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FEATURE / MOVEMENT

世界のスーパーマーケット最前線――6

日本のオーガニックマーケットを開拓する「ビオセボン」

2018.05.23

photographs by Hide Urabe

連載:世界のスーパーマーケット最前線

オーガニックスーパー「ビオセボン」の出店ラッシュが止まらない。2016年12月、麻布十番に1号店を立ち上げて以来、現在までに11店舗をオープン。今年すでに富ヶ谷、藤沢、池尻の3店を開店し、年内さらに出店が予定されている。最も新しい池尻店が位置するのは大規模マンションの1階。商業施設やマンションが建つ度にオーガニックスーパーが組み込まれていくであろう時代の到来を予感させる。

力強い成長を続ける世界のオーガニック市場

「ビオセボン」は、フランス・パリ生まれのオーガニックストアチェーンだ。ミラノ、マドリード、ブリュッセル、ローザンヌにも店を持ち、日本ではイオンとの共同出資で営まれている。日本最大規模の流通グループイオンを率いる岡田元也社長の「今後、流通業界にはオーガニックの時代が到来する」という読みの下、積極的な出店が展開されてきた。

岡田社長の見通しは、2018年2月、ドイツ・ニュルンベルグでの「BIOFACH バイオファッハ オーガニック食品関連国際見本市」で発表された「World of Organic Agriculture 2019」のデータが裏付ける。 たとえば、
・2017年の世界のオーガニック市場は970億ドル。1000億ドル突破も視野に
・世界の有機農地面積は6980万haで前年比20%増、史上最高の伸び率
・オーガニック生産者およびオーガニック小売店の数も史上最高値
等々。

小売り売上高でとりわけ大きく伸長したのがフランスで、18%の伸びだという。事実、パリ在住のジャーナリストは、「気付くとオーガニックスーパーができている。かつてのスターバックスの出店攻勢のような感じ」と言う。
いくつものオーガニックストアチェーンが凌ぎを削る中で、フランストップのシェアを誇る「ビオコープ」が1986年の発足なのに対して、「ビオセボン」は2008年創業と後発組。しかし、10年ちょっとで140店以上まで増やし、いまやフランス国内3位の店舗数を誇る。「オーガニック初心者にとって親しみやすく買いやすい店づくりが支持されている」とは前述のジャーナリストの指摘だ。

“Bio c’Bon=ビオって、いいね”という意味を込めた店名。


オーガニックを親しみやすく、買いやすく。

まさに「親しみやすさ、買いやすさ」こそ、「ビオセボン」の真骨頂と言えるだろう。
「日常使いのカジュアルなオーガニックスーパーであろうとしています」と語るのは、ビオセボン・ジャポン株式会社 商品部マネージャーの四十八願(よいなら)邦子さん。
世界のオーガニック化が進む中で、日本は食品市場に占めるオーガニック市場のシェアが1%にも満たない。その現実こそ、「ビオセボン」の存在意義を物語る。すなわち“オーガニック市場を開拓していくスーパーマーケット”という役割だ。だからこそ、「親しみやすさ、買いやすさ」は大切。
「ビオセボン」には“ほんの少しお洒落な普段着”といった雰囲気がある。オーガニック食材の多くが自然食品店と呼ばれる専門店で扱われていた時代、どこか学級委員的な生真面目さが付きまとっていた。当時と比べればオーガニック食材自体のイメージが随分変わったが、とりわけ「ビオセボン」にはいまどきのセレクトショップ的な楽しさが漂う。

「フランスの店の良さや強みをベースとしながらも、そのまま持ってくるのではなく、時間をかけて、日本の環境や日本人の習慣に馴染むようにつくり上げてきました」と四十八願さんは言う。
日本のオーガニック市場の遅れは、これまでも幾度となく指摘されてきた。日本の気候が有機栽培に向かないから、オーガニックをビジネスチャンスと捉えていないから、環境意識が低いから、など理由は様々。
何にせよ、オーガニックが日本人の生活の中にするりと入っていく仕掛けを考えなければ、事態は改善しないだろう。
四十八願さんたちは「日本人にとって親しみやすく、買いやすいオーガニックスーパーとは?」という命題と向き合い続けている。そんな取り組みの数々を、麻布十番店を例としてご紹介いただいた。

