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JOURNAL / JAPAN

日本 [静岡] 日本の魅力 発見プロジェクト ~vol.8 伊豆半島(南伊豆・松崎・西伊豆) ~

室町時代から伝わる古湯で疲れをいやす

2018.03.01

2017年7月にリニューアルオープンした「石花海別邸 かぎや」。


伊豆半島には、泉質が異なる温泉の宝庫だ。南伊豆町の下賀茂温泉は、昔、傷ついたトビが温泉で体を癒していたのを発見したことから始まったと伝えられている古湯で、100度の高温の源泉が毎分4千リットル湧出する。下賀茂というと、京都の下賀茂神社を想起するが、京の都から追われてこの地に移り住んだ公家らが、望郷の思いを募らせて京風の地名を付けたのが由来らしい。

石花海(せのうみ)別邸 かぎや



2017年7月にリニューアルオープンした「石花海別邸 かぎや」。

地の食材をふんだんに使用した料理が提供される。


下賀茂温泉は、日本で一番多い泉質の食塩泉だが、「石花海(せのうみ)別邸 かぎや」の温泉は、より塩分濃度が高いそうだ。塩分が毛孔をふさぐため、保温効果が高く身体がとても温まる。

「石花海別邸かぎや」をはじめ、個性ある旅館を伊豆で5軒営む喜久多グループ 代表取締役 定居康夫さん。

石花海別邸 かぎや
静岡県賀茂郡南伊豆町加納508
☎ 0558-62-0080
伊豆急下田駅より無料送迎あり(要事前予約)
http://shimogamo-kagiya.jp/




臨済宗建長寺派 萬法山 帰一寺(まんぼうざん きいちじ)
「元寇」の後、日本に遣わされた高僧が開いた寺



時の幕府から鎌倉五山(かまくらござん)の第一位に格付けされ、桜の名所としても知られている名刹(めいさつ)建長寺を本山とする帰一寺の歴史はとても古い。開山は1301年、一山国師(いっさんこくし)による。一山国師について住職から逸話を伺う。キーワードは「元寇」。鎌倉時代の中期、モンゴル帝国が2度に亘って日本を攻めて来たが、「神風」によって日本は救われたことは学校で学んだ。しかし、実は3回目も予定されており、武力攻撃の前に、平和裏に交渉を進めるべく派遣された使者が一山国師だった。当時日本は臨済宗の興隆期で、戦略的に禅宗の高僧を選出するも鎌倉幕府はその手には乗らなかった。修善寺に幽閉された一山国師は、禅の修養をして過ごすうちに、その名声が高まり、やがて多くの僧侶が訪れ、赦免を願い出る者が後を絶たなかった。これに心を動かされた時の将軍、北條貞時は一山国師の幽閉を解き、地震による倒壊によって衰退していた建長寺を再建し、一山国師を住職として迎え入れた。この一山国師が、西伊豆の松崎町に開山したのが帰一寺だ。



臨済宗建長寺派 萬法山 帰一寺 住職 田中道源さん。


総門をくぐった後に続く長い石段。再び山門をくぐり境内に至るまでの空間も厳かな空気に満ち溢れている。太い木々や苔は、自分が存在する現在までの時の流れを感じさせる。本堂裏にある庭園も優雅で美しい。




帰一寺では、毎月、第二土曜日の朝7時から早朝座禅会を開催。開催日以外も事前予約で座禅や写経が可能。相手との対話で心を磨き、禅問答をしながら悟りを開くことを教えとしている臨済宗の田中住職との会話も楽しい。また希望者は、プチ修行後その人ならではの「お名前」を授けてもらえる。田中住職は出身地や性格を考慮に入れた漢字を使った「お名前」を作り出すため、事前予約が必要だ。


臨済宗建長寺派 萬法山 帰一寺
静岡県賀茂郡松崎町船田39
☎ 0558-43-0213
伊豆急行線、蓮台寺駅で下車。東海バスにて堂ヶ島、松崎方面へ25分。
船田バス停下車、徒歩3分。
「石花海別邸かぎや」から車で約 50分。
http://kiitiji.com/



