ベランダで始める!ナチュラルに野菜を育てる「寄せ植えのコツ」
2023.05.22
text by Kyoko Kita / photographs by Daisuke Nakajima
都市でできる究極の地産地消であり、サステナブルな食物生産の営みに直に触れる機会にもなるアーバン・ファーミング。奥行き1.2メートル×幅6メートルのベランダで、無農薬、減肥料で様々な野菜を育てるたなかやすこさん。元気に育つ秘密は「寄せ植え」にありました。
微生物の力を借りる野菜づくり
奥行1.2×幅6メートルのベランダに並ぶたくさんの小さな“畑”。たとえば空豆が伸びるバスケットには、ビオラ、スイートアリッサム、ヒメイワダレソウと、一つのプランターに数種類の植物が寄せ植えされている。たなかやすこさんはそこに「ミニ地球」を見る。
「野山に行くと、いろんな植物が混在していますよね。一つのプランターに生命サイクルの異なる野菜やハーブ、ベリーや花、そして雑草と呼ばれているハコベなどの野草も一緒に育てると、自然の姿に近づくのです。すると同じ土で何年も栽培できるようになります」。事実、マメ科の植物は連作がNGとされているが、このバスケットでは8年も続けて収穫できている。カギを握るのは、土の中の微生物だ。
「微生物は、植物が光合成により得た炭水化物を分けてもらいながら、土の中の養分を分解して植物に供給しています。植物が多様であれば、微生物にも多様性が生まれ、病気や乾燥、寒さから植物を守ってくれるのです」。寄せ植えとはつまり、「植物と微生物が分かち合いながら共に生きる、自然に近い環境を整えること」。そうして使い続ける土は、痩せるどころか、年々微生物の動きが活発になり、植物を育てやすくなるという。
だから収穫を終えても一度にリセットするのではなく、微生物のバランスを崩さないよう時期をずらして植え替える。また抜き取った後も、微生物の住処である細かい根は土に戻して鋤き込む。目に見える植物だけでなく、見えない微生物にも思いを馳せるのだ。
組み合わせると相乗効果をもたらす植物もある。「コンパニオンプランツ」だ。たとえばトマトとバジル。「食べてもおいしいこの2つは、植物としても相性がいいんですよ。バジルだけを植えていると、アオムシに食べられてしまうことがよくあります。アオムシの母親の蝶は、子供(幼虫)が好んで食べる植物の香気成分を感じとって卵を産みます。でもトマトと一緒に植えると、トマトの葉の香りでバジルの香りがカムフラージュされて、大きな被害を避けることができます。また、実をつけるトマトと葉を茂らせるバジルでは、多く必要とする栄養素が違うため、土の中の養分がバランスよく消費されるのです」
トウガラシとタイムの組み合わせもそれに当たる。トウガラシは根の張りが浅いため、土の表面が乾くと根が育ちにくい。そこで地表を覆うタイムを一緒に植えることで乾燥を防ぎ、土の保温にもなる。アブラナ科の野菜はアブラムシの大好物だが、レタスなどキク科の野菜の香りは避ける傾向にあるという。
共に暮らす住人たちが、良好なバランスを保ち助け合えれば、心地よく健やかに生きられる。それは植物同士や植物と微生物でも同じこと。過保護に育てなくても、彼らが自力で育ち合うよう手助けしてやればよいのだ。
自然の力を生かして野菜づくりを楽しむアイデア
(雑誌『料理通信』2019年6月号掲載)
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