“近くて見えない”魅力を掘り起こす
茨城食材で新たなスペシャリテを
―日本料理・中国料理編―
2021.01.07
text by Miyo Yoshinaga / photographs by Sai Santo, Hide Urabe
“都市部の食卓を近郊の生産者が支える”という構図は、世界共通です。
産地と消費地の距離の近さは、生産者との信頼関係や、食材への理解も深まります。
都心で食を営む人、都心で暮らす人にとって、こんなに心強いことはありません。
茨城県は、日本最大の消費地・東京にとって、日々の食卓を支えてくれる産地の代表格。
そんな“近くて見えない”茨城食材の魅力を伝える、料理通信社主催「茨城県オンライン食彩提案会」に参加してくれた、料理通信が絶対の信頼を寄せる14軒のシェフたち。
生産現場の動画を鑑賞しながら生産者とシェフと交流を深め、「これ知らなかった」「これ使ってみたい」という食材で、年明け早々、茨城食材のオンメニューを実施していただきます。料理のプロたちが茨城県の食材と出会い、どう感じてどう表現したのか。注目してください。
<登場店>※順不同
東京・西麻布「日本料理 ときわ」
東京・駒場東大前「七草」
東京・広尾「4000 Chinese Restaurant」
東京・新宿御苑前「古月 新宿」
東京・広尾「茶禅華」
産地ツアーの様子はコチラから。
森枝幹シェフと巡る東京から1時間圏内・茨城の魅力発見ツアー
―前編 結城市・坂東市・鹿島―
―後編 霞ヶ浦・大洗・常陸太田・大子・日立-
新年を迎える、華やかで品のある味
銀座から移転して今年6月にリニューアルした、東京・西麻布「日本料理 ときわ」。四季の移ろいを五感で感じる料理を提供する料理長の松本一樹さんと総料理長の西塚茂光さんがまず注目した食材は、茨城県オリジナル品種で、日本一大きく漆黒の色合いが美しいベニバナインゲン(花豆)、常陸大黒だ。
試作した感想は、「ねっとりでなく、サックリした食感で口当たりが軽い印象でした。実は花豆のつもりで水戻ししたら、上手く戻らなくて。やわらかく戻るまでには少し時間がかかりますね」。豆の滋味を壊さないように、ひとつは上白糖で優しい甘さの蜜煮に、もう一品はだしでふっくら炊き上げた田舎煮に仕立てた。
「田舎煮は高野豆腐やニンジン、こんにゃくなどと一緒に、鰹だしや醤油で炊いています。香りが強すぎないので、料理にも使いやすいです」
大洗から波崎にかけての太平洋岸で採れる鹿島灘ハマグリは、色艶が良く、大きくて身の詰まった国内でも高級品。「肉厚でプリっとしていて、蒸しても充分にやわらかかったのは驚きです」と松本さん。「汁も身も旨味が濃くて、味わいも深い。このハマグリの味をひとつも逃さないように、生の貝から取り出した汁を酒で伸ばして、網で殻ごと焼いたハマグリにかけながら網で火を通しています」と西塚さん。
「都内では釜揚げしか食べられないと思っていましたが、生しらすを食せるなんて!」と感嘆の声をあげたのは、茨城県の生食用しらす「海の輝き」だ。
「冷凍とは思えない、贅沢な味です。このままシンプルに、がベスト。正月らしく、紅白なますとしらすを合わせています」。さっぱりシャキッと酸が効いた大根とニンジンに、生しらすの海の豊かな旨味と甘味を加えて、食感のコントラストも楽しい逸品に仕上がった。
◎日本料理 ときわ
東京都港区西麻布1-9-7 シュウエツレジデンスⅡ1F
☎03-3405-1237
17:00~23:00 日曜、祝日休
東京メトロ六本木駅より徒歩8分
https://www.tokiwa-nishiazabu.jp/
◎茨城フェア
2021年1月7日(木)~31日(日)の期間中、紹介した3品をコースの一品として。
“豆マスター”が挑む、常陸大黒
駒場東大前「七草」の料理の主役は、野菜や乾物、そして豆。どんなに忙しい時も、多彩な豆を炊き続ける店主の前沢リカさん曰く、「豆炊きはフィーリングが大切」。来る日も来る日も幾種類もの豆を炊き続ける、いわば“豆マスター”。茨城県出身ということもあり、常陸大黒は以前から馴染みがあった豆だ。「花豆らしい香りとホクッとした食感が魅力です。常陸大黒などの花豆は、汁を少し煮詰め気味に仕上げて冷蔵庫で数日寝かせると皮と身が馴染んで一層おいしくなります。他の煮豆より日持ちもいいので重宝するんですよ」
