日本[茨城]
母牛を放牧し、肥育牛の肉質を上げる。広大な農耕地を生かした 無理のない飼育法。
風土が伝わる「常陸牛」の食べ方、伝え方 2022
2022.02.10
【PROMOTION】
text by Saori Bada , Miyo Yoshinaga(bistrosimba , MIMOSA)/ photographs by Hiyori Ikai , Ayumi Okubo , AKANE
「常陸牛」は、茨城県の肥沃な大地で育まれる銘柄牛です。30カ月以上飼育した黒毛和牛の中でも、歩留等級A、B、そして肉質等級4、5のサシの入りが美しい一級品。そんな常陸牛を極めて高い確率で産出する「ドリームファーム」を、東京・白金のフランス料理店「ラ クレリエール」柴田秀之シェフと訪ねました。
ドリームファームは、家族経営ながら耕畜連携と繁殖肥育一貫経営で、繁殖牛の頭数80以上の多頭飼養を実現させています。
目次
- ■田畑に囲まれた牛舎
- ■地元の農家と協力して作る、発酵飼料稲
- ■妊娠中の母牛を水田に放牧し、ストレスフリーで育てる
-
■フレンチの3種のソースで、マイナーな部位を超・主役級に
/「ラ クレリエール」柴田秀之シェフの伝え方 -
■フィレンツェ式の煮込みで、和牛の甘味を直球で活かす
/「アルベリーニ」中村鉄平シェフの伝え方 -
■ランプ肉とスープを蒸籠で蒸して、澄んだ味わいを抽出する
/「ミモザ」南俊郎シェフの伝え方 -
■稀少部位を塊で。稲藁の香りと西洋ワサビで味の輪郭を作る
/「ビストロ シンバ」菊地佑自シェフの伝え方
田畑に囲まれた牛舎
茨城県南西部の常総市は農業が盛んな土地。見渡す限り広大な田畑が広がり、視界を遮るものがない。水田をはじめ、白菜やネギ、ホウレンソウといった野菜や、スイカやメロンなどの果実、あらゆる作物が育てられている。
評判の常陸牛を育てる農場「ドリームファーム」は、その田畑の真ん中にある。周辺には利根川と鬼怒川の合流地点に近い遊水地があり、昭和初期の開拓以降、酪農や肉用牛の飼育が盛んに行われてきた。
ドリームファームは1975年に初代の佐藤宏弥(ひろや)さんと妻の博子さんが立ち上げた。現在は長男の治彦さん夫婦が2代目を継ぎ、親子4人で農場を営む。2014年には農林水産祭の畜産部門で天皇杯を受賞。最近では、その肉質の高さからドリームファームの牛肉を専門に扱う卸業者や専門業者も増えている。
地元の農家と協力して作る、発酵飼料稲
ドリームファームでは牛に食べさせる餌を、近隣の農家とタッグを組んで生産している。
「周辺の農家に協力を仰ぎ、稲の飼料化を20年ほど続けています。穂が出て間もない飼料用の稲を水分が60%程度になる黄熟期に刈取り、丸めたものをラップして密封します。すると中で乳酸発酵が進み、甘酸っぱい臭いのする飼料になります。これを稲WCS(ホールクロップサイレージ)と呼びます。
稲の品種や収穫のタイミング、発酵の程度など、餌の質にこだわりだすとキリがありませんが、自分達で作る飼料は、安全性も担保できるので安心ですし、自分が納得したものを与えられます」
実際に、牛舎で与えている餌のにおいを嗅がせてもらうと、発酵した稲は漬物のようなおいしそうな酸味を連想させた。「ラ クレリエール」柴田シェフも、発酵した稲を手にして、その香りに驚いた様子。
「牛を育てるだけでも環境整備から体調管理まで相当な労力なのに、餌も自家製とは。餌ひとつとっても、発酵の加減や収穫のタイミングなど検討課題が多いと伺って、料理人としては、仕事への探究心が尽きない点に非常に共感できます。仕事が増えるのを承知で、もっと良くなるのではとつい夢中になってしまいますよね」
稲は食物繊維が多く、稲WCSに加工することで牛の腸内環境に良い乳酸菌を豊富に含む。このため日々の食事から牛の健康が保たれ、肉質も良くなる。飼料稲の自家栽培で牛肉の安全性を確保し、周辺の耕作放棄地も有効活用できる。まさにいいこと尽くしなのだ。
妊娠中の母牛を水田に放牧し、ストレスフリーで育てる
