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FEATURE / MOVEMENT

【シェフたちの森グルメ】達人に学ぶジビエとの向き合い方

軽井沢「MANO」西本竜一

2026.01.29

【シェフたちの森グルメ】達人に学ぶジビエとの向き合い方

text by Sawako Kimijima / photographs by Atsushi Kondo

連載:【森グルメ】森と人との関わりを考える

フォレイジング(野山での採集)と薪火調理に熱中する自然派シェフ、軽井沢「MANO」西本竜一さんは、シーズンになるとイノシシ、クマ、マガモ、カルガモ、アナグマ、シカなど、様々なジビエを調理します。これらの供給者は、新潟県糸魚川市でジビエの捕獲・加工・販売を手掛ける「惣右ェ門」青田徹さん・葉子さん夫妻です。「料理のイメージを伝えると、それにふさわしい個体を獲ってくれる」と西本シェフ。
天然の食材に精通する料理人が絶対的信頼を寄せるジビエ職人の仕事場に、西本シェフの案内で潜入しました。

目次







「見る」「撃つ」「捌く」の精度の高さが生むクオリティ

西本シェフが青田さん夫妻と出会ったのは、スノーピーク在籍時代(2020~24年)。「スノーピーク ランドステーション 白馬」などで腕をふるっていた頃だという。食材を探し求めて、様々な産地や生産者を訪ね歩き、たどり着いた一人が青田さんだった。「これは凄い人を見つけてしまったと興奮しました」

西本シェフの車
西本シェフは車に、保冷庫、保冷剤、採取道具、調理道具を常備。フォレイジング目的でない旅先でも「これぞ」という食材に出会ったら、直ちに購入して、その場で適切な処置をして持ち帰る。毛布は車中泊の時のため。
青田さんと西本シェフ
「青田さんから、『独立するなら、肉を卸してあげるよ』と言われて、自店オープンの決心がついた」と西本シェフ。自らの料理観を表現する上で青田さんのジビエは必須と考えている。

クレー射撃の全国大会で優勝した経歴を持ち、狩猟に親しんできた青田徹さんが、建設業の傍ら、ジビエを解体する食肉加工施設を造ったのは、2015年。シカやイノシシによる農作物被害が増加し、害獣駆除が叫ばれた頃で、「害獣とはいえ、命を粗末にするのは忍びない」との思いからだった。国の定めた野生鳥獣肉の衛生管理指針に基づく食品営業許可の取得は、当時、県内でもまだ2番目。個人による解体施設の先駆けだった。

惣右ェ門のジビエのクオリティは、徹さんと葉子さん、2人の連携の上にある。獲って来るのは徹さんだが、食肉加工施設の管理責任者は葉子さん。その衛生管理は厳しい。というのも、葉子さんのポリシーが「子どもに食べさせられるものを」に端を発しているからだ。葉子さんは「肉を傷めずに良い状態で持ち込んでほしい」「安心して食べさせられるように仕上げてほしい」と、あくまでも食肉としての品質を徹さんに求め、徹さんがその要求に応えることで評価を得てきた。

青田徹さん
青田徹さんは銃猟免許を取得して40年近いキャリア。狩猟の他に海釣りにも長けている。「潮を見て、魚がどこにいるかがわかるんですよ」と西本さん。
捕獲した動物
自前の食肉処理施設には、捕獲した動物を吊るすウインチ、作業台、シンク、水場、冷凍庫、冷蔵庫、真空パック機などが設置され、解体・加工・包装・保存と一連の作業が一気通貫に行われる。

前述の「料理のイメージを伝えると、それにふさわしい個体を獲ってくれる」という西本シェフの言葉は、徹さんの狩猟技術がいかに卓越しているかを示す。「うり坊(子どものイノシシ)が欲しいと言えばうり坊を、大人のイノシシと言えば成獣を獲ってくれる」。結果論ではなく、狙って獲るのである。

それを可能にするのが、徹さんの山を見る眼だ。日々、山に入って、けものみちを観察して、足跡などの痕跡から生態をチェック。どのくらいのサイズのイノシシが、山のどの辺りに、何頭くらい生息していて、どのように行動しているか、おおよそを把握している。天候や気温、湿度によって、どんなふうに行動が変化するかも掴んでいるから、どこに罠を掛ければ、どんな個体が獲れるかも計算ずく。「70%以上の確率で狙った獲物を獲る」と青田さんは言う。

イノシシは括り罠で捕獲して、火薬を使わない空気銃で止め刺し。マガモやカルガモは散弾銃20番(口径が小さい)で撃つが、肉を傷めぬよう、射撃用の弾を用いる。イノシシ、シカ、クマはライフルで。衝撃を小さくするために爆発力を抑えた特注の弾を使用している。と聞くと、肉のクオリティを上げるためにでき得る限りの策を講じているのだと実感する。

