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FEATURE / MOVEMENT

テタンジェと祝う、食の歓び

「鎌倉でしか作れないハレの料理を」

神奈川「鎌倉 北じま」北嶋靖憲さん

2022.06.27

【PROMOTION】
text by Noriko Horikoshi / photographs by Masahiro Goda

連載:テタンジェと祝う、食の歓び

長年、国際料理コンクールをサポートし、若手料理人の成長を後押ししてきた「テタンジェ」のプレステージ・シャンパーニュと共に、人生に欠かせない大切な時間を生むプロたちをフィーチャーする連載。今回は京都で修業を重ね、昨年、地元鎌倉に店を開いた「鎌倉 北じま」北嶋靖憲さんを訪ねます。

「コント・ド・シャンパーニュ ブラン・ド・ブラン」は、「北じま」にとってハウスシャンパーニュ的な存在感。「日本料理に添う繊細さ、熟成の旨味があって、開栓後の味の移ろいが楽しめるストーリ―性の高さも魅力」と店主の北嶋さん。2011年ヴィンテージを、店主自らサーブする所作も堂に入ったもの。


鎌倉“でも”ではなく、鎌倉“でしか”できない料理を

鎌倉駅から逗子方面へ、祇園山の新緑を仰ぎながら歩くこと15分。住宅街の細い道へ折れると、淡竹や銀杏の木々に覆われたひときわ緑豊かな庭の奥に、錆鼠の壁色が風流な数寄屋造りの日本家屋が見えてきます。扉の脇に、店のありかを示す「北じま」の慎ましやかな表札。中に入ると、茶室を思わせる土と木と石の設えにカウンター8席のミニマルな空間が。“市中の山居”を体現するかのごとく、侘びて凛とした佇まいに心が洗われるようです。

緑豊かな古都の街並みに溶け込む「鎌倉 北じま」の外観。築60年以上の古民家を数寄屋造りの特徴を入れて改装し、店舗に。扉の脇にある背の高い銀杏の木がシンボルツリーだ。

カウンターの内側でにこやかに客人を迎えるのは、鎌倉出身の店主、北嶋靖憲さん。若くして京料理の名店「和久傳」に入門し、16年にわたり実績を積み上げた気鋭の料理人です。慣れ親しんだ京都の板場を辞し、生まれ育った鎌倉で店を構えたのが2021年5月。同じ古都でも異質な歴史、風土、文化、食習慣をもつ地で自身の料理を表現していくにあたり、心に期したことは「鎌倉でしかできないことを」の一点だったと話します。

店内はカウンター8席。将来的には個室の増設も予定している。「個室を造る前に予算が尽きてしまって・・・」と苦笑いの北嶋さん。設計は京都の木島徹建築設計事務所。土壁、無垢、煉瓦床のシンプルな対比が美しい。

仕入れによって内容や品数が変わる“おまかせコース”は、山海の幸に恵まれた鎌倉の“地のもの”をメインに構成。修業先の「和久傳」の様式を踏襲しつつも、食材の選択や組み立てには、当然ながら明確な差異がくっきり。
「特に魚介については、海がないがゆえに川魚が好まれ、保存性を高める食文化が発展した京都と、海が目の前にある鎌倉では、鮮度も旬の捉え方も大きく違う。その日獲れたものを、その日にお出しできる環境が、ここにはあるということです」

たとえば、相模湾の港にも多く水揚げされるカツオは、血合いを丁寧に取り除くのが一流料亭仕込みの仕事かと思いきや、「血合いが最高においしいんです!」と北嶋さん。
「ただし、その日に獲れたものであれば、の条件付きですが。翌日には鉄分が酸化して味が一変してしまう。血のおいしさを味わえる距離感は、紛れもなく京都では出来なかった鎌倉らしいプライオリティのひとつ。鎌倉“でも”できる京料理である必然性はないし、そうなる時は店を閉める時だと考えています」

庭の一角には、棕櫚(しゅろ)縄で十文字に結んだ丸石が。「ここより先は通り抜け禁止」を意味する関守石。日常と非日常を分ける結界の標でもある。


歳時記を一皿の上に紡ぎ出す日本料理の奥深さ

そもそも地元の鎌倉ではなく、京都での本格的な料理修業を思い立った理由について、「京の茶懐石に始まる日本料理の神秘性に魅かれて」と振り返る北嶋さん。勉強のために現地での食べ歩きを重ねる中、とりわけ「和久傳」の料理に感銘を受け、その場で主に弟子入りを志願したという熱い逸話の持ち主でもあります。

20代の北嶋さんの心を捕らえたのは、料理そのものの味わいのみならず、京都の雅と野趣を一皿一皿に描き出し、表現として紡ぎ出す懐深さだったのかもしれません。
「日本料理は歳時記を意識し、表現しなければならない。和食との明確な違いが、そこにあります。『和久傳』では、そんな日本料理の基本を徹底して学ばせてもらいました」

