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FEATURE / MOVEMENT

2022年9月8日(木)より茨城フェア開始!

食材に生命を吹き込む、10の発想とアプローチ

2022.09.08

【PROMOTION】
text by Miyo Yoshinaga / photographs by Ayumi Okubo, Hide Urabe

2022年7月、鴨、クラフトウイスキー、きのこ、有機野菜と、茨城県が誇る生産者を訪ねた料理人・バイヤーなどの食のプロたち。現場を肌で感じた想い、気づき、パッションを持ち帰り、それぞれの表現に落とし込んでもらいました。
フレンチ、イタリアン、日本料理、中国料理、ホテルのダイニングまで、幅広い方々の表現のかたち、9月8日(木)よりお披露目予定のメニューを一挙紹介します。

視察の様子「その挑戦が、未来を変える。農業王国・茨城の継ぎ人たちの哲学」はコチラ

■目次 
東京・白金「アルゴリズム」深谷輝樹
茨城・水戸「レストラン オオツ」大津高志、大津高彬
東京・神谷町「空花」脇元かな子
東京・代々木上原「クインディ」安藤曜磁
東京・丸の内 パレスホテル東京 「オールデイダイニング グランド キッチン」斉藤正敏、市村貴史
東京・代々木上原「竹韻飄香」廣瀬文彦
東京・都立大学「カンティーナ カーリカ・リ」堤亮輔、加藤修司
茨城・水戸「コルク」加藤大恭
東京・神楽坂「中国菜 智林」榛澤知弥
東京・丸の内「ニッコリーナ エキュート東京店」白田典子


<発想とアプローチ>
鴨の野趣を頂点まで引き上げて、クラシックなソースで受け止める:「アルゴリズム」

東京・白金のフランス料理店「アルゴリズム」。茨城県下妻市出身の深谷博輝シェフが食材の仕入れで重視するのは“もの”より“人”だ。「もちろん質は大前提ですが、信頼できる魅力的な生産者との関係は作り手も向上させてくれます。彼らとの関係がさらに面白い食材や生産者にも引き合わせてくれる。つながりが続く楽しみもあるんです」。2017年のオープン以降、店で使う食材の生産者とは、歯に衣着せぬ率直なコミュニケーションで確かな信頼関係を築いてきた。

郷里の視察先からオンメニューに選んだ食材は筑波山麓の養鴨場「西崎ファーム」の鴨。と鳥の際にエトフェ(窒息)させたクロワゼ種とチェリバレー種を掛け合わせた「志筑鴨(しづくがも)」をメイン料理に仕立てた。
「鴨らしい強い香りが欲しかったのでこの品種を選びました。血は腐敗しやすく、処理が悪いと臭みの原因になりますが、いい状態で扱えば旨味になる。志筑鴨はエトフェの処理も内臓の状態もきれいだし、何より鮮度がいい。内臓入りで仕入れた鴨を10日ほど0℃の特殊冷蔵庫で熟成させましたが、きれいに血が回っていましたね」

熟成後の鴨はムネとモモ、ヒレはローストに、手羽とタンはコンフィに。ソースはガストリックソース。鴨の野性味と脂の旨味を、鴨のジュを加えたカラメルとビネガーの甘酸っぱいソースがしっかりと受け止める。部位ごとの味わいが楽しめる見事なバリエーションだ。

「茨城県産志筑鴨/ガストリック」。真鴨の血統を引き、赤身の味が濃いクロワゼがかけ合わされた志築鴨の力強い味を、極限まで引き上げた。

西崎ファームの志築鴨。「仏産の鴨は羽毛をワックス処理していますが、日本の鴨は湯剥きだからか皮がウェット。乾燥後の皮の伸縮性も異なります」

今回鴨タンは「挑戦だった」と深谷シェフ。実はかねてより「白金変態倶楽部」なる希少食材の食事会を定期的に開催しており、知られざる食材の発掘に目がない。「鴨タンはフレンチではあまり使いませんが、仕入れリストにあるのを見て興味が湧いて。コンフィにしてみたら食感も柔らかくて旨味も強かった。よかったです」

食後には、茨城県の老舗酒蔵「木内酒造」の「日の丸ウイスキー 1st Edition」をデザートとともに。「食後酒のラインナップはフランスが中心なので、国産のものは意外性がありお客さまに喜ばれます。都内でも数店しか扱っていないという希少性もいいですね」

