サステイナブルの本場、アラスカでシーフードの新しい魅力に開眼!
~「マルディグラ」和知徹シェフのアラスカ訪問記~
1970.01.01
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Photographs Sai Santo
食の世界でここ数年、よく耳にする「サステイナブル」。今も自給自足で暮らすアラスカ・エスキモーも存在するアラスカでは、自然保護や生態系の維持など、未来に「持続可能(サステイナブル)」かどうかを念頭においた漁業が全域で行われています。
今回「サステイナブル」な漁業の本場へ旅立ったのは、肉シェフでお馴染の「マルディグラ」和知徹シェフ。
「肉の世界では赤身肉や自然放牧、動物福祉など、動物や環境への負荷を最小限に抑えて育てられた肉が、健やかな肉として注目を集めています。同じ視点で魚を見た時、目に留まったのが“サステイナブル”に加えて“100%天然”を謳うアラスカでした」
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車を走らせるとすぐ、圧倒的な大自然が車窓に流れていきます。
「100%天然」がずっと続いている理由
極寒の地では商業ベースの農業が難しいため、自然界の生き物が人々の命を支えてきました。自然の恵み=野生生物を「命の循環」を考えながらいただくアラスカ・エスキモーたちの自給自足のあり方は、まさにサステイナブルのお手本。州憲法でも早くから持続可能な水産資源の活用を謳い、漁業に携わる人々にも浸透しているからこそ、ずっと100%天然のシーフードが供給できるのです。
サステイナブルであることが、暮らしと密接に関わっているアラスカ。それでは、具体的にどんな活動が行われているのでしょう? 和知シェフとサステイナブルな現場を巡る旅に出発です。
漁業資源の把握に欠かせない
命がけのキャンプ生活
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白樺の木々が黄色に染まる風景は晩秋の趣き。静かに泳ぐ鮭の姿と初対面する和知シェフ。
訪れたのは9月下旬。ちょうど鮭の遡上が最中の季節で、川には全身紅色に染まった鮭が、産卵の場所へ向かって静かに泳ぐ姿がありました。
案内されたのは、人里離れた森の中。この時期、キャンプ生活を送りながら、毎日、川に戻ってきた鮭の数を数える人々がアラスカにはいます。
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全身が紅色に染まった紅鮭。このころになると、エサはほとんど食べないそうです。
「鮭が戻ってくる時は、熊も鮭を求めて川に姿を見せる時期なんです」
と話すのはクック・インテル農業協会のゲイリー・ファンドゥレイさん。すぐ目の前の川向こうを指さしながら、
「あの辺に熊が座って、こちらを見ていることもありますよ」
それを聞いて、一瞬縮みあがる和知シェフ。
「このように支流の一部に堰を作って、鮭を一時的に止めて数えるのですが、止められた鮭を狙って熊が現れるんです。周りに電流を走らせた柵を設けていますので、気を付けてくださいね」
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調査のために一時的に止められる鮭を熊が襲わないよう、テントの入り口には電流を流した柵が設けられていました。写真左がゲイリーさん。
サステイナブルな活動には乱獲防止がまず挙げられますが、その裏には、漁業資源の把握という大仕事が控えています。それを担うのが、ゲイリーさんの機関です。アラスカには道路の走っていない辺境も多く、そこへは水上飛行機で飛び、無人の大自然の中でキャンプ生活を送りながら鮭を数える人たちもいるそうです。
数字は毎日報告され、1日の漁獲量をどれくらいにするか、その日のうちに漁師と情報共有できる仕組みが整えられているそうです。同時に鮭の健康状態を調べるのもゲイリーさんたちの仕事。水面越しにはほっそりとして見える鮭も、網ですくい揚げると、ずっしりとマッチョな体躯であることに気付かされます。
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網の中で、激しく体を動かす鮭。和知シェフも必至で支えます。
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目から尾までの体調を計り、ウロコを1枚ピンセットで採取。ウロコを調べると、年齢だけでなく海と川にそれぞれ何年いたかまでわかるそうです。
アラスカは養殖禁止。だから100%天然。
アラスカでは鮭のほかにもスケソウダラやマダラやカレイ科のオヒョウ、ニシン、カニ、エビ、ホタテなどが水揚げされます。港に行くと、ちょうどオヒョウ漁から帰ってきたばかりの船が荷揚げをしていました。船長のジューン・スタンダートさんに話を聞くと、
「1日かけて漁場へ移動し、漁を3日間続けたら、また1日かけて港に戻る。釣った魚は内臓を取り出して中に氷を詰め、さらに氷でサンドして運んでいます」
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アラスカでは「養殖」が禁じられているため魚はすべて「天然」。乱獲につながらないよう、漁師たちには、漁場の指定以外に、漁船の規模や漁具の種類にまで制限が設けられています。
オヒョウは目の前にある加工業者に引き渡されると、すぐに洗浄、計量を経て、きれいな氷のベッドに納められ出荷されます。体調が1mを超えるものも多い大型魚のオヒョウ。見事な身の張り具合を目の前にした和知シェフは、
「自然界のエサでこれだけ大きくなるということは、海の中の生態系が盤石な証ですよね」
とアラスカの自然の豊かさに圧倒されている様子。
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ヒラメ科のオヒョウは、特にクセがないため欧米で人気の魚種。この日はカナダへ運ばれて行きました。
時代がサステイナブルを声高に謳うはるか前から、サステイナブルな視点で漁業を実践していたアラスカ。健全な環境は、魚の味にどのように表れるのでしょう?
「アラスカの魚介は、水のようにきれいな味わい。」
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「今回サーモンを中心に食べましたが、どこで食べても香りや味にどぎつい感じがなくて、穏やか。きれいな水を飲んでいるようなピュアさがありました」
アメリカのフィッシュマーケットでは、アラスカ産には「wild(ワイルド)=天然」という文字が表示されます。
「肉に置き換えればジビエですよね。余分な脂がないぶん、アラスカのシーフードは身質も赤身的。ただ熟成させたジビエのようなクセはない。どんな料理にも対応するキャパシティの広さを感じました」
と和知シェフ。アラスカならではの体験もありました。サーモンのグリルをオーダーした時のこと。「焼き方は?」と尋ねられたのです。サーモンのハンバーガーでは、絶妙なレア状態でサーモンが登場。
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皮もパリッと焼き上げられたサーモンのソテー。焼いてもなお、クリアな味わいは健在。
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シルバーサーモンとホタテ、銀ダラの握り。どの魚もクリアでピュアな甘味が際立ちます。
「日本人が、サシ信仰から赤身へ移りつつあるなか、アラスカのシーフードは赤身的な健やかさを持つ食材だということがよくわかりました。実際、毎日食べても飽きなかった」
と和知シェフ。サステイナブルな漁業で食卓へ届けられるアラスカのシーフードは、味わいの点からも時代が求める条件を満たしている食材といえそうです。
【アラスカシーフードに関するお問い合わせ】
アラスカシーフードマーケティング協会 日本事務所
☎ 03-3225-0089
http://japanese.alaskaseafood.org/