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FEATURE / MOVEMENT

ガストロノミー界の新勢力~ラテンアメリカ現地ルポ(全4回) Vol3 ガストロディプロマシー ~美食外交に成功したペルー | 料理通信

1970.01.01

FEATURE / WORLD GASTRONOMY

ペルー最大のフード・フェスティバル「ミストゥラ」の風景①


食は効果的な外交ツール


食べものには栄養を供給する以上の役割がある。なにを食べているかが文化的アイデンティティの表明となり、コミュニケーションの手段となる。近年、各国政府が食を効果的な外交ツールとして活用している。文化促進の優れた手段である「ガストロディプロマシー ( 美食外交 )」は、食を通じて国家間の経済的、政治的関係を深めることを目的としている。4月に開催された世界経済フォーラム(WEF)ラテンアメリカ・サミットでシェフのガストン・アクリオが指摘したとおり、食は「国家のアイデンティティや文化を強化すると同時に、機会なき人々のために(社会的成功の)機会を創出する手段となりうる」のだ。

ペルー最大のフード・フェスティバル「ミストゥラ」の風景②



自国の料理を「グローバルに」


公的資金の援助を受けた食に関する政府主導の活動は、ここ10年で劇的に増えている。ガストロディプロマシーをいち早く取り入れた国として、まず挙げられるのがタイだ。タイは2002年に、海外でタイ・レストランを増やすことを目指す「グローバル・タイ・プログラム」を開始。韓国はこれに続き2009年に、海外の料理学校の科目に韓国料理を加えることを奨励し、料理学校の生徒に補助金を交付する「韓国料理を世界へ(Korean Cuisine to the World)」キャンペーンに500億ウォン(約50億円)を投資した。このトレンドは新興国だけにとどまらず、米国務省も昨年、公式な国家活動を通じて海外のリーダーたちとの交流をはかり、文化交流を促進するため、アメリカン・シェフズ・コープス(アメリカ・シェフ部隊)を結成した。

米を使った鳩料理



料理人が美食外交の牽引役


現在のところ、ガストロディプロマシー・キャンペーンで最も成功している国がペルーであり、その牽引に大きな役割を果たしているのが、ガストン・アクリオである。このムーブメントの最初の目標は、ペルー料理の世界的な存在感の確立よるプロモーション効果だった。通商観光省によると、世界のペルー料理レストランの数は2000年から2009年のあいだに45%増加。2012年11月には、ユネスコがペルー料理を無形文化遺産として宣言した。キャンペーンの第2段階は、さまざまなマーケティング活動を通じ、唐辛子などペルー特産品のプロモートに注力。輸出の促進と、価格の適正化が図られた。この戦略においては、持続可能な農業従事者および漁業従事者たちに直接働きかけることが不可欠だ。

ガストン・アクリオ、「ミストゥラ」にて



食は貧困に対抗する武器になる


第3段階の目標は、観光事業の確立だ。政府機関「プロム・ペルー」は、グルメ・ツアーやペルー最大のフード・フェスティバル「ミストゥラ」にジャーナリストや料理界のリーダーを参加させる支援を実施している。2008年に始まったこの10日間の祭典は、ペルーの多様な食文化を紹介している。ミストゥラの当初の目的は、ペルー人に自国の料理を再発見させることと、愛国の誇りを持たせることだった。アクリオの発言によると、現在の目標は、これを世界的イベントに成長させることのようだ。ワシントンD.C.にあるペルー大使館は、観光客が7人増えるごとに正社員の職がひとつ生まれると見積もっている。ペルー人口のおよそ20%が食品業界で働いていることから、その経済効果は大きい。アクリオはこう結論づけている。「食は、貧困に対抗するための武器なのだ」


text and photographs by Melinda Joe / Japanese translation by Yuko Wada





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