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FEATURE / MOVEMENT

未来のレストランへ 14

トライ&エラーで見えた未来の営業モデル、週末レストラン

東京・代官山「クチブエ」 坂田阿希子さん

2021.02.15

text by Michiko Watanabe / photographs by Masahiro Goda

連載:未来のレストランへ

2020年4月の緊急事態宣言以降、テイクアウトや通販、レシピ配信などレストランという限られた場所でしか共有できなかったものが、より多くの人の元へ届くようになりました。
窮地に立ったことで生み出された新しい役割をきっかけに飲食店は、次の時代に必要とされる店の在り方を模索して、本格的に生まれ変わろうとしています。その姿は、播かれた種が、懸命に芽を出そうとしている姿に重なります。
未来のレストランはどんな姿をしているのか?
ひと足早く芽を出しつつある5店の事例をお届けします。

さかたあきこ 料理家の活動に加えて、長年の夢だった洋食の店を2019年11月にオープン。コロナ以降はテイクアウト、物販、通販と次々に新たな業態にチャレンジ。並行して新刊の準備も進行中。

さかたあきこ
料理家の活動に加えて、長年の夢だった洋食の店を2019年11月にオープン。コロナ以降はテイクアウト、物販、通販と次々に新たな業態にチャレンジ。並行して新刊の準備も進行中。

レストランの持っているスキルを再編成し、この半年、トライ&エラーを繰り返した坂田さんは一足早く、メリハリのある営業モデルを構築していました。

直感力と判断力、決断力と即応力、強い意志とぶれない信念。危機管理に必要な人間力を、「KUCHIBUE」店主・坂田阿希子さんは本能的に備えているように思う。

コロナショックが広がりつつあった3月から、坂田さんは動き出す。どう見ても客足の減少が止まらない。それまでおそろしく忙しかっただけに、スタッフのモチベーションは下がる一方。まず、営業を金土日に絞り、月火水は完全休業、木曜を仕込みの日とした。期せずして行った働き方改革だ。先の見えない中、店を存続するために何をすべきか。その第一歩が料理教室だった。

レストラン営業よりも、あらかじめ定員が決まっているので確実な売り上げが見込める。もともと、料理家として多くの本を出版し、たくさんのファンを持つ坂田さんである。引きの強いハンバーグを掲げて生徒募集をすると、希望者が殺到。ところが、緊急事態宣言が発令されて、キャンセル続出。それでも「絶対やる!」つもりだったが、「行きたかったけれど、夫に止められて」など、行きたいのに行けない生徒たちの切なる声を聞いて、教室をやることが、かえってみんなを苦しめると、泣く泣く断念する。

店を閉め、教室をやめても、じっとしてはいられない。スタッフと相談して、「散歩がてら、温かい玉子サンドとかフルーツサンドとか食べたいんじゃないかな」と思いつき、1日だけテイクアウトをやってみた。これが驚くほどの大反響。
「それからはもう、テイクアウト祭(笑)」


やっては反省、またトライを繰り返し今がある。

最初こそ、要領が悪く時間もかかったが、30 分ごと に時間を区切って、外で待ってもらい、店内に入るのは1人だけ、など、賢く安全な販売システムを確立していく。「来週はフィッシュ&チップスやろうか」と、メニューも増えていった。インスタグラムに上げれば、すぐに売り切れる。フライドチキンを発表した日は、1日中電話が鳴り止まなかったほどだ。すると、スタッフも生き生きしてきた。食材業者から、行き場を失った食材を引き取ってほしいと相談が来るようになり、その食材で、デザートやサラダも作るようになった。

自信をくれたテイクアウトメニュー(文末にレシピを紹介しています) チキンバスケット 「インスタに上げると毎回即完でした」。アメリカ南部のレシピをベースに、大ぶりの骨付き鶏肉をジューシーかつ、衣はガリッとするまでしっかり揚げる。一見ジャンキーだが、中身は上質。ポテトサラダとコールスローサラダが付いて2,200円。

自信をくれたテイクアウトメニュー(文末にレシピを紹介しています)
チキンバスケット
「インスタに上げると毎回即完でした」。アメリカ南部のレシピをベースに、大ぶりの骨付き鶏肉をジューシーかつ、衣はガリッとするまでしっかり揚げる。一見ジャンキーだが、中身は上質。ポテトサラダとコールスローサラダが付いて2,200円。

「店の味」を再現できる瓶詰 自家製瓶詰はコロナ禍から販売を開始して現在も継続中。マヨネーズなどの定番に加えて、パフェやドリンクに使う季節のジャムやシロップも人気アイテムに。

「店の味」を再現できる瓶詰
自家製瓶詰はコロナ禍から販売を開始して現在も継続中。マヨネーズなどの定番に加えて、パフェやドリンクに使う季節のジャムやシロップも人気アイテムに。

