加工前のひと手間で、ファンを作る 熟成サツマイモ
[千葉]未来に届けたい日本の食材 #23
2022.12.05
変わりゆく時代の中で、変わることなく次世代へ伝えたい日本の食材があります。手間を惜しまず、実直に向き合う生産者の手から生まれた個性豊かな食材を、学校法人 服部学園 服部栄養専門学校理事長・校長、服部幸應さんが案内します。
連載:未来に届けたい日本の食材
最近は焼き芋フェスが開かれるほど、サツマイモが人気です。千葉県東部の香取市で、未来を見据え、父と共に、サツマイモの生産はもとより、サツマイモを熟成させて糖度を上げる取り組みや、干し芋、焼き芋などの商品開発に力を入れる、「石田農園」の石田湧大さん(取材当時26歳)を訪ねました。
わが家は私で8代続く農家です。18歳の時に農業をやると決めていたのですが、父のすすめで、大学では農業とは関係ない経営学を専攻。卒業後はPR会社に就職して、どんなふうにすればモノを広め、売れるのかを学びました。2年勤めたあと、本格的に農業を継ぎたいと父に話したところ、多角的な経営ができるようにと会社組織にしてくれました。
モノを売るためには、ファンを作ることが大事です。でも生のお芋は、加熱する時間や調理方法によって味が変化するため、ファンを作るのは難しい。もしお芋がすぐに食べられておいしかったらファンはつくに違いない。差別化のポイントはどこなのか。社長の父と共に考え、収穫後のサツマイモをすぐ加工するのではなく、いったん熟成させて糖度を上げてみることにしました。
デンプンを糖に変えるわけですが、どんな環境でどれくらい保管するともっとも糖度が上がるのか、試行錯誤を5年ほど繰り返しました。最終的に、土地の高低差を利用して室を掘り、高湿度の土壁の中で熟成させると、40日ほどで糖度が上がり、火を入れた時の香りもよくなることがわかりました。
この甘い芋を使って、家族、従業員一同で商品開発にも力を入れました。まず、干し芋。一般的には黒ずんだり、白くなった干し芋がありますが、うちはきれいな黄金色が特徴です。芋をふかして薄切りにして、7日間天日干しにします。熟成芋を使うと、糖度が45度以上あるため、むちっとグミのような食感になるので、「グミいも」と名付けました。食べやすいよう、サイズも小さめにしています。
それから、「焼き芋」。生で出荷するには手間がかかり、規格外になることも多い小さな芋を使って、食べきりサイズにすることでさらに差別化をしました。栄養のある皮も食べられて、日持ちは30日。甘さはもちろん、ねっとりとした食感で繊維質がまったく気になりません。これは紅はるかとシルクスイートの2品種で展開しています。熟成サツマイモは、季節限定品です。自然の力で甘くできる期間は、12~2月の終わりまで。このあとは、サツマイモの苗作りに入ります。
千葉県旧栗源町は江戸にサツマイモが広まった時、試験栽培をしていた土地で、昔から縁がある野菜です。日本でいちばんたくさんの品種のサツマイモを揃える道の駅もすぐそばにあります。20代の自分が新しい挑戦をすることで、地元に若い後継者が増え、みんなで千葉の農業を盛り上げていけたらと願っています。
◎さつまいもの石田農園
千葉県香取市荒北876
https://satsumaimo-ishidanouen.com/
◎道の駅 くりもと
☎0478-70-5151
(雑誌『料理通信』2020年4月号掲載)
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