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FEATURE / MOVEMENT

Nomadic Kitchen野村友里さん、吉川倫平さんが行く

カリフォルニアプルーンの魅力を探す旅

2017.10.06

text by Michiko Watanabephotographs by Yoko Takahashi

2017年10月8日、カリフォルニア州北部で発生した大規模な山火事により、亡くなられた方々に哀悼の意を捧げますとともに、被害にあわれた皆様に心よりお見舞い申し上げます。


カリフォルニア プルーンは、古くからカリフォルニアを代表する特産物として、地元の人たちに愛されている食材です。日々、生産者と交流する「Nomadic Kitchen」の野村友里さん、吉川倫平さんが、第二の故郷、カリフォルニアでプルーンの魅力を探す旅へ出ました。

カリフォルニア プルーンとは
プルーンとは、乾燥したプラム(西洋スモモ)のこと。カリフォルニアの肥沃な土地と温暖な気候、そして高度に発達した農業技術が相まって育てられる「カリフォルニア プルーン」は、最高品種とされる南仏原産のダジャン種。豊かな太陽の恵みを受けたカリフォルニア プルーンは、理想的なサイズで歯応えがよく、天然の甘味をたっぷり含んでいます。



世界のプルーンの約半数を生産する

肌を刺すような強い光が降り注ぐ、ここはアメリカ・カリフォルニア州サクラメントバレー。美しく整備されたプルーン畑が広がる。どの木にも完熟した実がたわわに実り、収穫されるのを今か今かと待っている状態だ。収穫期にやって来たのが、ノマディックキッチンの野村友里さんと吉川倫平さん。ノマディックキッチンは、野村さんら料理人が中心となり、様々な生産地を訪れ、その風土や文化を、食を通じて身体に取り込む活動をしている。2人とも、アメリカに食の革命をもたらしたアリス・ウォータースのレストラン「シェ・パニース」で働いた経験を持つゆえ、ベースにはアリスの食の哲学が叩き込まれている。プルーンの生産者を訪ね、語り合うのも大きな目的だ。

(上)野村友里さん
フードクリエイティブチーム「eatrip」主宰。ケータリング、イベントや出版物、映像まで活動は多岐にわたる。
(下)吉川倫平さん
東京・渋谷「ピニョン」オーナーシェフ。海外生活で得たインスピレーションを取り入れたフレンチが人気。

まずは、今年で設立100年を迎えたユバ・シティの「サンスウィート社」へ。こちらはプルーン農家の農協組織。生産者から届くドライ・プルーンを保存し、出荷用に加工する役目も担う。2人は、アメリカにおけるプルーンの歴史や生産プロセスを学ぶ。アメリカにプルーンがやって来たのはゴールドラッシュの時代。一攫千金を狙ってやって来た人たちの中に、一人の植木職人がいた。フランス人のルイ・ペリエだ。しかし、途中で金を掘り当てる夢を捨て、兄とともにカリフォルニアで植木の仕事を始める。その後、多くの苗木をカリフォルニアにもたらすのだが、その中に現在のダジャン種の元となるプルーンもあった。1856年のことである。
ペリエ兄弟が始めたカリフォルニアのプルーン栽培は一大産業となり、現在ではアメリカの99%、世界の40%の生産量を誇るまでになっている。


ゴールドラッシュの時代から受け継がれてきたプルーン栽培
素材のまま、ピュアな製法

生産工程を学んだ2人は、今度は農園で待望の収穫を見学する。木で完熟したプルーンの糖度は25%を超え、時には35%まで達することも。「糖度が高くないと、種をつけたままドライにする際に発酵してしまうんです」と、ミッチェル農園のニールさん。「プルーンはともかく手がかかる。ただ、どんなに手をかけても、自然が贈り物をくれない年もあるんです」とターコヴィッチ農園のジョーさん。不作に備え、いろんな品種を実験的に植えるなど、リスクを減らす工夫に余念がないというジョーさんの話に頷く2人。

