本と食で“ノルウェーの記憶”を保存する。国立図書館内に誕生した5つの食スポット
Norway [Oslo]
2026.06.01
text by Asaki Abumi
図書館2階にあるカフェ&バー。ふらりと立ち寄りワインを飲む人も。付近には学校もあるため、館内では課題に集中して、バーでコーヒーを頼む若者も多い。新北欧料理の空間がこれほど暮らしに溶け込んでいる光景も珍しい。photograph by Lars Petter Pettersen
ノルウェーに数ある新北欧料理店の中でも、「クレド(CREDO)」は“国立図書館の中にあるレストラン”という点で異彩を放っている。
首都オスロ、フログネル地区。バスや路面電車が行き交うソーリ・プラス駅から徒歩1分の場所にあるノルウェー国立図書館。その歴史ある建物の1階には、クレドが手がける複数の食のスポットが集まっている。予約制レストランをはじめ、ランチビュッフェが人気の食堂、ベーカリーカフェ、カウンター形式のフードバー、さらに2階にはカフェとしても利用できる図書館バー。館内には、5つの異なる食体験が用意されている。
特別な夜にレストランを訪れるのもいい。読書の合間にバーで軽く一杯楽しむのもいいし、平日は同僚と食堂でランチを囲むこともできる。サワードウブレッドを求めてベーカリーに立ち寄る人も多い。ここでは食が、日常と自然につながっている。
クレドは1998年、トロンハイムで創業された。店名は創業地の通り名「Credoveita」に由来し、同時にラテン語で「私は信じる」を意味する言葉にも重なる。創業以来一貫しているのは、食材と生産者への敬意だ。時代とともに料理のスタイルは変化してきたが、「何を使い、誰が作ったのか」という視点は常に中心に据えられてきた。
オーナーのヘイディ・ビェルカン氏は、新北欧料理を牽引する存在として知られる。創業後まもなく工業地帯の旧工場へ拠点を移し、周辺での栽培や地域との関係性を含めた食のあり方を模索してきた。2019年にはミシュラン一ツ星を獲得。さらにノルウェー王室の宮廷料理長として9年間、国王夫妻の食事を担ってきた経歴も持つ。
2024年に一度クレドを閉じた後、国立図書館からの打診を受け、新たな挑戦の場としてオスロへ移転。コンセプトを再構築し、2025年秋に再出発を果たした。
その歩みを支えてきたのが、共同オーナーのカヤ・スコーヴボルグ・ハンセン氏だ。トロンハイム時代からビェルカン氏と共に店を育ててきた存在であり、現在はオスロのフードホール「ヴィッパ(Vippa)」(※文末にリンクあり)も共同で運営している。ヴィッパでは移民や難民の雇用創出にも取り組み、国際色豊かな場でありながら、食材は北欧・ノルウェー産にこだわる。そのあり方もまた、現代の新北欧料理の一側面と言える。
「クレドはレストランというより哲学です。良い食材を選び、土壌を大切にする——とてもシンプルなことを実践しているだけです」とハンセン氏。図書館という、知と記憶が蓄積される場所で、パンを買い、コーヒーを飲む。そんな日常の中から、「良い食材とは何か」「誰がそれを作っているのか」という問いが自然に生まれてくる。
ノルウェーでは貧しかった歴史の中で食材への誇りが一時的に失われた側面があり、現在の新北欧料理の動きはその回復の過程とも言えるとビェルカン氏。「国立図書館は“ノルウェーの記憶”を保存する場所です。私たちは食を通して文化を伝えることができる。だからこそ、この場所でやる意味があるのです」
◎CREDO
Observatoriegaten 1b, Oslo
https://credo1998.no/
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