ブランド野菜に頼らない!県産野菜100%、埼玉縛りの小さな料理店
2023.07.31
photographs by Sai Santo
連載:ブランド野菜に頼らない
小さくて強い店で見つけた野菜との付き合い方
食材を地元産に絞る、独自のアプローチで奮闘する、小さくて強い店の野菜使いをクローズアップ。制約を強みや個性に換える、シェフの技をご紹介します。
目次
あるものでやるしかない!
埼玉県さいたま市。大宮駅前の繁華街を抜け、氷川神社へと続く長い長い参道をほんの少しそれた脇に佇む「デリカ」は、「埼玉県産」を謳う小さな店だ。ワインや調味料を除き、素材はオール埼玉県産を徹底して貫く。店主の山﨑暢さんは九段下「シェラタント」や青山「ローブリュー」を経て、富ヶ谷「アヒルストア」等で経験を積んで独立した。
「ないものはない。あるものでやるしかないんですよ」と爽快に笑う。11月~1月の煮込みが恋しくなる時期に、タマネギをまったく使わないでやり切った、というのには驚いた。「このテーマで店をすると決めてから、埼玉県産のタマネギは10月~3月頃は途切れてしまうというのを初めて知りました。様々な料理に欠かせない野菜なので頭を悩ませましたが、結局長ネギで代用できちゃいました」
長ネギを使って作った煮込みやグラタンは、タマネギを使ったそれとまた違った香味や甘味があり好評だったという。柑橘が途切れる今の時期(6月末~8月)はレモンの要領でプラム果汁を活用する。レモン果汁の代わりに皮ごと絞ったプラム果汁を使ったピクルスは、プラムの皮のタンニンとバラのような香味、果汁の甘味&酸味がまた違ったニュアンスを料理に与え、独創的な味わいだ。これは面白い。この店で、その時しか食べられない、一期一会のおいしさがある。
オール埼玉産を貫く理由
オール埼玉産を貫くのには理由がある。思いがある。きっかけは6年前、父が差し入れてくれた地元・埼玉産の果物だった。「こんなにおいしいものが近くで採れるのだ、という事実に驚いたんです」。以来、週末を利用しては埼玉県内の産地直売所や農家を訪ね、県産野菜や果物を探するようになり、農家との交流も増える中で地元の食材が持つ多様な豊かさに圧倒されたのだという。「ポテンシャル100%のままを使って作った料理を地元埼玉で提案したい」
店休日や14時の開店時間までを利用して埼玉県内の販売所や生産者を巡る。秩父や狭山にも足を伸ばす。仕入れた野菜は店内に並べ、販売もする。ストックスペースがそんなにある訳じゃないから、有り余るほどのキャベツなどは漬け物などに加工したり、煮詰めてソースに。作りおける付け合わせの常備菜も多く用意し「ローブリュー」仕込みの潔い肉のメインに健やかな華を添える。ちなみに肉は「あえてブランド化せず、地域の人に安価でおいしい豚を食べてほしいという考えで作られている」、一般の精肉店で手に入る入間産の地豚を使う。シャルキュトリーは自家製だ。
干したり漬けたり、塩揉みしたり、そんな作業に多くをかける。「丁寧な下塩1つで、味わいが一段も二段も違ってくる。1人でやってるから時間はないけれども、その手は抜かないように自分を戒めています」。なめ味噌で作る「大麦のサラダ」は、多種類の野菜を合わせる料理。たとえ野菜が移り変わろうとも、味の根幹が変わらないこの料理は「デリカ」の定番料理として愛されている。
山崎シェフの野菜との付き合い方
[1]生産者から直接購入
朝採った野菜を荷台に積んで、生産者が店の前まで売りに来てくれる。農家さんと話し、助言をもらいつつ購入。その一人、浦光夫さん(写真左)は、「ハードルが高い野菜などもおいしく料理にしてくれ、僕も張り合いが出ます。彼はとても勉強熱心ですね」。
[2]買った野菜は店頭に
多めに買って、常温で保管するものは青果店のように店頭に並べ、販売もしながら店で随時消費していく。
[3]さあ、これから何仕込もう
野菜を前に、2~3日先を見据えた献立計画を立てる。仕入れても店頭で売れて使えずに終わる野菜も。
[4]メニューは日々マイナーチェンジ
野菜の状況に応じて、メニューは細かくマイナーチェンジ。毎日、黒板メニューは書きかえる。
◎デリカ
埼玉県さいたま市大宮区宮町3-161
☎048-856-9522
14:00~19:30LO
火曜休
JR大宮駅より徒歩10分
(雑誌『料理通信』2019年9月号掲載)
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