木内酒造の「日の丸ウイスキー 1st Edition」は食後酒のラインナップに。「広がりのある香りとフレッシュ感がある」

深谷博輝シェフ。「銀座レカン」「ビストロボンファム」「カンテサンス」やパリで修業後、2017年現店開店。同郷の妻と子どもたちとともに休みの度に茨城県へ戻る。周辺の畑や野山で野菜や野草を収穫する。


◎アルゴリズム
東京都港区白金 6-5-3 さくら白金102
☎03-6277-2199
12:00〜13:00LO 18:00〜20:00LO
日曜、不定休※完全予約制
http://lalgorithme.com/

◎茨城フェア
2022年9月8日(木)~22日(木)の期間中、「茨城県産志筑鴨/ガストリック」を夜のコース(¥14500・税・サービス料込み)の一品として。ウイスキーは食後酒として提供。


<発想とアプローチ>
アワビ茸を乾燥させて、すべてのパーツに。スープ仕立てのフラン:水戸「レストラン オオツ」

茨城・水戸で30年以上、地元に支持され続けるフランス料理店「レストンラン オオツ」。オーナーの大津高志シェフは35歳で一念発起し、会社員から料理人に転身。元食材のバイヤーという目利きで、佐賀の唐津や京都の丹波、静岡の沼津など全国から優れた海産物を積極的に仕入れ、クラシックから素材を生かす新しい技法まで、独学で学んできた。

今年(2022年)、スーシェフである息子、大津高彬さんがひたちなか市・那珂湊漁港の漁師と懇意になったことをきっかけに地元食材に開眼。「使っているのはメヒカリ、ヤリイカ、白ツブ貝。今朝はよい伊勢エビも手に入ったんですよ。ほら」。だがそこは元バイヤー。食材を見る目に贔屓はない。「これまでもよいと思う食材のみ選んできたので、たとえ地元食材でもこれまでのものを超えなければ採用はできません」

視察でお眼鏡にかなったのは多品種きのこの菌床栽培を手がける「七会(ななかい)きのこセンター」のアワビ茸だ。国内では生産者が少なく、その名の通りアワビのようなコリッとした食感と旨味が特長。「とにかく味がいい」と料理の主役に据え、各パーツにアワビ茸の風味を利かせたスープ仕立てのフランにした。

アワビ茸は1日乾燥させて旨味を凝縮。昆布とともに75℃で1時間加熱してだしを抽出し、生クリームと卵白でフルフルのフランに。アワビ茸のスープはくずでとろみをつけてフランに注ぎ、具はコンフィにしたアワビ茸と那珂湊の白ツブ貝を。「アワビ茸のだしは貝と相性がいい」。仕上げはフヌイユ(フェンネル)のオイルとアワビ茸のだしの泡、ペンタスを飾る。長く続く、深くあたたかい旨味と香りの余韻。次の料理への期待が高まる、コース2皿目の前菜だ。

「那珂湊の白ツブ貝と七会きのこセンターの干しアワビ茸のフラン」。脇役になりがちなきのこをフレンチの技術で主役級に引き上げた一品。料理はスーシェフの高彬さんが考案。

大津高志シェフ(右)。大津高彬さん(左)。高彬さんは8年前、24歳から父に師事。


◎レストラン オオツ
茨城県水戸市白梅1-5-4
☎029-226-8502
12:00~13:00 18:00~20:30 ※完全予約制
月曜中心に月7回不定休

◎茨城フェア
2022年9月8日(木)~22日(木)の期間中、「那珂湊の白ツブ貝と七会きのこセンターの干しアワビ茸のフラン」を夜のコース(¥14500~、税・サービス料込み)の一品として。


<発想とアプローチ>
和だしと夏鴨の旨味、2つの黄金バランスを狙う:「空花」

ミシュラン三ツ星の東京・虎ノ門「日本料理 かんだ」で7年修業後、2020年に神谷町「空花」を開店した脇元かなこさん。伝えたい食材の本質的なおいしさをとらえ、それを明確に伝えることを信条に、旬の素材に丁寧に向き合う料理で、着実にファンを増やしている。
視察先の西崎ファームのかすみ鴨を試食した印象は、「和食に合う味」だった。「クセがなく、濃い旨味。切れのいい後口。主張しすぎず、でも凛とした味が蕎麦や和食との相性のよさを感じました」

