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JOURNAL / 世界の食トレンド

健全な労働環境で飲食業のサステナビリティを実現するゼロ・ウェイストレストラン「ノッラ」

Finland [Helsinki]

2026.03.30

健全な労働環境で飲食業のサステナビリティを実現するゼロ・ウェイストレストラン「ノッラ」

text by Asaki Abumi
ゼロ・ウェイストを提唱するレストラン「ノッラ」の定番「ブレッドパスタ(パンのパスタ)」。 余ったサワードウブレッドを乾燥させて粉にし、パスタ生地として再生した。リコッタチーズを作る際の副産物であるホエイをソースに使い、リコッタ、発酵させたイチゴのパウダーと提供する。photograph by Emma Ranne

2018年、ヘルシンキの街角にオープンして以来、「ノッラ(Nolla)」は北欧のサステナブル・ガストロノミーを牽引し続けている。スペイン出身のアルバート・フランチ・スニェール氏が、セルビア出身のルカ・バラッツ氏、ポルトガル出身のカルロス・エンリケス氏と共に立ち上げた。

「ノッラを始めたのは、1日の終わりにゴミを一切出さないレストランを作るためだ」と話すスニェール氏。その原体験は、故郷カタルーニャの鉱山町にある。町で一番大きな山が、実は採掘活動の廃棄物によって形づくられていたという風景が、彼の意識の在り方を方向づけた。

その後ファインダイニングの世界で、溢れかえるゴミ箱を目の当たりにして辿り着いたのは、レストラン運営のすべてを“繋がったシステム”として捉える包括的なアプローチだった。

「サステナビリティに取り組むレストランの多くは、有機食材、地産地消など、特定の分野に集中しがちだ。どれもポジティブなステップだが、そこで終わってしまうこともある。たとえば、食品廃棄物に焦点を当てても、食材のほとんどを使い捨ての包装で受け取っていれば、問題の大部分が未解決のまま残る。包装に注目しても、食材の出所や生産方法を問わなければ、全体像は不完全なままだ」

昨今のグリーンウォッシング(見せかけの環境配慮)にも厳しい視線を向ける。GHG排出量が増え続け、商品の消費サイクルが短くなっている現実と、各企業が謳うサステナビリティの整合性が取れていないと指摘する。

ノッラのメンバー
右からアルバート・フランチ・スニェール氏、カルロス・エンリケス氏、ルカ・バラッツ氏。ノッラにはオープン当初から多くの日本人が訪れているという。「日本人の食に対する探究心、理解力、体験を楽しむ姿は、見ていて本当にすばらしい」とスニェール氏。photograph by Antti Angeria

ノッラでは食材の仕入れから、包装の撤廃、エネルギー消費に至るまで、すべての意思決定が連動している。象徴的なのは、客席からも見えるコンポストマシン「Lauri」だ。厨房で出たゴミや客の食べ残しを24時間で栄養豊富な堆肥へと変え、最大90%のゴミを削減できる。
「包装されたものを避けているため、残るものは卵の殻や魚の骨、野菜の端材などだ。これらを“廃棄物”とは呼びたくない。土壌を再生させる農家へ戻すべき貴重な“資源”だからだ」
毎週火曜日に堆肥を提携農家へ送り、その土で育った野菜が再び店に届くことで、循環の輪が完成する。

店内に鎮座するコンポスト
店内に鎮座するコンポスト。卵の殻、だしやソースを取った後の魚の骨、野菜の端材のほか、インクを使わない段ボールなども“資源”となる。「コンポストをあえて見える場所に置くことで、気づいた客が『あれは何か』と質問し、レストランのあり方について会話の入り口となることもある」。photograph by Riikka Katinkoski

ノッラは業界の労働環境にも一石を投じる。「働く人々を大切にせず、環境をケアするのは偽善だ」と考え、週37.5時間労働を徹底。燃え尽き防止のための有給休暇を別途設ける他、チップは透明性を持って分配される。この「社会的サステナビリティ」こそが、健全な運営の基盤となっている。