障子越しの柔らかな光が室内に美しい陰影をもたらす。障子窓を開け放てば、この借景。夏の夕暮れの訪問も楽しみになる。

400年前にフランスの古城の壁で使われていた煉瓦を床材に。ローズウッド製のダイニングチェアはデンマークの家具ブランド「モラー社」のヴィンテージ。どちらも「侘しさが日本家屋に合う」と北嶋さん。

鎌倉には流鏑馬(やぶさめ)、甲冑や刀剣などの工芸品、和歌や文学の名作など、武家社会から生まれた独自の文化的背景があり、北嶋さんも舞台をこの地に移してからは、鎌倉らしい歳時記を意識しているそう。

「端午の節句の時期が来れば、源平合戦で武士が鎧に付けていた“栴檀板(せんだんのいた)”を壁に飾ります。鎌倉初期に編纂された小倉百人一首の和歌にちなんで、翡翠茄子を“天の香具山”に見立て、“衣干すてふ”の句を白い湯葉で表現したお椀をお出しすることも。京都の歳時記はひとまず置いて(笑)、鎌倉の風物詩を肌感覚で楽しんでいただけたらうれしいな、と。まだまだ勉強中ではありますが」

カウンター背面の壁には、季節の花を絶やさない。「店の庭に咲く花を基本に、北鎌倉の実家の庭で摘んで生けることも」。シーズンによっては鎌倉の歳時にちなむ工芸品も登壇。


一人の料理人として未来への貢献につながるアクションを

北嶋さんの飽くなき探求心は、食材にも向けられます。「和久傳」時代から、京丹後を中心とする農家や漁師と関係を築き、時間を見つけては産地へ足を運んでいたというフットワークは、鎌倉においても健在。というより、むしろ拍車がかかったというほうが正しいかもしれません。

毎朝の日課は、鎌倉から15㎞離れた長井漁港まで車を走らせることからスタート。カツオの血合いの話を例に引いたとおり、圧倒的な鮮度の追求が目的にあるとはいえ、「そればかりではない」とも。
「その日の海のコンディションは。水温は。海流の変化は。どんな締め方をされた魚なのか。現場に行って漁師さんや仲買さんに話を聞かなければ、得られない情報がたくさんあります。暦上の“旬”ではくくれないリアルタイムの季節感を、肌身で理解する面白さもありますね」

日参する港で仕入れる白アマダイ(奥)と、日本海では“ノドグロ”の名前で呼ばれるアカムツ(手前)。いずれも北嶋さんが絶対の信頼を寄せる魚仲買人、長谷川大樹さんの目利きによる極上品。

店で使う魚介はすべて、三浦半島を拠点とする魚仲買人、「さかな人」代表の長谷川大樹さんに仕入れを任せています。その卓越した目利きぶり、“神経締めのプロ”の異名をとる技術ばかりでなく、「水産資源の保全に本気で取り組む姿勢に、共感と尊敬の念を抱いています」と北嶋さん。

「3年前に“Chefs for the Blue”*のワークショップに参加する機会があって、水産資源が減っている話に衝撃を受けました。以来、私自身にもできる活動を始めています。幼魚は使わない。よい素材は正当に評価して高く買うこと。獲りすぎや食品ロスをなくして未来へ貢献するために、ささやかながらも、料理人として必要なアクションだと考えています」

*東京のトップシェフ約30名とフードジャーナリストの佐々木ひろこ氏が立ち上げた、豊かな海と食文化の未来のために啓発活動を続ける料理人チーム。2021年からは京都でも活動開始。

鎌倉野菜ばかりでなく、里山は天然のキノコや自生の野草の宝庫。実は山歩きの達人でもある魚仲買人の長谷川さんが、その日の恵みを届けてくれる。本日の収穫物は、野生のセリ、ミツバ、マダケ、虎山竹(コサンチク)、アラゲキクラゲなど。


食材の出自と持ち味を知り尽くしてこそのシャンパーニュ・ペアリング

「お飲み物はどうされますか?」
コース料理の幕明けとともに、北嶋さん手ずから渡されるワインリスト。日本料理の店としては意外な厚みに、びっくりするゲストが多いかもしれません。常時5~6種類が並ぶシャンパーニュの部で、筆頭にオンリストされているのがテタンジェの「コント・ド・シャンパーニュ ブラン・ド・ブラン」。

料理を拵え、接客し、ワインやお酒のサーブもと、基本は北嶋さんが1人でカウンターを取り仕切る。自身もシャンパーニュ好きながら、「残念ながら(アルコールに)強くなくて。あまり飲めないんです」と苦笑い。

「やはり、“最初は泡を”と選ばれるお客様が多いですね。けれど、乾杯の1杯目だけでなく、食中酒として1本で通したり、あえて後半に合わせて栓を開けるお客様も少なくありません。私自身も、むしろ、そちらをお薦めしたいですね」
その理由は? ヒントとなるロールモデルとして、今回は旬の魚で仕立てた2皿を提案していただきました。

まずは、三浦半島の佐島沖で獲れた白アマダイの揚げものから。船上で神経締めにされた鮮度抜群のアマダイの鱗をほどよく間引き、松笠に皮を立て、シャンパーニュの泡立ちに合うクリスピーな歯触りの衣揚げに。シンプルそのものに見えて、意外とパワフルで濃厚なコクも感じられるのは、ナマコの卵巣を干した“バチコ”を砕いて片身にまぶしているため。