カネサ鰹節商店
鰹節の三大名産地の誇りを、今も手仕事の中に

土佐、薩摩に並び、鰹節三大名産地として知られ、古くからかつお漁を中心とした漁師町として栄えていた田子では、カツオを丸ごと塩に漬け込み、乾燥させて作った潮鰹(塩鰹)(しおかつお)を、航海の安全と豊漁豊作を祈願するために、ワラの飾りを付け、お正月の飾りとして吊るす風習がある。


「イマドキ」という枕詞から文章が始まると、ネガティブな要素が多少なりとも含まれていることが多い。進化しすぎた「現代」を揶揄している場合もあれば、「過去」を時代遅れと揶揄する場合もある。文化の進化とは、過去に抱いた憧れが具現化されることである故、「イマドキ」であることは、誇るべきことであり、喜ぶべきことであるが、両手放しでは喜べない。進化の犠牲となって失われるモノに対する寂しさや、進化のその先の行く末に対する不安も関係しているのかもしれない。




西伊豆町田子にあるカネサ鰹節商店は、イマドキ、最も効率が悪い焙乾方法によって伝統的な鰹節を作る。効率が尊ばれる現在でも、この方法を用いている理由は、それが鰹節を最も美味しくする方法の一つだからだ。この手火山式焙乾法(てびやましき)と呼ばれる方法では、鰹節への熱量を均等にするため、常に手で熱を測り、火を調整する。その温度は130℃を超える。職人は、鰹節が焦げないように、ずっとこの作業を続け、ぎりぎりの高温で表面を燻し(いぶし)乾かすことで、燻しの匂いを鰹節に染み込ませることなく鰹の味を中に閉じ込め、その旨みを凝縮させていく。焙乾の作業は10~15回繰り返し、1ヶ月の時を要する。






このように、文字通り、丹精込めて作られた鰹節から作る出汁は、濁りのない澄んだもので、鰹節本来の味と香りが豊か。これぞ和食には欠かすことのできない素材だ。時間と手間をかけて料理をするのか否か。私たち一人ひとりの選択が、食材や調味料を含む日本の食を左右するのかもしれない。


カネサ鰹節商店五代目芹沢安久さん。工房では、鰹節作りの見学が可能(要事前予約)な他、鰹節の作り方や、鰹節の正しい削り方を伝授してもらえる。

減塩志向の現在、しお鰹を製造しているのは田子でも3社のみになってしまったが、小さく刻んだり、粉末状にした潮鰹を塩の代わりにうどんやパスタに絡めると、鰹の旨みが全体に広がり滋味溢れる味となる。これは西伊豆しおかつおうどん。やみつきになる逸品だ。

カネサ鰹節商店での見学・体験のお問い合わせ
NPO法人伊豆自然学校 担当 鈴木淳子
静岡県賀茂郡西伊豆町仁科2097-1
堂ケ島ビジターセンター ☎ 0558-52-0080
yoyaku@npo-izu.org




黄金崎公園(こがねざき)
空と海が赤く染まる時、黄金に輝く岬


西伊豆を訪れるなら、海岸線に太陽が沈む夕刻を逃せない。特に、黄金崎の岩肌は、火山のマグマが冷えて固まることによってできた岩が熱水による風化で黄褐色に変化し、オレンジ色の夕陽に照らされて黄金のように輝く。



黄金崎は、岬全体が西伊豆町黄金崎公園となっており、展望台からの景色を楽しむ他、全長約4キロの遊歩道がある。

黄金崎からは、空気が澄んでいれば海の向こうに見える富士山を楽しむこともできる。

黄金崎公園
静岡県賀茂郡西伊豆町宇久須3566-7
☎ 0558-52-1114
「カネサ鰹節商店」より車で約10分。
https://www.nishiizu-kankou.com/



松崎町雲見海岸から富士山を望む

南から見る富士山は、慣れ親しんだ東から見る富士山とは少し違う。葛飾北斎の描く山下白雨(さんかはくう)の少し細く尖った富士のようだ。同じく北斎の「神奈川沖浪裏(かながわけんおきなみうら)」を脳裏で想像しながら、西伊豆から海越しの富士を楽しむのも一興である。







※本プロジェクトは、経済産業省関東経済産業局が実施する「平成29年度地域とホテルコンシェルジュが連携した、新たなインバウンド富裕層獲得のための支援事業」と連携して、グランド ハイアット 東京 コンシェルジュ/明海大学ホスピタリティ・ツーリズム学部教授 阿部佳氏のアドバイスを得て実施しています。



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