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幅允孝のウイスキー対談

オールドパー紳士録 Vol.1

Feature / MovementOct. 8, 2016

text by Yoshitaka Haba/photographs by Tsunenori Yamashita

自分の審美眼で選んだものを、大切な人にさり気なく勧め、共に分かち合う。
そんな“大人の男”の集う場に、オールドパーは最適な存在です。
明治以降、日本人の憧れとして燦然と輝いた伝説の酒を、
いま傍らに置き愛でる紳士たちのリアルストーリー。
ブックディレクターの幅允孝氏が綴ります。
連載初回は、各界で活躍する大人の男たちによるキックオフ座談会!


大人たちはウイスキーをどう愉しんできたのか?




雨降る渋谷のバーに男たちが集まった。彼らの年齢や職業は様々だが、ひとつ「ウイスキーが好き」という点において、皆の気持ちは通じている。重ねた時間の長さは違いこそすれ、一杯のウイスキーは幸福な酔いと心地よい共感をもたらす。今回は、最若年の僕がファシリテイトと文責を仰せつかった。猛獣たち、いや失敬、人生の大先輩たちとの愉快で豪快なウイスキー・トークをぜひお愉しみいただきたい。

<座談会メンバー>

吉村 秀實 (よしむら ひでみ)
ジャーナリスト、防災問題専門家。日本放送協会(NHK)に入局、静岡放送局、東京社会部、名古屋放送局にてさまざまな事件事故、災害現場の取材を担当する。1988年に解説委員、1991年に解説主幹。2001年同局を退職、「スターバックス コーヒー ジャパン社」常勤監査役、「原子力安全委員会・防災部会」委員などを歴任。現在は(財)都市防災研究所評議委員、(財)市民防災研究所理事、国際交通安全学会顧問などを務める。

石川 次郎 (いしかわ じろう)
エディトリアルディレクター。海外旅行専門のトラベル・エージェントに勤務の後、1967年に平凡出版株式会社(現・株式会社マガジンハウス)に入社。『平凡パンチ』誌で編集者生活のスタートを切る。『Made in USA』、『SKI LIFE』など実験的雑誌づくりを経て1976年『POPEYE』創刊に加わり、その後『BRUTUS』、『TARZAN』、『GULLIVER』などを創刊、各誌の編集長を歴任する。1993年同社退社後、企画・編集プロダクションJI inc.を設立。

遠藤 恵司 (えんどう けいし)
株式会社ビームス 取締役副社長。日本航空株式会社入社。西独留学後、フランクフルトに駐在。本社宣伝部を経て㈱ジェットストリーム設立に参画。1987年からNYに駐在し、現地法人JALインターナショナルサービスINC.を設立、同社代表取締役就任。1990年日本航空㈱を退社、株式会社ビームスの経営に参画。1995年専務取締役に就任、2002年より現職。日本の若者の風俗、文化を変えるべく1500名の社員と共に奮闘中。

田島 整 (たじま ひとし)
ロンドンギャラリー主宰。日本・中国・韓国などの東洋古美術を専門に扱うギャラリスト。創業50年以上の古美術商の二代目。仏教美術を中心とした古美術(絵画、工芸、彫刻、陶磁器)を専門とするが、2009年から白金アートコンプレックス内に「ロンドンギャラリー白金」を開廊し、古美術にとらわれないアートシーンを提案している。杉本博司氏デザインの内装に長谷川等伯と橋本雅也の作品を演出し話題となる。

幅 允孝 (はば よしたか)
ブックディレクター。有限会社BACH(バッハ)代表。未知なる本を手にしてもらう機会をつくるため、本屋と異業種を結びつけたり、病院や企業ライブラリーの制作を行う。代表的な場所は国立新美術館『SOUVENIR FROM TOKYO』、伊勢丹新宿店『ビューティーアポセカリ』など。著書「本なんて読まなくたっていいのだけれど、」(晶文社)、「本の声を聴け ブックディレクター幅允孝の仕事」(著・高瀬毅/文藝春秋)など。愛知県立芸術大学非常勤講師。

