HOME 〉

RECIPE

素材を生かすヴィーガンパン ・レシピ01 「ヴィエノワ」 

東京・世田谷代田「ユニバーサルベイクス」

2023.06.29

text by Miyo Yoshinaga / photographs by Masahiro Goda

連載:素材を生かすヴィーガンパン

連載 素材を生かすヴィーガンパン 味と組成の新バランス

ヴィーガンパン専門店の登場とともに、植物性の食材のみで作るパンのレシピが注目されています。卵や乳製品不使用の菓子パンは、生地の保水性や焼き色、コクや味わい不足を懸念されてきましたが、他方で動物性の旨味や油脂によるマスキングがなく、小麦や果実など、発現性を高めたい素材の味がダイレクトに伝わるというメリットも認知されてきました。

動物性食材を使用したパン同等のコクや旨味を追求するのでなく、粉の品種、油脂や植物性ミルクの使い分け、開発が進む新素材の活用など、多素材を活用し、植物性ならではのバランスで、“おいしいパン”の組成と味が形づくられてきています。
パン好きも満足するヴィーガンパンを焼く、パン職人たちの知恵と工夫に迫ります。

東京・世田谷代田「ユニバーサルベイクス」
丸山雄三シェフ

丸山雄三シェフ

1982年神奈川県生まれ。「アンデルセン」で15年勤務後、国産素材の活用とノスタルジーを感じる、“温故知新”をテーマにしたベーカリー「サンチノ」シェフとし3年勤務。その後2020年同店シェフへ。フードディレクターやマネージャーとタッグを組み、立ち上げからすべてのパン製造を仕切る。


僕らのパンは、“おいしいパン”づくりの延長にある

「ヴィーガンパンを焼くようになって、素材への意識は強まりました」と、丸山雄三シェフ。商業学校を卒業後、大手リテールベーカリーに就職。15年務めた後、「365日」杉窪章匡さんがプロデュースする国産素材を扱うベーカリー「サンチノ」シェフに就任する。同店を閉店したタイミングで、「ユニバーサルベイクス」のオーナー・大皿彩子(おおさら・さいこ)さんから声がかかる。

元々「普通に(笑)」焼肉好き。ヴィーガンの嗜好があったわけではない。しかし「そもそもパンは、動物性素材がないと作れないものじゃない。味や膨らみ、歯切れ、ほしい要素は一般的なベーカリーにある素材と製法の工夫で実現できます」。戸惑いはなかった。

副材料が多いリッチなパン生地の場合、粉の個性は前に出づらい。だがヴィーガンとなれば別だ。副材料も含め、その違いはパンの味に如実に現れる。「卵か牛乳を入れれば、味は安定するし、よくも悪くもごまかせます。でもうちではできない。信頼する作り手の素材は店にとって生命線。なくなれば、正直パニックです(笑)」。今店頭に並ぶパンは、今使っている素材でないと作れない、と言い切る。

丸山シェフの場合、主張が強すぎる個性的な素材は選ばない。「苦いコーヒーに砂糖たっぷり入れるような」バランスのとり方はしない。例えばヴィエノワなら、粉は北海道・前田農産の強力粉「はるきらり」をメインに、福岡県産のシロガネコムギを原料とした薄力粉「プラティーヌ」を8:2でブレンド。「『はるきらり』はタンパク質の量が多すぎず、モチモチ感は控えめ、合わせる素材を引き立てるほんのりミルキーな味。ここに『プラティーヌ』を加えて、サクッとした歯切れとしっとりした口溶けを出します。薄力粉の量が多すぎると膨らみが悪くなるので、配合のバランスは試作を重ねました」。発酵種は、レーズン酵母の液種を、はるきらりで繋いだルヴァン・リキッドとイーストを併用。「ルヴァンの酸味で味に奥行きを出しつつ、小麦の味を邪魔しないよう、イーストと併用します。ボリュームが出て、歯切れもよくなる」

バターや卵が担う保水性とパンの老化防止は、加水の方法と油の質で遅らせる。「ミキシングでグルテン形成後、バシナージュ(足し水)で生地表面に水の膜を作ります。窯の中で足した分の水が焼成中に蒸気に変わり、翌日もパサつかない保水力のあるしっとりした生地になる。国産小麦は吸水しづらいので、1次発酵を長めにして吸水時間をしっかりとるのも大切です」。一般的な菓子パン生地に比べて水分量は多い。
ボリュームを維持する固形油脂には、酸化に強い有機パーム油を、窯伸びと保水力を高める液体油脂には米油と、クセのないクリアな味の油脂を選び、2日目のパンの油臭さをなくす。