両農園とも、糖度を見極めて収穫を始める。木を揺さぶるマシーンで実を落とし、その日のうちに洗浄し、管理された乾燥室で18~24時間かけて、水分値を18~21%にまで落とす。それを農協が保存。注文を受けてから、好みに応じて水分値を戻して出荷する。素材そのままを加工する、ピュアな製法だ。

8月の終わり。完熟したプルーンが収穫期を迎える
効率性と品質保持のため、プルーンの収穫は完全に機械化されている。”自動ゆさぶり機”でプルーンの幹を振動させ、果実をキャンバス布の受け皿に落とし、ベルトコンベアーで木箱に詰める

完熟したプルーンは甘く、果汁がしたたるほどジューシー

ミッチェル農園は他園で収穫されたプルーンの乾燥も請け負っている



集められたプルーンはその日のうちに洗浄し、乾燥させる(ミッチェル農園)

熱風乾燥機で乾燥させたプルーン。季節限定でセミドライのプルーンも出回る(ミッチェル農園)



二ール&サンディ・ミッチェル夫妻。両親から農園を受け継ぎ、40年以上プルーン生産に携わる



ミッチェル農園ではランチをごちそうに。生のプルーンをパイ生地にのせて焼いた「PruneTart 」もホームメイド

ジョー・ターコビッチさんは“未来型”プルーン栽培を研究。サステイナブルなプルーン栽培を目指している



効率よく日光を浴びられるよう計算し、剪定された樹木(ターコヴィッチ農園)

根を食べるホリネズミを駆除するフクロウの小屋を6カ所設置(ターコヴィッチ農園)

サンスウィート社の社長デイン・ランスさんが言う。「日本はインスピレーションを与えてくれる大切な市場です。日本のお客様が高い品質を求めることが、わが社にもよい影響を与え、新たなアイデアや製法、さらなる品質改善をもたらしています。野村さんたちのほうがお詳しいのですが、最近は食材としてのプルーンの可能性に注目しています」。



日本基準に合わせ、品質管理を徹底
サンスウィート社に集まる農家からのプルーンの箱(bin)には担当者の名前など、トレーサビリティのための情報が記されている



サイズ分けと検品後、水分約20%の状態で保管。出荷時に水分調整、殺菌し、包装する

日本ではプルーンを食べるとお通じを助ける、貧血にもいい、というのが通説。でも、それだけではない機能性が最近アメリカの研究機関で解明されている。抗酸化物質、ビタミンKなど、骨の健康に好影響を及ぼす成分が多く含まれているプルーンは骨粗鬆症予防にもおすすめだそう。農家の方たちが若々しいのはプルーンのおかげかも?






地元シェフも愛する食材
~「Camino」ラッセル・ムーア シェフとプルーン談義~

「カミーノ」のラッセル・ムーアシェフはブランデー漬けを作っているほどのプルーン好き。シェフの本『This is CAMINO』(TEN SPEED PRESS)にはプルーンを使ったレシピも収録

サンフランシスコ・ベイエリア、オークランドの人気店、「カミーノ」。築80年以上経た古い建物を改築したレストランだ。30人くらいは座れそうなコミューナルテーブルが置かれ、相席で座るスタイル。シェフズテーブルのように、どこからでもオープンキッチンがよく見える。センターの薪のオーブンでは野菜を焼き、肉を焼き、手前でコトコト煮物もする。シェフはラッセル・ムーアさん。
21年間「シェ・パニース」で働いた後、2008年に妻のアリソンさんと店を開いた。仲良しの野村さんと吉川さんはラスと呼ぶ。

農園見学でいただいたプルーンとハチミツを持参して「カミーノ」を訪ねた2人。今回初めて知ったのだが、シェフは大のプルーン好きだった。旬の時期はフレッシュをそのままかじるのも好きだという。冬場はドライ・プルーンをブランデーに漬け込んでおいて、料理にもデザートにも用いる。「ブランデーに漬けたプルーンのアイスクリームは、最高に旨いよ」とシェフ。野村さんも吉川さんも味見。「結構アルコールが強いね」と吉川さん。さぞや、アイスクリームはおいしかろう。ミッチェル農園でいただいたハチミツの味をシェフにみてもらう。「お、プラムの香りがするね」。みんなで味わってみる。

