たっぷりのオリーブオイルとマッシュポテトで作る 伸びやかな「ブリオッシュ」
ヴィーガンパン・レシピ04 ベルリン「フレア・ベーカリー」
2024.04.30
text by Hideko Kawachi / photographs by Gianni Plescia
ヴィーガンパン専門店の登場とともに、植物性の食材のみで作るパンのレシピが注目されています。動物性の旨味や油脂によるマスキングがなく、素材の味がダイレクトに伝わるというメリットを生かし、パン好きも満足するヴィーガンパンを焼く、職人たちの知恵と工夫に迫ります。
今回はヴィーガン先進国、ドイツから。
ドイツ・ベルリン「フレア・ベーカリー」
ベイカー 川亦あや
空前のヴィーガンブーム
材料もアイデアも、事欠きません
自分の手を使って、何かひとつのものを追求したい。マイスターへの憧れを胸に渡独した川亦あやさん。しかし最初の留学の際には特にドイツパンをおいしいとは思わなかったそうだ。
大学ではオーガニックに関する勉強をしていたこともあって訪ねたオーガニックのパン屋で、全粒粉のリンゴパンのおいしさに開眼。その場で、職業訓練生を探していませんか?とお店の人に尋ねた。噛めば噛むほど味わい深い、穀物の味。以前はどっしりした昔ながらのドイツパン作りに関わってきたが、ベルリンに来て、新しいアイデアが次々と試されるベルリンの若いパン文化も楽しんでいる。
空前のヴィーガンブームであるドイツ、特にベルリンではヴィーガン製品も入手しやすい。パーム油を使わない、シアバターやココナッツ、菜種やアーモンドの油脂を混ぜ合わせた植物性油脂「オーガニック・ヴィーガン・ブロック」をよく使っている。クロワッサンにも専用のものがある。
「最初はヴィーガン・ブロックを叩いてクロワッサン生地に織り込んでいたのですが、ヴィーガン・ブロックは融点が低いのが難点でした。作業場がオーブンと近いので、夏場はかなりの高温になり、生地がだれてしまうんです」
そこで融点が高く、最初からプレートになっていて作業がしやすい、ヴィーガンの「クロワッサン専用プレート」に切り替えたところ、層もパリッと美しく、香ばしい黄金色に焼き上がるようになった。
通常は卵とバターのリッチな風味が特徴のブリオッシュのレシピにも、様々な工夫がある。小麦粉はグルテン形成力が強い「Backstark(バックシュタルク)」タイプのものを使用。ふわふわと柔らかく、伸びのいい生地の秘密は、マッシュしたジャガイモだ。またオリーブオイルをリッチに使っているが、量が多いので、最初はオイルを加えずに生地を作って一旦休ませてから、30分ほどかけて、少量ずつ生地に馴染ませるようにオリーブオイルを加えていく。
製パン、製菓の場合、ミルクはレシチンが多く乳化作用がある豆乳の方が使いやすいが、FREAでは環境保護の観点から、ヨーロッパで生産・入手しやすいオーツミルクのみを使用している。味や香りにクセがなく、使いやすい。優しい甘さと口溶けの良さを実現するため、サワードウの中でも糖分が多めのスイート・リキッド・ルヴァン(サワードゥ)を使う。
二次発酵は、店では翌日の午前中に焼きあげるタイミングに合わせて、夏は1時間、冬は2時間ほど室温で発酵させる。ホイロに入れつつも途中で冷蔵庫に入れたり、温度をゆっくりあげたりして調整している。二次発酵直後に焼くのであれば、この過程は省略可能だ。
「ヴィーガンブリオッシュ」材料と作り方
[材料]
<パン生地 1kg仕込み(10×13×10㎝の型・約8本分)>
強力粉(Backstark)・・・1000g(100)
スイート・リキッド・ルヴァン※・・・450g(45)
ジャガイモ(茹でてマッシュした状態で)・・・357.1g(35.71)
E.V.オリーブ油・・・450g(45)
塩・・・24.3g(2.43)
砂糖・・・120g(12)
オーツミルク・・・420ml(42)
※スイート・リキッド・ルヴァン
小麦粉(タイプ550)・・・100g
水・・・100g
サワー種スターター・・・20g
砂糖・・・28.75g
※グラム数の後ろの()はベーカーズパーセント
<スイート・リキッド・ルヴァンの役割>
サワー種に砂糖を加えた、スイート・リキッド・ルヴァン。ルヴァン種の発酵に甘やかな風味が加わり、ヴィーガンの菓子パンの味づくりにも奥行きが出る。甘くないリーンなパンには通常の砂糖を加えないルヴァン種を使用。
<材料の特徴① マッシュポテト>
ブリオッシュらしいしなやかな生地の伸びを作るのは、茹でてマッシュしたポテト。ジャガイモは、ドイツ語でFestkochend(フェストコッヘンド・硬めに茹であがる)ねっとり系を選び、水から皮ごと茹でて甘味を引き出し、軽く潰す。
<材料の特徴 ② E.V.オリーブ油>
生地にはたっぷりのE.V.オリーブ油を使う。たっぷり混ぜ込むため生地に染み込むように混ぜる前には30分生地を休ませる。油の味が前に出過ぎないよう、E.V.オリーブ油はマイルドな味わいのものを選ぶ。
<目指す「焼き上がり」と「断面」>
しっとりした食感と柔らかい口溶け。後口はほんのり残るやさしい甘さで、ついもう一口、と食べたくなる。
【工程表】
ミキシング
低速5分、高速10分
↓
生地を30分休ませる
↓
30分かけてオリーブ油を数回に分けながら加える。
↓
高速5分
↓
1次発酵
室温(28〜26℃)で3時間
↓
分割
1個350g(もしくは800g)
↓
最終発酵
ホイロ(30℃、湿度75%)で約6時間
↓
焼成
上火・下火とも210℃で5分。上火を180℃に下げて30分。焼き始めに10秒間スチーム
【作り方】
[1]ミキシング
ミキサーボウルにオリーブ油以外の材料を全て入れ、撹拌する。低速で5分、次に高速で10分回す。※低速と高速、2段変速ミキサーを使用。
[2]30分休ませる
生地を30分休ませる。
POINT:この後、生地に油が入りやすくするために一旦グルテンを落ちつかせる。
[3]
休ませた後、30分ほどの間に3、4回に分けて、少しずつ生地にオリーブ油を加える。オリーブ油を加えたらその都度、低速で軽く回す。
[4]
生地にオリーブ油がすべて吸収されたら、高速で5分回す。
[5]捏ね上がり
ごく薄い膜ができる。
[6]一次発酵
室温(26~28℃)で3時間ほど休ませる。
[7]分割~成形
1個350g(もしくは800g)に分割。
スケッパーで断面を生地の下に入れ込み、軽く成形する。
POINT:ゆるい生地なので、やさしく扱う。
型に入れる。
[9]最終発酵
二次発酵30℃、湿度75%のホイロで最大6時間発酵させる。
POINT:店では翌日の午前中に焼けるように、夏は1時間、冬は2時間ほど室温で発酵させた後、ホイロに入れる。発酵具合は、途中で冷蔵庫に入れたり、温度をゆっくりあげながら調整する。
[10 ]焼成
倍くらいに膨らんだら、上下焼成210℃で焼き始め、5分後に上の温度を180度に下げ、30分焼き上げる。焼き始め10秒間スチーム。
[11]焼き上がり
完成!
◎FREA BAKERY
Gartenstrasse 9, 10115 Berlin, Germany
☎+49 301 3897068
8:00~17:00(キッチンの営業は9:00~15:30)
https://www.frea.de/
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