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FEATURE / MOVEMENT

アルザスの親方直伝パンプリン。

元「ア・ポワン」岡田吉之さんのワンハンドクッキング

Mar 18, 2022

text by Sachiko Inomata / photographs by Takeharu Hioki


連載「食のバリアフリープロジェクト」

“食のバリアフリー”について考えるプロジェクト。健康上、宗教上など様々な理由で生じる食の障壁をなくし、皆でテーブルを囲むにはどうすればいいのか? 制限や制約を背景も含めて理解しながら、実践的なレシピを紹介します。

「お菓子を作ってみよう」と思い立ったのは倒れてから5年後。
片手では卵を混ぜるだけでもひと苦労ですが、道具の選び方とちょっとしたコツによって、現役時代を彷彿とさせる仕上がりです。

岡田吉之さん。作業性の工夫にもまして味の工夫がもりだくさん。


パンとフルーツ次第で、バリエーションいろいろ。

僕は倒れた直後、食欲がまったくなく、当然お菓子は作れないし、食べたいとも思えませんでした。
それから5年。不意に子どもの頃から好きだった紀ノ国屋のプリンが無性に食べたくなり、姉に買ってきてもらったところ、好みの硬めの生地とカラメルの苦みばしったコクが、この上なくおいしかった! 食べる喜びを思い出し、簡単なお菓子ならば作れるかも、と。そして、オーブンを買いました。

とはいえ、初めは卵を混ぜることさえ容易ではなくて・・・。ボウルから泡立て器が外れ、床に落ちると拾うのが困難。また、左手では力も入らず卵が飛び散ってしまいます。試行錯誤の末、大きめのボウルを使い、粘性のあるものを混ぜるターナーウィスクで繊維を切る程度に混ぜればいい、という「着地点」を見出したのでした。

2019年の春、フレンチレストランのシェフである友人が、フランス発の冷凍食品店「ピカール」のクロワッサン(焼成前)を送ってくれました。それがおいしかったので、パンプリン(パンプディング)を作ってみたのです。クロワッサンは前日に180℃で約25分焼いておいて、一晩乾燥させます。直前にトーストしてから、レーズン、バナナ、プリン種と一緒に型に入れて焼き上げます。

ただ、身近にあるパンで作れないかと思い、レーズン入りバターロールを使ったのがこのレシピ。プリン種とパンが一体化し、僕はこちらの方が好きかな。パンは好みで、食パンなら1枚を9カットで2枚分。いずれのパンも「こんがり焼く」のがポイントです。香ばしい焼き目で味のコントラストと幾分なりとも食感の違いを楽しめます。
プリン種に使う牛乳には少し生クリームを加えてミルキーさを加え、砂糖には混ざりやすい黒砂糖を足して「コク」をプラスします。元菓子屋のこだわり?

なぜパンプリンだったのか?
フランス・アルザスのパティスリー「ジャック」で修業を終える直前、オーナーシェフの故ジェラール・バンヌヴァルトさんが「門外不出のパトロンだけがつくるお菓子」をたくさん伝授してくれました。
そのひとつがマンディアン・オ・スリーズ(チョコレートではありません)。残ったクロワッサンをカットして硬めに仕上がるプリン生地に一晩浸し、シュヴァルツヴァルトの森で採れたサクランボと一緒に焼くお菓子です。「うまいな、これ!」と唸ったものです。

「オカダ、ちゃんと覚えておけよ!将来きっとお前を助ける時が来るから」とシェフ。自分の店ではパン類が売り切れちゃって、シェフのお菓子は作れず仕舞いでした。
でも今、それが役に立っています。食べ応えのあるパンプリンになりました。シェフにメルシー!


<RECIPE>

■バターロールパンプリン

◎ 材料(外径25cm、内径23cm、深さ3cm耐熱ガラス製プレート1皿分)
<プリン種>
卵(1個約60g)・・・3 個
グラニュー糖・・・60g
優糖精(沖縄のサラサラした黒砂糖/ムソー社)・・・30g
バニラエッセンス(香りが高い上質なもの)・・33g
牛乳・・・390g
*生クリーム(乳脂肪35%)・・・60g
レーズン入りバターロール・・・4個
**バナナ・・・1本
ゴールデンレーズン(サルタナ種。オイルコーティングなし)・・・30g

*生クリームはコクをつけるため。なければ全量牛乳でもよい。
**アメリカンチェリー、ブルーベリー、ミックスフルーツの砂糖漬けなどでもOK。

作り方

【1】 レーズン入りバターロールはカットしてトーストしておく(A)。

(A)バターロールは型の高さに合わせて1個を3等分ほどにカットし、こんがりとトーストして風味付け。パンは何でもいい。

【2】型にバター5g(分量外)をちぎり入れ、電子レンジで1分加熱して溶かす。刷毛で均一に塗り広げ、半量のレーズンを散らす(B)。

(B)バターは刷毛で中央から放射線状にムラなく均一に塗り広げる。半量のレーズンを「リハビリを兼ねて」等間隔に置く。

【3】プリン種を作る。ボウルに卵を割り入れ、濡れ布巾の上に置いて溶きほぐし、計量した2 種類の砂糖をすぐに加えて混ぜ合わせる。

飛び散らない道具で繊維を断ち切る。
卵を溶くには、直径23㎝のボウルに、粘性のあるものを混ぜる全長24㎝の「ターナーウィスク」(貝印製、select100)がいいバランス。ボウル下に濡れ布巾を敷き、持ち手を軽く握って左右に動かし、繊維を断ち切る。砂糖は卵に加えるとダマになりやすいため、ほぐしたらすぐ加え混ぜる。


【4】牛乳と生クリームを量って合わせ、3に3回に分けて加え混ぜる。混ざれば味噌漉し器などで漉し、バニラエッセンスを加え混ぜる。

【5】トーストしておいたパンをプリン種に1分ほど浸す(C)。2の型にバランスよく並べていく。

(C)トーストしたパンをプリン液に浸す。均一に浸るように落とし蓋などで押さえる。1分以上浸すとパンが崩れるので注意。

【6】バナナは1cm幅の輪切りにし、プリン種に浸しては型に並べる。浸すことで多少は変色を防げる。残りのレーズンを適当に散らす。

【7】110℃に予熱しておいたオーブンの湯煎用天板またはバットに⑥を置き、プリン種を流し入れる。沸かしたての湯を天板またはバットに注ぐ(D)。110℃で45 ~50 分焼く。

容器を移動してから流し入れる。
プリン種を流し入れるのは、オーブンに設置した天板に型をのせてから。こぼすことなく縁のギリギリまで流し入れられる。パンをクロワッサンにして焼成するとパンと卵液の食感の差が際立ち、柔らかいパンでは卵液とパンが一体化する。

(D)湯煎用天板にこぼれない程度、1.5cm以上、できれば型の高さの3/4まで熱湯を注ぐ。湯煎の湯が少ないとうまく焼けない。


【8】天板ごとオーブンから少し引き出し、楊枝を中央に5秒刺して焼き具合を確認する(E)。焼き足らなければさらに焼く。

(E)厚手の手袋をはめ、天板を傾かない程度まで慎重に手前に引き出し、楊枝を中央に刺す。5秒経って生地が楊枝につかなければ焼成完了。

【9】8を取り出し、ケーキクーラーの上に置いて冷ます(F)。粗熱が取れたら冷蔵庫に半日入れて冷やし、2~3日で食べ切る。

(F)手袋をはめたまま三角パレットなどを型の下に差し入れて型を取り出す。取り出すのがむずかしい場合は、補助者に頼むこと。

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