自然や獲物を精度高く見ているか。精度高く撃てるか。精度高く捌けるか。3つが揃っているから、青田さんのジビエの精度は高い。

青田さん
的の真ん中に当てるのは容易なので、あえて別の場所(たとえば数字の1)を標的に撃ち込むといった練習をする。「弾の節約のため、マガモのつがい2羽を1発の弾で撃ち落とすんですよ」と技術の高さを西本シェフが証言。毎年のように北海道へ狩猟の修業に出向いて技術を磨いたそうだ。

肉質を追求した解体法とは

この日、西本シェフ、御代田町「vase」岡田卓也シェフ、新潟市「宇呀(うが)」諏佐尚紀シェフが、惣右ェ門の食肉処理施設を訪れ、解体を体験した。

青田さんは重要なポイントとして、血・熱・水の除去を挙げる。「止め刺し後、直ちに放血する。内蔵を取り出し、皮を剥ぎ、大腿骨を外し、熱を逃がして冷やし込み。滲み出る水分は取り除く」。
施設内では、体液が体外に抜け切るよう、逆さ吊りにして、アンコウの吊るし切りスタイルで解体するが、高くても5~6℃、真冬には1~3℃、「厳寒の季節には手袋を2枚重ねても手が凍え、全身が冷え切る」という冷気下での作業だ。

イノシシの解体に挑む
西本シェフ、岡田シェフが、自分たちで食べるイノシシの解体に挑む。西本シェフの「小さいイノシシをお願いします」というリクエストに応えて、当日朝捕獲したばかりの1歳ほどのオスのイノシシ。 (*取材対応のため、室温調整しています。青田さんは指導役)
イノシシの解体に挑む西本シェフ
西本シェフは解体を何度も経験済みだが、野生動物は個体ごとに性質が異なるから、毎回が初心。
青田さんが岡田シェフに手本を示す
皮と脂の間にナイフを入れ、静かに動かして、できるだけ脂を残すように皮を剥ぐ。諏佐シェフが見守る中、青田さんが岡田シェフに手本を示す。
できるだけ脂を残すように皮を剥ぐ
解体の経験は、肉の構造や性質を知り、適切な扱い方を知り、的確な調理、すなわちおいしい料理へとつながる。
作業台の上に吸水性の高い紙を敷く
作業台の上に吸水性の高い紙を敷いて、肉から滲み出る水分が肉に戻らないように配慮する。余計な水分は、味、食感、保存性など、いろんな意味で取り除く。
解体後、時間を置かずに-20℃の冷凍庫へ入れる
この日は塊のまま薪焼きにするため、解体はここまで。しゃぶしゃぶ用のスライスの場合には、解体後、時間を置かずに-20℃の冷凍庫へ入れるという。

「自分で獲るから、的確な管理ができる」と青田さんは言う。「個体のサイズや年齢、雌雄の別に合わせた処置や管理のみならず、いつ獲ったか、どう獲ったかで、加工の仕方や保存法は変わる」。狩猟・解体・加工・販売、一気通貫で手掛けるからこそ、全工程をコントロールできて、肉質をベストな状態に引き上げられるわけだ。


駆除ありきのジビエ策からの脱却

農水省によれば、2010年前後から、ジビエの捕獲頭数も処理加工施設の数も増加の一途をたどってきた。しかし、害獣駆除から始まった日本のジビエ策は、あくまでも駆除ありき。食材としての利活用、ましてや食肉としての質の追求は後から付いてきた感が否めない。
現に、捕獲しても食肉としての利用率はまだ1割程度と言われる。撃っても山に放置して帰るハンターがいたり、持ち込まれてもすぐに解体しない処理施設(自治体の肝煎りで造設したにも関わらず)もあると聞く。ジビエは畜肉と比べて飼料や飼育にかかる環境コストの面でサステナブルな食材と目されるだけに、適切な利活用の促進は喫緊の課題と言えるだろう。農水省はジビエ消費拡大を目指して、2025年11月~2026年2月に「全国ジビエフェア」を展開。フェア期間中、ジビエメニューを提供する全国の飲食店や小売店の情報をとりまとめ、特設サイトで紹介している。

青田さんは、自治体が推進する様々なジビエ利活用の施策に協力してきた。毎年ジビエ料理講習会を開き、2025年には地元の小学校のジビエ給食に携わるなど、ジビエ振興に貢献し続けている。
食肉処理施設から連なる広い敷地に、薪火調理の暖炉、バーベキューコンロ、薪火コンロ、調理台、テーブルなど、アウトドア調理ができる設備を整えているのも、料理人たちに訪れてもらってジビエの知識や技を深めてほしいがゆえだ。