フェア用に仕立てたのは鴨鍋。部位はムネ肉と赤身の挽き肉を使う。「ムネ肉は脂身もさっぱりしていたからトリミングも控えめにしています。じっくり脂を出しながら表面を焼いて、スライスは薄めに。薄い方が食べ心地がよかったですね」。食べる直前に鍋の中でさっとレアに火を通す。鴨の挽き肉は鴨だしとネギ、ショウガ、くず粉でまとめて、つみれに。鍋地は昆布と鰹の二番だし。「鍋地にまで鴨だしを加えると少ししつこくなってしまったので」と、味のバランスをとるためにあえて鴨だしは加えていない。

土鍋にだしを張り、つみれ、「肉厚で、濃いだしがしっかりスープに出る」という七会きのこセンターの舞茸と花びら茸を加えてしばらく煮たら、醤油とみりんだけで調味。鍋はふつふつ煮立てて提供する。鰹と昆布のだしと、夏の鴨の味わいがマイルドに重なった、穏やかで優しい味に思わず頬がゆるむ。

鴨ムネ肉は、さっとくぐらせて。大ぶりのつみれは、口内でホロっと崩れて和だしと絡む。

「茨城県産の鴨ときのこの鴨鍋」。粉山椒はお好みで。木内酒造のハイボールは「香りがとてもいいのでレモンはなしで」

脇元かな子料理長。宮崎県出身。「日本料理 かんだ」で修業後、鎌倉「空花」にて独立。2020年10月、神谷町へ移転開店。2022年ミシュラン一ツ星を獲得。


◎空花
東京都港区虎ノ門5-3-3 神谷プレイス1F
☎ 080-4071-0555
12:00~13:00LO  17:30~19:30LO
日曜休、不定休

◎茨城フェア
2022年9月8日(木)~22日(木)の期間中、紹介した「鴨鍋」を夜のコース(¥18000・税・サービス料込)の一品として提供


<発想とアプローチ>
野菜はすり流しにして調味料に。余り食材はだしにもフル活用:「クインディ」

イタリア料理店にワインや食材のショップを併設する東京・代々木上原の「クインディ」。余剰野菜を生産者自身が廃棄するさまに衝撃を受けたことをきっかけに飲食店の在り方を考え、オープンした店だ。そのため生産者と食材への敬愛は店の根幹を成す。「生産者とはいいものがある時だけではなく、年間を通して取引していきたい。今回の茨城県視察でも、長くお付き合いしたい生産者さんに出会えました」と、安藤曜磁(ようじ)シェフ。

視察後、早速夜のメニューの定番としたのが西崎ファームの鴨を使った一品。「海外の鴨とは異なり一口目の味のインパクトこそ弱いけれど、自分の足で自由に歩き回っていた鴨らしく、余韻に持久力がある。翌日にも『あの鴨はおいしかったな』としみじみ感じるような滋味深さ」。チェリバレー種「かすみ鴨」のエトフェを丸で取り寄せ、ムネはロースト、モモは煮込みやコンフィ、手羽はパスタ、骨はブロードにとすべてを活用。「骨と塩だけで素晴らしいだしが取れるんです」

「西崎ファームかすみ鴨のロースト」。直火で皮目を香ばしく炙ったムネ肉のローストに、エルダーフラワーとレモンのクリームを添えて。猪や鹿などの骨のだしとアンチョビー、白バルサミコ酢のソースが絡んだ付け合わせが、主役の鴨の旨味を引き立てる。

フェアでは茨城県の銘柄豚「常陸の輝き」を主役にしたパスタも登場する。塩をすりこんで60℃で低温調理したバラ肉を細切りにしてカサレッチェに。有機農薬栽培野菜の生産者「レインボーフューチャー」のラディッシュは、具にするだけでなく、ケイパーとともにペーストにしてパスタソースのベースにも使う。「野菜はよくすり流しにして調味料のように使います。味をしっかり感じられるし、パスタともよくなじむ」。仕上げにソースに鴨のだしを加えて味を決めたら、すべての旨味をパスタにしっかり吸わせる。

