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FEATURE / MOVEMENT

【今必要な店づくり】レアル・ダイニング流「働きたくなる飲食業」の作り方6つの実践

2026.04.30

【今必要な店づくり】レアル・ダイニング流「働きたくなる飲食業」の作り方6つの実践

【PROMOTION】
text by Yumiko Numa / photographs by Atsushi Kondo

人材不足が深刻化する飲食業界において、わずか9年間でスタッフ数を30倍に増やし、大阪を拠点に8店舗を展開する「レアル・ダイニング」代表の西出雅章さん。自らも厨房に立って腕を振るうシェフでもある。
「ブラックなイメージを変えないと、飲食は職業として選ばれなくなる」という強い危機感を持って実践してきたのは、これまでの業界の常識を覆す大胆なチームビルディングだ。
“飲食業の不可能”を、西出さんはどうやって可能にしてきたのか。経営感覚を持つ料理人を育て、生産者を支える好循環を生み出す、西出流・組織づくりの秘訣に迫る。

目次







西出雅章

西出雅章(にしで・まさあき)
1975年生まれ、大阪府出身。「レアル・ダイニング」代表。ラグジュアリーホテル、個店レストランシェフの経験を経て、大手飲食グループの上席執行役員として全国展開を牽引。2017年に独立し、大阪「Nishideria」を創業。現在はイタリアン、鉄板焼き、炭焼きダイニングなど、大阪市内に7店舗、東京都内に1店舗を展開。スタッフ数は約130名。「スタッフをサッカーのポジションに見立てて采配する」独特の経営スタイルで、飲食業界の新しい働き方を提示している。

西出さんの独立は、順風満帆な滑り出しではなかった。
当初から目指していたのは、「安かろう旨かろう」だけではないファインダイニングの文化を大阪につくること。2017年、東京で主流だったカジュアルだけど上質な料理とワインを提供するスタイルを大阪に持ち込み10坪の店をオープンするも、市場の反応は冷ややかだった。
「まずは売上を作ろう」
西出さんは大阪のカルチャーに合わせ、お得感のあるコース料理主体の店づくりへと舵を切った。そして、小さな物件を見つけてはその箱に合う業態で出店し、社員採用を進めていく。


実践1 分母を増やす

西出さんが店づくりで一貫して重視しているのは、「スタッフの母数を増やす」ことだ。一般的な飲食店がコストカットの対象とする「人件費」への逆転の発想である。
「人は城、人は石垣、人は堀」と語る西出さんは、スタッフが少ない状況を回避し、きちんと補填する考えを実践している。
「レアル・ダイニング」の待遇は現在、新卒初任給27万5千円、週休2日、勤務時間8~10時間。そんな条件でスタッフを雇ったら店が潰れる、あるいは料理人として必要な技術が身に付かないと思うかもしれない。

だが西出さんの考えはこうだ。
「母数を分厚くすることで、内部に健全な競争が生まれます。自ずと技術を磨き合い、引き上げ合う環境が整うのです」

アルバイトよりも社員を増やすことで定着率が上がり、採用コストは下がる。さらに、競争と協働が生まれ、自然と成長環境が整っていく。
サッカーの強豪校やレアル・マドリードの育成組織「カンテラ」(下部組織)のごとく、いい選手を監督が引き上げていくように、結果として組織全体の安定と成長スピードを加速させる。かつ、スタッフの欠員に怯えることなく、経営者が本来あるべきリーダーシップを発揮できる環境が整うのだ。

西出さんは、外国籍スタッフの採用も積極的に行う

西出さんは、外国籍スタッフの採用も積極的に行う。
前職で海外の店舗立ち上げに携わり、ストイックな若者がいることを実感した。母国からハングリーな精神をもって来日する若者や、異なるバックグラウンドを持つ人材は、刺激となって組織に新しい視点と活力をもたらす。そのための、住宅手当やビザ更新などのエージェントフィーは必要経費と割り切っている。
「分母が増え続けていないと、何も始まらない」。それが、西出さんのすべての基盤だ。


