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JOURNAL / JAPAN

沖縄の島豚“アグー”を巡る旅。

東京・京都で希少なブランド豚を味わえるフェア開催中

Nov 28, 2022

【PROMOTION】
Text by Noriko Horikoshi / photographs by Shigehisa Uesugi, Ayumi Okubo

小型で四肢が短く、ずんぐりした体型。豚というよりイノシシに近い野性的な風貌が特徴の沖縄の豚、アグー。希少な豚を味わえるフェアに先駆け「パーク ハイアット 京都」の久岡寛平シェフと、アグーを守り、育む生産者たちを訪ねます。

目次






「八坂」久岡寛平さん
パーク ハイアット 京都のシグネチャーレストラン「八坂」料理長。奈良県出身。陶芸家の父を持ち、陶芸の道に進んでいたが、訪仏をきっかけに料理の世界へ。20代前半で渡仏し16年間、南仏・モンペリエとパリにある「Frères Pourcel」などの名だたるレストランで研鑽を積み、2016年にはパリの「La Truffière」でシェフとして初めてミシュランの星を獲得。2019年同ホテル開業を機に帰国し、現職に着任。信頼する生産者による食材、伝統的なフランス料理の技法を用いて、鉄板料理を新しいスタイルで提供する。

1. 沖縄県が誇るブランド豚“アグー”を知る旅へ

沖縄県でのみ飼養されていて、全国的な知名度を誇る“アグー”。その肉質のよさには定評があるところだが、県外への流通量が少ないことから、口にする機会が限られるのもまた事実。そこで、沖縄県では2008年に「沖縄県アグーブランド豚推進協議会」を立ち上げ、アグー種の保全や肉質の向上、安定供給を図りつつ、ブランド化の促進に向けた様々な取り組みを進めてきた。

ブランドの証明規定は細かく設定されているが、重要な条件としては、沖縄県内で飼育され、公正なDNA調査による「沖縄アグー証明豚」の資格を有すること、かつ適正な配合飼料によって生育した豚であることが求められる。

今回の旅では、同協議会認定の13の指定生産農場のうち、本島中・北部エリアにある2軒を視察する。パーク ハイアット 京都のシグネチャーレストラン「八坂」の料理長として、日頃から生産者の元へ足を運ぶ機会が多い久岡寛平シェフも、アグー豚の飼育場は初訪問。「沖縄のアグー豚は、よい意味で国内産の豚にはない脂肪の厚みだったり、肉の野趣を持っているイメージ。飼育現場を実際に目にするのが、肉質を知るうえで一番確実なこと。楽しみです!」と目を輝かせる。

視察に先立ち、アグーの定義や特徴についても駆け足でおさらいしておきたい。

アグー豚は西洋豚に比べて小型で四肢が短く、ずんぐりした体型。黒い剛毛が密生し、長い顔の眉間にシワのある鬼面が特徴。豚というよりイノシシに近い野性的な風貌だ。

アグーの起源には諸説あるが、14世紀頃に中国から渡来し、「島豚(シマウヮー)」として定着した説が有力だ。原種は体型が小さく、成長も遅いうえに、雌の出産頭数はバークシャー種などの西洋豚に比べて少ない。そんなアグーの優れた肉質を生かしつつ、より産肉性を高めるために、生産者はアグーと西洋豚の交配を進めてきた経緯がある。

少数ながら、アグー同士を掛け合わせる“アグー一世”の成育に注力する飼育農家も健在。農家が独自の交配技術や飼育環境、飼料への取り組みを進めることにより、アグー豚もより上質に、個性豊かな味わいへ変化を遂げている。

アグー豚は皮下脂肪が厚く、肉量は総じて少なめ。脂は上品な甘味があり、旨味成分のグルタミン酸を豊富に含む肉質。脂の融点が低いため、口の中でとろける舌触りが楽しめる。脂特有の重いくどさはなく、霜降り肉でも食後感は軽やか。

2.栄養豊富な泡盛の蒸溜粕をアグーの飼料に【金武(きん)酒造】

「金武酒造」の奥間尚利さん(右)の説明に熱心に耳を傾ける久岡シェフ。手には、タンク直汲みの新酒が入った利き猪口。金武酒造の泡盛は最低でも1年貯蔵させてから出荷する。

