「産食率」を、毎日計測。少量生産と少量消費、小さいものと小さいものをつなぐ。
徳島県神山町Food Hub Project
2023.09.04
text & photographs by Koji Nakano
徳島県名西郡神山町で、2016 年に立ち上がった「Food Hub Project」。
キーワードは地産地食、Farm Local, Eat Local. です。
地元の食材を地元で食べる。それによって、農業と食文化を次世代につないでいく。
“食べて支える”取り組みの中で、パンとパン職人が担う役割は小さくありません。
(2018年5月に掲出した記事の再掲載です)
真ん中に“かま”がある。
「『食堂、パン屋さん、直売所をやる会社やろ?』とよく言われますが、『農業をやる会社です』とお答えしています」。株式会社フードハブ・プロジェクト支配人の真鍋太一さんは快活に話す。
ここ徳島県名西郡神山町は、人口約5500人の中山間地域だ。農業従事者の平均年齢は71歳と高齢化して、担い手不足による耕作放棄地の増加や農環境の悪化による鳥獣害被害が問題になってきた。そこで神山独自の農業の担い手を育てる仕組みづくりが必要と考え、誕生したのがフードハブ・プロジェクトである。
「地産地食」を軸に、神山で育て、神山で調理し、神山で食べる。この仕組みをダイレクトに循環させる場所として、食堂の「かま屋」、パンと食材の「かまパン&ストア」を運営する。
「昔、この辺りでは土間にかまどがあって、近所の人が気軽に入ってきてはお茶と世間話をしていたそうです」
その台所を「かまや」と呼んでいた。「かま屋」「かまパン&ストア」という店名はそこから取った。「かま屋」はオープンキッチン。食堂の真ん中に火元がある。「かまパン&ストア」は別棟にあって、パン職人が暗いうちから焼き上げたパンをはじめ、食堂で使っている調味料や地域で作られた加工品を販売する。
顔を見て焼くパン。目標は体調に合わせて焼くパン。
パン製造責任者の笹川大輔さんは、東京から家族で移住してきて、かまパンの立ち上げから参加した。
18歳からパン職人の道を歩み始めて14年。父親もパン職人だった。東京のパン屋さんで働く中で、自分が焼きたいパンってどんなパンなんだろうと考え続けた。
「パン職人の生き方にもいろいろある。コンクールで賞を目指す人もいる。でも、私が作りたいのは日々のパン。お客さんと話しながら作る、地元に根付いたパン」
自分の店を持つ夢もあったが、フードハブ・プロジェクトを知って参加。現在、神山の在来小麦を使ったカンパーニュや自家培養発酵種で作る食パン、バゲットや野菜パン、おやつパンなどを、毎朝5時からパン職人の山田友美さんと共に作る。
「かまパンには"農業と食をつなげる"役割があります。地元で採れた素材をたくさん取り込んで、地元の人々との関わりを大事に作っています」
看板の食パンは自家培養酵母の酸味やもっちりとした食感で人気だが、「食べ慣れない」と話すお婆ちゃんたちのために、真逆の「超やわ食パン」を開発した。
「誰がどのパンが好きで買っているのか、こんな食べ方したよとか、今日は歯医者から帰ってきたよ、とか、パンを作りながらお客さんと会話するんです。最終的にはその人の体調に合わせたパンを作りたい」
パンが在来の種と畑を守った。
「小麦は基本的に水やりをしなくても育ちます。水源が整っていないような、耕作放棄地になりかけている圃場でも育てられるので、農業を持続していく上で小麦はいい」。そう語るのは農場長の白桃薫さんだ。
白桃さんの家には、70年間受け継がれてきた在来小麦(品種はわからない)の種があった。以前は育てた麦で味噌や醤油を作っていたが、近年は種を採るためだけに栽培されてきたという。
その小麦でパンを作ろう——パン職人・笹川さんの挑戦が始まった。元々がパン用の小麦ではないから、タンパク値が低く、パンになりにくい。余すところなく全粒粉で使おうとするから、なお作りにくい。他の小麦粉をブレンドしたり、水分量を変えたり、発酵時間を調整したり、試行錯誤を繰り返して完成させたのが「カミヤマカンパーニュ」である。もうひとつのパン「神山100」は在来小麦100%。ドイツパン、プンパニッケルをイメージした製法で笹川さんが焼き上げている。
「在来小麦をパンにする職人がいる。パンになって地元の人々に食べてもらえる。また種を蒔き、育てられる。それが、神山の田畑を守ることにつながる」と白桃さん。
パンの力で、白桃家の種は神山町の種になった。
料理人とのセッションが新しいパンを生む。
2月第1週56%、第2週53%、第3週55%、第4週55%——何の数字かと言えば、「産食率」。
フードハブ・プロジェクトでは、食堂「かま屋」の料理に使われた町内産食材の比率を「産食率」(地域で育てて、地域で食べる割合)として毎日計測。ウェブ上で毎週、テーブル上で毎月公表している。
「食堂を運営していく上で、また地域の食文化を豊かにするという意味からも、いろんな野菜があったほうがいい。少量多品目、農薬不使用、有機肥料のみで野菜を育てています」と真鍋さんは言う。
そんな季節の野菜は食堂の料理ばかりでなく、パンにもなる。惣菜パンは料理長の細井恵子さんから提案。パン職人はパンをベースに考えがちだけれど、細井さんは野菜をおいしく食べるパンとして考える。そこがいい。
「ストアでは調味料の販売もしているので、それも巧く組み込ませながら、ちりめんじゃこのオイル漬けを野菜と和えてパンにのせてとか、ここに醤油をかけて、ラー油を垂らしてなどと、料理の視点からディレクションします」
大人気の「神山ローフ」は季節の素材を練り込んだパンだ。春ならよもぎ。笹川さんの「よもぎの量は25%でいいですか、30%でどうですか?」という提示に、細井さんが「いやいや、80%練り込んでみてください」と返すやりとりから完成した。
「パン職人からすれば『えっ!?』て思うことを伝えているかもしれません。でも、そのせめぎあいが商品開発に結実していると思う」。
今年初めの約1カ月間、イタリアで3年間の修業経験を持つ料理人、川本真理さんが神山町に滞在した。「シェフ・イン・レジデンス」と呼ばれるプログラムで、料理人を神山に迎え、共に畑や食堂で働きながら、地域の新たな可能性を見出そうというもの。2月にはNYからダニー・ニューバーグが2週間やってきた。
「フードハブ・プロジェクトは、少量生産と少量消費、小さいものと小さいものをつなぐことで、日本のどこの田舎にもある課題を解決しようという取り組み」と真鍋さんは言うが、イタリア文化ともつながってしまうこの小さなプロジェクト、なんだかとっても誇らしい。
徳島県神山町「まちを将来世代につなぐプロジェクト」ドキュメントより。
◎ かま屋、かまパン&ストア
徳島県名西郡神山町神領字北190-1
月曜、火曜休(月曜が祝日の場合営業)
http://foodhub.co.jp/
かま屋
☎ 050-2024-2211
朝8:00~10:00 昼11:00~14:00
茶14:00~17:00 夜18:00~21:00LO
かまパン& ストア
☎ 088-676-1077
9:00~18:00
<OUR CONTRIBUTION TO SDGs>
地球規模でおきている様々な課顆と向き合うため、国連は持続可能な開発目標 (Sustainable Development Goals) を採択し、解決に向けて動き出 しています 。料理通信社は、食の領域と深く関わるSDGs達成に繋がる事業を目指し、メディア活動を続けて参ります。
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