カテル ビノドさん

カテル ビノドさん 大阪・梅田「FaRo」サイドメニュー担当
2025年11月入社

「日本で料理を学びたくて、外食業特定技能1号試験を取得して2023年にネパールから来日しました。イタリアンは初めてですが、先輩が優しく、チームとして協力する体制が整っているので安心して働けます。サイドメニューは、ほぼすべて作れるようになりました。周りのみんなが褒めてくれます(笑)。ネパールでは週休1日でしたが、今は2日なのもうれしいこと。インドネシアやベトナムから来たスタッフもいますし、日々できることが増えてモチベーションになっています。次は特定技能2号試験を受け、もっと多くの経験を積んでいきたいです」


実践2 毎日、店舗を回る。全員と面接する

西出さんは、ほぼ毎日全店舗を回り、スタッフ一人ひとりに声をかける。
そこで見ているのは、技術ではなく「トーン」。声の調子や表情から、体調や気持ちの変化を感じ取る。

中途採用で入社した松田拓也さん(梅田「IN DISH」アシスタントマネージャー)は言う。
「入ってみて、社長と顔を合わせる機会がすごく多いことに驚きました。前職の飲食企業では、7年勤務していて社長と話したことは1回だけでした。でも、西出さんは毎日のように店にやってきて『どう、最近?』と気さくに声をかけてまわっている」

さらに特徴的なのが、全スタッフに付けられる“レアルネーム”なるものだ。サッカー選手になぞらえて、「どんなポテンシャルをもっていそうか」とイメージして西出さんが命名する。各人の可能性を可視化するもので、本名よりもレアルネームが社内では浸透している。

松田拓也さん

「こいつはセンターバック」「ゴリゴリのフォワード」――。西出さんは、日々の何気ないやりとりから適性を見て、店舗やポジションを変えていく。新しい挑戦がすべてうまくいくわけではないが、自分に足りないこと、数字や人の管理、チームビルディングなどに気付くきっかけとなり、新たな成長に結びつく。
「ファインダイニングは料理だけでなく“人”がつくる体験。そのためには、スタッフの“色”を知っていることが大切です」

年に一度、西出さん自ら、スタッフ全員と面談を行うのも単に査定のためだけではない。
「皆ぐいぐい自分の意見を言ってくる(笑)」と、対面するスタッフから積極的な意見が上がり、そこから制度改善や新たな取り組みが生まれている。
最近では、「英語のレベルを上げたい」という意見を吸い上げ、英会話のオンラインレッスンが始まった。

「みんな、目的をもってここで働いています。環境をつくるのが僕の仕事なのです」
その言葉通り、西出さんは会話を大切に、現場に近い距離で組織を支えている。

西出さんとスタッフ
西出さん(写真・中央)は日々、店舗をまわり、気さくな会話を通してスタッフとコミュニケーションを取る。小さな変化を見逃さない姿勢が、現場の安心感と信頼につながっている。

実践3 数字は全員に見せる。「毎日見る」を習慣にする

レアル・ダイニングでは、売上・客数・客単価・前年比などの数字を毎日グループLINEで全社員に共有する。進行中の出店プランなどの情報もGoogle Driveで共有。さらにマネージャークラス以上はスタッフの稼働時間という数字も共有する。誰が何時間働いているかを把握し、「売上が多い=忙しい店舗」に人を配置。人件費をグループで効率よく回し、各店独立採算しつつ協力連絡体制を組む。そうすることで、残業時間を最小限に抑えるという結果も生んでいる。

「町場のレストランではまずありえない経験」と語るのは、「Nishideria」でスーシェフを務める相川航平さん。イタリアでの料理修業から帰国後、同社に入社し、今は西出さんと他店舗のメニュー試食も同行するなどグループの味の要となる存在だ。
「それまでただ己の知識と腕を磨くためだけにやっていましたが、今はどうやって利益をだしていくかを考えられるようになりました。料理の味だけでなく、売り上げ目標と人件費、原価率が常に頭にあります」

西出さんは経営者目線をもつ料理人をどう育てているのだろうか。
重要視するのは、「数字を見ることを習慣化する」こと。毎日見ることで数字の変化に気づき、原因を考え、すぐに行動することができる。このサイクルで、自然と経営感覚が身につくという。
「売れない=支持されていない。あかん、と思ったらすぐ切り替える」
現実を直視し、メニューも柔軟に変える。
西出さんのレスポンスの速さは、料理人だから数字を見なくていいではなく、料理人だから見なくちゃいけないという説得力をもって料理人のマインドを変えていく。


