畑仕事を皆でシェアする【前編】
アーバン ファーマーズ クラブに聞く経験ゼロからの野菜づくり
2022.05.06
text by Kyoko Kita / photographs by Daisuke Nakajima
2019年5月に「世界のアーバン・ファーミング最新事情」としてお届けした記事を再公開します。都市でできる究極の地産地消であり、サステナブルな食物生産の営みに直に触れる機会にもなるアーバン・ファーミング。改めて知りたい都市型農業の事例です。
「2020 年までに2020 人のアーバンファーマーを誕生させる」ことを掲げ発足したNPO 法人「アーバン ファーマーズ クラブ」。
メンバー同士が情報交換しながら野菜づくりのスキルを身につける、大人のゆる〜い部活動の魅力とは?
都会で行う農業には、
自給に留まらない価値がある
ここは恵比寿のオフィスビル。「水やりって、部員って、何?!」。好奇心に任せて屋上の扉を開けた人は驚くだろう。畑があるのだ。室外機の向こうに並んだ巨大プランターには、みずみずしい野菜たちが日の光を浴びて輝いている。それらを愛おしそうに世話しているのが張り紙の仕掛け人、「アーバン ファーマーズ クラブ(UFC)」の代表理事であり、「渋谷の農家」でもある小倉崇さんだ。
UFCが持つ渋谷、原宿、恵比寿の4カ所の畑をメンバーと共に管理し、有機野菜を育てている。いずれも「農」という言葉とは縁がなさそうな街だがしかし、「土をいじりたい、農的な暮らしをしたいと思っている人が実は結構いるんですよね」。
本や雑誌の編集や執筆、広告の企画制作をしていた小倉さんが農の世界へと足を踏み入れたのは、東日本大震災がきっかけだった。電気が止まり、水も食糧も買い占められて手に入らない。東京という大消費地で直面したその危機に、「自分で食べ物を作っている人が一番強い」ことを思い知る。「家族の食べる物くらい作れるようになりたい」。しかし農業を知るにつれ、有機栽培のすばらしさと同時にそれを生業とすることの難しさに気付く。
農業へのモチベーションは次第に、志ある農家を応援することへとシフトしていった。そんな中、縁あって渋谷のライブハウスの屋上に構えた畑では、都市生活者が予想以上に農を求めていることを知る。土に触れることで得られる癒し、野菜の成長を見守る面白さ、収穫の喜び。そしてスーパーに並ぶ野菜が奇跡の連続であるという気付き。暮らしと農、消費と生産の場が隔てられている都会で行う農業には、「自給」に留まらない価値があった。「2020年までに2020人のアーバンファーマーを!」。畑には都市の未来を変える力があると考えるようになる。
かくして昨年2月にキックオフしたUFCは、そんな都市農業の魅力を共有するコミュニティだ。曰く「ゆるい部活みたいなもの」。有機農業ではあるけれど、大切なのは農法やイデオロギーではなく、「みんなで育てて、みんなで食べたら、楽しいしおいしいよね」という感覚。
UFCにはそれを叶えるための仕掛けがある。キーワードは「シェア」だ。
① 畑仕事をシェア
半月ごとに募る"お世話係"が、都合のつく日に畑を見回り、その日の様子や出来事をフェイスブックのグループページで共有。忙しい人も気軽に農を体験できる。
② 情報をシェア
自宅で野菜を育てているメンバーも多数。そこでの失敗や工夫もフェイスブックでシェアすることで、集合知になる。
③ 好奇心をシェア
3種類のニンニクを実験的に育てる「ニンニク部」、ペットボトルで稲を育て、週末は甲府の棚田にも遠征する「田んぼ部」など小さな部がメンバーの好奇心の赴くまま自走している。
関わり方も楽しみ方も自由でいいのだ。たとえば、水をやる。そんなことでも始めてみたら、日常がいつもと少し違って見えてくるのかもしれない。
シェアすれば、一人の失敗はみんなの経験値になる。
◎ NPO法人「 アーバン・ファーマーズ・クラブ」
https://urbanfarmers.club/
※2021年に「YEBISU GARDEN FARM ACADEMIA(エビスガーデンファーム アカデミア)」を開講。ファーミングコース、クッキングコースがあり、都会でも実践可能な農的でサステナブルな暮らしをするための知識や技術を伝えている。
(雑誌『料理通信』2019年6月号掲載)
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