宮崎県、福岡県、高知県、千葉県、埼玉県……様々な産地から届く葉物野菜。

色艶も見事なオーガニックのさつまいも。

いよかん、デコポン、不知火、金柑などの国産柑橘、アメリカ産のグレープフルーツ、ネーブルオレンジ。ジュース用の柑橘セットも。

オーガニックスーパーの顔と言えば農産品。入ってすぐのスペースには野菜と果物が並ぶ。
「日本では有機認証を取得している農家がまだまだ少ないという課題があります。認証の取得には手間も費用もかかるため、あえて認証は取らないオーガニック農家も少なくありません。そこで、私たち独自の基準を設けて、有機転換中の作物や、認証はなくとも有機と認められるものにも光を当てるようにしています」
フランスと異なるのが袋売りを多用していることである。

「フランスで野菜や果物はほぼ量り売りですが、日本人は量り売りに慣れていない。また、日本の野菜には葉物が多いため、袋詰めしないと傷みやすい」
袋売りにも2種類あって、単品の袋売りのみならず、数種類の野菜を詰め合わせたセット売りもある。
毎日キッチンに立つのがむずかしくて野菜を使い切れない悩みを抱える人々に、バーニャカウダセットのような使い切り詰め合わせは好評だ。
この袋売り、実は最近、海外でも増えてきているという。
「先日、アメリカのホールフーズを視察していたら、袋売りが増えていましたね」
買い物を短時間で済ませたい時に計る手間の要らないメリットが人気らしい。

パプリカ、ラディッシュ、ニンジンなどが詰め合わされたバーニャカウダセット。

柴海農園は、千葉県印西市で2009年から有機栽培に取り組み、年間約60品目を栽培している。


生産者を“取り引き先”ではなく“取り組み先”と呼ぶ。

長崎県壱岐市でイチゴを有機栽培する牧山清吉さん、山口市の秋川牧園、長崎県南島原市の雲仙きのこ本舗、静岡県三島市の落合ハーブ園、千葉県印西市の柴海農園、等々、なんといっても生産者との連携がオーガニックスーパーの命綱だ。
「ビオセボン」では、生産者を“取り引き先”と呼ばず、“取り組み先”と呼ぶ。オーガニック市場を開拓していくスーパーマーケットにとって、生産者は共にマーケットをつくっていく同志という位置付けである。
「ビオセボン全体で約3000アイテムの扱いがあり、それらを商品部のバイヤー6人で担当しています。取り組み先の方からまた別の方をご紹介いただいて訪ねて行ったり、足で探し、食べて探し、身体を張って探していますね」

有機JAS認証を取得した北海道釧路市榛澤牧場のブラックアンガス牛。天然冷気で凍らせた地下氷室庫で熟成させている。

榛澤牧場は北海道オーガニックビーフ振興協議会のメンバー。自然交配、自然分娩で生まれた子牛は母乳で育てられる。

榛澤牧場は北海道オーガニックビーフ振興協議会のメンバー。自然交配、自然分娩で生まれた子牛は母乳で育てられる。

共にマーケットを作る姿勢は加工品でも同じ。
日本の食卓に欠かせないつゆ、たれなどの調味料類のオーガニック製品はとみに充実してきているが、「ビオセボン」では、から揚げ粉、天ぷら粉、お好み焼き粉といったミックス粉の商品化にもメーカーと手を携えて取り組む。寄せ鍋用のつゆも開発した。

醤油は、さしみ醤油、たまり醤油など細分化。ポン酢、つゆ類も充実。和食材は納豆、豆腐、煎餅も人気だ。

日本の有機JAS認証、USDA(アメリカの有機認証)など、複数の認証を取得している商品も。


歳時記食も、クイックレシピも、デリも。

お正月には七草セット、節分には恵方巻き、土用丑の日にはうなぎ、と日本ならではの歳時記食への対応も怠りない。
FacebookやInstagramで紹介される季節のレシピは、北海道産オーガニックビーフの塊肉のローストから、ケールのサラダや、粉末だしと玄米餅と長ネギだけで作れるクイック料理まで、見る人をオーガニックの世界へと誘導。四十八願さんたちが日本の食卓を思い描いて品揃えしていることがよくわかる。

