味と手順を考え抜いたニラ玉丼。
元「ア・ポワン」岡田吉之さんのワンハンドクッキング
2022.03.04
text by Sachiko Inomata / photographs by Takeharu Hioki
連載「食のバリアフリープロジェクト」
“食のバリアフリー”について考えるプロジェクト。健康上、宗教上など様々な理由で生じる食の障壁をなくし、皆でテーブルを囲むにはどうすればいいのか? 制限や制約を背景も含めて理解しながら、実践的なレシピを紹介します。
脳出血で倒れて右半身麻痺になった、元パティシエの岡田吉之さん。毎日料理をするようになって、「どうしたら、ワンハンドでももっとおいしく作れるか?」の探求に邁進中です。
ひと手間と火入れの工夫でグレードアップ。
ニラ玉丼が大好きになったのは高校時代。学校帰りによく食べ歩いていました。ニラ玉愛が高じて、障害を持った今も作っています。
いかによりおいしく作るか。調理法の改善、創意工夫が今の元気の素になっています。
高校生の頃に外で食べたほとんどが、炒めたニラを卵に混ぜて焼き、餡をかけるスタイルでした。ニラ独特の風味をダイレクトに感じにくいことが少し残念でした。
20代に実践していたのは、先に卵に6割方火を入れて取り出し、ニラを炒めたところに戻して8割火を入れるという作り方。その後、ニラと半熟に火入れした卵を別盛りにするなど変化していきます。卵はふわふわトロトロで、ニラの香りがしっかり伝わる。それを目指して、ニラと卵に別々に火を入れ、皿に盛った炊きたてご飯に順にのせる方法に行き着きました。
左手1本で調理するので、右手で材料を押さえることはできません。そこでニラは、輪ゴムを付けたまま根元を5㎜カットして除き、水に放ってシャキッとさせてから、5~6㎝幅に切ります。
茎の太い部分は包丁の面を使って叩いて潰して平らにし、縦に包丁を入れ、茎の二股に分かれているところから切り分けます。こうすればニラの香りも出るし、均等に火が入ります。高校時代にアルバイトした庶民的な中華料理店で覚えた技です。ひと手間が大切。菓子屋時代も肝に銘じてきたことです。
さて、ニラはニンニクと一緒に炒めると味の厚みが増します。ニンニクに包丁の面を当てて叩き潰し、香りを立ちやすくするのは、パリの修業時代に洗い物担当のアフリカ人から「母ちゃんはこうやるんだ」と教わった方法。潰したニンニクは叩き切るように粗みじんに切ります。粒揃いにはならないけれど、むしろそれが味や食感に変化をもたらして、おいしくしてくれると思っています。
両手を使えないので、卵をしっかり混ぜることはできません。そこで、フライパンの中で空気を抱え込ませるようにフォークで小刻みに混ぜることにしました。中央が少し盛り上がり、7~8割方火が入ったら、ご飯にスライドさせてのせるとなだらかな丘のようで見た目も美しい。
最近では、ご飯の上に8分通り炒めたニラをのせてからラップを被せ、蒸らす手法も考え付きました。いい具合に余熱が入り、熱々のままです。ちょっとしたことが味を良くするのは、お菓子作りと同じ。すべて、火入れのタイミングにかかっています。
レシピは少しずつ修正しながらパソコンで更新するのが楽しみです。手を切ったり火傷したりと苦労は絶えませんが、よりおいしいものを作って食べたいという気持ちが今の僕を支えています。
<RECIPE>
■ニラ玉丼
◎材料(1人分)
ニラ……1把
ニンニク……1片
卵……4個
上白糖……小さじ1/2
日本酒……少量
中華調味ペースト……少量
温かいご飯……茶碗2杯強
ゴマ油……適量
塩、コショウ、リノール油……各適量
◎下拵え
◎作り方
【1】温かいご飯を皿に盛る。
【2】卵をボウルに割り、泡立て器で白身が残る程にほぐし混ぜる。塩、コショウ、上白糖、日本酒、中華調味ペーストを加える。
【3】大きめのフライパンに大さじ1強のリノール油とニンニクを中火で熱し、まずニラの茎を炒め、続けてニラの葉を炒める。全体に油が回ったら、塩、コショウ、中華調味ペーストで調味。強火にして、7~8割方火が入り、香りが出てきたところで日本酒を回し入れてあおる。
【4】フライパンを傾けて、ご飯の上に移し、ラップを被せる。
【5】同じフライパンをペーパータオルで拭き、リノール油大さじ3を入れて、強めの中火で煙が出るくらいに熱し、卵を再度軽く混ぜてから投入。フツフツと泡立ってきたらフォークで小刻みに混ぜて空気を入れる。8割方火が入ったら火を止める。トロトロの状態。
【6】4のラップを外し、フライパンを傾けて卵をニラの上にのせる。ゴマ油を回しかける。
その他リンク