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JOURNAL / JAPAN

日本 [東京]

食べて「おっ」と驚くエディブルフラワー

未来に届けたい日本の食材 #14エディブルフラワー

Mar 28, 2022

text by Michiko Watanabe / photographs by Daisuke Nakajima

変わりゆく時代の中で、変わることなく次世代へ伝えたい日本の食材があります。手間を惜しまず、実直に向き合う生産者の手から生まれた個性豊かな食材を、学校法人 服部学園 服部栄養専門学校理事長・校長、服部幸應さんが案内します。

東京・清瀬で代々続く花農家「横山園芸」。美しくユニークな鑑賞用の花を作る傍ら、取り組み始めた食べられる花「エディブルフラワー」に技術と知恵を注ぎ込み、これまでにないエレガントな色と味を生み出している15代目の横山直樹さんにお話を聞きました。


横山直樹さん。「パンジーは最後に少し湿布のような香りが。マリーゴールドは日向夏やパイナップルのような風味も」

花を食べるなんて「悪」だ。そう思っていました。わが家は鑑賞用の花を作る農家ですから、花がかわいそうという思いのほうが強かったんです。

6年ほど前、地元の農家仲間から、東京オリンピックに来日する外国人のために、エディブルフラワーを栽培してみてくれないかという依頼があって、挑戦を始めました。ところが、最初の2年間はさんざんでした。口に入れるものだから、農薬や化学肥料は一切使わない。安心安全で、食べておいしいものを目指したのですが、虫にやられっぱなし。

そこで、徹底して虫が嫌がることをしようと、まずは、虫が繁殖しにくい混植に。温室内には虫よけ用の一番目の細かいネットを張り、土には虫が嫌う白いシートをかぶせ、害虫を遠ざけるコンパニオンプランツのマリーゴールドを植えました。

マリーゴールドは食べられる花。花を収穫した後、すき込めば肥料にも防虫にもなる。完全な自然栽培ではありませんが、植物の味方になることを信念に今の栽培方法になっていきました。肥料は魚カスや植物性の堆肥が中心です。化成肥料は、エディブルフラワーには強すぎるのか苦味やえぐみが強く出てしまう。動物性の堆肥は成長が早く、花もたくさんつくのですが大味になる上に虫が出やすい。エディブルフラワーは大きくなりすぎないよう、コンパクトに育てるので、肥料量、光合成量、水分量には神経を使います。


きれいな葉を作らないと、美しい花は咲かせられない。美しい花にするには、光をしっかり受けとめるきれいな葉を作ることが大切。そして苦味やえぐみを抑えるよう、ビニール越しの柔らかな光で光合成を促し、植物性の肥料でじわじわと育てる。収穫した花は小さなブーケに仕立て、十分に吸水させてから出荷。これで生き生きして日持ちもする。

園芸場のある武蔵野エリアの土は、水はけがよく、花の栽培に適している。虫の大量発生を防ぐため混植にし、木酢液やニーム油などを用いて無農薬栽培のための工夫を重ねる。

花といっても食べる花ですから、色も味も大事。プリムラもパンジーも、ちょっと抑えたアンティークカラーで食材に調和しますでしょ。他には出せない独自の色です。また、同じ花の種類でも品種で味が違う。どの品種を使うか、どう育てるかは試行錯誤で見つけてきました。これも、花を育ててきた経験があればこそ。

ストックを食べてみませんか。甘いでしょ。そして最後にカイワレ大根みたいな味になる。味が変わるのもおもしろい。食べて「おっ」と思っていただきたいんですよね。花は茎をつけて収穫し、かわいらしいブーケに束ねて、一晩水を吸わせてから出荷します。このひと手間で、1週間は軽くもつんです。最後まで花らしくあってほしいですからね。


食用花は小さく育てるのが基本。収穫後、吸水できるよう茎も付いた状態で収穫する。

食べる花も飾る花も、特別な日にしか買わない嗜好品の側面が強いですが、僕は暮らしの必需品にしたい。一度使い始めたら、ないと寂しいと思ってもらえるよう、野菜には出せない色や味を楽しんでもらい、五感で花に触れ合う世界をもっと身近にしていけたらと思っています。

ブーケに仕立てた花は、透明容器に入れて出荷。レストランやパティスリーをメインに卸している。

(写真左) 空中の殺菌用に設置された二酸化塩素が入った容器。これを付けてから病気がなくなった。
(写真右)生の紫パンジーからは淡いブルーの色素が溶け出す。乾燥させた花はブルーハワイのような鮮やかな液色になる。


◎横山園芸
◎大治(業務用)
☎03-5492-3185(代)
※一般向けの販売は清瀬市内の「JA東京みらい」の店頭のみ。
Instagram:@ yokoyama_nursery

(雑誌『料理通信』2019年4月号掲載)

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