未来のレストランへ 01
既存の事業の連携を強めて、新サービスへ
大阪・東心斎橋「ワインショップ&ダイナー FUJIMARU」 藤丸智史さん
2020.08.24
text by Kaori Funai / photographs by Tomoaki Kawasumi
連載:未来のレストランへ
コロナ禍で、「自粛」に伴う経済的打撃をもろに受けた飲食業界。
それぞれの店がその時に何をすべきかを悩み、考え、店を守るための対応策を講じました。
未曾有の出来事は私たちの生活を一変させましたが、飲食店で食事をする価値を再認識する機会にもなりました。飲食店の灯を絶やしてはならないと応援する動きが全国各地で起こりました。
自粛要請が解除され、飲食店の営業が再開されると、以前とは異なるスタイルに変化した店が少なくありません。先行き不透明な状況の中を生きていくために、これまでのあり方からの変革を余儀なくされているのです。
飲食店がこの経験から学び得たことは、「次の波」や他の災害といった将来に起こりうる危機的状況に対応する力になるはずです。
甚大な打撃を受けても起き上がる底力、レジリエンスを備え、ニューノーマル時代を切り拓く、飲食店の取り組みを紹介します。
人との出会いの場は、対面に限らない
オンラインソムリエやテイクアウト予約サイトの他、ピックアップデリバリーやテイクアウト専用の工房の開設。「ワインショップ&ダイナー FUJIMARU」 の藤丸智史さんは未来を予測しながら、新事業をフルスピードで展開していきました。
絶対に思考を止めない。
「3月30日、東京にある2店舗の営業自粛を決断。初めて逃げ出したくなった」と藤丸智史さんは苦笑する。営業を継続しながらも、一刻も早く決断をと焦る。ただスタッフを危険に晒すことだけはしたくなかった。2月末には妊婦、そして小学生以下の子供を持つ女性スタッフを一時帰休させるなど、アクションは早かった。また、緊急事態宣言前には、テイクアウト営業をする東心斎橋店だけを残し、ほかの全店を休業。しかし、グループは業務用ワインショップ、飲食店8店舗、ワイナリー2軒を営み、固定費だけで毎月3〜4千万がかかる。融資や給付金など経営者としてやれる手続きはすべて終えてもなお、切実な状況の中、藤丸さんが自身に課したこと。それは「絶対に思考を止めないこと」だった。
「まず、僕たちがやっている仕事を細分化・再定義しました」。問屋、配送業、輸出入、飲食業、農業、食品加工(ワイン醸造含む)、ワイン講師など教育も行う、稀有なワイン総合企業。「人と会わずして生き残れるのはどの業種なのかを考え、直近でできること、第2波、第3波が来ても対応できるものを、全て実践したのです」。
自社配送を活用した、新たなシステム
大阪・恵比須にある業務用配送センターでは、8人の社員が常勤し、大阪市内を中心に配送業務を行う。「この倉庫はウチの心臓部です。配送は人の手を介さないと成り立たない仕事。だから昔みたいに低賃金ではなく、配送スタッフには料理長クラスの給料を払っています」。しかし自粛期間中は、業務用卸しの売り上げが激減。対面販売がウリだったショップ部門は、オンライン営業のみに。「人に会えないなら、非対面型ワインショップをやってみよう」と4月初旬に立ち上げたのが、LINE公式アカウント『オンラインソムリエByフジマル』。客はLINEで友達登録をする。メッセージのやりとりはソムリエの資格を持つスタッフが在宅で担当し、客からコメントが入れば即、リアクションする。好みの味わいや、飲むシーンなどをヒアリングしながら、オススメを提案。最終的にはオンラインショップの決済へ導く。「“会う”ということは実際に対面することだけじゃない」。その目論見は、当たった。現在、登録者数は1100人以上。4月の通販全体の売り上げは、昨年1年間の通販売上高の2倍になった。
取引先である飲食店とタッグを組んだ「ピックアップワインサービス」もグループならでは。オンラインでワインを買えば、業務用ワインの配送エリア(主に大阪市内)にある店のテイクアウト・メニューと一緒に、購入したボトルを受け取れるのだ。自社配送という強みを生かし、東心斎橋店ではデリバリーも実施。「他社の出前代行も使いましたが、毎朝検温して健康状態をチェックするうちのスタッフだと安心感もある。店舗の売り上げと比べたら、足しにもならないのが実情。だが、「そういうのだけじゃないんです、この仕事って」。
