人々が健やかに暮らすために。
プラスチックゴミによる環境破壊に立ち向かうリーディングカンパニー
2018.12.27
プラスチックゴミの末路―リサイクル率9%
一人当たりの使い捨てプラスチックゴミの排出量がアメリカに次ぎ世界第2位の日本。レジ袋、食品パッケージ、ストロー、カトラリー等々、我々は日々膨大な量のプラスチックを消費しています。身の回りに溢れ返っているため、もはや捨てることに無頓着で、プラスチックゴミの行く末に思いを巡らすことはほとんどありません。
確かに日本は分別に対する意識や回収率は高いのですが、リサイクル率は欧州に比べるとかなり低く25%にとどまり、半分以上が焼却、残りは埋め立て処分や発展途上国へ輸出されています。(プラゴミのリサイクルにはコストがかかるため、輸出先の国でリサイクルに回るのはごくわずかで、ゴミの山として放置されることも多いのが実態です)。
その輸出に回っていた分も、今年1月に中国がプラスチックゴミの輸入を禁止したことで、日本国内では処分が追い付かなくなりました。手付かずの状態で保管されているゴミは増加の一途をたどっています。
また世界的に見れば、これまでに生産されたプラスチック製品のうち、リサイクルされたのはわずか9%、焼却が12%で、79%は埋め立て処分されたか、自然界にそのまま投棄されているという統計があります。
世界規模で広がるマイクロプラスチックによる海洋汚染
風に飛ばされたり、川を下るなどして海に流れ出るプラスチックゴミの量は、年間約800万トン。
2050年には海に漂うプラスチックゴミの量が魚の総重量を超えるとまで言われています。
問題なのは、プラスチックは焼却しない限り、何百年何千年にわたり、分解されず環境に残ってしまうということ。
マイクロビーズなどの極小プラスチック同様、ペットボトルやレジ袋なども波や紫外線によって細かく砕かれ、5㎜以下のマイクロプラスチックとなり海洋中を漂い続けます。それらをプランクトンと間違えて口にしてしまう生き物も多く、胃の中に大量のプラスチックゴミが詰まったウミガメやクジラ、海鳥の死骸が発見されています。
これは決して極端な事例でも遠い海の向こうの話でもありません。
海流の影響で日本近海にはマイクロプラスチックが集積しやすく、カタクチイワシなど身近な魚の体内にも非常に高い割合で蓄えられているという調査結果が出ているのです。
プラスチックゴミの削減に取り組むリーディングカンパニー
自然界、そして人間にとっても脅威となっているプラスチックゴミ。この問題に世界に先駆けて着目し、アクションを起こしてきた企業があります。
炭酸水メーカーで世界1位のシェアを誇る「ソーダストリーム」社です。
ソーダストリームは、セットした水ボトルにボタン一つで炭酸を注入できる家庭用ソーダメーカー。炭酸の強さを自分好みに調節できるだけでなく、毎回ペットボトルを買うのに比べて大幅なコストやゴミの削減に繋がるため、近年急速に売り上げを伸ばしています。
同社は、自らの製品の特長をPRするのにとどまらず、より広い視野と長期的な展望をもち、プラスチックゴミそのものを減らす取り組みを続けてきました。
日本とアジアの統括を務めるデイビッド ネイザン カッツ氏に話を聞きました。
Q.環境保護活動に取り組み始めた経緯を教えてください。
ソーダストリーム社は炭酸水メーカーのブランドとして、人々の健康に寄与したいと常に願ってきました。市場には多くの炭酸飲料が売られていますが、近年、アメリカでは砂糖が入った商品の売り上げが落ちています。これは消費者の健康に対する意識の高まりを表していると思います。喜ばしいことではありますが、それだけで十分とは言えません。
人が健やかに暮らすためには、環境がクリーンであることも大切だと考えているからです。そのためにできることは何か。一つの策として、我々は10年前からペットボトルの削減を呼びかけてきました。
一般家庭で1年間に消費される炭酸飲料は、500ml容器に換算して369本、清涼飲料水全体で2860本にもなります。炭酸飲料の容器の大半はペットボトルが占めていますから、廃棄されるペットボトルの量も膨大です。
今、世界中の環境に投棄されているプラスチックゴミを企業ブランド別に仕分けすると、上位を占めるのが炭酸飲料メーカーだと言われています。
そこで我々は世界の主要都市で、使用済みペットボトルを入れた大型のケージを設置し、行き交う人々にこの現状を訴えかけました。日々どれだけのペットボトルを無自覚に消費しているか、視覚的に認識してもらおうという試みです。メーカーに対しては回収責任を追及する意図もありました。
案の定、このアクションは大手炭酸飲料メーカーからは猛反発を受け、各国で議論を巻き起こしました。
Q.当時はまだプラスチックゴミが環境に与える影響について、世の中はそれほど深刻に考えていなかったということですね。
「プラスチックゴミを世界からなくそう」――10年前、そんなことを言っているのはごく一握りでした。むしろ多くの企業はその声をかき消そうとすらした。なぜなら、自社の商品が売れなくなってしまうから。
周囲の反応が変わり始めたのは、プラスチックゴミによる海洋汚染が大々的に報じられるようになった去年辺りからです。カメやイルカだけでなく、人が日常的に食べている魚や貝、塩、そして人体からもマイクロプラスチックが検出された。そこまで来て初めて事の重大さに気づき、世界が動き始めたのです。
実は今年8月、ソーダストリーム社は世界第2位の食品・飲料企業である「ペプシコ」に買収されました。かつて我々の活動に否定的だった同社も、この大きなうねりには逆らえなかったのだと思います。プラスチックゴミの削減は、もはやブランドや業界を問わず向き合わねばならない緊急の課題なのです。
Q.活動の幅は広がっていますか?
