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SDGs

サバイバルレシピ07 新潟【からし巻き】

フードロスを出さない! 大根をおいしく食べ尽くす雪国の保存術

2021.12.27

text and photographs by Masako Naito

連載:サバイバルレシピ

⾷糧難、災害時をどう乗り越える?

人口爆発による食糧難や自然災害で、これまで当たり前にあった食物が手に入らなくなったとき、求められるのは限られた資源でサバイブする「生きる力」です。日本各地に残る保存食、発酵食、郷土食に、自然の恵みを無駄なく食べつなぐためのサバイバル・テクニックを探ります。冬野菜の大根を長期保存して春先までおいしく食べ尽くす雪国の知恵を新潟在住のフォトグラファー、内藤雅子さんに教わります。

目次






越冬に最強の冬野菜、大根

毎年秋から冬にかけて、新潟県内のあちこちの家の軒先では、収穫後の大根を吊るして、干している光景を目にする。丸ごと一本干した大根を使って、たくあんを漬けるのだ。この吊るして乾燥させる光景は、新潟の冬の風物詩。新潟生まれ新潟育ちの私も、子供の頃から当たり前のように目にしてきた光景で、見かけると「今年も冬が来たな」なんて思う。

雪深い新潟県では、昔から大根は越冬のための貴重な食料だった。秋に収穫した大根は、たくあん漬けにするほか、葉を切り落として藁を敷いた土の中で丸ごと保存し、野菜の収穫が減る冬の間、食べつないだ。雪が解けた春頃には、残りの大根を干して使う。干すことで、大根の旨味が凝縮し、長期間保存も可能になる。もちろん、切り落とした大根の葉も無駄にしない。味噌汁に入れたり、炒めたりと、全部をきちんとおいしく食べてきた。雪国の暮らしには、「フードロス」を出さず、大根をおいしく変身させるレシピが伝わっている。

新潟に伝わる「干し大根」を使った郷土料理を、新潟市西蒲区(旧西蒲原郡西川町)の農家、中澤光子さんに教えてもらった。

左から、稲川ヤイ子(いながわやいこ)さん、中澤光子(なかざわみつこ)さん、内藤弘子(ないとうひろこ)さん。

左から、稲川ヤイ子(いながわやいこ)さん、中澤光子(なかざわみつこ)さん、内藤弘子(ないとうひろこ)さん。


越後平野が広がる新潟市西蒲区は、佐渡島が目の前に見える日本海沿いにある。砂丘地での栽培に向いている大根は、この地域でも作られており、稲刈りが始まる前の8月下旬から9月上旬に種を蒔き、雪が降る前の10月から11月にかけて収穫されるそうだ。

「大根の種はね、だいたいお祭り(毎年8月25日前後にある秋祭り)の頃に蒔くんだわ。早くても遅くてもダメ、その時期に蒔く大根が一番太く、大きくなるんだて。なんでだかわからねけど、昔からそう言われてんだて」と、中澤さん。

自宅近くの畑で大根をはじめとする冬野菜が作られていた。

自宅近くの畑で大根をはじめとする冬野菜が作られていた。

干し大根を使った新潟県の郷土料理に、上越地方の「はりはり漬け」がある。「干し大根漬け」というのが正しい名称のようだが、食べたときに「はりはり」と音がすることから、そう呼ばれているようだ。北海道の「松前漬け」に似ているが、その違いは、干した大根を使っていること。

干し大根を小口に切り、スルメ、昆布、数の子を加えて和え、醤油、酒、みりんを合わせた漬け汁に漬けて寝かす。寝かせば寝かすほど、スルメと昆布のだしが大根にしみておいしくなる。ご飯のお供や酒のつまみにもなり、お茶請けに出されることもある。

はりはり漬けにする大根は、皮をむかず丸ごと1本を半分に切り、さらに縦に4~6等分に切って紐や縄で結ぶ。

はりはり漬けにする大根は、皮をむかず丸ごと1本を半分に切り、さらに縦に4~6等分に切って紐や縄で結ぶ。

天候の安定しない新潟の冬。風通しがよく、雨の当たらない軒先に紐や縄で縛った大根を吊るして干す。

天候の安定しない新潟の冬。風通しがよく、雨の当たらない軒先に紐や縄で縛った大根を吊るして干す。

1週間ほど干すとシワが入り、しんなりする。天気のいい日は陽の当たる場所に、雨が降りそうな日は家の中のストーブの側で干したりと臨機応変に、好みの干し加減に仕上げる。

1週間ほど干すとシワが入り、しんなりする。天気のいい日は陽の当たる場所に、雨が降りそうな日は家の中のストーブの側で干したりと臨機応変に、好みの干し加減に仕上げる。