コロナ禍でもがきながらも、藤丸さんは一歩も二歩も先を見ているのだろう。自粛期間中に、軽貨物運送業の免許も取得。車は保冷車を3台、軽トラック2台。「業務用卸しの売り上げが低下し、配送スタッフの雇用維持が難しくなった時、免許があれば、大手の宅配会社の下請けができるから」という算段だ。いざとなれば、取引先である飲食店のテイクアウト商品の冷蔵配達も可能に。さらに藤丸さんは、保冷車の2台をキッチンカーに改造。「再び営業自粛になったときに備え」、飲食店営業(自動車営業) の許可を取った。車内にはガスボンベを繋いだ鉄板焼台や小型シンク、冷蔵ボックス、排水・給水タンクなどを完備。「許可を取るのが大変でしたが、総予算6万円で改造できました」。
業務用ワインの配送は午前中かアイドルタイムが中心。ならば空き時間の昼にキッチンカーを稼働させ、ランチを販売できるし、週末には野外イベントで営業できる。「売り上げがある時もない時も、いかにしてスタッフが働く場を作ることができるか?これが僕にとって最も重要な仕事でした」と、自粛期間中を振り返る。
未来に向けて、今ある資源を生かす
藤丸さんには、守るべきスタッフがいる。だからこそ、走りながら考え続ける、実行力とスピード感があるのだろう。
ショップとダイナー、植物工場を有する東心斎橋店。その3階には、試飲会などの団体向け個室があったが「今後、売り上げが見込めないスペース」と、フロアを改装。「コロナとの戦いが終わるとは限らない。次の波が来たときの巣ごもり消費へ対応できるように」と、小さな冷凍食品工場『フジマル工房』を立ち上げ、冷凍食品製造免許を取得した。冷凍パスタソースなどを開発し、6月からは通販も始まった。
フジマルグループの特徴といえば、岩手・石黒農場「ほろほろ鳥」、一頭買いする大阪・松田牧場「なにわ黒牛」ほか、大手の流通にのらないであろう生産者の食材を扱っていること。「たとえレストランにお客様が戻らなくとも、僕らが食材の流れを止めたら、事態収束後に困るのは我が身」との思いから自粛期間中、テイクアウトやデリバリーで食材の輪を広げてきた。こと冷凍商品に関しては、「なにわ黒牛の大阪カレー」「なにわ黒牛のラザーニャ」など、名物メニューも生まれた。「12坪の小さな工房ですが、スキルがあるスタッフが働ける場所を確保できたのが嬉しい」と藤丸さんは微笑む。
5月には農業法人を設立。「ブドウ作りを始めて10年目の挑戦です」。ブドウ以外にもタマネギやニンニクなど野菜も育ててきた。生産部門を拡大すれば、スタッフの雇用維持にも繋がる。「今後は、地元農家さんや行政と連携が取れるチームを、別会社で作っていきます」
進行中のプロジェクトは他にもある。「最も重要だったのは、今ある経営資源を生かし、いかに連携させて新しいサービスを作るか。設備投資と内装費に計700万円をかけた“冷凍食品工場”以外は、それほど大きな投資はしていません」。来たるべき時へ備え、「フジマルは、社会やライフスタイルが変化しても、“辞めなくていい会社”でありたい」と思いは熱い。一日でも早い新たなビジネスモデルの構築が、雇用を守る。この数カ月間のアクションが、10年先のグループを大きく変えるかもしれない。
*本記事は雑誌『料理通信』2020年9・10月合併号 第2特集「未来のレストランへvol.2」より抜粋してお届けしています。
◎ ワインショップ&ダイナー FUJIMARU 東心斎橋店
大阪府大阪市中央区東心斎橋1-4-18 上原ビル 2F
☎ 06-6258-3515
11:30~22:00(飲食・テイクアウト11:30~14:00,17:00~22:00LO)
月曜、第2・4火曜休
大阪メトロ長堀橋駅より徒歩2分
https://www.papilles.net/shop_restaurants/
◎ 藤丸智史さんによるWeb連載「食の人々が教えてくれたこと。」はコチラ