ノッラの次なるステージは、培ったシステムや失敗の経験を惜しみなく公開することだ。
「ノッラが唯一無二の存在であったり、この方法で運営する“唯一のレストラン”であることを望んではいない。むしろその逆だ。これがレストランの一般的な運営方法であるべきだと信じている。他者が同じ方向に進むのを助けることは、私たちの義務であり責任だ」

唯一無二なビジネスモデルを、ノッラは業界全体の“当たり前”に変えていこうとしている。

店内にはボスニア「Artisan」社製の高品質な木製家具が並ぶ
店内にはボスニア「Artisan」社製の高品質な木製家具が並ぶ。当初アップサイクル素材の家具を探したが、デザイナーの友人から「長く使い続けられる高品質なものを選ぶことも、ゴミを未然に防ぐサステナビリティの形だ」と教わったことが、スニェール氏の考え方を変えた。「ゴミが出てから対処するのではなく、そもそもゴミが出ないシステムを設計する」というノッラの哲学の一部となった。photograph by Riikka Katinkoski
ノッラのギフトカード
ノッラのギフトカードは、ケシの「種」でできている。客は使用後に持ち帰り、土に植え、やがて花が咲く。店内のコンポストで作った堆肥を少量持ち帰り、種を植える際の肥料として使うこともできる。photograph by Riikka Katinkoski
ワインボトルから加工されたバター用の小皿
ワインボトルは店内で切断・加工され、バター用の小皿やキャンドルホルダーへと生まれ変わる。photograph by Asaki Abumi
プラスチック端材を固めて制作されたカトラリーレスト
カトラリーレストは過去7年間に店内で蓄積したプラスチック端材を固めて制作された。多くの異なる種類のプラスチックが混ざっているため、ホルダーごとに異なる色や模様が生まれる。photograph by Riikka Katinkoski
様々な食器
使用する食器は3種類。ひとつはアラビア(Arabia)社などのヴィンテージ品。2つめは、電気窯ではなく薪窯を用いる陶芸家の作品。手作業で成形し、製造エネルギーを最小限に抑えた、独特の個性があるものだ。3つめは、ヘルシンキのアールト大学の学生と協力し、他者の制作過程で出た廃棄粘土を再処理して焼き上げた再生陶器だ。photograph by Asaki Abumi
黒クルミのポン酢を添えたパイク(カワカマス)のクルード
黒クルミのポン酢を添えたパイク(カワカマス)のクルード。日本のポン酢を自分たちなりに解釈したもの。柑橘類や醤油を使う代わりに、保存された黒クルミで作った塩水と、バラ科のマルメロのジュースを使用。料理の仕上げには、新鮮なリンゴ、ショウガ、青トマトのピクルスを添えた。photograph by Emma Ranne
メインディッシュのパイクパーチ
メインディッシュのパイクパーチ。 魚を丸ごと仕入れ、フィレはグリルに。腹側の端材はテリーヌにし、骨からはコラーゲンを抽出してソースを作る。残った骨はクラッカーにし、頭や首の身はリエットに。photograph by Emma Ranne
パースニップ(白ニンジン)のアイスクリームとスタウト(黒ビール)のケーキ
パースニップ(白ニンジン)のアイスクリームとスタウト(黒ビール)のケーキ。森林破壊などの問題を抱える工業用チョコレートに代わり、デンマークのチームが開発した「麦芽粕(ビール醸造の副産物)」由来の代替チョコ「THIC」を使用。デザートの仕上げにはコーヒーの抽出かすから取ったオイルを少量添えた。photograph by Emma Ranne

Nolla Restaurant
Fredrikinkatu 22, 00120 Helsinki
https://restaurantnolla.com/

ホームページには、サステナビリティ実現のためのサプライヤーと生産者のリストが掲載されている。

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