相川航平さん

相川航平さん(フレッジ)大阪・天満橋「Nishideria」スーシェフ
2022年入社

「北イタリアを中心に星付きの店で研鑽を積みました。私は根っからの料理人で、入社前は料理のことしか考えていませんでしたが、経営者目線をもつ料理人を育てるという方針に惹かれて入社しました。数字を見ることで、自分の仕事がどう結果につながっているかがわかりますし、いつか独立する際、必ず必要なことなのでありがたいですね。他店舗の状況を共有し、何が課題になっているかを一緒に考えることも力になると実感しています」

能登牛のボロネーゼ
看板メニューのひとつ「能登牛のボロネーゼ」。能登牛のすね肉や肩肉などを活かし、旨味たっぷりな赤ワインソースで仕上げる。特定の高級部位だけを使うのではなく、さまざまな部位を組み合わせて価値を最大化するひと皿。

実践4 メニューはシェフだけで考えない

レアル・ダイニングは、スタッフ約130名、8店舗を運営する企業でありながら、ヘッドオフィスを構えていない。
各店舗の運営は各チームに委ねられ、店ごとに月1回開かれるミーティングには全スタッフが参加し、メニュー開発や店舗運営について、役職や社歴に関係なく意見を出し合う。
「チームで考える」仕組みは、若いスタッフには主体性を、ベテランには気づきを与え、学びの機会を増やし、働くモチベーションにつながっていく。

料理の写真
「Nishideria」では、オーナーシェフである西出さん、スーシェフの相川さん、マネージャーの難波さんが3人でメニューを組むが、若いスタッフから出たアイデアに対してキャッチボールをしながら決めていくこともある。

髙山澪さん

髙山澪さん(テレサ)大阪・梅田「ベラ ダイニングカフェ」パティシエ 2024年4月入社
「製菓の専門学校を出て、現在はアフタヌーンティーやコース料理のデザートを担当しています。週末はことに注文数が多く、仕込みと追いかけっこという状況です。先輩が細かいところまで丁寧に教えてくれるので、ロスや失敗がないよう、私も後輩に教えています。仕込むべき量の配分や段取りを共有し合い、時間管理をして無駄のない働き方に努めています。ミーティングでは、年次に関係なく意見を出せるので、自分のアイデアが形になることもあります。責任もありますが、その分やりがいも大きいです」

チームで考える風土は、若手や外国籍スタッフの心理的なセーフティネットになり、挑戦する土壌となる。
「求人の応募が絶えないのは、企業だけれど学べるものがあるからだと思う」と話すのはアシスタントマネージャーの松田さんだ。


松田拓也さん

松田拓也さん(トニ)大阪・梅田「IN DISH」アシスタントマネージャー 2023年5月入社
「前職は資金力のある飲食企業で条件も恵まれていた方だと思います。でも、それだけでは『働きたい』とはならないものです。レアル・ダイニングは、社員というプロ集団の集まりで、早朝から数字の分析をする勉強会が自発的に立ち上がるような『成長したい』社風があります。スピード感のある経営、社長が料理人であるがゆえに経営判断とメニュー変更が同時にできる点もユニーク。資金があるから、潤沢に営業ができることを理解し、利益を会社に残すことを意識するようになりました」


実践5「働きたい」を諦めさせない

レアル・ダイニングでは、2025年より働き方を選べるようになった。
そう、働き方は一つではない。月8日休みの「アスリートコース」と、月12日休み(週休3日)の「バランサーコース」を用意し、ライフステージに応じて選択できる。
働きたいけれど体力的な問題がある、育児の時間が取れないといった理由で離職するのはもったいない。給料や役職のバランスを取りながら、また戻ってこられる仕組みを整えた。

創業メンバーで人事担当の上田中康平さんは言う。
「能力のある人が働き続けられるよう環境をつくるのです。『働きたい』を諦めさせません」
貴重な飲食人材の離職を防ぎ、人材を守り、Win-Winの関係を作っていく考えだ。

言葉や慣習の違いから、教える側も最初は戸惑うことが多い外国籍のスタッフに対しても、エージェントを介して定期面談をし、心の内をレポートしてもらう。スタッフ同士のコミュニケーションを円滑にすることで、外国籍のスタッフが成長できる環境を作っている。
「人が少ない時代だからこそ、それぞれが輝ける場所をみつけてもらえたら、と願っています」