「それでは、放牧の様子を見に行きましょう」と向かった先は、牛舎の裏手の森林、そして米の収穫が終わって裸になった水田だ。水田では田んぼの真ん中で、妊娠中の雌牛たちがのんびり草を食むなどして気ままに過ごしている。
初めて見ると驚く光景だが、この辺りではすっかり馴染みの景色だという。2代目の治彦さんは、母牛が妊娠中にどんな環境で過ごすかが、その後の仔牛の肥育、ひいては出荷する牛の肉質に大きく影響すると話す。
「うちでは、牛の繁殖管理から子牛の育成・肥育・出荷までを一貫して行っています。どの過程も大切ですが、最も重要なことは、丈夫で元気な子牛を母牛に産んでもらうこと。母牛が妊娠中は完全に放牧し、好きなように過ごさせています」
放牧というと牧場のような場所を想像するが、ドリームファームの放牧先は、こういった周辺の空き地や田畑なのだ。
「4月から11月ごろは近隣の遊休畑、12月から3月は、刈り取りの終わった水田を中心に放しています。屋根もない開けた環境は解放感も抜群で、牛が自分の好きなタイミングで食べたり動き回ったり寝たりと、行動が制限されません。そして、それは牛の健康に直結します。実際、放牧から戻った母牛は体調も非常に良く、ほどよく動くので健康的。また、牛が動き回ることで田畑の土が耕され、放牧中に牛の堆肥で土が肥えるなど、田畑での放牧は土地のメリットにもなっています。近隣の農家との連携から可能になった、この土地ならではの試みです」
「私たちは田んぼや畑の活用が増えることに比例して、飼養頭数を増やしてきました。水田があれば牛舎がなくても牛が飼える」と、放牧で確かな手応えを感じてきた初代宏弥さん。
日々の労力を惜しまず、近隣とも関係性を作って関わり合ってきたことが、結果的に牛の肉質の向上に繋がったという。2代目の治彦さんは、今後の展開をこう語った。
「アメリカやEUなど、海外向けの販売も視野に入れています。日本ならではの和牛を健康的な飼料と母牛の放牧を軸に育てることで、余計な脂肪のない味のある赤身、すっきりした口溶けの良い脂を蓄えた肉質に仕上げられます。
国内の需要にも合うように、そして健康的な牛肉の代表ブランドになるように、常陸牛を守っていきたい。僕は牛を育てること自体が好きなので、大変な仕事ではあるけれど、嫌だと思ったことはないんです。これからさらにどう工夫するかを考えている時が楽しい。この仕事が好きなんですよね」
農場を見学した柴田シェフは、「現場や生産者の方を知ることで、素材にも一層思い入れが湧きました。これだけの仕事をご家族4人で成し遂げている佐藤一家へは、尊敬の念でいっぱいです。生産者の方々の努力の結晶である牛肉をどう料理するか、店に戻ってこれから、キッチンでじっくり考えます」
フレンチの3種のソースで、マイナーな部位を超・主役級に
/「ラ クレリエール」柴田秀之シェフの伝え方
「ドリームファーム」からレストランの厨房に戻り、柴田シェフは早速ロースやヒレ、ランプ、イチボ、シンタマなど、常陸牛のさまざまな部位を試作した。
「自分は和牛を使うことがほぼなかったので、まずは部位ごとの違いを食べて確認しました。ロースやヒレはさすがのやわらかさです。塩をしてさっと焼くだけでも満足感があって、食べる人を十分に魅了できると感じました。何もしなくても売れるな、と。
一方で、生産者さんからは、人気が低いのはウデ肉とスネ肉だと聞きました。折角やるなら、少しでも貢献したい。ちょっとマニアックなウデ肉でフレンチならではの良さを感じてもらえれば、と選びました。ウデ肉は火入れが難しく肉焼きの腕が問われる部位ですが、うまく焼けば思わぬおいしさがある。口に入る時の繊維の方向をしっかり理解すれば、やわらかく提供できます。フレンチ王道のソースや付け合わせとともに、少量でも十分に満足いただける一皿に仕上げます」
ウデ肉は3㎝ほどの厚さにカットし、塩と白コショウをふって表面をグリルで焼く。さらに200℃のオーブンに1分入れ、取り出して3分休ませるを繰り返し、肉の中心温度が56〜62℃になるよう加熱。さらに鍋の中で藁のスモーキーな香りを軽くまとわせ、ごく薄切りに食べやすく切る。
