U.S.チーズと寄り添う暮らし。―前編― アメリカ産チーズってどんな味?
2020.12.04
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text by Miyo Yoshinaga / photographs by Hiyori Ikai
その昔、ヨーロッパからアメリカへと伝わったチーズ造りは、豊富な土地と、弛まぬ研究、技術への投資によって産業として成長を続けました。現在、アメリカ産チーズは世界の4分の1を占め、多くのコンテストで受賞するなど、品質の高さでも注目を浴びています。
そんなアメリカ産チーズの特徴と魅力について、料理人としてアメリカで長く暮らしていた東京・青山「ザ・バーン」米澤文雄シェフに聞きました。
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「The Burnザ・バーン」シェフ 米澤文雄さん
N.Y.「ジャンジョルジュ」スーシェフ、青山「ケンゾーエステート ワイナリー」「ジャンジョルジュ東京」のシェフなどを経て、2018年9月現店へ。
米澤シェフはアメリカの食生活では、チーズがいかに身近にあるかを実感したと言う。「アメリカは世界一の酪農国なので、乳製品が日本よりもずっと手頃なんです。そのおかげもあり、アメリカ人は朝から晩までさまざまな料理でチーズに親しんでいる。『マカロニ&チーズ』に代表されるように、チーズ料理はアメリカ人の"おふくろの味"とも言えるかもしれません」。
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(左奥から手間)スプリングブルック リーディング、ビーハイブ ベアリーバズ、ビーハイブ ティーハイブ、プレザントリッジ リザーブ、クリームチーズ(中央)コルビージャック(右奥から手前)(上段)スイートグラス グリーンヒル、(下段)ジャスパーヒル ウィロビー、フェイスロック クロスチェダー、ローグ スモーキーブルー
米澤シェフのアメリカでの滞在中、特に印象に残っているのが、チーズを挟んだ食パンをバターでこんがりと焼く「グリルドチーズ」だ。「アメリカ人ルームメイトが『お前にアメリカ人のコンフォートフードを食べさせてやる』と作ってくれたんです。こんなに単純なのに驚くほどおいしくて、なんだこの魔法みたいな料理は!と衝撃的でした」
パンに挟んだり、トッピングしたりするだけではなく、チーズを調味料のように使う手法もアメリカではおなじみだという。「例えば食材をソースとともに炒める際にチーズを加えて、溶かしながら全体に馴染ませたり。料理の味付けに、たっぷりのチーズを溶かし込むんです。チーズを加えることで、コクや深みが出ます。その上、さらに仕上げにチーズをかけることも! これほどチーズを惜しみなく使えるアメリカならではだな、と新鮮でした」
使いやすいマイルドタイプから職人仕様のチーズまで
アメリカのチーズというとプロセスタイプのものをイメージしがちだが、もちろんそれだけではない。
「日本ではチーズ=ヨーロッパという固定概念が強いですが、アメリカにも高い技術を持つ職人が作る上質なチーズがたくさんあります。カリフォルニアのソノマなどはそうした“アルチザンチーズ”の産地として有名ですし、最近はカリフォルニア産のブッラータも日本に入ってきていますね。アメリカのアルチザンチーズは生産量が多くはないので日本ではまだメジャーではないですが、今後要注目です」。今回は米澤シェフに10種のU.S.チーズを試食していただき、それぞれの感想を教わった。
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コルビ―ジャック(左)
マーブル模様が華やかで、バターのような風味のセミハードチーズ「コルビージャック」。もっともポピュラーなアメリカンチーズです。マイルドでクセのない「モントレージャック」に、チェダーに似たコクのある「コルビー」を混ぜ合わせて作られたもの。「溶けやすくクセがないので、グリルドチーズなどの料理にぴったりです。オレンジ色は伝統的なアナトー種子で色付けしたものですが、この色にも食欲をそそられますね」
アメリカンクリームチーズ(右)