まず48時間ほど水に浸し、ほとんどの豆のシワが伸びたら水を替えて火にかける。弱火で2時間ほど炊いたら保温調理鍋へ。「朝、自宅でここまで終えてから仕事に行き、夜にまた火を入れて、保温調理鍋に入れて寝るんです。豆炊きはせっかちな人には向かないけど、ズボラさん向き(笑)」
下茹でが完了したら流水下で少しずつ水を替え、上白糖を2度に分けて加えながら炊く。「火加減や火から下ろすタイミング、砂糖の調整などは、経験とフィーリングで見極めています。常陸大黒は皮が厚いので時間はかかりますが、香りを損なわず仕上げられると、ご馳走感のある煮豆になりますね」
「手に入った時、思わずテンションが上がった!」とは、常陸秋そばの丸抜き蕎麦。大きくて粒揃いの良い実で「茹でている時の香りがよく、色もきれい。ふっくらと茹で上げた実を、キヌアのようにサラダに加えるのもよいです」。今回は、利久麩や湯葉、百合根などとともにあんかけ仕立てに。とろりとしたあんと湯葉、ほくほくとした百合根やムカゴに、蕎麦の実の粒々感が心地いい。寒い日もしみじみと体を温めてくれる、滋味深い一皿だ。
◎七草
東京都渋谷区富ヶ谷2-22-5
☎03-3460-7793
17:00~22:00LO(最終入店20:00)
日曜、月曜休
京王井の頭線駒場東大前駅より徒歩13分
https://www.nana-kusa.net/
◎茨城フェア
2021年1月末〜2月中旬の期間中、紹介した2品をコースの一品として。
四川の味を、素材の力で再構築
料理人のキャリアが30年以上経つ今も、自らの先入観、中国料理のセオリーを覆すことを厭わない「4000チャイニーズレストラン」の菰田欣也シェフ。
「鹿島灘ハマグリは硬いと思っていた」と持論があったが、「僕の間違いだったね。身はふっくらやわらかいし、旨味も強い」とさらりと撤回してくれた。
考案してくれたのは、四川らしい香りが広がる、海と山を出合いのスープに仕立て。
「ハマグリはさっと酒蒸しにします。開いたらハマグリを取り出して、残り汁にグレープシードオイルと花椒、四川唐辛子の香りを弱火でじっくり移す。そこに鶏ガラのスープを加え、煮立ったところに、蒸したハマグリを戻し入れます」。ハマグリの酒蒸しに、四川の香りをふんわり纏わせて食べる。幸福に満たされる味だ。
「赤身にきれいな甘味があるね」と語ったのは茨城のブランド豚、「常陸の輝き」。「豚は飼育期間が短いから、掛け合わせよりも、何を食べているかで選びます」。「常陸の輝き」はトウモロコシなどの専用穀物飼料を出荷前55日以上供与している。「肩ロースはサシもしっかり入っているし、大きめに切って揚げても歯ざわりがいい」と、大きなサイコロ状にカットし、ぴかぴか艶やかに光る豚肉だけの酢豚を完成させた。
豚肉の味をダイレクトに感じてもらうために、下味は塩コショウと紹興酒だけ。そこにコーンスターチをまぶしてかりっと揚げて、黒酢だれは、バルサミコ酢を煮詰めて、3年ものの鎮江香酢、南イタリアのブドウの熟成甘味料・ヴィンコット、米酢などを合わせる。甘酸っぱい風味豊かな黒酢だれには、乾燥させて炒めたビタミン大根とカブを別添えして味を締める。
◎4000 Chinese Restaurant
東京都港区南青山7-10-10 パークアクシス南青山7丁目1F
☎03-6427-9594
12:00~ / 18:30~
不定休
各線渋谷駅より宮益坂口51番バスで南青山7丁目下車徒歩3分
https://minamiaoyama4000.jp/
◎茨城フェア
2021年1月7日(木)~31日(日)の期間中、紹介した2品をコースの一品として。
日本の淡水魚の可能性を探る
内陸部を中心に、淡水魚の食文化が豊かな中国。現地志向の強い中国料理のシェフたちは、日本の淡水魚に熱い視線を注ぐ。「古月 新宿」の料理長・前田克紀さんもその一人。茨城県食材と聞くやいなや、霞ヶ浦のハクレンという淡水魚を使ってみたい、と第一声だった。
「ハクレンは、コクレンやアオウオ、ソウギョとともに四大家魚として養殖され、中国ではごく普通に食べられる魚。現地でおいしいハクレン料理を味わっていて、霞ヶ浦のハクレンに以前から興味がありました。淡水魚は、海の魚特有の磯臭さがなく、実は魚の味がよくわかるともいえます」と前田さん。今回は、通常出荷対応していないハクレンを、霞ヶ浦の漁師、伊藤一郎さんにお願いして捕獲してもらい、朝獲れを当日配送した。