トッピングには刻んだラディッシュの葉をふわり。「レインボーフューチャーの大和田忠さんの姿勢に感銘を受けたので、葉も活かしたくて。地域の未来まで考えて、信念を抱いて無農薬農業を実践し、虫や雑草と戦い続ける努力は並大抵ではない」。信頼できる生産者とともに歩み、彼らが作る食材は余さず活かす。その信条がしっかり伝わる2皿。

「常陸の輝きとレインボーフューチャーのラディッシュのカサレッチェ」。豚の旨味とラディッシュの甘味、ネパールのスパイス、ポワヴル・ティミュットの甘やかな柑橘系の香りが爽やかな余韻を残す。

安藤曜磁シェフ。京都や東京・丸の内「イル・ギオットーネ」などで修業後、2018年オーナーソムリエの塩原弘太さんらと共に現店オープン。2021年3月にはワインバーと惣菜の店「tutti/NON CAPISCONO NIENTE(トゥッティ・ノン カピスコノ ニエンテ)」も開店。


◎クインディ
東京都渋谷区上原2-48-12-101 
☎ 050-5340-7914 
11:30~14:00LO 18:00~22:00LO 
無休 
http://www.quindi-tokyo.net/

◎茨城フェア
2022年9月8日(木)~22日(木)の期間中、「西崎ファームかすみ鴨のソテー」(¥3740・税込)、「常陸の輝きとレインボーフューチャーのラディッシュのカサレッチェ」(¥1870・税込)をディナーのアラカルトとして提供。


<発想とアプローチ>
都心のホテルから、生産者の顔が伝わる料理を:パレスホテル東京 「グランド キッチン」

地産地消のレストランが増える中、大量の食材の安定供給が不可欠なホテルレストランにとって、地域や作り手を限定した食材をオンメニューすることは挑戦とも言える。そこにチャレンジするホテルの1つが、東京・丸の内の「パレスホテル東京」だ。

「コロナ禍で営業スタイルの再考を余儀なくされたことが、SDGsへの取り組みやオンライン販売など新たな活動のきっかけになりました」と語るのは斉藤正敏総料理長。「通常、ホテルで扱う食材は豊洲市場の卸店経由で仕入れます。しかし緊急事態宣言で街中のレストランの休業が相次ぎ、行き場を失った食材を私たちで引き受けたのを機に、質のいい農産物を作る小規模農家さんとの小さなつながりが生まれたのです」

そのつながりを生かし、オールデイダイニング「グランド キッチン」でも都内の農家産の野菜やハーブを導入。今回はその取り組みをさらに進め、「パレスホテル東京」資材部部長の笹野洋介さんが茨城県の産地を視察。西崎ファームの鴨のコンフィと、七会きのこセンターのきのこと、レインボーフューチャーの葉野菜を主役にしたサラダをオンメニューする。

グランド キッチンの市村貴史シェフは、「生産の現場がわかると食材への向き合い方が変わります。今回の鴨やきのこ、無農薬栽培野菜も、素材の力強さが段違いです」と目を輝かせる。斉藤総料理長も「料理人はもちろん、食材の発注・検品を行うスタッフも農場を訪れる経験ができればモチベーションが高まるでしょう」と頷く。

ホテルが小規模農家の食材を扱うには、急な欠品への対応やコスト面など難しい部分もあるが、「取引経験を重ねて生産者と関係を構築し、食材への理解も深まれば、出荷時期を見計らいつつオペレーションしていくことも可能になるのでは」と斉藤料理長。最終目標は、メニューのすべてに生産地や生産者名を記載すること。「我々の組織の規模でそれを実現するのは簡単ではないですが、環境への配慮やトレーサビリティへの取り組みはこれからのホテルにとって必要な要素だと考えています」

「茨城産茸とトリュフの温製サラダ / リコッタチーズ 松の実」には、七会きのこセンターの椎茸など5種のきのこを使用。さっとソテーして、トリュフやリコッタチーズとともにレインボーフューチャーのルッコラやレッドオーク、ベビーリーフと合わせた。きのこの力強い風味と食感で満足感あるサラダに。

「茨城産鴨腿肉のコンフィ / ジャガイモのムースリーヌ 季節の温野菜」。ハーブと岩塩でマリネした鴨をゆっくり火入れした鴨モモ肉のコンフィは定番メニュー。「放し飼いらしい弾力ある歯応えで、コンフィにしてもパサつかず、しっとり仕上がります」と市村シェフ。