皿には旬の黒トリュフを加えたジャガイモのピュレを敷いて薄く切った肉を重ね、赤ワインとジュのボルドレーズ、黒トリュフのペリグー、仏・ジュラ地方の黄色いワインを使ったヴァン・ジョーヌの3種のソースを重ね、肉の味わいがさらに深まる組み合わせに仕上げた。
「今回、生産者である佐藤さんのもとで常陸牛の育てられている環境を見られたのは、僕の中でとても大きな意味を持っています。この食材が、どんな人が何を考え、何を大切にしながら育てたかを知り、深く信頼して使えるからです。自信を持ってお客様の口に届けられる。生産者、料理人、お客さまがお互いを心から信じられるからこそ生まれる、健やかで豊かな食の循環の尊さを、改めて感じています」
柴田シェフはドリームファーム佐藤さんの常陸牛をウデ肉の他、赤身と脂身のバランスがいいシンタマも、メインで使っていく予定だ。
◎レストラン ラ クレリエール
東京都港区白金3-14-10
☎ 03-5422-6606
12:00〜13:00LO、日曜18:00〜20:00LO
木曜、水曜不定休(月1回)
https://www.la-clairiere.tokyo/
note: Hideyuki Shibata
▶フェア期間
2022年2月10日(木)~3月10日(木)の間、ディナーコース¥26,000(税込)の一品として提供
フィレンツェ式の煮込みで、和牛の甘味を直球で活かす
/「アルベリーニ」中村鉄平シェフの伝え方
イタリア料理で扱う肉は、ほとんどが赤身。だから今回は新鮮な経験で楽しかった、と話すのは、東京・神楽坂のイタリアンレストラン「アルベリーニ」の中村鉄平シェフ。
「常陸牛のようなきめ細かいサシの入った和牛は、日本ならではの食材。和食店や焼肉店などで食べることはありますが、自分の料理に使うのは初めて。いつものイタリア料理に和牛を使うとどうなるか、試してみたかった」
メニューにはトスカーナ州フィレンツェで13年の経験を活かした料理が並ぶなか、今回は冬に人気の温かい煮込み料理のボッリートを選び、常陸牛のスネ肉を使った。
「いろんな肉の部位を香味野菜と静かに煮込んだボッリートは、トスカーナの冬の定番です。肉そのものと、そこから出た旨味たっぷりのスープの両方が味わえるので、肉の質が料理のおいしさになります。これを常陸牛で作ってみたら面白いじゃないかと。スネ肉は赤身の旨味がしっかりしていてコラーゲンも多いので、長時間の煮込みにも最適」
1キロほどの牛スネ肉はかぶるぐらいの水で煮てアクを取り、その後タマネギやセロリ、ニンジンといった香味野菜と一緒に3時間ほど煮込む。その後塩で味を調え、さらにそのスープでジャガイモを煮て肉と一緒に提供する。アクセントには、穏やかな酸味とハーブの香りがきいた自家製サルサヴェルデも欠かせない。
「常陸牛で取ったスープは、コクがありつつきれいな味で、脂の甘味も感じます。煮込んだ肉は肉質が繊細で、上品な味わいでした。和牛はもっとサシの脂の強さが出るのかと思いましたが、キレもあって、赤身の牛肉によくある酸味もない。全体的にすっきりとした印象です。気持ちのいい環境で育っているのかなと。この牛が茨城でどんなふうに育てられているのか、料理人として非常に興味が湧きました。休日、産地を訪ねてみたいと思います」
◎アルベリーニ
東京都新宿区袋町2
☎ 03-6265-0620
17:30〜22:00LO(土曜、日曜〜21:00LO)
土曜、日曜のみ 11:30~14:00
月曜休
https://alberini.jp/
instagram: @alberini2013
▶フェア期間
2022年2月10日(木)~3月10日(木)の間、アラカルト¥2,500(税込)の一品として提供
ランプ肉とスープを蒸籠で蒸して、澄んだ味わいを抽出する
/「ミモザ」南俊郎シェフの伝え方
名店として知られる東京・新宿「シェフス」で料理長を務め、2016年に東京・青山に「ミモザ」を開いた南俊郎シェフ。伝統的な上海料理をベースとしたオリジナリティあふれる料理が人気だ。
「古典的な中国料理では、牛肉はさほど頻繁には使われないんです。牛ホホ肉の煮込みくらいかな。うちでは牛サーロインをパラフィン紙で包んで揚げたり、松茸と一緒に餅皮で包んだり。麻婆豆腐を牛肉で作ることもあります。