上田中康平さん

上田中康平さん(ファビオ)大阪・梅田「あかくろ」マネージャー、「レアル・ダイニング」人事担当 2017年創業メンバー
「会社創業時の10坪、5名で始めた立ち上げ当初から、現場に立ってきました。西出のビジョンをいかに具現化するかに努めています。当社の最大の特徴は、スタッフ一人ひとりが店づくりに関わっていること。人として成長できる環境があることです。そのためには、一人ひとりが自分のペースで働き続けられるようにすることが大切。飲食業を諦めなくていい環境を作りたいですね」


実践6 生産者にコミットし続ける

母数を増やして売上を伸ばし、組織を強くする。働きたい職場を作って売り上げが伸びるから、食材を手掛ける生産者を買い支えることができる——。
潤沢な経営の先にあるのは、生産者との持続的な関係だ。その順序が明確だから、西出さんはぶれることがない。

佐々木農園
大阪市東住吉区にある佐々木農園は、住宅地で野菜を栽培する都市型農業。「量より質」を重視した栽培姿勢で、採れたての野菜を新鮮な状態で供給できるメリットがある。

2024年3月、レアル・ダイニングは、大阪府下で初の試みとなる「飲食店と農家の共同参画による継続的な野菜生産および売買契約」をJA大阪と締結した。
市内にある農地をこれからも農地として残していくために、付加価値の高いイタリア野菜を植え付け、栽培方法や収穫時期も農家と並走して決める。売れ残ったら全量買い取る契約である。

契約先の農園へは「Nishideria」から車で15分ほど。大阪市内で5代続く佐々木農園は、いわゆる「都市型農業」の代表的な生産者だ。鶏糞などの有機肥料を中心にした土づくりをし、地下水で野菜を育てている。
ほうれん草と菊菜を主力にしていたところから、西出さんとつながったことで、ケールやフェンネル、トレビスを栽培するように。次第に、ルーコラやカーボロネロといったイタリア野菜も育てるようになり、今では年間15種類ものイタリア野菜を手掛けている。

園主の佐々木啓さんは言う。
「最初は未知の野菜で教えてくれる人もいなかったので、手探りで挑戦しました。育てれば買い取ってもらえる、という契約があって心強かったですね。多品目栽培をするようになり、単価も売り上げも上がりました。西出さんの店で料理をいただき、自分の野菜がこんなおいしい料理になるのかと感動しました。お客様の喜ぶ様子を見て、モチベーションも上がります」

地下水は硬水
佐々木農園が栽培に使う地下水は硬水。イタリア野菜の栽培に向く水質だ。
カーボロネロ(黒キャベツ)
カーボロネロ(黒キャベツ)は、露天とビニールハウスの両方で栽培。葉の柔らかさやサイズ感などが異なり、向く料理も変わってくる。
佐々木啓さん(左)
佐々木啓さん(左)。江戸〜明治期にルーツを持つ「佐々木農園」5代目。レストランと連携した高付加価値野菜の生産に取り組み、都市部における農業のあり方を再構築。限られた土地条件の中で、料理人のニーズを起点にした栽培と直接取引を軸に、都市における新しい農業のかたちを実践している。
野菜の育成の様子
毎朝、「Nishideria」スーシェフの相川さんとLINEビデオ通話で連絡。野菜の育成の様子を見ながら、料理に最適なサイズ感で皿に落とし込むことを想定して収穫のタイミングを計っている。

西出さんが謳う「なにわイタリアン」とは、大阪の地で、大阪の食材で作る、誠実なイタリア料理を意味する。「なにわイタリアン」を通じて、生産者と対等に価値を分かち合う「ファインダイニング」の文化を、この街に根づかせたいという意志がある。
食材の価値を正しく受け取り、正しく届ける。
農家とともに考え、ともに育て、その価値を適正な価格で伝えていく。

人が育ち、食が磨かれ、文化が醸成されていく——。
レストランが社会にできることを問い続けながら、西出さんは今日も現場に立ち、一人ひとりの声に耳を傾けている。

「Nishideria」のロゴ

「Nishideria」店内の写真

Nishideria
大阪府大阪市中央区天満橋京町3-8 DDC天満橋ビル2F
Tel. 050-5589-7910
11:30~13:00最終入店(土日祝は~13:30)
17:30~20:00最終入店
不定休
https://nishideria.com/

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