「パレスホテル東京」総料理長の斉藤正敏シェフ(左)、「グランド キッチン」市村貴史シェフ(右)


◎パレスホテル東京 「オールデイダイニング グランド キッチン」
東京都千代田区丸の内1-1-1 1F
☎03-3211-5364
7:00〜21:30LO(土・日曜、祝日6:00〜)
無休
https://www.palacehoteltokyo.com/restaurant/grand-kitchen/

◎茨城フェア
2022年9月8日(木)~22日(木)の期間中、「茨城産茸とトリュフの温製サラダ / リコッタチーズ 松の実」(¥2100、税込・サービス料別)、「茨城産鴨腿肉のコンフィ / ジャガイモのムースリーヌ 季節の温野菜」(¥4620、税込・サービス料別)をアラカルトとして提供。


<発想とアプローチ>
8種の香辛料と燻製で作る四川ダック&海の乾物と山の豚肉のフュージョン:「竹韻飄香」

東京・代々木上原の「竹韻飄香(ジュユィンピャオシャン)」は、伝統的な四川料理を守る「飄香」の系列店として、2021年に開店。料理長を務めるのは廣瀬文彦シェフ。鴨の頭や舌のスパイス煮、鴨モモ肉の香り揚げなど、普段から鴨をよく扱うだけに、今回の視察で印象的だったのも西崎ファームの鴨だ。「代表の清水さんたちの鴨に対する愛情を感じました。大切に育てられた鴨を、心を込めて調理したい」

その温かな想いで作られる料理が「樟茶鴨(ザンチャーヤー)」。「楠の葉とお茶で燻製する鴨料理で、四川ダックとも呼ばれます。かすみ鴨は脂控えめで肉の味がしっかりある。四川でも麻鴨(マーヤー)というあっさりとした小さな鴨がよく使われます」。中抜きの丸鴨を、腹の内側に八角や花椒、白蔻(パイコウ)など8種の香辛料や塩と砂糖をすり込んで一晩マリネし、燻製をして、水飴を塗り、乾かしたのちにオーブンで焼く。丸2日も要する料理だ。「スパイシーでお酒に合うので、ディナーのお客さまに喜ばれそうです」

血抜きとエトフェ、2つのかすみ鴨で試作。「シンプルな焼き物は血抜き、濃厚なソースを合わせる場合はエトフェが合いそうです」

「樟茶鴨」。香ばしい燻製香、肉の旨味、スパイスのパンチある香り、食べる部分によって味わいが変わる。

さらに「常陸の輝き」でももう一品。「ランチの定番、獅子頭(シーヅトウ)です」。小さな角切りの豚バラ肉と、干し椎茸や干し竹の子などの干し野菜を大きな肉団子にまとめて揚げ、醤油ベースの煮汁で煮込む。「煮汁には、豚スネや鴨のだしに、スルメ、干し牡蠣、昆布、干し貝柱の戻し汁を加えます。四川省の内陸地域は海から遠いので、昔から旨味出しに海産の乾物をよく使うんです」。山海の旨味が溢れ出す、スペシャルな肉団子だ。

「豚肉もよく使う食材ですが、『常陸の輝き』はぷるんとした弾力があり、触った瞬間にほかの豚肉との違いを感じました。肉団子を軟らかく仕上げるために加えるスープをよく吸ってくれて、ふわふわに仕上がります。回鍋肉など他の料理にもよさそう」

「紅焼獅子頭(ホンシャオシーヅトウ)」はランチのメインとして登場。豪快な見た目に反する優しいふわふわ食感と豊かな旨味に陶然となる。

廣瀬文彦シェフ。勤務していた中国料理「天外天」で中国の修業を終えて帰国した井桁良樹シェフと出会い刺激を受け、四川省成都や上海で修業。2007年から「飄香」に入社し、2021年現店へ。


