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JOURNAL / 世界の食トレンド

異文化の味を、どう伝えるか。タイの味を追い続けるフランス人シェフの冒険

France [Paris]

2026.10.26

異文化の味を、どう伝えるか。タイの味を追い続けるフランス人シェフの冒険

text by Sakurako Uozumi / photographs by Raphaël Flipo
タイ東北部イサーン地方の炭火焼きチキン「カイヤーン・イサーン」。マリネした鶏肉を皮目が香ばしくなるまで焼き、酸味と辛味を効かせたタレ「ナムジムジェオ」と、青パパイヤのソムタム(サラダ)を添える。ウドーンターニー地方の料理。24ユーロ。

みそやユズ、ナンプラー、ザターなど、異国の調味料や技法を取り入れることは、今のパリでは珍しくない。だが、自らの文化的背景とは異なる国の料理を、店の看板として掲げるとなれば話は別だ。

2026年春、パリ11区に開店したタイ料理店「ファイ(FAAI)」を率いるのは、フランス人のアンヌ・コパンさん。10歳で初めてタイを訪れ、歩道で鍋を振り、炎を上げる料理人に心を奪われた。以来、幾度も現地へ渡り、市場や屋台を巡るだけでなく、地方の料理人や現代タイ料理のシェフたちに学んできた。タイの食文化を扱った著書もあり、2021年に故郷リール、23年にはパリ・ベルヴィルにタイ料理店「ナーム(Naam)」を開店。各地の郷土料理をその土地の名前とともに紹介してきた。

オーナーシェフのアンヌ・コパン(左)と、共同経営者でパートナーのフランク・ド・ヴィーム
オーナーシェフのアンヌ・コパン(左)と、共同経営者でパートナーのフランク・ド・ヴィーム(Franck de Visme)。コパンは1978年リール生まれ。文学を学び、文化行政の仕事を経て料理の道へ。ド・ヴィームは1967年カンブレー生まれ。化学工学を学んだ後、旅行ガイドや写真、デジタル分野の仕事に携わった。

3店舗目となるファイのコンセプトは、タイ語の店名が示す「火」だ。昨今、薪火や炭火を掲げる店が増えるパリで、流行の演出としてではなく、タイ料理との出会いを原点に据えた。「出発点は、土地に受け継がれてきたレシピです。タイ料理の“味の構造”は、徹底して守ります」とコパンさん。それは、酸味、辛味、塩味、甘味の配分に、香りや食感を加えた料理の骨格を指す。

この構造を崩さないことを基本に、置き換えられる食材には、フランスの旬の野菜やキノコを用いる。遠方から材料を運んで見た目を再現するより、身近な生産者の食材で本来の味を成立させるためだ。コパンさんにとっての忠実さとは、すべての食材をタイから運ぶことではなく、何が料理の核で、何を土地の旬に委ねられるかを見極めることにある。

タイ料理をパリ向けに変えるのではなく、タイ料理のままパリの日常に根づかせる。何を受け継ぎ、どこまで手を加えるのか。皿の味と共に、その文化との向き合い方も問われる。「ファイ」が試みているのは、そのための新しい方法である。

パット・パック
炭火は火力を即座に変えられないため、炭の量や食材との距離、焼き網の高さの細かな調整が必要。焼き目をつけながら、食材の水分を残して仕上げる。写真はタイ北部ナコーンサワン地方の野菜炒め「パット・パック」。葉野菜やキャベツを、ニンニクと大豆ペーストと共に炭火の上で一気に炒める。強い火力による香ばしさと、野菜の歯触りを生かした一皿。14ユーロ。
厨房に並ぶタイ料理の素材
唐辛子、炒り米、干しエビ、ナッツ、柑橘、香味野菜など、厨房に並ぶタイ料理の素材。ファイではカレーペーストやソース、マリネを店内で仕込み、料理ごとに辛味、酸味、塩味、甘味、香りのバランスを整える。
ホイトート
タイ南部スラートターニー地方の「ホイトート」。薪火で燻したムール貝を生地と共に香ばしく焼き、モヤシと青ネギを合わせる。添えたシラチャーソースも自家製。12ユーロ。
ゲーン・キアオ・ワーン
ロッブリー地方のグリーンカレー「ゲーン・キアオ・ワーン」。ココナッツミルクに、根セロリ、ブロッコリー、ヒラタケ、シイタケ、青コショウ、タイバジルを合わせる。タイの小ナスに代えて用いる根セロリは、グリーンカレーの香りとコクを受け止める。24ユーロ。
ゲーン・マッサマン・ヌア
タイ南部ソンクラー地方の「ゲーン・マッサマン・ヌア」。柔らかく煮込んだ牛肉に、ココナッツミルク、穏やかなスパイス、タマリンドを重ね、ローストしたサツマイモを添える。焼いた層状の薄焼きパンと、黄色いビーツのピクルスを合わせる。28ユーロ。
食感の異なる料理を交互に味わい、テーブル全体でバランスを取る
炭火焼き、カレー、炒め物、サラダなどをテーブルの中央に並べ、皆で取り分ける。辛味、酸味、香ばしさ、食感の異なる料理を交互に味わい、テーブル全体でバランスを取る。

◎FAAI
15 rue Trousseau 75011 Paris
土曜ランチ12:00~14:30、火曜~土曜ディナー19:00~23:00
日曜、月曜休
ランチ:メイン24ユーロ、メイン+前菜またはデザート30ユーロ、前菜+メイン+デザート36ユーロ
ディナー:テイスティングメニュー59ユーロ、アラカルト/前菜11~12ユーロ、炒め物・炭火焼き14~26ユーロ、カレー24~28ユーロ、サラダ12~15ユーロ、デザート10~12ユーロ
https://www.faai.love/

*1ユーロ=178円(2026年10月時点)

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