カウンターに近づいていく




幅:いつもは素敵な女性と飲んでいる皆様に、男だらけのウイスキー会へご参加いただき恐縮です。まずは皆さんが日々どうウイスキーを嗜んでいるのかをお聞かせください。

遠藤:ここ3年くらいはビールよりもウイスキーの方が多くなってますね。とりあえずビールじゃなくて、最初からハイボール。ビール飲むとお腹がいっぱいになっちゃう。僕はニューヨークに住んでいたので、飲むのはバーボンが多い。アメリカの友人はやはりバーボン好きが多くて。飲み方はロックですね。ロックがいいのは、自分で濃さを調節できるから。


幅:お一人で飲むのですか?遠藤さんがカウンターに佇む姿など想像できますけれど。

遠藤:昔は人を待ちながら一人でとかそういう時期もありましたね。でも最近は仲間と一緒じゃないと飲まない。自分の家でちびちび晩酌もしないです。というのも僕が憧れたのは酒そのものよりも、その状況。つまり、バーや店に憧れた。むかし勤めていた会社が東京駅の近くにあったのですが、当時の東京ステーションホテルのバーは格好よかった。20代の頃、先輩に連れて行ってもらったのだけど、こういうところが大人の場所なんだなと感じました。あと、丸の内ホテル。あそこのバーも大人の隠れ家みたいでした。

石川:そういう場所ってあるよね。僕にとってのそれは、帝国ホテルのオールドインペリアルバー。あそこに憧れてね。フランク・ロイド・ライトの名残を感じるインテリアもよくて随分通ったけど、なかなかカウンターに座らせてくれないんだ。何年も通っているうちに、ある時「カウンターにどうぞ」と言われて「あ、これで認められたな」と思った。

「BAR VALLEY」のハイボールは、オールドパー シルバーを冷凍庫でキンキンに凍らせて作る。

幅:誰もが少しずつカウンターに近づいていくんですね。さてさて、今日はオールドパー シルバーをソーダで割って飲んでいただいてますが、吉村さん、いかがですか?

吉村:美味しい。(満面の笑みで)

幅:直球の感想、ありがとうございます。

吉村:オールドパー12年よりシルバーの方が柔らかい香りがするかもしれない。自由が丘に最近、オールドパー シルバーのハイボールを専門に飲ませるお店があって、すごく好きなんです。

幅:このシルバーはモルトの濾過を通常より低温で行っているので、味わいがよりマイルドだと言われています。なんでも、元々は雪の中に忘れられたオールドパーの樽が春に発見され、極めてスムーズな味わいに変化していたという話に着想を得たとか。さて今夜は、こんなお酒を飲みながら皆さんのウイスキー道について伺います。


若い頃の飲み方と裕次郎




吉村:僕と次郎さんは同年代なんだけど、若い頃にバーボンやスコッチなんて出会わないわけです。

石川:吉村さん、大学の頃にハイボール1杯いくらだったか覚えてる? 当時、学生が行けるバーで35円。ラーメン1杯と同じくらい。つまり105円あればラーメンを3杯食べられたんだけど、僕は3杯のウイスキー水割りを選んだ。

遠藤:次郎さんは若い頃からウイスキー派だったんですか?


石川:いやいや、当時はウイスキーどころか、酒が全然飲めなかったわけ。正月のお屠蘇で酔っ払い、真っ赤になってたもの。身体は受け付けてなかったんじゃないかな。けれど或る大人の男に言われたことに影響を受けて、「酒を飲もう」と決意したんだ。それは「酒とタバコと女をやめて、100まで生きたバカがいる」という言葉。まだ本物の大人になっていないひとりの若者の心には、その言葉は強烈だったよね。

スモーク系のつまみとオールドパー12年は当然ながら好相性。「自家製、スモークの盛り合わせ」(燻製チキン、チーズ)1,000円。

田島:僕もお酒が得意ではなかったから次郎さんの話はよく分かるのですが、どうやって飲めるようになったんですか?

石川:鍛えなきゃダメだと思って、安い酒を買ってきて、飲めない連中で集まって訓練した。これじゃダメだと思ったのがすごいと思わない? 体質が変わったのかはわからないけど、こんなに飲めるようになったのは信じられない。

吉村:僕は神奈川県の逗子だから、酒もタバコも早かった(笑)。あの頃は太陽族が全盛の時代。僕が中学3年生の時に石原慎太郎氏が『太陽の季節』で芥川賞を取ったんですよ。その時に読みましたけど、「何が衝撃的なんだ。俺たちの周りの当たり前の話だ」と思っちゃいましたね。そんな中、たまたま小学校、中学校、高校の途中まで石原裕次郎さんが先輩でした。そして、悪いことは全部、あの親分に教わりました。

