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FEATURE / MOVEMENT

日本 [新潟] 日本の魅力 発見プロジェクト ~vol.4 新潟県 新潟市~

醸す力でヒト・コト・モノがつながる

2017.04.10

text by Rei Saionji / photographs by Hide Urabe




醸す町 新潟

『醸す(かもす)』とは、麹に水を加えて酒や味噌、醤油を作ることを意味するが、他に、ある事態を作り出してゆくという意味もある。新潟では、一つの会社や一つの店が独自の活動を行う他に、複数の会社や店や地域が垣根を越えて力を合わせることにより、さらに魅力的な活動を作り出している。それぞれの持ち味に、協力という名の麹を加えることにより、さらにその魅力が倍増されるという醸す力を新潟市で見つけた。


燕三条地域の工場見学で日中を過ごした後、新潟のナイトライフを楽しもうと日本海側の新潟市へと移動した。燕三条から新潟までは新幹線で約12分、車で約30分。古くから信濃川、阿賀野川の水運により、周辺の様々な物資が集まり、江戸時代からは北前船が立ち寄る日本海側有数の港湾都市として繁栄してきた。日本海の魚、米、野菜や果物、酒など、地域の豊富な食の魅力を楽しむことができるエリアだ。また江戸時代、北前船の港町として賑わいをみせた古町は、訪れる人をもてなす芸子文化や料亭文化が発展し、京都の祇園、東京の新橋と並ぶ花街と言われた。

新潟市を楽しむための様々なイベント


この地域の飲食店を巡って“はしご酒”をする「古町花街ぶらり酒」というイベントが過去8回にわたって実施されている。4枚綴りのチケットが付いたマップを購入し参加店の「ぶらり酒メニュー(料理1品、飲み物1杯)」を楽しめるというイベントで、期間内に最大4店のはしご酒が可能になる。2016年の参加店は80軒。敷居が高そうな店も、この機会を利用して気軽に覗いてみることができるのが嬉しい。

さすが米所、酒所の新潟は蔵元の数が日本一の県で、全国的に有名な日本酒もあれば、県外ではあまりお目にかかることのない銘柄もたくさんある。

お薦めは地酒で、地元の野菜や魚介類を使った料理にとても合う。


2016年から期間限定で「レストランバス」を運行している。このバスの1階は、オーブンや電子レンジ、冷蔵庫などの調理器具を揃えたキッチン。2階にはテーブルが設置され、乗客は見学した農家の食材を活かした料理や新潟の酒を味わいながら窓越に見る風景を楽しむ。2017年も新潟を楽しむキッチンバスが運行される予定だ。

発酵の町「沼垂(ぬったり)」地区


新潟駅から徒歩20分ほどのところにある沼垂地区は、新潟の港町で米の積み出し港として栄えていた。昭和30年代後半、堀を埋め立てて作られた通りに、近隣の農家や魚屋が出店する市場が作られ、当時の店舗数は100を超えるほどに賑わいをみせていた。年号が平成へと変わり、大型小売店の郊外への進出により全国的に商店街の運命に影が射すようになった2000年代、ここ沼垂の市場も1日中シャッターが閉まっている店舗が多くなった。


しかし、2010年頃からその様相が少しずつ変わり始め、寂れてしまっていた昭和の市場が、新しい文化という麹と出会うことで『醸し』が始まった。


昭和に建てられたトタン作りの店舗を改装し、新しく店舗を営む若者が現れ始め、「沼垂市場通り」は、2015年に、昭和レトロな雰囲気が残る、おしゃれで新しい『沼垂テラス』という商店街に生まれ変わった。カフェ、雑貨店、花屋、ジュエリーショップや工房、アトリエを始め、八百屋や肉屋もあり、散策がとても楽しい。


沼垂地区は古くから、発酵の町として、この地域の食文化を支えてきた地域でもある。海風で、冬は寒く夏は暑いという気候が発酵には適している。町を流れる栗の木川(現在は国道)の両岸に酒蔵、味噌蔵、醤油蔵が立ち並び、原料や製品の運搬に利用された。最盛期の沼垂地区には、40~50の発酵食品関連の会社があり、現在は6軒。沼垂テラスから徒歩10分ほどの所にある、沼垂を代表する酒蔵「今代司酒造」と味噌蔵「峰村醸造」を訪れた。

今代司酒造(いまよつかさしゅぞう)


明治時代に建てられた建物が今もそのまま残る今代司酒造では、いつでも酒蔵見学をすることができ、アメリカ人のスタッフもいるため、 多くの外国人観光客の見学でも賑わっている。


創業は1767年。昆布や鰊などを北海道の松前から日本海を通って大阪へ運ぶ北前船が新潟に頻繁に寄港したため、当時は江戸よりも人口が多かったと言われているこの地で、明治初期まで酒の卸業や旅館業、飲食業を行っていたという今代司酒造が本格的に酒造りを始めたのは明治中頃。今代司酒造の建物は明治の頃を思わせるような木造建築。のれんをくぐり、蔵に一歩足を踏み入れると、時代を感じさせる看板や道具類が目に入り、酒を仕込むための麹の匂いが鼻をくすぐる。