◎竹韻飄香(ジュユィンピャオシャン)
東京都渋谷区上原1-17-14 LAビル1F
☎03-6407-0773
11:30~14:00LO 18:00~21:00LO
月曜、火曜休
https://www.piao-xiang.com/zhu-yun/
※現在店舗が臨時休業中です。開始日が決まり次第、こちらでご報告致します(9月15日追記)
※ 諸事情により、東京・代々木上原「竹韻飄香」での茨城フェアは、期間・店舗を変更して実施致します。10月1日(土)~14日(金)の期間中、東京・広尾「飄香(ピャオシャン)」にて「樟茶鴨」を夜のコース(¥24200・税込)のメインとして提供。東京・六本木ヒルズ「飄香小院(ピャオシャンショウイン)」にて「獅子頭」を(ランチセット¥1,980・税込)の1品として提供。(10月1日追記)

 


<発想とアプローチ>
炭火焼きレアの鴨を、マルサラ酒と燻製卵黄に絡めて:「カンティーナ カーリカ・リ」

東京・目黒区周辺に5軒のイタリア料理店を展開する「タバッキ」堤亮輔シェフ。「国内で作られた自然な食材を使いたい」と、これまでも月に数度のペースでスタッフと共に産地を訪ね、生産者の想いに耳を傾けてきた。

「レインボーフューチャーの大和田さんからの熱い想い、農法への誇り、説得力ある力強い声は、無農薬を実践する農家さんに共通していますね。“3割は取れなくて当然”と、それでも実践していく覚悟に胸を打たれました。鴨を飼育する西崎ファームさんは、これまで知らなかったことが悔しい。世代交代が課題の中、世襲ではなく想いを同じくする人が受け継いでいるのも素敵です」

フェアでは都立大学駅高架下の「カンティーナ カーリカ・リ」で、西崎ファームの鴨を提供する。血抜きのかすみ鴨のモモ肉をマルサラ酒「ヴェッキオ・サンペーリ」とニンニクで一晩マリネし、炭火で表面を焼いて中はレアに。付け合わせは七会きのこセンターの花びら茸とたもぎ茸。「肉厚のきのこの食感を残したいので、油を引かずに高温に熱したフライパンで焼き付けて、熱いうちに燻製した卵黄と茹でた大麦で和えます」。卵黄を合わせたのは、「カーリカ・リ」加藤修司シェフのアイデア。曰く「食べるとエロティックな味なんです(笑)」。

ストーリーある食材を愛する堤シェフ。「スタッフと産地を訪ねた後はいつも、参加者全員がレポートを書いて全社共有しています。アウトプットで理解が深まり、お客さまへの説明も饒舌になる。料理への表現にもつながる。なにより、帰ってきた時の素材を見る目の輝きが変わるんです」

「西崎ファームの鴨のスコッタート 七会きのこセンターのきのこ添え」。仕上げにバルサミコで和えたエシャロットをトッピング。レアに仕上げた鴨の野性味と炭火や燻製卵黄のまったり濃厚な味は、色香が漂うようなワインを呼ぶ味。

堤亮輔シェフ(左)。2022年4月には5店目となる「タバッコ」もオープン。「カンティーナ カーリカ・リ」の加藤修司シェフ(右)。


◎カンティーナ カーリカ・リ
東京都目黒区中根1-5-2
☎ 03-5726-9629
12:00〜14:00LO 18:00〜21:00LO (土曜、日曜、祝日は17:00〜)
水曜休
https://tabacchi.co.jp/cantina-carica-ri

◎茨城フェア
2022年9月8日(木)~22日(木)の期間中、「西崎ファームの鴨のスコッタート 七会きのこセンターのきのこ添え」(¥1600・税込)をランチ、またはディナーのアラカルトとして提供。


<発想とアプローチ>
茨城の豊潤な大地を1皿に。目指すは味の“ディズニーランド”「コルク」

茨城・水戸「コルク」は地産地消を掲げるフランス料理店。2年前に就任した加藤大恭(ひろたか)シェフは自他ともに認める“地元食材マニア”だ。
「東京で働いていた頃、都内で地元の食材が高値で取引される場面をたくさん見てきました。トップシェフが欲しがるものが僕の出身地にはある。誇らしい気持ちが強くなったんです」。いつしか店の食材すべてを地元産にしてみたいと願うようになる。

夢が叶ったのが2年前。以降、シェフ就任前の準備期間から現在に至るまで、暇を見つければ県内の気になる生産者を訪問する日々だ。今でも週に2、3回の仕入れは自ら産地を回る。「頻繁な接点をもつことで、生産者の視点を常に近く感じられます」

