#CookForJapan設立
災害支援を通して、生産者と消費者の日常を繋ぐ
2020.03.26
photograph by Ryoko Ogawa
いつ巻き込まれるかわからない地震、台風などの自然災害や、今まさに世界を不安に陥れている新型コロナウイルスなどの感染病。人々が当たり前に食べ、当たり前に暮らす毎日は、いかに脆いものか。
でも、その中で、気づくこともある。普段、私たちが当たり前のように食べている“何か”は、それを作る人がいて、育てる人がいる。もちろん日々感謝はしている、つもりだけれど、災害で被害を受けたことを知ったり、実際手に入らなくなったりする事態に直面して初めて、私たちが食べているものが、どこで誰が育てたものかを意識するきっかけとなることがある。
2020年2月3日に社団法人化を発表した「#CookForJapan」は、1人のシェフの呼びかけから始まり、賛同した食のプロたちを巻き込み広がった、レシピを通した被災地食材の支援活動だ。
拡散する#被災地農家応援レシピ
きっかけは、19年10月に猛威を振るった「令和元年東日本台風(台風19号)」。記録的な暴風雨、容赦のない洪水や土砂崩れは、関東地方、甲信地方、東北地方に甚大な被害をもたらした。そんな中、フランスでレストランを営む1人の日本人シェフがSNSでこうつぶやいた。
彼の名は、神谷隆幸氏。南仏・カーニュ地方にある「La Table de KAMIYA」のオーナーシェフだ。自店の移店準備中に、パティシエの妻と主催する料理教室で作ったタルトタタンをSNSで発信した際、日本の台風でリンゴ農家が大打撃を受けていると知り、上記をツイート。被災地農家のリンゴを買った証明(領収書など)と引き換えに、タルトタタンのレシピをDMで送ることを考えた。すると、その行為に賛同した料理人たちが、次々とリンゴを使ったレシピを無料で公開。「#被災地農家応援レシピ」というハッシュタグを付けて拡散し、被災地農家からの購入を呼び掛けた。
結果、堤防が決壊した長野県・千曲川近くで農園を営み、8割のリンゴが被害を受けた「フルプロ農園」がオンライン直売所「食べチョク」(「ビビットガーデン」運営)で販売した1000㎏(被害を免れた残り2割)分のリンゴを完売させるなど、予想以上の成果に。瞬く間に広がった支援の輪には、食のプラットホームを持つ企業やメディア、編集者など、料理人以外の食のプロたちも加わった。こうして、リンゴだけでなく、野菜から果物、肉、乳製品まで、被災地の食材を使い、広め、購入を促すことで、継続的に活動を繋げようと立ち上げられたのが、「#CookForJapan」だ。
現在は、神谷シェフを筆頭に、16名のメンバーが参加。2月3日に開催された社団法人化発表のプレス発表会には、シェフや賛同者たちが一同に集まり(神谷シェフも来日!)、決意を新たにした。実際、ツイッターで参加を表明したシェフたちは、住むエリアも業態もバラバラで、イベントがほぼ初顔合わせ。個々でできる活動を重ねながら、共同でイベントやコラボレーションを進めていくという、型に縛られない自由で柔軟な活動を模索する。「生産者は、できる規模もやりたいことも各々違う。生産者と一般消費者を私たち料理人が繋ぐことで、買って食べるだけではない食材活用の幅が広がる。楽しんでおいしく食べた結果、生産者の支援に繋がれれば、生産者も消費者も、そして私たち料理人も、皆が幸せになれる活動だと思っています」と、神谷シェフ。今後は、被災地農家の応援だけに留まらず、イベントや商品開発、シェフたちが公開したレシピ本の制作などを通して、日本の農業全体をサポートしていきたいという。
災害支援の、その先へ
様々な災害や不測の事態により打撃を受けた生産者を応援したいと考える時、その生産者の食材を買う、という行為は、料理人や私たち消費者にできる一番身近な支援だ。もちろんそれは、購入自粛や風評被害を恐れる生産者にとって、とても心強い。その一方で、個人消費者が買える量は限られる。また救済だけが目的となり、購入後持て余してしまっては、本末転倒だ。その歯がゆい支援の形を「プロのレシピやアイデアを通して、消費者が作ることを楽しみ、また食べたいと購入する」という持続性のある方法で繋いだのが、今回の活動だ。
普段、食材の魅力や生産者の声を料理という形で食べ手に伝える料理人たち。食に熟知した彼らが、購買を呼び掛けるだけでなく、食材をよりおいしく活用できる方法=レシピを発信することは、説得力がある行為だ。私たち消費者は、買った食材を調理することで、その魅力や楽しさ、おいしさを再確認し、一過性ではない、日々の生活に取り入れる可能性を見いだせる。料理人を通して、生産者と消費者が繋がり、とても小さなことだけれど、毎日を、経済を、循環させるきっかけとなる。また、料理人も消費者も、現地に炊き出しに行ったり、ボランティアとして参加したりできなくても、仕事や日常生活の中で、被災地を応援できる。「食」を通して、楽しみながら極当たり前に、大切な食材を救うことができるのだ。