数の子が入っているので、正月のおせち料理の一品として年末年始によく食べられている。鷹の爪やショウガ、ユズを加える家庭もあるようだ。

数の子が入っているので、正月のおせち料理の一品として年末年始によく食べられている。鷹の爪やショウガ、ユズを加える家庭もあるようだ。


ご飯がすすむ! 田植え時期のごちそう「からし巻き」

中澤さんの「からし巻き」は、皮を紐にしてくるりと巻くスタイル。

中澤さんの「からし巻き」は、皮を紐にしてくるりと巻くスタイル。

「からし巻き」は、輪切りの干し大根に和がらしを巻いた漬物。醤油ベースの味付けにピリっとした和がらしの辛味が、ご飯にとても合う。今では市販品も出回り、1年中食べられるが、昔は、冬の間保存していた大根の残りを使って、4月下旬~5月の田植えの前に作っておき、田植え作業の忙しい合間にご飯のおかずにしていたそうだ。一枚、一枚、からしを塗って巻いて作るからし巻きは、今ほど食べ物がなかった時代には、手をかけて作る貴重なごちそうだったのだろう。醤油の漬け汁に漬けることで長く保存もできる。

まず、大根を薄い輪切りにし、ザルに広げて風通しのよい場所に干して乾燥させる。「薄すぎてもダメ、厚すぎてもダメ。5〜7㎜くらいの厚さがちょうどいんだて、目分量だけどね」と中澤さん。乾燥して縮むので、大根は太くて大きいものを。直径12cmほどだった大根は、数日干すと水分が抜けてカラカラに乾き、5cmほどの大きさになる。

皮をむいて輪切りにした大根を乾燥させ、水で戻してからしを巻く作り方が多いが、中澤さんは皮をむくように紐状にして、大根にくるりと巻き付ける。「どうせ全部食べるんだっけ、巻けばきれいに見えるしね」

直径12cmほどの大根を輪切りにし、1枚ずつ干す。ザルがなければ、洗濯干しを代用してもいい。

直径12cmほどの大根を輪切りにし、1枚ずつ干す。ザルがなければ、洗濯干しを代用してもいい。

最近では、和がらしだけでなく、細切りのショウガやニンジン、スルメを巻いたりと、アレンジ自在。漬け汁も家ごとに違い、市販のめんつゆを使ってもいいそうだ。「お好みで、好きなように作ればいんだて」と中澤さん。新潟の寒くて長い冬を越すために考えられたレシピが、アレンジを加えながら今に受け継がれている。旬にしか味わえない食材のおいしさを余さず、長持ちさせる保存食作りは、手間がかかるのに実に楽しそうで、とても豊かで贅沢な時間だと思った。


大根の皮も無駄なく使う「からし巻き」の作り方

1. 大根をスライスする 直径12㎝ほどの太さの大根を、5~7㎜程度の輪切りにする。写真のように、皮部分が紐になるようにむいてもよい。

1.大根をスライスする
直径12㎝ほどの太さの大根を、5~7㎜程度の輪切りにする。写真のように、皮部分が紐になるようにむいてもよい。

2. 大根を干す ザルに大根を重ならないように広げ、陽当たり、風通しの良いところで数日干し、カラカラに乾燥させる。直径5㎝程の大きさになる。

2.大根を干す
ザルに大根を重ならないように広げ、陽当たり、風通しの良いところで数日干し、カラカラに乾燥させる。直径5㎝程の大きさになる。

3. 湯で戻す 大根を湯で軽く洗いながら戻す。軽く絞って水分をふき取り、広げる。

3.湯で戻す
大根を湯で軽く洗いながら戻す。軽く絞って水分をふき取り、広げる。

4. からしを巻く からしを中央に載せ、クルクルと巻く。皮で紐を作った場合、巻き付ける。保存容器に並べる。

4.からしを巻く
からしを中央に載せ、クルクルと巻く。皮で紐を作った場合、巻き付ける。保存容器に並べる。

5. 漬け汁に漬ける 大根にかぶるくらいの量の漬け汁を作る。鍋に醤油、酒、みりんを1:1:1の割合で入れて沸かす(好みで砂糖を入れてもいい)。冷めたら【4】に注ぐ。翌日から食べられ、冷蔵庫で1カ月ほど保存できる。

5.漬け汁に漬ける
大根にかぶるくらいの量の漬け汁を作る。鍋に醤油、酒、みりんを1:1:1の割合で入れて沸かす(好みで砂糖を入れてもいい)。冷めたら【4】に注ぐ。翌日から食べられ、冷蔵庫で1カ月ほど保存できる。


【動画をcheck!】「からし巻き」の作り方

<からし巻きが買える場所>
◎岩崎食品
新潟県新潟市西蒲区松野尾13
☎0256-72-4774
http://iwasaki-shokuhin.jp/


内藤雅子(ないとう・まさこ)
新潟県出身、在住のカメラマン。地方情報誌を発刊する出版社専属カメラマンを経て、独立。新潟を拠点に料理、人物、地域、建物、取材インタビュー写真等、広告写真を中心に活動中。毎年秋頃には主催イベント「Sunday写真館」を開催し、毎年たくさんの家族写真を撮り続けている。
https://masakonaito.com/
Instagram:@masako.naito

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