「サンペレグリノ ヤングシェフ 2018」結果報告
世界一の若手料理人に輝いた日本の星藤尾康浩氏
2018.06.21
text&photographs Masakatsu Ikeda
2018年5月12日と13日の両日、北イタリアの中心地ミラノに世界中からトップシェフが集まる料理イベントが行われた。これはイタリアの世界的飲料メーカー、サンペレグリノが主催する「サンペレグリノ ヤングシェフ」という30歳以下の若手シェフを対象とした国際料理コンクール。第3回を迎えたこの大会で優勝したのは、大阪のフランス料理店「ラシーム」でスーシェフを務める藤尾康浩さん。同大会で日本人が優勝したのは史上初めてということで翌日にはイタリアをはじめとしたヨーロッパのメディアでは藤尾さんの名前が大きく報じられた。日本が誇る料理技術があらためて世界に認められたのを実感した2日間だった。
サンペレグリノは「世界のベストレストラン50」や「アジアのベストレストラン50」など世界規模のファインダイニングの祭典をスポンサードし、ヨーロッパの料理旧大国だけにとどまらない、新しいグローバルな視点でのレストランや才能の発掘を支援している。今回の「サンペレグリノ ヤングシェフ」は上記2件のランキングのように、審査員による投票で決定するのでなく、世界21地区の予選を勝ち抜いたヤングシェフがミラノに集結し、豪華審査員の前で実際に料理を披露。試食と質疑応答を経て優勝者が決まる、極めて純粋な料理コンテストだ。
二人三脚で目指した世界一
「サンペレグリノ ヤングシェフ」のユニークな点は「メンター」と呼ばれる後見人制度にある。今回藤尾さんのメンターを務めたのは、銀座のイタリア料理店「ブルガリ イル・リストランテ ルカ・ファンティン」のエグゼクティヴ・シェフ、ルカ・ファンティンさん。日本在住7年のイタリア人シェフ、ルカさんの評価はイタリア本国でも非常に高く、国際的な料理イベントを開催することで知られる「イデンティタ・ゴローゼ」で年間最優秀シェフに選ばれたこともあるほどだ。ルカさんは3大会の日本地区予選でいずれも審査員を務め、今回はメンターとして藤尾さんをサポート。二人同時にミラノ入りして優勝を目指したのだった。
今回藤尾さんがシグネチャー・ディッシュとして選んだのが、鮎をメイン食材とした「Across the Sea」。これは鮎の中身をくり抜いてムース状にし、再び皮の中に詰めて調理したもの。外国人が苦手とされる鮎の頭はパウダーに、内臓はクリームにして鮎に添え、新しい解釈で鮎を堪能することを提案した。
「今回は最も日本らしい食材である鮎を選びましたが、日本人ならば一番おいしい鮎の食べ方が炭火で焼き、調味は塩だけで頭から内臓まで食べることだとわかっています。過去2回のメンターだった『龍吟』山本征治シェフ、『NARISAWA』成澤由浩シェフにも意見を伺いましたが、外国の方は魚の頭や内臓が苦手。そこで今回のアプローチを考えました。予選の時は青竹の器に鮎の骨からとったコンソメを注いだのですが、鮎自身よりも目立ちすぎる、と成澤シェフからご意見をいただき、ルカとも相談して変更しました。鮎が持つ川の香りを表現したくてキュウリ、スイカ、メロン、青トマトを使った鮎の香りに似たコンソメで本大会に臨むことにしたのです。」
藤尾さんは1987年生まれの30才。イギリスとパリに暮らし、大学時代に料理の道を志して「Passage53」「Mirazur」で修業を積み、その経験を生かしてグローバルな視点で自分なりに日本を翻訳し、料理に反映した。一見クール、実は内心熱いそのキャラクターは自ら言うように大舞台でも緊張するタイプではない。一方、より重責を感じていたのはメンターのルカさんだった。
今回は初のメンターということで日本人ヤングシェフを連れての本国イタリアでの決勝大会。日本予選で藤尾さんが優勝し、本大会への出場が決まってからの8カ月、二人で何度も料理のブラッシュアップをし、緻密な準備を重ねてきた。出発前にルカさんは「もし優勝できなかったらイタリアでパスポートを破るから日本には帰れないと思え」と藤尾さんに話したそう。藤尾さん曰く、半分は冗談だろうけど、もう半分はおそらく本気で、それほど真剣にルカさんは優勝を目標にしていたのでしょう、という。
トップシェフとの交流が糧に
そしていよいよ本番の「サンペレグリノ ヤングシェフ」ファイナル開幕。初日に登場した藤尾さんを審査するのは「七人の賢人」と呼ばれるトップシェフたちで、地元イタリアからは、史上初めて女性シェフとしてイタリアにミシュラン三ツ星をもたらした、「エノテカ・ピンキオーリ」のアニー・フィオルドさんはじめ、「世界のベストレストラン50」2016年度最優秀女性シェフであり、前回はメンターとしてアメリカ代表を優勝に導いたドミニク・クレン。同じく2017年度最優秀女性シェフに輝いたスロヴェニアのアナ・ロス。「世界のベストレストラン50」南米最優秀レストランであるペルーの「エル・セントラル」シェフ、ヴィルジリオ・マルティネスら、まさに世界選抜軍。藤尾さんは見事上位3人に選ばれ、優勝者として名前が呼ばれた時、真っ先に壇上で涙を流したのはメンターのルカさんだった。表彰式のあとルカさんはこう語った。
「今回は今までのシェフとしてのプレッシャーとは全く違う、より重いプレッシャーを感じていました。なにより日本に住むイタリア人シェフとしてイタリア本国での大会に挑むのだから、負けるわけにはいかない。それに正直川魚である鮎を日本から持ち込む点でも、他のヤングシェフに比べてハンデもありました。それに審査するのはトップシェフばかりですから、もちろんドキドキしっぱなしでしたよ」
一方の藤尾さんは「ルカには本当に感謝しています。今までは自分でなんとかする、という考えだったのですが今回は本当に多くの方にサポートしていただき、料理の中にもルカや成澤シェフのアイデアが詰まっています。それがなかったら自分は勝てなかったと思いますし、周囲の人に本当に感謝している、というのが今回の優勝で一番自分が変わった点だと思います。
審査員のヴィルジリオ・マルティネスは「今、世界のファインダイニングでは日本料理的アプローチは世界のメイン・ストリームとなっている」と発言し、アナ・ロスは「鮎のクオリティもよかったし、その周囲も全てがよかった」と最大限の賛辞を贈ってくれた。
昨年メンターを務めた成澤さんも今年のルカさんも「日本のヤングシェフは労働時間や休日などいろいろな制約があって、なかなか外国の料理大会に出ていろいろなシェフと交流するのが難しい」と語っていた。しかし今回の藤尾さんの優勝を期に、そうした日本のヤングシェフ全体のメンタリティも変化し、より世界を身近に感じるようになるのではないか。同年代のヤングシェフ、あるいはメンターや審査員や世界のトップシェフと過ごした2日間、多くの人々と触れ合えたことがなにより一番の収穫だったと藤尾さんは言う。おそらく今後シェフとして20年、30年と活躍する上で、大会で切磋琢磨しあった同年代のヤングシェフたちは、近い将来藤尾さん同様世界のトップの座に顔を出してくることは確実に思える。料理界の将来を占う上でもこの「サンペレグリノ・ヤング・シェフ」の存在は重要であり、今後ますます日本の料理界が世界から注目されるのは間違いないはずである。
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