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JOURNAL / 世界の食トレンド

本と食で“ノルウェーの記憶”を保存する。国立図書館内に誕生した5つの食スポット

Norway [Oslo]

2026.06.01

本と食で“ノルウェーの記憶”を保存する。国立図書館内に誕生した5つの食スポット

text by Asaki Abumi
図書館2階にあるカフェ&バー。ふらりと立ち寄りワインを飲む人も。付近には学校もあるため、館内では課題に集中して、バーでコーヒーを頼む若者も多い。新北欧料理の空間がこれほど暮らしに溶け込んでいる光景も珍しい。photograph by Lars Petter Pettersen

ノルウェーに数ある新北欧料理店の中でも、「クレド(CREDO)」は“国立図書館の中にあるレストラン”という点で異彩を放っている。

首都オスロ、フログネル地区。バスや路面電車が行き交うソーリ・プラス駅から徒歩1分の場所にあるノルウェー国立図書館。その歴史ある建物の1階には、クレドが手がける複数の食のスポットが集まっている。予約制レストランをはじめ、ランチビュッフェが人気の食堂、ベーカリーカフェ、カウンター形式のフードバー、さらに2階にはカフェとしても利用できる図書館バー。館内には、5つの異なる食体験が用意されている。

特別な夜にレストランを訪れるのもいい。読書の合間にバーで軽く一杯楽しむのもいいし、平日は同僚と食堂でランチを囲むこともできる。サワードウブレッドを求めてベーカリーに立ち寄る人も多い。ここでは食が、日常と自然につながっている。

大きな窓ガラス張りの居心地のいいベーカリーカフェ
大きな窓ガラス張りの居心地のいいベーカリーカフェは、地元の人々が会話やリモートワークをする場となっている。食材はオーガニックにこだわり、ノルウェー産小麦を使ってサワードウで発酵させたパンを提供している。コーヒーは酸味が効いたノルディックローストの「Pala」の豆を使用。ヴィンテージの北欧食器がフィーカの時間に彩りを添える。photograph by Asaki Abumi
ベーカリーカフェのすぐ側にあるのがカフェテリア
ベーカリーカフェのすぐ側にあるのがカフェテリア。図書館付近で働く人々の間で人気のランチスポットに。12~14時のランチブッフェの時間はたくさんの人々で賑わう。レジで料金を支払った後は、食器は返却口へ自分で戻すセルフサービス式。吹き抜けの空間にあり、図書館の上階からも食の空間を見下ろすことができる。photograph by Asaki Abumi
食堂のランチブッフェでは20種類のメニューが並ぶ
食堂のランチブッフェでは20種類のメニューが並ぶ。キムチやサバもあり、アジア料理好きにも嬉しいブッフェだ。ちなみにクレドでは味噌も自家製していて、食堂では味噌汁を彷彿とさせるスープを提供している他、ベーカリーカフェではパンケーキ「スヴェレ」に味噌バターを、フラットブレッド「レフセ」には味噌キャラメルを使用している。photograph by Asaki Abumi

クレドは1998年、トロンハイムで創業された。店名は創業地の通り名「Credoveita」に由来し、同時にラテン語で「私は信じる」を意味する言葉にも重なる。創業以来一貫しているのは、食材と生産者への敬意だ。時代とともに料理のスタイルは変化してきたが、「何を使い、誰が作ったのか」という視点は常に中心に据えられてきた。

オーナーのヘイディ・ビェルカン氏は、新北欧料理を牽引する存在として知られる。創業後まもなく工業地帯の旧工場へ拠点を移し、周辺での栽培や地域との関係性を含めた食のあり方を模索してきた。2019年にはミシュラン一ツ星を獲得。さらにノルウェー王室の宮廷料理長として9年間、国王夫妻の食事を担ってきた経歴も持つ。

2024年に一度クレドを閉じた後、国立図書館からの打診を受け、新たな挑戦の場としてオスロへ移転。コンセプトを再構築し、2025年秋に再出発を果たした。

その歩みを支えてきたのが、共同オーナーのカヤ・スコーヴボルグ・ハンセン氏だ。トロンハイム時代からビェルカン氏と共に店を育ててきた存在であり、現在はオスロのフードホール「ヴィッパ(Vippa)」(※文末にリンクあり)も共同で運営している。ヴィッパでは移民や難民の雇用創出にも取り組み、国際色豊かな場でありながら、食材は北欧・ノルウェー産にこだわる。そのあり方もまた、現代の新北欧料理の一側面と言える。

ヘイディ・ビェルカン氏(右)とカヤ・スコーヴボルグ・ハンセン氏
ヘイディ・ビェルカン氏(右)とカヤ・スコーヴボルグ・ハンセン氏。ビェルカン氏は日本からも強い影響を受けており、「日本に行った時、食材への向き合い方がすごく似ていると感じました。無駄にしないし、生産者への敬意がある」。日本の食の伝統工芸品にも魅かれているという。大学院でイノベーションとビジネス開発を専攻してきたハンセン氏は、クレドでの肩書を「ジャガイモに近い」と語る。ノルウェー語の「私はジャガイモだ」という表現は、「なんでもこなす人」を意味する。photograph by Asaki Abumi

「クレドはレストランというより哲学です。良い食材を選び、土壌を大切にする——とてもシンプルなことを実践しているだけです」とハンセン氏。図書館という、知と記憶が蓄積される場所で、パンを買い、コーヒーを飲む。そんな日常の中から、「良い食材とは何か」「誰がそれを作っているのか」という問いが自然に生まれてくる。

ノルウェーでは貧しかった歴史の中で食材への誇りが一時的に失われた側面があり、現在の新北欧料理の動きはその回復の過程とも言えるとビェルカン氏。「国立図書館は“ノルウェーの記憶”を保存する場所です。私たちは食を通して文化を伝えることができる。だからこそ、この場所でやる意味があるのです」

レストランの様子
レストランは30席。予約制で特別な夜を過ごしたい時に最適。ノルウェー各新聞社の批評でトップレベルの食体験ができると絶賛されている。photograph by Per-Anders Jörgensen
食器はノルウェー製にこだわっている
家具や食器はノルウェー製にこだわり、ガラスなどの手工芸品を取り入れる他、トナカイや牛、エビの骨を器として使用することもある。photograph by Lars Petter Pettersen
わずか8席のフードバーをビェルカン氏は「ノルウェー版の居酒屋みたいな空間」と表現
わずか8席のフードバーをビェルカン氏は「ノルウェー版の居酒屋みたいな空間」と表現する。人気があるので予約必須だ。photograph by Lars Petter Pettersen
1914年築の歴史ある建物
図書館は公共交通機関や車が行き交う賑やかな場所に位置し、周辺には桜が咲く。1914年築の歴史ある建物内には、美しい読書空間がある他、イベントなども開催される地元民に愛される文化施設となっている。エントランスホールには、芸術家エマヌエル・ヴィーゲラン、ペール・クローグ、アクセル・レヴォルによるフレスコ画が装飾されている。photograph by Asaki Abumi

CREDO
Observatoriegaten 1b, Oslo
https://credo1998.no/

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