解体したばかりのイノシシ肉を塊のまま焼き上げる
解体したばかりのイノシシ肉を、薪火調理用の暖炉へ。西本シェフが塊のまま焼き上げる。
ザクロの実を潰して作った即席のソース
ソースをぬる
庭のザクロの実を潰して作った即席のソースを、これまた庭の木の枝で作った天然の刷毛でイノシシ肉の表面に塗り付けながら焼いていく。
調理スペースの様子
調理スペースでは、イノシシ肉のすき焼き、イノシシ肉の胡麻味噌鍋を作成中。
イノシシ肉を使った胡麻味噌鍋
スライスのイノシシ肉を使った胡麻味噌鍋。かつて“牡丹(ぼたん)”と呼ばれたことを納得させる見事な鮮紅色。
岡田シェフ
岡田シェフのジビエの仕入れは青田さんと長野蓼科の猟師から。クマ、シカ、イノシシ、カモ、キジなどの他に、ハクビシンやアナグマなどをスポットで。「匂いや水分量の調整など管理を徹底して、骨、内臓、脂、すべて使い切る。たとえば、クマの脂で炊いた豆とクロモジのだしで火入れしたクマ肉に、クマのコンソメを張り、天龍村の柚子と菊、青唐辛子と行者大蒜で作ったグレモラータ(グリーンソース)を添えるといった具合です」
諏佐シェフ
諏佐シェフは青田さんはじめ、地元新潟市西蒲区の猟師や村上市の「菅井農園」、石川県南加賀地域のジビエを扱う「加賀の國ジビエ」、福井県敦賀市の「つぬがじびえ」から、シカ、カモ、イノシシ、クマなどを仕入れ、グリルやタコスで提供。気を使うのはやはり衛生面。雑菌のリスクがある羽や毛などの扱いは特に気を付ける。
焼き場での皆さん
猟師と料理人コミュニケーションを密に取ることで、料理人から食べ手に伝えられることが増え、食べ手のジビエ理解も深まる。
ジビエブロス専門店「朝太郎食堂」の商品
惣右ェ門のジビエの端材を仕入れてペットフードに仕立てているのがジビエブロス専門店「朝太郎食堂」。ジビエ商品としてはイノシシ、シカ、クマの3種。ペットフードは農水省も薦めるジビエのもうひとつの利活用法だ。

“和の食材”としてのジビエの可能性

惣右ェ門からジビエを仕入れる飲食店は全国で約30軒。うち10軒ほどは、東京、京都、新潟などの有名日本料理店である。最近、ジビエをメニューに取り入れる日本料理店が増えているが、日本料理の場合、調理法の性質上、鮮度は必須。欧州の伝統的なジビエの考え方とは異なる文化体系と言っていい。しゃぶしゃぶなど最小限の火入れと調味による食べ方に耐え得る肉質を、青田さんは提供してきたわけである。

確かに青田さんのジビエの処理は、魚の扱いを彷彿とさせる。血液や水分の処置、温度管理といった細部に注意を払って、鮮度を保ち、身質の向上を図る術は、日本人の感覚で磨き上げたジビエ仕事と言えるかもしれない。

イノシシ肉のスライス
イノシシやクマのしゃぶしゃぶを提供する日本料理店が増えた。惣右ェ門では、解体後すぐに冷凍して、出荷直前にスライスして送り届ける。あえて冷凍にすることで鮮度と極薄(料理店では不可能な薄さ)を実現している。(*写真は取材時の鍋料理用で商品ではありません)
青田徹さん
肉質に納得のいかない夏場は、害獣駆除以外、積極的には獲らない。おいしく食べてこそ動物たちも命を全うできる、おいしさを追求してこそジビエの良さが理解されて広まる、と考えるから。ジビエ職人としての矜持である。

「ジビエ」という外来の言葉に惑わされずに、ジビエをもっと“和の食材”として捉えるべきだと、青田さんの仕事は気付かせてくれる。山菜、木の芽、木の実、野草、キノコなどとジビエが同格に並ぶ自然条件こそ、日本の特権であり、日本のガストロノミーを世界に押し上げる原動力なのだから。そして、その鮮度と持ち味を極める仕事術が日本の料理をさらなる高みへと導く、と。西本シェフたち若き料理人の料理にはすでにそんな価値の提示の仕方が表れている。


惣右ェ門
Instagram:@souemon_gibier

MANO
長野県北佐久郡軽井沢町発地553-3
18:00~(一斉スタート)
土・日・月曜のみランチあり12:00~(一斉スタート)
火曜、水曜休

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