愛嬌のある丸いフォルムの表面、ピカピカのツヤ感は、豆乳で作る。もともとドリュールの卵臭さと、焼き面にできる薄い膜の舌触りが苦手だった丸山シェフ。「固形分の多い豆乳を塗ったら、程よいツヤとパリッとした質感ができて」。卵の臭みに邪魔されず、植物性のふんわりした生地との優しいコントラストが実現した。

ユニバーサルベイクスのパン作りは、シェフ1人ではなくチームで企画する。「オーナー含むマネジメントチームでパンのゴールのイメージを描き、それを僕がレシピに落とし込む」。丸山シェフが担うのは“設計”だ。お題が降ってくると、シェフのもとで味わいと食感はさらにピンポイントな狙いに変わる。曰く、この流れは「性にあっている」らしい。

ヴィーガン料理は、ときに動物性の旨味に慣れた現代人の嗜好に合わせるべく、代替素材、新素材で語られがちだが、この店に流れるのは自然体の空気感。「ヴィーガンって語感が強すぎる(笑)。僕らのパンは、僕らが“おいしい”と思うパンづくりの延長でしかないんです」。製パンを始めて18年、自身の作るパンがヴィーガンにシフトしたことは、シェフにとってさほど大きなことではない。‟おいしいパン”をまたひとつ、生み出すきっかけになったにすぎない。


「(ヴィーガン)ヴィエノワ」材料と作り方

[材料](約30個分)

強力粉(はるきらり「前田農産」)・・・720g(80)
薄力粉(プラティーヌ「太陽製粉」)・・・180g(20)
てんさい糖・・・135g(15)
塩(「海人の藻塩」)・・・15g(1.6)

無調整豆乳(「タニタカフェ監修 オーガニック無調整豆乳」)・・・180g(20)
パーム油・・・72g(8)
ルヴァン・リキッド※・・・45g(5)
水・・・320g(35.5)
インスタントドライイースト(サフ「赤」)・・・16g(1.8)
イースト溶液(湯)・・・90g(10)※あらかじめインスタントドライイーストを湯で溶く。

米油・・・54g(6)
バシナージュ(足し水)・・・45g(5)

※グラム数の後ろの()はベーカーズパーセント

<ルヴァン・リキッドの味>

グリーンレーズンからおこした液種◎とはるきらり◎を合わせ、はるきらり◎と水◎で一日◎回種つぎしたもの。小麦のストレートな味を邪魔しないよう、酸味は控えめで、ヨーグルトのように爽やかで円みのある酸。

グリーンレーズンからおこした液種とはるきらりを合わせ、はるきらり100%と水120~130%と元種100%で毎日種つぎしたもの。小麦のストレートな味を邪魔しないよう、酸味は控えめで、ヨーグルトのように爽やかで円みのある酸。

<粉の配合>
強力粉8:薄力粉2。ほどよいボリューム感と歯切れのよい食感のバランスを追求。

<材料の特徴  パーム油>

パーム油

「ダーボン」社の有機栽培のパームから搾油した有機パーム油。溶剤を使わない物理的圧搾法で作られ、トランス脂肪酸は1%未満。有機JAS認証取得。

<材料の特徴  豆乳>

豆乳

使用する豆乳は2種類。生地に乳味を与えるために使うのは「タニタカフェ監修 オーガニック無調整豆乳」。ツヤ出しに使うのは「濃厚おいしい無調整豆乳」(共に「マルサン」)。豆乳は何種類も味見と試作を繰り返した。「飲んでおいしい豆乳でないと。想像以上にパンの味に響く」とシェフ。

<目指す「焼き上がり」と「断面」>

「焼き上がり」と「断面」

上下の温度差で作るクラムとクラストのほどよいコントラストと、側面に入る食欲をそそるホワイトライン。内相は、ふわっとしながら細やかな気泡とシルキーなテクスチャー。心地よい歯切れ。頬張るとほんのりミルキーなニュアンスが立ち昇る。