6月頭になると、テイクアウトを縮小してイートインに戻すことに。「何かが動き始める気がした」からだ。人出も多くなり、テイクアウトは衛生面での心配が出てきたからでもある。

料理はコースで提供することにした。ところが、電話は鳴らない。店内は閑散。時期尚早だったか。コースだからダメなのか。アラカルトも入れちゃおうか。変更を加えても、客足は伸びない。かといって、テイクアウトだけに戻すのも違うな。そんな時に、ふっと思った。「イートインを粘り強くやっていこう」。そのうち、金土日しかやっていないことなど、店の有り様が少しずつ知れ渡り、客が定着してきたので、たまにテイクアウト祭を挟みながら、基本はイートインへとシフトした。


レストランの持てる力をいかに機能させるか。

夏になって、気楽な気持ちでパフェを始めると、パフェを食べたいスイーツ好きの予約が激増する。食事をしないとパフェは食べられないのだが、「パフェ、ありますか」という電話がひっきりなし。パフェのおかげで、昼は予約で埋まるようになってきた。ただ、夜はまだ弱い。そこで、坂田さん、また「カクテルバーやろうか」なんて思いつく。でも、これは実現せず。その代わり、スイカのカクテル、マスクメロンのクリームソーダなど、自家製ソフトドリンクを充実させて、飲み物狙いの客も獲得。パフェは今も継続中だ。

最近はオンライン販売が順調だという。常連の「地方の友人に食べさせてあげたい」という願いを聞いて、セットを作ったのがきっかけだ。ノウハウがないところからスタートしたのだが周囲に助けられ、STORESに登録。グラタンやシチューを真空冷凍し、20セット作った。ところが、発売を告知すると5分で売り切れ。今は40セットまで広げている。イートインも予約がオーバーフローしてきたため、もう1日増やそうかと考え中である。

通販で取り入れたこと 店のロゴをスタンプやシールにして、寂しく見えがちな段ボールやパッケージにアクセントを持たせた。ちょっとしたことで特別感が出せ、贈り物需要も喚起。

通販で取り入れたこと
店のロゴをスタンプやシールにして、寂しく見えがちな段ボールやパッケージにアクセントを持たせた。ちょっとしたことで特別感が出せ、贈り物需要も喚起。

料理教室できっかけを作る プロの技を直に学びたい人は多い。料理教室はレストランを違う視点で楽しめ、来店の動機にもつなげやすい。坂田さんは毎月最終の週末営業を教室に充てた。

料理教室できっかけを作る
プロの技を直に学びたい人は多い。料理教室はレストランを違う視点で楽しめ、来店の動機にもつなげやすい。坂田さんは毎月最終の週末営業を教室に充てた。


3イートインに通販&教室。
そして時々テイクアウト祭。

従来のレストラン業務であるイートインに加え、店内物販+テイクアウト、オンライン販売、教室と4つの柱を1カ月のスケジュールに組み込み、スタッフもやりがいを持って働く職場となっている。レストランがレストランとして機能するだけでなく、持てる力を多角的に有効に生かすことで、窮地に向かうことができる。そして、何もできないと立ち止まるより、まずはやってみる。やっては反省、またトライ、を繰り返す。そうやって、坂田さんは今日も走り続けている。


<RECIPE>

■チキンバスケット
材料(すべて適量)
鶏モモ肉
揚げ油

〈マリネ液〉
ホエー、レモン汁、タバスコ、パプリカパウダー、ドライオレガノ、タイム、すりおろしたニンニク、塩

〈衣〉
薄力粉、コーンミール、塩、黒コショウ、卵

作り方
マリネ液を合わせてモモ肉によく絡め、最低1晩置く。
卵は溶き、衣の残りの材料をバットに合わせる。
1を卵にくぐらせ、衣を表面にしっかり付ける。
熱した油で衣がガリッとするまで時間をかけて揚げる。

他にはない味づくり チキンはホエーとたっぷりのタバスコで臭みを取り、コーンミールで衣をガリッとした食感に。テイクアウトのレシピにも強さの秘訣は詰まっている。

他にはない味づくり
チキンはホエーとたっぷりのタバスコで臭みを取り、コーンミールで衣をガリッとした食感に。テイクアウトのレシピにも強さの秘訣は詰まっている。

*本記事は雑誌『料理通信』2021年1月号 第2特集「未来のレストランへ vol.4」より抜粋してお届けしています。



◎洋食KUCHIBUE
東京都渋谷区猿楽町29-10
ヒルサイドテラスC棟15号
☎03-5422-3028
11:30~15:00LO、18:00~19:30LO
月~木、日曜夜定休
(毎月最終の金~日曜は料理教室のため営業休)
東急線代官山駅より徒歩3分

Instagram @kuchibue.daikanyama
https://kuchibuetokyo.stores.jp/

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