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FEATURE / MOVEMENT

テタンジェと味わう、地方発ガストロノミーの今 福井・三国「望洋楼」

「福井の記憶につながる“素材感”」

Dec 22, 2022

【PROMOTION】
text by Noriko Horikoshi / photographs by Masahiro Goda

ガストロミーの重心が、都会から「ローカルへ」と移行する中、「自分の暮らす地域の文化や歴史、自然環境を料理に表現していこう」という動きが広まっています。長年、ガストロノミーと共に歩み、若手料理人の成長を後押ししてきたブランド「テタンジェ」のシャンパーニュと共に、地方発ガストロノミーの今をお届けします。

北陸屈指の老舗料理旅館、そして海のオーベルジュへ

かつては北前船の寄港地として栄えた福井県三国で、廻船問屋を商う先祖が明治11年に創業した北陸屈指の老舗旅館「望洋楼」。日本海を眼前に望む景勝とともに、冬の越前ガニに始まる北陸の美味づくしでもてなす“美食の宿”としても名を馳せてきました。

2021年11月には古典的な木造建築から一転、全館をスタイリッシュなコンクリート造りの空間に一新してリニューアルオープン。国内はもとより、海外のフーディーズからも「日本で行きたいデスティネーションホテル」の筆頭として熱い注目を集めています。

フロントから海を望む正面には、天井までの高さをもつ四角いフィックス窓。刻々と表情の変わる日本海の眺めが絵画のように切り取られ、シュールな造形美にはっとさせられる。

新館の設計を担当したのは、およそ100年ぶりに新築された東京大学の図書館「総合図書館別館」などに代表される実験的な建築作品で知られ、都市デザインを通した地方創生への取り組みにも深い知見をもつ建築家の川添善行氏。施主として立案から完成まですべての工程に参画したという代表取締役社長の刀根瑛昌(とね・てるまさ)さんは、「遠来から足を運んでくださる方に、福井の本当においしいものを召し上がっていただく場所。建物も本物に徹しなければ説得力を欠くということで、納得がいくまでチームでセッションを重ねました」と目元をほころばせます。

とりわけ印象的なのは、食事の部屋をめぐる贅沢かつ大胆な意趣に富む空間構成です。高級旅館では部屋食のスタイルがおもてなしの主流ですが、新生・望洋楼では全7部屋の客室内にあえてダイニングを造らず、ロビーを挟んだ公共ゾーンに7つの食事専用個室を配置。“海のオーベルジュ”と呼びたくなるような、料理をメインに打ち出したスタイルです。
「部屋食では調理場から遠くなるので、肝心の料理が冷めてしまいます。プライベート空間ならではの落ち着きと、出来立て、つくりたてのおいしさを味わっていただく距離感を両立させるために、この造作がベストでした」と刀根さん。

さらに、各部屋は高低差のある二層構造のフロアに分散させ、すべての部屋から目の前の日本海ビューが楽しめる仕掛けに。「日頃から国内でも海外でも建築物ウォッチングが趣味」という刀根さんのアイデアと好奇心が、ゲストへの心配りに生かされる形となりました。

打ちっぱなしコンクリートの壁が印象的なリニューアル後の「望洋楼」。数々の先鋭的な建築作品で注目される新進建築家、川添4氏が設計を担当。

旅館名のとおり、手が届きそうな眼前に日本海を抱くロケーション。外壁には塩害に100年耐性をもつとされるコンクリートを使用している。奥に見える岬は東尋坊。


150年の歴史に磨かれた越前ガニの目利きと経験値

越前ガニ漁の解禁日は毎年11月6日。「望洋楼」の夕餉の献立も、この日を境に一変。翌年3月20日までの漁期が終わるまで、コース料理は越前ガニ一色に入れ替わります。

ズワイガニは港の数だけ呼び名があると言われますが、福井県の港で水揚げされる雄のズワイガニの呼称こそが“越前ガニ”。福井沿岸の日本海海域には暖流と寒流がぶつかる漁場が多く、餌となるプランクトンが豊富なため、カニも大きく旨味の詰まった肉質に育ちます。

漁場と水揚げ港の距離が近いため、生きたままの状態で競りにかけられ、新鮮さをキープできることも特質のひとつ。数あるズワイガニの中でも、唯一皇室に献上されてきた歴史と品質を誇るトップブランドです。