遠藤:それはすごい環境ですね。

吉村:酒も教えてもらいました。ウイスキーも飲んでましたよ。裕次郎さんは、すごくいい人でしたね。あの人がすごいのは、弱い者いじめはしないこと。逆に弱い者いじめをした奴に鉄拳制裁をする。裕次郎さんは、こう教えてくれました。「お前ら喧嘩になったらまず手を出せ」と。いきなり先制攻撃やって、どうするかというと逃げるんです。なぜなら裕次郎さんが「俺のところに逃げ込め。全部囲って守ってやる」って言うんだよ。

石川:あと石原裕次郎といえばキャベツ。彼はキャベツが大好きで、若い頃、それ真似したものです。「キャベツを食べると裕次郎になれるんだ」と思ってね。彼のインタビュー記事とか読んでも格好いいなと思えたのは「一番の好物:キャベツ」と潔く書いてあったことだね。

遠藤:ところで…、酒とキャベツって合うんですか?

オールドパーを愛飲した人





幅:愉快すぎる話ですが、少しだけ本題のウイスキーに戻しましょう。

田島:オールドパーが日本で飲めるようになったのはいつ頃からなんですか?

幅:1871年にグリーンリース兄弟がつくったブレンデッドウイスキーの進化形がオールドパーです。瞬く間に政治経済の中心地ロンドンで猛烈に流行ったのだそう。時期ははっきりしませんが、オールドパーは日本人が初めて飲んだスコッチだと言われていますね。その後も吉田茂や田中角栄など、名だたる政治家が愛飲してます。

石川:オールドパーというのは不思議なウイスキーで、「誰が飲んでいたか?」というのが語られるんだよ。吉田茂が大好きだったとか、田中角栄が毎日1本飲んだとか。いくつかのエピソードが残っている。


吉村:うちは父親が大好きだったんですよ。それを父はよく新聞に例えるんです。10メートル先の新聞は朝日、毎日、読売、日経、産経、どこの新聞か区別がつかない。けれど、オールドパーは50メートル先にあっても分かるとね。この四角いインパクトのある形。だからこれが1番なんだと言っていました。

遠藤:瓶のデザインは、昔から変わっていないんですか?

石川:変わってないところがいい。あとオールドパーが好きだった著名人といえば、詩人の田村隆一。彼は本の中で「探偵小説とウイスキーを発明したイギリス人に乾杯しよう」と言っている。要するに、その2つを発明したイギリス人に男たちは感謝すべきだ、と。

田島:それは確かにイギリス紳士文化の根源かもしれません。

石川:自分の好きな安楽椅子に座り片手にスコッチを持って時に葉巻を吸いながら、探偵小説を読むことが無常の楽しみだと。それが正しい探偵小説の読み方だと田村は書いている。正しいと思ったね。だから僕は本を読むときは、ウイスキー。なぜかというと眠くならないから。吉村先輩の場合はどうですか?

吉村:何飲んでも全然眠くならない。

石川:日本酒とか。眠くならない?

吉村:ならない。

石川:デリカシーがないんだよ(笑)。

幅:こほん。今までのお話を聞いていると、誰かの飲み方に憧れ、それを真似しながらだんだん本物の大人に近づいていくのだなと気づきます。田島さんは憧れたお酒の飲み方ってありますか?

田島:ギャラリーのお客さんにアイリッシュ系アメリカ人の方がいるんです。そして、その人のオフィスにはウイスキーがあり、ストレートで飲むセットが用意してある。僕がオークションの打ち合わせに行くと「よし分かった。1回飲もう」と彼はワンショット飲むわけです。「俺はいつも大きな決断をする前にこれを一杯飲んでいる」と彼は言うんですね。


石川:それは分かる。眠くならないというか、ウイスキーには神経を研ぎ澄ませる要素があると思う。しかも、ウイスキーは都会の酒だとも思うんだよね。ビールやワインは何というか田舎の酒。美味い不味いじゃなくて、つまり田舎で飲んだ方が美味しそう。一方、ウイスキーは都会の夜という感じがする。

ブレンデッドウイスキーの妙




幅:今日飲んでるオールドパーは、ブレンデッドウイスキー。大麦麦芽を単式蒸留したモルトウイスキーとトウモロコシや小麦などの穀類を連続式で蒸留したグレーンウイスキーを絶妙なバランスでブレンドしたものです。