1人のシェフのつぶやきに引き寄せられ、集まり、今できることを、と動き出した「食」のプロたちの歩み。この先待つ予測できない未来の中で、それはとても小さな1歩で、目に留められる食材は、ほんの一部かもしれない。それでも、私たち1人1人が日々意識して関わることで、繋がる未来が、きっとある。
現在「#CookForJapan」では、新型コロナウイルスによる小中高一斉休校や、イベント中止、飲食店休業に伴い、行き場を無くした野菜や牛乳の活用法などを積極的に発信中。料理人と生産者、そして消費者が双方、巻き込み、巻き込まれつつ広がる食を通じた取り組みは、これからもっと柔軟に広がっていくだろう。
<#CookForJapan参加メンバー>
http://cookforjapan.org/announcement/
◎ 神谷隆幸(南仏カーニュ / La Table de KAMIYA)
https://la-table-de-kamiya.eatbu.com/
https://twitter.com/Taka09KMY
◎ いがらしろみ(神奈川県鎌倉市 / Romi-Unie Confiture)
https://www.romi-unie.jp/
https://twitter.com/romiunie
◎ 石川雄一郎(東京都港区 / 土佐しらす食堂二万匹)
https://www.facebook.com/nimanbiki/
https://twitter.com/u1_i
◎ 江六前一郎(編集者 @icro_erkme)
https://twitter.com/icro_erkme
◎ 小野田裕也(愛知県豊田市 / 車街酒場 WAO!)
https://wao-toyota.gorp.jp/
https://twitter.com/yuyacake0301
◎ 表原平(徳島県上勝町 / ペルトナーレ)
http://www.pertornare.com/
https://twitter.com/tairantooo
◎ 坂下寛志(石川県金沢市 / BAKE SHOP bien Bake)
https://bienbake.stores.jp/
https://twitter.com/Sakashita_h
◎ サガワショーコ(新潟県佐渡島 / レストラン&バーこさど)
http://www.kosado.com/
https://twitter.com/parfait0amour
◎ スラス・ステファン(東京都立川市 /立川カフェ Stephan and Joe)
https://www.facebook.com/stephanandjoe
https://www.instagram.com/stephanandjoe/
https://twitter.com/steeeephaaaan
◎ 関口幸秀(カステリーナグループ)
http://castellina.co.jp/
https://twitter.com/yukihide_lion
◎ 違克美(神奈川県横浜市 / 旅するコンフィチュール)
http://tabisuru-conf.jp/
https://twitter.com/TabisuruConf
◎ 西剛紀(兵庫県尼崎市 / リビエール)
https://riviere.stores.jp/
https://twitter.com/nishitake0525
◎ 野田一寿(神奈川県横浜市/ Hitotsu)
http://www.restaurant-hitotsu.com/
https://twitter.com/NodaKazutoshi
◎ 丸橋裕史(丸橋企画株式会社/プロデューサー)
https://www.facebook.com/hhfm.mmhs
◎ 渡邉泰史(埼玉県北浦和 / パティスリーポルトボヌール)
https://www.instagram.com/patisserie_portebonheur/
https://twitter.com/15portebonheur
◎ 石渡未来(フリーランスパティシエ)
https://plaisiraile.theshop.jp/
https://twitter.com/miku0809i