チェックインを終えた宿泊客には、その日に調理するカニの生きた姿を見てもらうのがならわし。甲羅に付いた黒い斑点はカニビルの卵。一般的に、脱皮後に十分成長し身もしっかり入ったカニであることの証左となる。

廻船問屋を前身にもつ望洋楼は、姿も重量も肉質も最上級クラスの“ベスト・オブ・越前ガニ”の目利きと経験値において、市場や船主から一目置かれる存在。元は調理人として厨房に立った期間も長い刀根さんは、「長年にわたって三国と越前の競りに通い慣れているので、漁船の情報も知り尽くしていることが強み」と話します。
「日本料理は素材ありきですので、よい個体を仕入れることに全精力を傾けます。カニの場合は特に、いいものを獲ってくれる生産者とのパイプがなければ、お話になりません」

望洋楼の場合は、宿のほかに市内に直営の飲食店、東京・青山にレストランをもつことから、雌のセイコガニも含めて上質なものだけを買い入れ、敷地内の水槽で管理。船主の絶大な信頼を得て、極上の素材を優先的に仕入れられる関係が確立しているといいます。さらに、甲羅の色や形状によって身の詰まり具合や味噌の状態にも違いがあり、水槽から出す、しめる、テーブルに運ぶタイミングひとつで、味わいが一変する難しさも。

敷地内に建つ水槽庫。カニは生きたままの状態で買い付け、目の前の海から海水を汲み上げて水槽で保管。水深200mの生育環境に近づけるため、少しずつ海水を循環させながら水温をキープする。

この日、大皿に載せて運ばれてきた調理前の越前ガニは、重さ約1.3㎏、年齢にして15年を越えると推定される特大サイズ。宿泊客のチェックインの際には、その日の食卓に上るカニをこうして見せ、楽しい妄想を膨らませてもらうことにしているそう。
「大きさだけではなく、腹側が卵の殻のような乳白色で、腹も脚も触ってパン!と跳ね返されそうな張りと堅さがあるのがいい。このカニはすべてを満たしています。最高の食材は見るだけで胸が躍るし、お客様がどう反応するか、想像するだけでこちらもワクワクしますね(笑)」

カニの脚に触れるだけで「身の詰まり具合、味の濃さがわかる」と刀根さん。目利きだけでなく、鮮度の保ち方、保管方法、茹で方にも熟練の技が必要だ。


越前ガニを味わい尽くすフルコースとシャンパーニュ

日本有数の酒どころでもある福井県は、カニと味わうことを前提に設計された地酒の種類が豊富。望洋楼のドリンクリストにも若狭や越前の銘醸蔵の日本酒が名を連ねますが、「記念日で来られる方は食事中もシャンパーニを選ばれる方が多い。海外のお客様にも、“カニシャン”は非常に喜ばれますね」と刀根さん。

もともとシャンパーニュ地方の畑はミネラル豊富な石灰岩質土壌で、エビやカニなどの甲殻類とシャンパーニュとの相性は折り紙付き。料理人兼食材仕入れ担当の尾﨑崇さんは「難しいペアリングの話は抜きにして」と前置きしながら、「全体的に自然とシャンパーニュを飲みたくなる料理ではあると思う」と言葉をつなぎます。

たとえば、先付に登場するのは、生のカニ身を福井・敦賀の老舗昆布店「奥井海生堂」の蔵囲昆布で締め、フレッシュキャビアをこんもりと盛り合わせた一品。これは、確かに無条件で泡が似合いそう! シャンパーニュの中でもフルーティーな若飲みタイプではなく、熟成の旨味やトースティな香ばしさをまとったヴィンテージシャンパーニュがほしくなります。

越前カニ尽くしのコースは、敦賀の「奥井海生堂」の蔵囲昆布で生のカニの身を締め、キャビアを添えたインパクト抜群の先付からスタート。ねっとりと甘やかな熟成の旨味がのり、「コンド・ド・シャンパーニュ ブラン・ド・ブラン」と完全無欠の相性。

越前ガニ尽くしのコース中盤に登場するハイライトは、シンプルそのものの姿茹で。生きたままのカニを真水に入れ、1時間かけてゆっくりしめてから大鍋で茹でる以外は、一切の調理の手を加えません。