常陸牛は焼いてもおいしかったですが、コクのあるランプ肉を、澄んだスープに仕立ててみました。よりシンプルにダイレクトにやわらかな牛の旨味が感じられると思います」
角切りにしたランプ肉は、茹でたタケノコ、酒に漬けた貝柱、鶏ガラスープ、日本酒と共に碗に入れて、蒸籠で15分。蒸すことで器の外からやさしく火が入り、クリアなスープができる。「鍋で煮たスープにはない滋味深さも特長です」
スープには自家製ラー油を添える。コーン油に朝天唐辛子や花椒、八角を加えて弱火で香りを立たせたところに、豆板醤やニンニク、ショウガ、黒酢、日本酒を加える。紹興酒ではなく日本酒を使うのは、「上海料理は和食に近い繊細さが持ち味。やさしい味にしたいので僕はよく日本酒で旨味を加えます。紹興酒はクセがあるので、魚介料理などで奥行きを出したい時に、と使い分けます」
蒸し上がったスープは、常陸牛の旨味が体中に沁み渡るような味。そのしみじみとした滋味にラー油を加えると、印象は一変。あっという間に器が空になる、後を引くパンチのある風味になった。
◎ミモザ
東京都港区南青山3-10-40 FIORA南青山2F
☎03-6804-6885
18:00〜20:00最終入店
日曜、祝日休
http://mimosa-aoyama.com/
Instagram:@mimosa_aoyama
▶︎フェア期間
2022年2月10日(木)~3月10日(木)の間、コース¥16,500(税込)の一品として提供
稀少部位を塊で。稲藁の香りと西洋ワサビで味の輪郭を作る
/「ビストロ シンバ」菊地佑自シェフの伝え方
フランスの三ツ星レストランやビストロで10年修業を重ね、2015年に東京・銀座に「ビストロ シンバ」を開いた菊地佑自シェフ。オープン初日から6年以上、連日満席という快進撃を続ける。
メニューの黒板を見ると、全国各地の食材が使われている。忙しい合間にも全国の産地を巡り、直接会話した生産者の食材を多用しているのだ。
今回、茨城県の食材を改めて意識し、そのバリエーションの多さに驚いたというシェフ。
「いつも使っている葉野菜やレンコン、市場から仕入れる食材は茨城県産が多い。アンテナショップであまり見つけられなかったけれど、茨城県の食材は僕の厨房にすでにたくさんありました(笑)」
常陸牛は程よくサシが入った赤身部位のシンタマの中心、シンシンを塊でローストに。「和牛ならではの豊かな脂の旨味を、燻した稲藁の香りとレフォール(ホースラディッシュ)の辛みで中和させて、塊肉でもするっと食べやすくなるようにしました」
シンシンは全体を軽く焼いて焼き色を付け、稲藁で燻した後、周りに滲み出た肉汁を利用して香ばしく焼き上げる。
「仕上げに燻すのではなく、燻してからもう一度焼くことで、刺すような燻香をやわらげ、肉の香りと馴染んだ優しい香りになるように仕上げます」
肉に添える野菜も茨城県産尽くしだ。セリは葉をサラダに、根はソテーに。レンコンは薄切りを軽くソテーしてキャラウェイシードをぱらり、厚切りは唐辛子とともに香ばしく焼き付けた。根セロリのピュレと合わせたレフォールクリームを添え、仕上げにもレフォールをすり下ろした。
濃厚な肉の旨味が凝縮されたしっとりやわらかなシンシンが、稲藁の燻香とレフォールの爽やかな辛味でキリッと引き立てられる。セリのほろ苦さや、スパイス香をまとったサクサク、コリコリのレンコンの食感も心地いい。
満員御礼ビストロの本領発揮。ひれ伏したくなる圧倒的な味わいの肉料理が完成した。
◎ビストロ シンバ
東京都中央区銀座1-27-8
☎︎03-6264-4218
17:30〜23:00LO、日曜15:00〜21:00最終入店
月曜、火曜休
http://bistrosimba.jp/
Instagram:@bistrosimba
▶フェア期間
2022年2月10日(木)~3月10日(木)の間、アラカルト¥6,000と、コース¥8,800(共に税込)の一品として提供
◎ドリームファーム
茨城県常総市坂手町7790
【問い合わせ先】
茨城県営業戦略部販売流通課
茨城県水戸市笠原町978-6
☎ 029-301-3966