UMAMIとDASHI〜国境を越え、ニューヨークで市民権を獲得(全2回) Vol.2
独自の発想でメニューに取り入れるNYシェフたち
1970.01.01
| 英語(English) |
現代ベネチア料理店「アロンダ」の“だしに浮かべたトルテリーニ” |
うま味は今、アメリカのシェフの間で旬なキーワード。ニューヨークでは、独自の発想で和のだしを取り入れ、うま味の魅力を紹介するシェフが最近目立つ。
たとえば、分子美食学系の料理で知られる「wd~50」のオーナーシェフ、ワイリー・デュフレイン氏は、今から15年前にだしに関心を持ち、かつお節と昆布を合わせた独自のレシピを開発し始めた。
「和のだしの魅力は、フレンチの魚のだしとは違った独特の深み。かつお節はフレンチのだしより魚の臭みが少なく、ほのかな燻し香があり、食材と自然に調和します。一方昆布は濃厚な風味がありながら、フレンチのだしより軽やか。そしてかつお節と昆布のバランスがおもしろい」。こう語る氏は、和食から離れた視点で自由にだしを使う。
一例は「フライドポテト・ブイヨン」。フライドポテトを一晩だしに漬け、その香りをたっぷり含ませたブイヨンだ。
「食べるフライドポテトはどこにでもありますが、これは“飲むフライドポテト”。かつお節の燻した香りとジャガイモの香ばしさが見事に合い、だしのうま味がフライドポテトの風味をぐんと高めてくれます」。氏は白身魚のフィレに添えるなどの形でこのブイヨンを使用するが、和風だしを単にフレンチの魚のだしの代用とは考えておらず、鶏のだしの代用にも多く使うという。
現代アメリカ料理店「グラマシー・タバーン」の料理長マイケル・アンソニー氏も、和のだしに傾倒するシェフのひとり。「だしは料理に風味を重ねる際の、重要な土台になる。繊細に軽やかなスープやソースを作るのに使うこともあるし、もう少し大胆に、野菜や魚の風味のサポート役にする場合もあります」と語る。
たとえば、“オヒョウとビーツのだし”は後者の一例。昆布とかつお節を合わせただしを、スターアニス、フェンネルの種と薄切りのビーツなどとともに約1時間煮込み、さらにタイムやベイリーフ、砂糖、ワインビネガーなどを加え、美しい朱色のだしを作る。この“ビーツのだし”に、オリーブオイルでコンフィしたオヒョウを浮かべて提供する。
「旬の地元産ビーツやその他の現地食材と融合させることで、だしは”日本からの借りもの“ではなく、この国の料理の一部となるのです」。
「グラマシー・タバーン」マイケル・アンソニー氏による“オヒョウとビーツ”の一品 |
一方、現代ベネチア料理店「アロンダ」のオーナーシェフ、クリス・ジェイクル氏は、和食店「モリモト」での3年間の修業経験もあり、イタリアン/ジャパニーズという区分に縛られることなく、和だしを有効に活用している。
たとえば3種のチーズを詰めたトルテリーニ。鶏のだしに浮かべる伝統的なスープ・パスタのレシピを応用し、パルメザンチーズの皮、昆布とかつお節でとっただしに置き換え、さらにトマト風味のオリーブオイルとポルチーニ茸、塩昆布を加えて、うま味の相乗効果を図る。また、前菜のマテ貝にはだしと貝汁、味噌、白ワインで作ったジェレを添えたり、“ほろほろ鳥のロースト”には、皮と身の間にバターを絡めた塩昆布を敷いて風味を高めるなど、多彩な手法でうま味の可能性を広げている。
「これまでこの国では、“MSG(化学調味料であるグルタミン酸ナトリウム)=うま味”という大きな誤解がありました。日本料理の枠を外れたレシピを通じて、自然素材が生み出す本来のうま味のおいしさを広く紹介していきたい」とクリス・ジェイクル氏は話す。
「アロンダ」の料理長、クリス・ジェイクル氏 |
「アロンダ」の“マテ貝とジェレ” |
さらに、現代アメリカ料理店「ベトニー」のオーナーシェフ、ブライス・シューマン氏は、黒エリンギ茸とショートパスタ(リコッタ・カヴァテッリ)のソテーを添えた温泉卵に、エリンギとかつお節、昆布で作っただしを客席で注ぎ、香りを高めて提供する。「昆布とかつお節を加えたラーメンのだしが好きで、その深いうま味を自分の料理の中で再現したいと思い、このレシピを思いつきました」とのこと。
「ベトニー」の料理長、ブライス・シューマン氏 |
「ベトニー」の“温泉卵とカヴァテッリ” |
UmamiとDashiは今、国境を越え、アメリカという新天地に確実に根づき始めている。
「日本の食」は、世界各地でさまざまな食材や人々、そして彼らのアイディアや技術と出合い、クリエイションの化学反応を起こしながら、“味覚探究の旅”を続けていると言えるだろう。
text and photographs by Akiko Katayama |
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