【ようこそ発酵蔵へ】納豆菌と会話する
東京・青梅「菅谷食品」
2023.01.30
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text by Kyoko Kita / photographs by Hide Urabe
連載:ようこそ発酵蔵へ
写真で巡る発酵の世界。丁寧に時間をかけて微生物と向き合い、日本の伝統食を次代へつなぐ蔵、生産者を訪ねます。今回は、藁苞(わらづと)納豆と経木納豆を石室で発酵させている東京・青梅「菅谷食品」を案内します。
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大豆は14種類揃え、少量多品種の納豆を作る。品種や季節に合わせ、水に浸す時間の調整も大切。
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蒸し上がった大豆に2種類を混ぜて希釈した納豆菌をふりかける。
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お腹に押し当てて藁を広げ、大豆を入れる。
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大谷石の発酵室は室温45~47℃、湿度100%。
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稲わら1本に1000万個の納豆菌が生息している。30~40本を一束に、蒸煮して使う。
炭火の遠赤外線効果でまろやかな味に
元々は稲わらに生息する天然の菌を利用して作られていた納豆。江戸時代には、納豆売りが殺菌効果のある経木を容器にして売り歩いたとか。パック売りが主流となった現在も、「菅谷食品」では、藁苞納豆と経木納豆を作り続けている。
「原料の質がおいしい納豆の基本」と、社長の高橋武男さん。有機大豆を中心に、納豆菌のエサとなる糖質を多く含む大豆を使う。一晩水に浸した大豆を蒸すのは、独自に開発した蒸篭釜。「上から圧をかける従来の圧力釜に比べ、下から蒸気で包み込むように加熱するため養分の流出を抑えられます」
蒸したての大豆は、ふわっとやわらかく、ほのかに甘い。ここに納豆菌をふりかけ、経木や藁に入れるのだが、特に藁は熟練の技術を要する。束ねた藁を器の形に押し広げる。豆が落ちないよう隙間なく。豆を入れたら再び藁を寄せて閉じる。この手間も、作り手が減っている理由に違いない。
そしていよいよ発酵。機械制御ができる発酵室もあるが、藁苞と経木納豆は旧式の手法に立ち返り、石室で発酵させる。熱源は炭火。遠赤外線の効果でまろやかな味に仕上がるという。温度変化に気を配り、豆の見た目や味、臭いで発酵具合を確かめる。
「納豆菌と会話できるようになれ」、駆け出しの頃、社長からそう言われた専務の関本政英さん。すべての発酵を任される今、その声はちゃんと聞こえている。
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手前2つは経木納豆「国産小粒」160円、「国産黒豆」178円。藁苞納豆「本造り」350円。大粒の「つるの子納豆*」2個160円は全国の鑑評会で最優秀賞受賞。いずれも添付の調味料は無添加。(*編集部注:現在は「つる姫納豆」)
◎菅谷食品
東京都青梅市友田町1-1010-1
☎0428-24-7010
http://sugaya.co.jp
(雑誌『料理通信』2018年8月号掲載)
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