フェアでは視察した茨城県産の鴨、きのこ、有機野菜、酒「すべての食材を使う」をミッションにメニューを考案。誕生したのは茨城県の畑をイメージした絵画のような一皿だ。その名も「茨城のある日の風景」。

「メインは西崎ファームのかすみ鴨の小鴨です。解体後、ムネ肉は熟成庫で1週間寝かせて、茨城県産の福来みかんや山椒やユズが香る木内酒造のジンとハチミツ、シナモンやカルダモンを合わせたマリネ液で一晩おいてロースト」。清涼感のあるソースは、砂糖とハチミツを焦がしたところにレモン汁、鴨だし、木内酒造『常陸野ネストビール だいだいエール』を加えている。付け合わせには「土臭さがまったくない」というレインボーフューチャーのマイクロ野菜。95℃で3分蒸して、カラフルな色味をキープしている。

皿に沿えたデミタスカップには、つくば鴨モモ肉のつくねときのこのソース。ターメリックやコリアンダーなどのスパイスを加えたつくねに、七会きのこセンターの6種類のきのこを炒めて、鰹節粉とコーンスターチでとろみをつけたソースを絡ませた。

「茨城のある日の風景」より。鴨肉は木内酒造のジンを表面に塗りながら焼く。レインボーフューチャーのマイクロカブや大根は蒸した後にバターでソテーして、美しい緑色の葉を保持。仕上げには木内酒造の銅製のタンクをイメージして金箔を散らした。

「茨城のある日の風景」より。スパイスと合わせた鴨モモ肉のつくねに、アワビ茸、ヒラタケ、タモギダケ、舞茸、白ヒラタケ、花びら茸を炒めて鰹節粉と合わせたソース。そよ風のようにやさしいスパイス使い。

加藤大恭シェフは地元の調理師学校を卒業後、都内飲食店での修業後独立。2020年「コルク」シェフに就任。「どの生産者も想いと試行錯誤がある。1つには選べないです」


◎コルク
茨城県水戸市笠原町447-1
☎029-239-5502
11:30~14:30 18:00~22:00
月曜休、不定休
https://www.colk.info/

◎茨城フェア
2022年9月8日(木)~22日(木)の期間中、「茨城のある日の風景」を昼、夜のコース(¥10000・税込)の一品として提供。


<発想とアプローチ>
ピンポイントな捻り技で、鴨タンのポテンシャルを引き出す:「中国菜 智林」

東京・神楽坂の中国料理店「中国菜 智林(ちりん)」は、野菜中心の中国料理「膳楽房」の姉妹店。榛澤(はんざわ)知弥シェフが、伝統的な調理法を踏まえながら、現代的なセンスで軽やかな中国料理を提供する。

豆板醤や甜麺醤など調味料を自家製したり、中国料理人仲間との勉強会で情報交換したり、研究熱心な榛澤シェフ。「茨城県の視察ではすべての生産者さんから熱意を感じましたが、特に印象的だったのが西崎ファーム。僕もトライ&エラーを繰り返してメニュー開発するので、試行錯誤しながら鴨を育てていく清水さんの姿勢にとても共感しました」

フェアでオンメニューするのは西崎ファームの鴨タンの揚げ物。「鴨タンは中国料理で用いられる食材ですが、よくあるのは醤油煮込みなどの前菜です。でもこの鴨タンはきれいな旨味とプリっとした食感が主役級の食材。これだけでインパクトのある皿にしたくて」

鴨タンは片栗粉を軽くまぶしてさっと素揚げするだけだが、そこには榛澤流のひねりが。「清涼感のある台湾バジルをたっぷり揚げて、香りを移した油で鴨タンを揚げます。味は塩だけ。これで充分。鴨タンは小さいので、1皿で10本も使ってしまいましたが(笑)」。台湾バジルの食欲をそそる香りと鴨タンの旨味・・・、小さな舌骨まで無言でしゃぶり尽くしたくなる味だ。

「茨城県のかすみ鴨タンの台湾バジル揚げ」。調味料は塩だけと思えない。「台湾バジル(九層塔)は千葉の『テラマードレ』で毎夏栽培してもらっています」。焦がさずカサッときれいに揚がったバジルは、これだけでも絶品つまみ。