さて、今日は大好きなプルーンを使った料理をシェフが振る舞ってくれるというので、2人ともウキウキ。キッチンに貼り付いたまま離れない。フレッシュのプルーンを手に取り、「このままでも、ホントおいしい」と目を細めるシェフに、「プルーンはどこから?」と野村さん。「知り合いの畑から届くんだ。ドライの方は少しゆるめ、セミドライに仕上げてもらってる」。フレッシュのプルーンは半分に切り、種を取り除き、塩をパラリ。オリーブ油をたらり。それをフライパンでソテーする。メイン素材として鴨が出てくると吉川さん、急にガクッと肩を落とした。どうしました? 「実は僕も後日、プルーン・ディナーで鴨をラスにご馳走しようと思ってたんです」。あらま。「じゃあ、違う手でいくかな」。

鴨を薪で焼きながら、傍らでドライ・プルーンと赤ワインのソースをこしらえる。旬の時期ならではのフレッシュとドライの贅沢使いだ。カリッと焼き上がった鴨と、プルーンのソテーとプルーンのソースを一度に口に入れる。「三味一体がたまりませんね」と吉川さん。「プルーンのコクと甘味が鴨に合います」と野村さん。シェフも2人も大満足の夜だった。

ラッセルシェフによる「鴨肉のロースト フレッシュ・プルーンのソテー プルーンソース添え」。赤ワインを含んでしっとり、柔らかくなったプルーンが鴨肉と好相性


◎ Camino
3917 Grand Ave, Oakland,
CA 94610
www.caminorestaurant.com







Farm-to-tableの本場でプルーンを料理しよう

今度は野村さんと吉川さんが友人の「スクライブ・ワイナリー」のキッチンで料理を作り、ワイナリーのオーナー、アンドリュー・マリアーニさんや「カミーノ」のムーア夫妻にプルーンづくしのディナーを振る舞う番である。スクライブはワイナリーだが、常に人が集い、食事とワインを囲んで語り合う場所でもある。野村さんはゲストシェフとして食事会を開いたことも。そんな蓄積がクリエイティブで心地よい雰囲気を作り上げている。

2人が出かけたのはソノマバレーのファーマーズ・マーケット。近郊の小規模の農家が作物を直接持ち込み、販売しているが、若い農家が多いのと、マーケットを運営し、彼らをサポートするのがシニアたちなのが面白い。多種多様な生産者が集まり、コミュニティを作っているのだ。

さて、さすが、産地に出かけ、その地の食材を用いたディナー・イベントを手がける2人だけに息はぴったり。さくさく無駄なく、農家の人と話をしながら買い進む。フレッシュ・プルーンもゲット。早速、調理が始まる。メニューすべてにプルーンを用いるというが、はたしてどんな料理が生まれるのか。

大きく分けて、野菜系は野村さん、肉系は吉川さんが担当する模様。キッチンからいい香りが漂ってくると、ゲストたちもワイングラスを手に顔を出す。一朝一夕にはできない和やかな光景だ。料理はいかに?

生産者から食材の話を直接聞けるのもファーマーズ・マーケットの魅力だ

採れたての食材が並ぶ。1985年から続く、ソノマ地区で人気のファーマーズ・マーケット



もちろん、旬のフレッシュ・プルーンも売られている

プルーンに地元食材を合わせる。ノマディックキッチンが掲げる地産地消の取り組みでもある



プルーンを刻む野村さん。友人と語らいながら料理作りを楽しむ。豊かな時間が流れている。


◎ Scribe Winery
2100 Denmark St, Sonoma,CA 95476
http://scribewinery.com

◎ Sonoma Valley Certified Farmers Market
241 West First Street, Sonoma, CA 95476
www.svcfm.org





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