映画の撮影でも使われるという立派な建物は完成されていないという。「完成と同時に崩壊が始まる」という日本の木造建築の俗信に則っていて、歪んでいる部分もそのままにされている。この歴史ある蔵は、蔵人から今代司の酒造りを学びながら見学できる。「お客様のための蔵見学なのですが、実は蔵人にとって“何のために酒造りをしているのか”という根幹部分を再認識する良い機会となっています」と田中さんは語る。

今代司酒造株式会社 代表取締役社長 田中洋介さん


今代司酒造は、老舗としての「守るべき伝統を守る」という務めの他に、常に新しいことに挑戦し続けることによって新風を吹き込む務めも果たしている。JR東日本の農業法人が生産した酒米を使い、新潟県内限定販売の日本酒「新潟しゅぽっぽ」を他の蔵と共同でつくったり、新潟市の農家や飲食店とコラボし、米作りから酒の仕込み、提供方法までを考慮に入れた酒「おむすび」をつくるなど、酒造りの枠を超えて、地酒によって地域全体を結びつけることにより、新潟の魅力をさらに「醸し」ている。

「今代司は『金魚酒』ならず。威風堂々たる『錦鯉』」。「新潟しゅぽっぽ」の包み紙裏面には地域情報を載せるという工夫も。


酒が貴重品だった頃、少しでも酒を多く売りたい酒蔵は水で薄めて出荷し、酒屋が消費者に販売する時にさらに水で薄めていた時代があったという。そのように薄められた酒を「金魚が泳げるほど」薄いという意味で、「金魚酒」と呼ばれていた。そんな時代でも、今代司酒造では決して酒を薄めることなく販売していたという自負から作られた錦鯉のデザインのボトルの酒「錦鯉」。日本のグッドデザイン賞を始め、フランス、アメリカ、ドイツ、イタリア、イギリス、ベルギー、香港で高い評価を受けた。

今代司酒造株式会社
新潟県新潟市中央区鏡が岡1-1
☎ 025-245-3231
www.imayotsukasa.com


峰村醸造


明治38年創業の味噌蔵。最盛期の沼垂地区には、40軒以上の醸造蔵が軒を並べていたものの、現在は10軒以下と少なくなった。この厳しい状況の中、峰村醸造は、今代司酒造とともに沼垂地区を醸造の町として蘇らせようと力を尽くしている。この地は、日本海から吹く北風にさらされる冬は寒く、夏は高温多湿になる。この気候によって微生物の働きが活発になり、発酵食品を仕込むには最適なのだ。味噌は30度を超える日が1ヶ月以上ないとできず、創業当時は、温度が上がるように神に祈り、仕込んだ味噌を置いておいたと志村さんは言う。それほど暑い日が続くとは、当初抱いていた新潟=雪国のイメージが崩れる。

株式会社峰村商店 代表取締役社長 志村毅さん


志村さんは「味噌は、大豆と塩さえあれば出来る。」と言う。「手前味噌」という言葉が存在しているように、昔は、味噌をつくる家庭も多かった。煮て柔らかくした大豆を潰し、米麹と混ぜて寝かせる。しかし、原料の大豆の種類、米などの大豆の他に用いる副原料、麹などの微生物、そして仕込み方によって味は変わってくる。峰村醸造の味噌つくりに欠かせないのは、歴史ある峰村醸造の建物の天井についた常在菌。つくり手の伝統を守り、後の世代に伝えてきた先祖の教えとともに、この常在菌も存在し続けて来たのである。


峰村醸造は、丁寧な説明付きで見学できるが、全ての工程を見せてくれる味噌蔵は珍しい。味噌つくり見学とともに味噌つくり体験もできる。味噌つくりの見学をする前に食べてはいけない物は納豆だ。納豆菌はとても強い菌で、少しでも大豆に混ざると、味噌にならずに納豆になってしまう。このため、子供連れの家族を含め、誰でも味噌つくりの見学と体験をすることができるが、納豆を食べた人と納豆職人は例外である。

併設するショップでは麹を使った様々な商品を扱っている。


醸造の技術は発酵によって旨味を引き出すこと。峰村醸造では、味噌や味噌漬だけではなく、長年培われた醗酵・醸造の技術と経験を応用し、出汁、酢等の発酵・醸造から生まれる調味料も取り扱っている。江戸後期から明治初期に立てられた土蔵の内部をリノベーションして作られた直売店で、ゆっくりと試食しながらのショッピングも楽しい。

株式会社峰村商店
新潟県新潟市中央区明石2-3-44
☎ 025-247-9321
http://www.minemurashouten.com/






※本プロジェクトは、経済産業省関東経済産業局が実施する「平成28年度地域とホテルコンシェルジュが連携した、新たなインバウンド富裕層獲得のための支援事業」と連携して、グランド ハイアット 東京 コンシェルジュ/明海大学ホスピタリティ・ツーリズム学部教授 阿部佳氏のアドバイスを得て実施しています。



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