もう一皿は「常陸の輝き」のチャーシュー。「常陸の輝きは脂の口溶けがよく、歯切れもいいので焼き物に向きます。この豚肉の甘味に合わせて、甘めの広東風チャーシューに仕立てました」。紅腐乳(ホンフールー)や甜麺醤、砂糖や醤油のたれに漬け込んだ肩ロースを、蜂蜜や水飴の蜜を塗りながら焼く。じゅわっと甘い蜜と肉の旨味が溶け合う。60年代の料理本のような往年の日本の中国料理が好きという榛澤シェフらしい万人に愛される一皿だ。

「常陸の輝きの広東式チャーシュー」。ちょうどチャーシュー用の豚肉を探していたそう。

榛澤知弥シェフ。「龍口酒家」で修業後、2013年「膳楽房」、2019年「中国菜 智林」を開店。「改めて意識してみると、普段から茨城の食材をよく使っていることにも気付きました」


◎中国菜 智林
東京都新宿区白銀町12-51F
☎ 03-3268-3377
11:30~14:00 LO  17:00~21:30LO
月曜、ほか月2回不定休
https://gd49901.gorp.jp/

◎茨城フェア
2022年9月8日(木)~22日(木)の期間中、ディナーのアラカルトとして「茨城県のかすみ鴨タンの台湾バジル揚げ」(¥2420)、「常陸の輝きの広東式チャーシュー」(¥1620・共に税込)を提供。


<発想とアプローチ>
“地域産品のショールーム”で、都心のエキナカと地方をつなぐ:「ニッコリーナ エキュート東京店」

全国の地域産品のセレクトショップ「ニッコリーナ エキュート東京店」を営む「良品工房」代表・白田典子さん。全国を巡り、買い付けや商品開発を行う、地域産品の目利きのプロだ。
視察後、早速店舗で扱いを決めたのが木内酒造の3種の缶酒。「『常陸野ビール』は海外でも知名度が高く、外国人観光客の反応も上々です」。駅構内という場所柄、すぐ飲める缶という点も好評価だった。

「うちは地域の生産者とお客さまをつなぐ場。そして東京駅構内という立地上、他店バイヤーの目にも止まる“地域産品のショールーム”の役割もあります」。このためラインアップや陳列法にも工夫がある。

例えば、季節ごとの企画コーナー。中でも人気なのが毎年3月開催される「ほしいも展」だ。品種や形状、仕上げ方の異なる各地の干し芋を揃え、それぞれの味の特徴をチャートに分類して展示。このフェアに不可欠なのが茨城県の干し芋。12〜13種中約10種が茨城県産で「特に『幸田商店』さんの干し芋は、全国トップクラスのバリエーション。この層の厚さを活かして、店頭ではおすすめの3種を詰め合わせた『干し芋食べ比べセット』も開発し、通年販売しています」

白田さんによると、シンプルな原材料で素材の味が伝わる加工品が今の人気だそう。「茨城県は、シジミやウナギといった水産物をはじめ、知られざる上質な食材の宝庫。よい加工食品になりうる素材も豊富なので、今後も注目していきます」

ユズの香りが爽やかな「常陸野ネストビール ゆずラガー」(右)、「常陸野ハイボール」(中央)、ホップが華やかに香る「常陸野ネストビール セッションIPA」(左)が揃う。

茨城「幸田商店」の干し芋3種類を詰め合わせた「干し芋食べ比べセット」。「かさばらず、価格面でもプチギフトとしても好評です」

(写真左)店内にはスタッフの想いが伝わる手書きポップがたくさん。「味わいや食べ方など、お客さまが商品を購入した先にある“未来”を伝えることを大切にしています」
(写真右)「良品工房」代表・白田典子さん。


◎ニッコリーナ エキュート東京店
東京都千代田区丸の内1-9-1JR東日本東京駅構内1階サウスコート内
☎03-3211-9006
8:00~22:00/日曜・祝日~21:30
無休 ※エキュート東京に準ずる。営業時間の詳細はエキュート東京HPにて。
https://www.iimono-pro.com/business/store/nicolina/

◎茨城フェア
「常陸野ネストビール ゆずラガー」(¥418・税込)と「常陸野ネストビール セッションIPA」(407円・税込)に、「常陸野ハイボール」(¥385・税込)と「干し芋食べ比べセット」(¥2097・税込)は通年販売。

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