石川:もともとウイスキーの一番美味しい飲み方は、ストレートじゃないの。というのも、モルトウイスキーが最初にあって、人間が知恵を働かせていろいろ混ぜながら、飲みやすいブレンデッドウイスキーにした。今、シングルモルトをみんなかっこよく飲んでるけど、僕は最初に飲んだ時、じつは個性が強すぎると思ったんだよ。やたら個性の強い女と付き合うのって疲れるじゃん。そういう感じがあるよね、シングルモルトウイスキーには。

田島:でも意外とそれが好きになっちゃったりしてね(笑)。

石川:そりゃ虜になったら大変だよ。

田島:きついのが好きになっちゃうと普通の女性がね…(笑)。

遠藤:確かに世の中にシングルモルトしかウイスキーが存在しなかったら、ウイスキーの味も数えられるくらいの種類しかなかったわけだけど、ブレンダーの技術があれば無限の味わいが可能になるからね。

吉村:お茶でもみんなそうです。ブレンドの技術ですよね。


幅:いろいろな要素を組み合わせながら新しい意味や価値を作ることが得意な日本人の編集文化って、ブレンデッドウイスキー的な気がしますよね。

遠藤:今日飲んでるこれは、ソーダ割りでも美味しいですよね。

幅:加水して美味しいお酒って確かにありますよね。高級なウイスキーになるとストレート以外は邪道という空気がありますけど、これは加水して香りが広がる感じがする。

石川:ブレンドデッドは色んな飲み方があっていいんじゃない。シングルモルトはいじっちゃ逆に失礼だよね。元々のものを愉しむものだから。

美味しい酒の瞬間





幅:さて、長らくお話してきましたが最後にお聞きしたいのは、ウイスキーを美味く感じるのはどういう瞬間か?という質問です。

吉村:それはいい仲間といい仕事をして、飲むのが一番。

遠藤:僕もやはり仲間との酒は最高。けど一方で、こんな瞬間もあります。僕は結婚式の司会を頼まれることが多いんです。式の最中は懸命にやるんですけど、宴が終わってバーにひとりで行き飲むのも気持ちがいい。「今日もやってよかった」とか「あいつら幸せになってほしいな」とか考えたりしてね。司会をやっている間は飲めないですしね。

吉村:だから僕は仲人派です。挨拶したら、すぐ飲める。

田島:でも、それって面白いですよね。仲間や先輩方と飲むのも愉しいし、ひとりで飲んでもまた違うよろこびがある。僕は美味しく感じる瞬間は紙一重なんですよ。昔は全然酒が飲めなくて、学生時代に飲まされて、そして、気がつくと美味いと思えるようになった。ただ、今でもちょうどいい塩梅が分からないですね。美味しいと思って飲み過ぎたり…。いまだにお酒は学んでいる最中です。

石川:僕は正直言うとね、最高の酔いの状態はまだ体験していないような気がする。オールドパーが大好きだったという吉田茂の息子で英文学者の吉田健一も大変な酒飲みで、彼が『酒肴酒』ていうエッセイの中に書いている。「最高の酒の酔っ払い方は、多分犬が日向ぼっこしてるような状態なんじゃないか」と。

幅:僕もすごく好きな一冊です。

石川:暖かいところで日を浴びて、犬がのんびり寝そべって、毛皮からその下の体まで温かくなっている状態で、でもだらしなくはない。多分理想はそういう状態じゃないか。だから酒を飲んで人に絡むとかはもってのほかで、そんなのは酒飲みじゃないと言い切っている。僕もそういう酒飲みを目指さなきゃいけないなと思うけど、まだ理想の状態は体験してないと思うんだよなあ。

幅:皆さんのような大先輩方でさえ、まだ探求中だというウイスキーの世界。まだまだ若輩者の僕は当分、探求の日々が続きそうです。本日は、本当に有難うございました。



かくして、大人の男たちのオールドパー談義で幕を開けた紳士録。
次はどんなオールドパー紳士と幅さんが出会うのか、乞うご期待!

撮影協力 :  「BAR VALLEY」


都会の別荘と銘打ち<石・炎・木>にこだわった隠れ家は、暖炉と個室のある“大人の遊び場”だ。











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