー粉小さじ1/2、または青のり小さじ1を加えて混ぜ、火から下ろして完成。よく冷ましてから瓶などに入れ、1週間程度保存できる。
炒めることでコーンフレークのような軽い食感に変わる。スナック菓子のようにそのまま食べるほか、クルトン代わりにスープに入れたり、サラダにトッピングしたり。軽くて、つい食べすぎてしまうおいしさ!
米の消費量が、年々減少している昨今。自給率の高い米づくりを将来につなげていくには、どう食べ、どう活かすかがこれからの大事なテーマだ。この焼き米は、食味の喜ばしさや手軽さで、それをクリアする。様々な食べ方を楽しみ、日本の米文化を守り続けたい。
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好きな野菜を盛り付けたサラダに、焼き米フレークをお好みの量、トッピング。カリカリの食感が加わり、かつ、スパイシーなドレッシング代わりになるのでヘルシーに。
◎成瀬水車
熊本県上益城郡山都町金内1539
☎0967-75-0005
<焼き米が買える場所>
◎道の駅 通潤橋
熊本県上益城郡山都町下市184-1
☎0967-72-4844
◎鶴屋百貨店 本館地下1階 ふるさと家
熊本市中央区手取本町6-1鶴屋百貨店 本館B1F
☎096-356-2111
今村ゆきこ(いまむら・ゆきこ)
熊本県出身。熊本愛強めで熊本の魅力を発信し続ける、熊本市在住のフリーランスのライター&エディター。生産者・料理人インタビューなど食関係の取材に加え、熊本第一号・温泉ソムリエとして熊本の温泉の魅力も発信し続ける。
Instagram: @pichico_imamura