外側はカリッと軽快に、身は余熱でふっくらと火を通した「白アマダイのバチコ揚げ」を1600年代後半の伊万里古九谷様式の器に盛り付けて。片身にまぶしたバチコの濃厚な風味が、アマダイのクリアな旨味の引き立て役に。

「アマダイ本体の味の濃さもありますね。アマダイは砂にいるゴカイやスナイソメ等の虫が主食ですが、相模湾のアマダイは貝やイカや甲殻類をよく食べます。旨味が強くて皮目からは海老の味と香りが感じられ、脂の色がオレンジ色になります。日本料理では表現しにくいバターっぽさやクリーミーなテイストをシャンパーニュで補い、よりおいしく引き上げてもらうイメージでまとめています」

生態系まで理解を深めているからこその、考え抜かれたペアリング。もてなす側ともてなされる側と、カウンター越しの会話も弾みそうです。

ほどよいオイリー感とクリスピーな歯触りが、軽快さも残る「コント・ド・シャンパーニュ ブラン・ド・ブラン2011」に、ぴたり。一口目から高揚感に満たされるペアリングだ。


ヴィンテージ・シャンパーニュ×日本料理の知られざる楽しみを提案

続いての2皿目は、三浦沖で獲れたアカムツが登場。のその前に、重厚な火鉢がカウンター奥のまな板の上に。かんかんに熾った炭火の上に、串を打って塩をしたアカムツが並べられます。焼きものは、こうしてゲストの眼前で火を入れて見せるのが「和久傳」仕込みの“北じま流”。炭と脂の焼ける匂い、煙の香ばしさ、そして骨董の鎌倉彫の火鉢を眺める“眼福”も、おもてなしのうち。シャンパーニュのグラスを傾けながら焼き上がりを待つ間も、期待がいっそう高まります。

焼きものの段になると、ずっしりと重い年代物の鎌倉彫の火鉢が登場。アカムツが目の前で香ばしく焼かれる姿、匂い、音、煙で客の五感を刺激する。

焼き上がったアカムツは、北大路魯山人の“木の葉皿”に盛りつけて卓上へ。この料理には、「開けてから少し時間がたったコント・ド・シャンパーニュが適役。ボウルに丸みのある広口のグラスで、ぜひ」というのが、北嶋さんからアドバイス。
「ゆっくり開いた熟成感が、アカムツの皮下脂肪のリッチな旨味とよく合います。はじめにお魚、次にシャンパーニュ、再びお魚の順番で、それぞれ飲み込んでから味わってみてください。アカムツの風味が膨らんで、いったん引いて、また増幅されて呼び戻される感じがしませんか?」

塩をして焼くだけのシンプルな炭火焼きで、脂ののったアカムツの旨味を余すところなく引き出す。器は北大路魯山人の“木の葉皿”のコレクションから。北鎌倉に育ち、「星岡窯(ほしがおかがま)」周辺が遊び場だった北嶋さんにとって、縁の深い陶芸家でもある。

勧められるままに食べ、飲んでみれば、これはまさしく旨味の三段活用! 日本酒のしみじみと予定調和的なペアリングとはひと味違う、エッジのきいたバランス感、複層をなす余韻に驚かされます。

「日本料理は茶事から派生した“ハレ”のお料理。もともとエンターテインメントの要素が強いので、テンションの面でもシャンパーニュの特別感や非日常感となじみやすいのかもしれません」という北嶋さんのお見立てに、深く納得。日本料理と長期熟成のヴィンテージ・シャンパーニュ。長い歴史と文化に育まれた本物同士の凄みが、ここにもうかがい知れます。

地下18メートルにあるカーブで10年間以上にわたる長期瓶熟成。長い年月で磨かれた「コント・ド・シャンパーニュ ブラン・ド・ブラン2011」は、繊細な日本料理と合わせてもその包容力を存分に発揮。だしの旨味を受け止め、引き上げる熟成感と味の幅で魅了する。


北嶋靖憲(きたじま・やすのり)
神奈川県鎌倉市出身。地元鎌倉の和食店から料理人人生をスタート。日本料理を一から学ぶべく京都へ居を移し、京料理の名店「和久傳」の門を叩く。「室町和久傳」「高台寺和久傳」「京都和久傳」の三店舗で研鑽を積み、系列店「丹」の立ち上げにかかわると同時に料理長に就任。2020年、16年間勤めた「和久傳」から独立し、翌21年に出身地の鎌倉で「北じま」を開業。フランスのレストランガイド「ゴ・エ・ミヨ2022」のテロワール賞を受賞するなど、オープン1年を経ずして海外のフーディーズからも熱い注目を集める。


◎鎌倉 北じま
神奈川県鎌倉市大町4-3-18
☎0467-73-7320
https://www.kamakura-kitajima.jp/

「テタンジェ」ブランドサイト
https://www.sapporobeer.jp/wine/taittinger/

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