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JOURNAL / 世界の食トレンド

「売上ゼロ」で発展をつづける農業NPOのフードシステム改革

America [Hudson Valley]

2026.06.29

「売上ゼロ」で発展をつづける農業NPOのフードシステム改革

text by Kuniko Yasutake
農業NPO「スカイ・ハイ・ファーム」で、春から秋にかけて月に一度開催されるボランティア・デーでは、農作業の手伝いに加え、農場の運営について学べるファームツアーにも参加できる。放牧されている牛や羊、採卵・食肉用として半放し飼いの鶏は、土壌を豊かにし、害虫管理にも貢献する存在だ。photograph by Kuniko Yasutake

創業以来、農産物の100%を寄付することを前提に、作物を育て、配達まで手がける農業NPO「スカイ・ハイ・ファーム(Sky High Farm、以下SHF)」の躍進が止まらない。ニューヨーク市から北へ車で2時間、なだらかな丘陵に畑や牧草地が点在するハドソン・バレーで、2011年に草の根プロジェクトとしてスタート。5年後の非営利法人化を経て、2023年には560エーカー(皇居の約2倍)へと農地を劇的に拡大した。昨シーズンは、約9トンの青果、2.7トンの鶏肉・牛肉と4180ダースの卵を地域の食糧支援団体に無償提供している。

創始者は、2000年代半ばにビジュアル・アーティストとして大きな成功を収めたダン・コーレン氏。芸術作品には社会問題を提起できても、それを直接解決することはできないと気づき、農業参入を志した。農業とは別にアパレル事業を担う提携会社を設立し、その収益を農場の運営にあてるというアプローチが斬新だ。SHFと共に変化する自身の表現法について、「既存の芸術様式のカテゴリーには当てはまらない」と語る。

スカイ・ハイ・ファーム
「職業芸術家は一度亡びねばならぬ」と記し、宮沢賢治が『農民芸術概論綱要』で労働・共同体・自然・食・福祉のつながりを提唱してから、今年でちょうど100年。SHFの実践は、賢治が思い描いたイーハトーブの理念に不思議なほど呼応している。photograph by Kuniko Yasutake

SHFのユニークな試みのゴールは、既存のフードシステムを受け入れるだけの立場を見直し、人々が食料の生産・供給の在り方(何をどう育て、どう受け渡し、どう食べるのか)を自発的に選ぶ「食料主権」を実現すること。収益性より栄養価や土壌の健やかさを優先するリジェネラティブ(環境再生型)農業を実践し、自前で低温物流を整備して、地元産の認定有機生鮮野菜や畜産品には手が届かない近隣地域や都市部の貧困層に無償提供する。受け取る側の食文化に根ざした野菜も栽培し、大手種苗会社に頼ることなく自家採種が可能な固定種・在来種を重視しているのも特徴だ。

66種類の野菜と果物、10種類のハーブ、19種類の緑肥作物を栽培
2025年現在、66種類の野菜と果物、10種類のハーブ、19種類の緑肥作物を栽培。緑肥作物とは、ライ麦、クローバーなど、土づくりのために栽培し、収穫せずに土に還す作物のこと。黒いシートで覆うと植物はゆっくりと分解され、土壌はふっくらと豊かになっていく。photograph by Kuniko Yasutake

近年は、新規就農者を対象にした住宅・土地・機材付きの起業支援プログラムや、誰もが良質な食にアクセスできる社会を目指す団体への助成金(総額約8200万円)の提供、環境アートや食育イベントといった多角的なプロジェクトも進行中。スタッフ、コミュニティ・パートナーやボランティアが育む家畜や自然との関係性そのものが、食を介した“生きるアート”なのだ。

SHFの挑戦は、従来の慈善活動とは一線を画しつつ、未来のフードシステムのプロトタイプとして注目を集めている。

農場所有の冷蔵トラック
日本のような個人向け低温配送インフラがまだ一般的ではないアメリカで、SHFは一級品の新鮮な食材を“価格0ドル”で届けている。しかもその配送を担うのは、農場所有の冷蔵トラックだ。photograph by Sky High Farm
スカイ・ハイ・ファーム・グッズ
世界的アパレルブランドとのコラボを重ねながら、SHFの理念を社会に知らせる役割も担う提携会社「スカイ・ハイ・ファーム・グッズ(Sky High Farm Goods)」。サイトに並ぶ商品を購入することで、直接SHFの運営に貢献できる。日本では「農業チャリティを行うファッション・ブランド」と紹介されることが多いSHFだが、米国では「アパレル事業も展開する非営利農場の成功例」として認識されている。

Sky High Farm
https://www.skyhighfarm.org/

*1ドル=160円(2026年6月時点)

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