「アメリカンクリームチーズ」は、乳酸菌由来の爽やかな酸味と乳脂肪の豊かなコクが特徴。きめ細かくなめらかな舌ざわりで、柔らかくパンやクラッカーにも塗りやすい。「日本でもおなじみのフレッシュチーズ。アメリカでポピュラーなマカロニ&チーズに使うこともあります」
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フェイスロック クロスチェダー(左)
「フェイスロック クロスチェダー」は、オレゴンのチーズ工房「FACE ROCK」のセミハードチーズ。布で巻いてバターを塗り、13カ月以上熟成させたチェダーチーズで、奥行きのある複雑な風味がスパイシーな赤ワインによく合う。「しっかりとした味わいなので、そのままでも美味。削ってサラダやパスタにトッピングするのもおすすめです。チーズグレーターがなければピーラーでも代用できますよ」
ビーハイブ ベアリーバズ(中央)/ ビーハイブ ティーハイブ(右)
ユタ州の工房が作る「ビーハイブ ベアリーバズ」「ビーハイブ ティーハイブ」は、「World Cheese Awards」の受賞歴を誇るフレーバードチェダー。「ベアリーバズ」はコーヒー粉末とラベンダーで覆われたチーズで、バタースコッチやキャラメルのような風味。「ティーハイブ」はアールグレイ茶葉をまぶしたチーズで、ベルガモットの柑橘のような爽やかな香りがフルーティーな白ワインにぴったり。「イタリアの『カッチョ・エ・ペッペ』のように、バターで和えたパスタにトッピングして合わせながら食べると、それぞれの特徴的なフレーバーを堪能できます」
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ジャスパーヒル ウィロビー(左上)
「ジャスパーヒル ウィロビー」は、ヴァーモント州の「Jasper Hill Farm」が手がけるウォッシュチーズ。ローストビーフやオニオンような強い香りが特徴で、エールビールやウイスキーと好相性。「ウォッシュらしい、濃厚で複雑な風味。これはぜひそのままで味わいたいですね」。
スイートグラス グリーンヒル(右)
「スイートグラス グリーンヒル」は、ジョージア州の牧場で作られるなめらかな白カビチーズ。マイルドな風味とバターのようなコクが特徴で、熟成とともにミルクの旨味が増す。「こんな良いクオリティのチーズも日本に入るんですね!そのままではもちろん、グラタンなどの料理に加えれば味に深みが出ます」。
ローグ スモーキーブルー(左下)
オレゴンのチーズ工房が作る「ローグ スモーキーブルー」は、ヘーゼルナッツの殻でスモークした珍しいブルーチーズで、バーボンと合わせたくなるようなトースト香がある。「強めの塩味を活かして、蜂蜜などで甘さを加えるのがおすすめ。焼いたイチジクと合わせて、メープルシロップをたっぷりかけるのもいいですね」。
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スプリングブルック リーディング(奥)
ウィスコンシン州「UPLANDS CHEESE」の「プレザントリッジ リザーブ」は、夏の間に放牧された牛のミルクで作られたハードチーズ。アルプスのチーズのようなナッツの風味がある。「豊かな旨味に驚きました。でも熟成感は強すぎず、テーブルチーズのようにカジュアルに楽しめる味わいです」。
プレザントリッジ リザーブ(手前)
ヴァーモント州の農場で作られる「スプリングブルック リーディング」は、弾力のあるラクレットのようなチーズ。ナッツの香りがあり、ピクルスやキムチなどの酸味のあるものと相性が良い。溶かしてジャガイモにかけたり、チーズフォンデュにするのもおすすめ。「ユニークなフレーバーがありますが、クセが強すぎないのが素晴らしいですね」。
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◎The Burn
東京都港区北青山1-2-3 青山ビルヂングB1F
☎03-6812-9390
11:30-14:00 L.O.
17:30-22:00 L.O.
日曜・祝日休
東京メトロ青山一丁目駅直結
http://salt-group.jp/shop/theburn/
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◎Cheese from the USA
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