【工程表】
ミキシング
1速5分、2速3分、4速7~8分
バシナージュ用の水と油を加え、1速1分、2速30秒、3速30秒、4速1分
捏ね上げ温度26℃

冷却
-7℃で9時間

1次発酵・復温
30℃・70 %で6時間かけて生地を16℃まで復温

分割 
60g

丸め

ベンチタイム 
30℃・70%で30分

成形

最終発酵
30℃・70%で50~60分

焼成
豆乳をドレ
上火240℃、下火190℃で9~10分


【「ヴィエノワ」の作り方】

[下準備]

あらかじめドライイーストは40℃の湯に溶かし混ぜ、菌を活性化させる。

あらかじめドライイーストは40℃の湯に溶かし混ぜ、菌を活性化させる。

[1]ミキシング

ミキシング

スパイラルミキサーに豆乳とパーム油、ルヴァン・リキッドと水(夏場は氷水)、粉類、イースト溶液を加え、1速で5分回す。

[2]

スパイラルミキサー

生地がまとまり、ボウルの内壁から離れてきたら、2速で3分回す。

[3]

生地がまとまり

4速で7~8分回す。
POINT:ミキシングは最小限にとどめ、グルテンの形成を必要最低限に抑える。

[4]

きれいな楕円形の穴

生地をつまみ左右に引っ張り伸ばした時、写真のようにごく薄い膜が張り、きれいな楕円形の穴ができる。

[5]

バシナージュ用の水と油を加え

バシナージュ用の水と油を加え、1速で1分、2速で30秒、3速30秒、4速で1分回す。
POINT:バシナージュのタイミングで液体油脂を加えて、窯伸びを助ける。

[6]こね上がり

こね上がり

仕上がりの生地。捏ね上げ温度は26℃。うるっとしたツヤのある生地。生地の表面が水分をたたえている状態。

仕上がりの生地

手で伸ばすと、しっかりと反発するようなコシと伸展性を感じる。この感触がないと窯伸びしない。

[7]

しっかりと反発するようなコシと伸展性を感じる

ばんじゅうに取り出し、蓋をしてドウコンディショナーに入れる。翌日の作業時間に合わせて-7℃で数時間置く。

[8]1次発酵・復温

1次発酵・復温

30℃設定で6時間かけて、生地温度を16℃まで復温させる。復温後の状態。生地はゆったり広がり、気泡はやや少なめ。
POINT:時間をかけて復温させることで、粉にしっかり吸水させる。

[9]

パンチ

打ち粉をした台に生地を取り出す。

[10]分割

分割

スケッパーで60gずつ分割する。分割は2カット以内で切り分けられるようにする。

[11]丸め

丸め

手の中で転がしながら、生地を下に入れ込むように優しく丸め、表面の生地を張らせる。
POINT:強く締めすぎず、ベンチタイムの間で生地がゆるむ加減を意識。

[12]ベンチタイム

ベンチタイム

ばんじゅうに入れて蓋をし、ドウコンディショナー(30℃・湿度70%)で30分休ませる。

[13]

30分後。ツヤがなくなり、生地はゆるんだ状態

30分後。ツヤがなくなり、生地はゆるんだ状態。

[14]成形

成形

生地を平らに伸ばし、手前から奥へ二つ折りにする。

[15]

手の中で転がすように表面の生地を張らせ、丸める。天板に並べる。

手の中で転がすように表面の生地を張らせ、丸める。天板に並べる。

[16]クープを入れる

クープを入れる

表面に4本、クープを入れる。

[17]最終発酵

焼成

ドウコンディショナー(30℃・湿度70%)で50~60分発酵させる。触ると空洞があるような質感で約1.5倍に膨らむ。表面は乾いて、ツヤがなくなる。

[18]

刷毛で豆乳を塗る。

刷毛で豆乳を塗る。
POINT:固形分の多い濃厚な豆乳を表面に塗るとツヤがよく出る。

[19]焼成

最終発酵

上火240℃、下火190℃の平窯で9~10分焼成する。スチームは不要。8分後に一度天板を180度回転させる。

[20]

焼き上がり。

焼き上がり。


◎ユニバーサルベイクス 二コメ
東京都世田谷区北沢3-19-20 reload内2階
☎03-6407-1021
Instagram:@universalbakes_nicome

◎ユニバーサルベイクス &カフェ
東京都世田谷区代田5-9-15 
☎03-6335-4972

料理通信メールマガジン(無料)に登録しませんか?

食のプロや愛好家が求める国内外の食の世界の動き、プロの名作レシピ、スペシャルなイベント情報などをお届けします。