「真水に入れるとカニは浸透圧で息が苦しくなり、体に含まれる海水を吐き出してしまう。そこに真水が流れ込むので塩気が柔らかくなり、味噌の味わいもぐっとまろやかになります」と尾﨑さん。同じサイズ感でも身の詰まり具合によって、少量の塩を加えたり、茹で時間を短縮したりの目分が必要なことも。

「どんなカニがどんな味噌をもっているのか、色や体つきを見れば大体のことはわかります。素材の特質を見極めて、その持ち味を最大限に引き出してやること。数をつぶして体で覚えていくしかありませんね」

茹で上がったカニは宿泊客の目の前で豪快に手で割り、盛り上げてサーブ。脚を1本外すごとに、汁がしたたり、蟹の濃厚な香りが立ち上る。「あえて筋を入れるようにバキバキ折っていくのがコツ。カニの味噌が付着して、たまらない感じになるんです(笑)」と刀根さん。

ハカマをはずし、付け根に指をかけて持ち上げると、フワフワの身にみっちりと旨味が詰まったカニ味噌が出現! 舌に媚びるような甘味と濃厚な磯の風味に官能を揺さぶられる。


建物と佇まいを福井の上質な素材感で満たす

アクセスが比較的容易な関西圏だけでなく、北海道や九州、海外からも遠い道のりをかけて望洋楼を訪れるゲストのお目当ては、「必ずしも旬が限られる越前ガニの味わいばかりとは限りません」と刀根さんは話します。
「ここに来て、この空気の中で、海を見て、温泉にも浸かって、食べるカニのおいしさを体験したかった。皆さん、そうおっしゃいます。おいしいカニを召し上がるだけなら東京でもいいはずなのに、いや、それでは足りないのだ、と」

ゲストが求める形を突き詰め、可視化させようと考え抜いて導き出されたキーワードは“素材感”でした。福井の素材で料理を構成するだけでなく、音や視覚や質感や気配も含め、空間すべてを福井の記憶につながる素材感で表現していくこと。望洋楼の建物や意匠には、そんな強い思いが随所にちりばめられています。

入口のドアからフロントに向かうと、壁いっぱいに描かれているのは真冬の荒ぶる日本海。織部焼や越前焼の鋼材を貼り合わせた独創的なモザイクアートです。

フロントの背景には、荒ぶる日本海を織部焼や越前焼きの鋼石で表現したコラージュが。モダンな中にも陰影礼賛の美学が息づく意匠が目を楽しませてくれる。

フロントデスクの石材は、隣町の採掘現場でオーナー自らが気に入って選んだ未加工の滝ケ原石。客室や食事用個室の壁面には福井の伝統石材であり、現在は採掘されなくなってしまった笏谷石(しゃくだにいし)を。また、ロビーの一角には、山中の蔵で使われていた土壁を運び、これもオーナーが自らコテを入れて仕上げたというクラフト感たっぷりの再生壁が。

ひび割れが独特の質感を生み出す土壁は、廃屋となっていた蔵の建材を再利用したもの。

そして、足元の床材は、九頭竜(くずりゅう)川の流れをデザインした流線形の寄木細工のフローリング。1部屋に石や木や紙の天然素材だけで4~5種類の異なる質感が組み合わされ、ニュアンスに富む陰影をつくり出しているのが感じ取れます。

福井県のシンボルともいえる九頭竜川の流れをフローリングの寄木で表現。窓の外の海の眺めに向かって、流れを描くように設計されている。

「本物の豊かさを取り上げ、内外にお伝えする意義は、北前船を介して引き継がれた福井の伝統でもありますから。いいものとは何か、それがどんなに人の喜びにつながるのか、楽しみながら見届けていきたいと思っています」

旅館の4代目当主、刀根瑛昌さん(右)と、右腕として刀根さんが絶大な信頼を寄せる料理・仕入れ担当の尾崎崇さん(左)。刀根さん自身が自他ともに認める食通であり、ピエール・エルメ氏ら海外のシェフとの交友関係も深い。



◎望洋楼
福井県坂井市三国町米ヶ脇4-3-38
越前加賀国定海岸公園内
☎0776-82-0067
https://www.bouyourou.jp/

「テタンジェ」ブランドサイト
https://www.sapporobeer.jp/wine/taittinger/

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