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JOURNAL / 世界の食トレンド

America [Tamworth] 鹿、七面鳥、ビーバー、カニが原料に!?蒸溜酒の可能性ひろげる新クラフトウイスキー

2022.10.20

text by Kuniko Yasutake / photograph by Quaker City Mercantile

米国東海岸、アパラチア山脈北部に位置するニューハンプシャー州の森の中で、食肉や海産物を原料にしたウイスキーが造られている。

地域色にこだわるクラフト蒸溜所「タムワース・ディスティリング(Tamworth Distilling)」は、半径150マイル(約240km)以内で収穫された穀類のみを使用し、50銘柄を超える各種スピリッツを製造販売する。中でも異彩を放つのが「ハウス・オブ・タムワース」というラインで、毎年数量限定で登場する独創的フレーバーのウイスキー。原料には、地元産ボタニカルに加え、鹿、七面鳥、カニ、カストリウム(ビーバーの分泌物由来の香料)が並んでいて驚きだ。

2022年9月24日に200本のみ販売された「The Deerslayer(鹿撃ち)」は、ニューイングランド地方の秋の味覚が詰まった1本。地元畜産農家から仕入れた赤鹿を、クランベリー、ポルチーニ茸、ジュニパーベリー、緑コショウ、発酵ソーセージ用培養菌と合わせて一晩寝かせた後、近郊で採取した木材で燻す。この自家製ベニソン(鹿肉)ジャーキーを、3年物のホワイトウィート・ウイスキーと共に再蒸溜する。減圧低温蒸溜装置を使う手法は、ジンのフレーバー付けと同じだ。動物性の材料を生のまま漬けたりせずに、調理/加熱処理してから使用することで、食卓や生活の中にある“あのいい匂い”を、グラスの中で再現することを試みた。

稀有で複雑なフレーバーに「何を味わっているのかよくわからない」という批判の声もある。だがストレートのみならず、水を足すことで微かな香りを立ち上がらせて楽しもう、とは開発者からのヒントだ。


(写真トップ)「自由に生きよ、さもなくば死を」が州民のモットーであるニューハンプシャーで、今まで誰もやったことのない酒造りを目指すタムワース。増加傾向にあり生態系を脅かす野生のビーバーや外来種のミドリガニに新しい価値を見出す商品開発に、型破りの発想と実行力がうかがえる。


◎Tamworth Distilling
15 Cleveland Hill Road, Tamworth, NH 03886
☎+1-603-323-7196
販売所 12:00~17:00(土曜10:00~)
月曜、火曜休
House of Tamworth各種 65ドル/200ml
http://tamworthdistilling.com/

*1ドル=144円(2022年9月時点)

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