もうひとつの特徴が売り場で行われるワークショップだ。「少人数で実施していることもあって、いつも瞬く間に満席になってしまうんですよ」という人気ぶり。スーパーフード&ライフスタイルクリエイターのWOONINさんによるオーガニック食材の「基本のキ」講座、味噌づくり講座、ブレンドオイルづくり講座、そして、プロヴァンスでシャンブルドットを営む町田陽子さんとご主人が語る南仏の暮らしとレシピ……。オーガニックであるかどうか以上に、いかに豊かに生きるかを伝える内容が多い。

ワークショップが人々の暮らしの奥へと入っていく取り組みとすると、間口を拡げる役割を果たすのがデリだ。仕事に追われる都市生活者や、育児で自分の食事の時間もままならないママパパ(子供が生まれたのを機にオーガニックを利用し始めるケースは多い)にとってユースフルで、麻布十番店では売上構成比の約20%を占めるほど。売り場中央に設置されたキッチンで肉が焼かれ、サラダが作られ、できたての惣菜が並ぶ。大きなテーブルが置かれたイートインスペースで食べることもできる。「中食として利用していただくばかりでなく、食べ方の提案にもなり、売り場の生鮮商品を活用することでロス解消の意味もあるんですよ」と、キッチンが店の商品を有機的に結び付けている様子が見て取れる。

キッチンカウンターには惣菜、弁当、パンなど、すぐ食べられるものが並ぶ。隣接するイートインコーナーを利用する人も多い。

調理スタッフが常駐。ここでサラダも作れば、肉も焼く。

デリはオーガニックへの入口。売り上げ構成比約20%を誇る。

夕方になると、パック詰めして、忙しい人にも買いやすく。


イオングループであることのメリット。

有機野菜はいわゆる青果市場が存在しないため、生産者との相対取引になる。従って、配送も全国の農家一軒一軒とのやりとりが必要で効率が悪い。そこで、「ビオセボン」では生産者の農作物を集約できる拠点づくりを進め、それらをイオングループの物流網に乗せて、効率化とコスト削減を図ってきた。海外からの輸入品もイオングループの物流網を活用しているそうだ。

「価格的にも商品内容としても、イオンのスケールメリットがあるからできていることはありますね」と四十八願さん。
大手が手掛けるからこそ、オーガニック市場のすそ野が広がり、ポピュラーになっていくことも事実だ。世界に遅れを取っている今の日本において、それはとても重要と言っていい。マーケットの開拓をミッションとする「ビオセボン」が果たしていく役割は大きい。

スーパーフードとして人気が定着したナッツとドライフルーツは量り売り。

アマニオイルをはじめ話題のオイル類の品揃えも豊富。フレーバーオイルもバラエティ豊か。

ワインは本国のビオセボンとのつながりを強みとして商品構成。生産者を囲むワークショップも行われる。

冒頭で挙げた「BIOFACH バイオファッハ オーガニック食品関連国際見本市」で発表された「World of Organic Agriculture 2019」に対して、専門家は「SDGsに対する有機農業の貢献を示し、持続可能な未来に対して有機農業が持つ可能性を示すもの」と語る。オーガニックはもはや個人のライフスタイルや志向ではなく、地球全体で取り組むべき課題というのが、世界の認識だ。“利己的オーガニックから利他的オーガニックへ”が昨今の基調なのである。
四十八願さんいわく「オーガニックの生産者が増えないと、加工業者も増えない」。だから、「ビオセボン」では有機農家が増えるように働きかけをする。
そして、それらを支えるのは私たち食べ手である。

オーガニック商品はヴィーガン対応品であることも多い。こちらのアイスもそんなひとつ。


◎ ビオセボン麻布十番店
東京都港区麻布十番2-9-2
03-6435-4356
9:00~22:00
無休
東京メトロ・都営地下鉄 麻布十番駅より徒歩3分
https://www.bio-c-bon.jp/

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