プラゴミ汚染の改善に向けた我々の活動は、ここに来てさらに加速しています。その名も「プラスチックファイターズ」と命名し、主に2つのミッションを掲げて取り組んでいます。
一つは、若者たちのゴミ問題に対する意識を高める啓蒙活動。もう一つは、すでに海洋に散乱したプラスチックゴミをテクノロジーの力で回収することです。
Q.啓蒙活動とはどんなものですか?
今年10月、中米ホンジュラスのロアタン島に150人のマネジメント陣が集結し、ビーチの清掃活動に参加しました。ロアタン島は美しいサンゴ礁で知られ、観光客や北米からの移住者も多い島ですが、その沖合で水平線まで続くほどおびただしい量のゴミが漂流しているのが発見されました。この深刻な事態を受けて、「ベイアイランズ海岸清掃活動」というコミュニティ運動が発足し、我々も社を挙げてこれに協力したのです。
地元の小学生たちには清掃活動に参加する前に、プラスチックゴミの投棄がもたらす問題や、マイクロプラスチックの脅威について学習してもらいました。生活ごみで埋め尽くされていた海岸が、自分たちの手によって美しいビーチへと蘇った。その実感は子供たちに大切な気づきを与えたに違いありません。大きな成果を挙げたこの活動は、結果的にホンジュラス政府も巻き込み、人口5万人の島に2000人ものボランティアが集まる大規模な運動へと発展しました。
Q.海洋に散乱したゴミを回収する技術とは?
海洋プラスチックを大規模回収する技術は各国で研究が進んでいますが、我々が開発したのは、魚などの海洋生物を逃しながらも微粒子レベルまで細かくなったマイクロプラスチックを回収する技術です。流失した原油の拡散抑制システムを応用しています。水面に巻き網のようなフロートを配して海域を覆い、その囲いをすぼめて回収する、「ホーリータートル(聖なる亀)」という名の装置です。
Q.これまでプラスチック汚染対策に数億円規模の投資をしてきたそうですね。
最初に申し上げた通り、人々の健康に寄与することがソーダストリーム社の企業理念です。ソーダストリームというマシンを提供するのと同様に、様々な環境保護活動に取り組むことも、その理念を実現するためのソリューションと言えます。プラスチックゴミ汚染を阻止することは、めぐりめぐって我々の健康に繋がっているのです。
正しい知識を持ち、行動すること
日本はプラスチック汚染対策において、他の先進国に比べ後れを取っているのが現実だと言います。しかし、「まずは正しい知識を持つこと。そしてその情報を身近な人同士やSNSなどで共有することが大切です。知れば、行動が変わります」とデイビッド氏。
出先で使い捨てのペットボトルを買うのではなく、自分で炭酸水を作り水筒に入れて持ち歩く。好みの飲み物を自ら作れる楽しさは、習慣にしやすいというメリットがあり、ムーブメントにもなる。やがてはプラスチックゴミの廃棄を減らすことに繋がります。
地球の未来を変えることができるのは、他でもなく、私たち一人ひとりの小さな心掛けから――
今まさに、日々の行動を見直すべきタイミングが訪れているのかもしれません。
取材協力
◎ ソーダストリーム株式会社
http://www.sodastream.jp/