「繊細な身質なので、日本の煮魚のように煮込まず、味を決めた煮汁でさっと火を通します」。骨切りした上身に衣を付けてさっと揚げ、揚げたハクレンのアラで取ったスープを加えて、強火で水分を飛ばしながら火を入れていく。仕上げにはXO醤とラー油で香りを立てた。ホワッとやわらかい身は臭みもなく、あっさりと上品な味。それを衣の香ばしさとスープやXO醤の旨味が引き立てる。淡水魚の魅力に開眼できる逸品が誕生した。
霞ヶ浦でとれるテナガエビには、「想像以上に小さい!」と慄いた様子。「味も香りもやさしい風味で、押し付けがましくない。殻の香ばしさがありつつ硬すぎないので、干しエビと違って、たっぷり使っても味や食感が損なわれないのがいいです」。そんなテナガエビは、マダムの藍さんのアイデアで「葱油餅(ツォンヨゥピン)」のアレンジに。パイのような生地で、テナガエビやネギ、ラードを巻き込み、230℃の高温のオーブンで焼き上げた。サクサクの皮から、テナガエビやゴマ、花椒の香り豊かな具が溢れ出し、スナック感覚で楽しめる。
黒々と輝く大粒の常陸大黒は、薬膳料理の「ハスの実の琥珀煮」を応用した煮豆に。一晩浸水させた常陸大黒をやわらかくなるまで約8時間蒸し、水、紹興酒と、黒砂糖を3度に分けて加えて煮た。こっくりとした甘さの中に紹興酒の複雑な風味が広がる、大人っぽい煮豆に仕上がった。
◎古月 新宿
東京都新宿区新宿1-5-5 御苑フラトー2F
☎03-3341-5204
11:30~14:00LO / 17:30~19:30(コースのLO)
月曜、火曜休
東京メトロ新宿御苑前駅より徒歩3分
https://localplace.jp/t200372793/
◎茨城フェア
2021年1月7日(木)~31日(日)の期間中、常陸大黒の煮豆はランチの前菜として、ほか2品はコースの一品として。
ドラマチックに味が変わる、テナガエビの餃子
釣り好きで茨城県の隣、栃木出身の広尾「茶禅華」の川田智也シェフ。だが霞ヶ浦のテナガエビの存在は知らなかったという。「食べた時、“あぁ、豊かな味だなぁ”と感じました。蒸す、焼く、炒める、試しましたが、頭の部分は濃い旨味、身はほんのりと甘味が魅力です。その両方を、どっちも引き出せないかと、試作を始めました」
選んだのは身と体を分ける方法。直径2㎝ほどの稚エビをハサミでひとつずつ切り分ける。「中国料理に油爆蝦(ヨウ・バオ・シァ)という川エビの料理があります。爆、というのは230℃くらいの豪快な強火ではぜるように熱い油で火を通す手法」。頭部は爆ぜて、豊かな香りと旨味を出し、身は蒸して甘味を引き出す。違う個性を引き出した2つのパーツは、餃子に包むことにした。
「あんは生湯葉と魚のすり身をまぜたしんじょうがベース。2パーツに分けて、ひとつには蒸して甘味を引き出したエビの身を、もうひとつは蒸した身と、爆ぜたエビの頭を調味料的に加えたパーツを、それぞれ2対1で並べます」
さらにその隣には黄ニラを配置。「デザートのカラメルのような、主たる味にぐっと輪郭を持たせるイメージです」。200℃の高温の油をかけて、淡くふくよかな香りをたてた黄ニラをオブラートに包み右端へ。味のフィニッシュを飾る。
大ぶりの餃子は、左端から少しずつ食べ進める。エビの甘味、次に濃い香りと旨味の頭の風味が際立ち、最後にふくよかな黄ニラの香りで余韻を彩る。
「桜エビは繊細できれいな味が魅力ですが、霞ヶ浦のテナガエビはそれとは違う、いい意味で雑味があって風味の広がりを感じます。爆ぜた時の香ばしさ、味の力強さ。この料理には桜エビではく、霞ヶ浦のテナガエビがぴったりでした」
餃子で包んだのは今の世相も受けて、と川田シェフ。「人と人との距離をおかざるをえない状況で、少しでも人との交わり、団らんを感じてほしいと、違うものを大きく包む、縁起のいい料理を」。福福と幸せそうな餃子の佇まいからは、シェフのあたたかい想いが伝わる。
◎茶禅華
東京都港区南麻布4-7-5
☎03-6874-0970
17:00~20:30LO
日曜、月曜休、不定休
東京メトロ広尾駅より徒歩12分
https://sazenka.com/
◎茨城フェア
2021年1月20日(水)~無期限。予約日の10日前までに「料理通信の茨城フェアメニュー」とお伝えください。
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“近くて見えない”魅力を掘り起こす
茨城食材で新たなスペシャリテを
―イタリア料理・スペイン料理編―
―日本酒酒場・蕎麦処・洋食・タイ料理編―
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茨城県農産物販売促進東京本部