旅の起点は沖縄本島の中央に位置する金武町(きんちょう)。市街地の一角にある建物の外で、アグーブランド豚指定生産農場の一軒「キンアグー」の担当者が出迎えてくれた。ここに豚舎が?と思いきや、どこからともなく蒸し米の甘い香りを含んだアルコールの匂いが。そこは、金武町で創業73年の歴史をもつ泡盛メーカー「金武酒造」の酒造所だったのだ。

農場に先立ってこの蔵に案内されたのは、製造する泡盛の酒粕が飼料に使われているため。蒸溜する際の副産物である“泡盛粕”にはアミノ酸やビタミンなどの栄養素がたっぷり。しかし、もろみ酢の原料になる以外は廃棄されてしまうのが実状という。

「昔は畑にまいたり、家畜の餌に入れたりが普通だったと聞いています。だから、アグーの飼料に使いたいという相談を受けたときも、間違いなくおいしい肉になるだろうと単純に思いました(笑)」と話す同社常務取締役の奥間尚利さん。

泡盛の工程を見るために、奥間さんの案内で酒造所の中へ。回転式ドラムから原料のタイ米を蒸す蒸気がもくもくと上がり、階下の麹室では焼酎や泡盛に特有の“三角棚”で麹が静かに成育中。ステンレスのもろみタンクがずらりと並ぶ仕込み室に続いて、泡盛蔵では珍しいという縦型の蒸溜器も見学。ここで出る蒸溜粕が「キンアグー」の農場に運ばれる。

回転ドラム式装置の中で黒麹菌を散布された蒸米を三角棚に移し、一昼夜かけて麹菌を繁殖させる。健全な発酵に必要な酵素、クエン酸を引き出すため、自動制御による温度・送風管理を徹底。

仕込み室には発酵中のもろみのタンクがすらりと並び、壮観。泡盛には黒麹が使われるため、もろみの色もグレーがかっている。

貯蔵室ではタンクから汲み出した新酒を試飲する貴重な体験も。「既に柔らかなふくらみを感じます。古酒(クース)も素晴らしいんだろうなあ」と、おいしそうに飲み干す久岡シェフ。

この蔵から提供される泡盛粕が、実際にどんなふうに使われているのか、続いて訪問する「キンアグー」の農場で確かめてみたい。

代表銘柄の「龍」は、仕込み水に硬水の金武大川水系の水を使用。1年貯蔵のレギュラー酒から鍾乳洞貯蔵の古酒まで、12種類のラインナップを揃える。鍾乳洞の近くには、1日1000トンの水が湧き出る指定文化財の共同井泉“ウッカガー”も。


◎金武酒造
https://kinsyuzo-tatsu.com/
☎098-968-2438


3. 微生物のチカラを借りた飼料と環境で育つ健康豚【キンアグー】

西洋豚の雌とアグー豚の雄の交配で生まれた生後3カ月の子豚たち。初産の場合は雌の遺伝が強く出るため、ピンク色の白豚が優勢に。2回目以降は黒色が交じるようになり、ウリボウのような縞模様が出現することも。

金武酒造から車で30分ほど、うるま市内にある「キンアグー」の農場に到着すると、敷地内に並ぶ豚舎から元気な豚の鳴き声が響いてきた。

ここで飼育されているのは「沖縄県家畜改良協会」の検査により、沖縄アグー豚として認定された雄雌のアグー豚同士の交配で生まれる純系のほか、西洋種のランドレースやデュロックとの掛け合わせ、その交配種と純系の掛け合わせで生まれる2世代、3世代のアグー豚。

西洋豚との交配種は体重120㎏に達する7~8カ月で出荷されるのに対し、「アグープレミアム」と呼ぶ純系は成長までに12~15カ月かかるのが普通だ。しかも、65㎏前後までしか育たず、1頭あたりから生まれる子豚の頭数も5~6頭と交配種のほぼ半分。「分娩回転率が悪いこともあって、純系は2割ほどでしょうか」と話すのは、顧問の前花安範さん。

「交配種でも、アグーの血が強く出るほど背脂が多くなり、赤身と脂身のバランスを欠いてしまいがち。余分な背脂を落とし、かつ赤身が多めでもやわらかい肉質に育つよう、当社オリジナルの配合飼料を工夫して食べさせています」

その餌で重要な役割を担うのが、ほかならぬ酒粕というわけだ。酒造所から運ばれた泡盛粕は、微生物と穀物を加えて混ぜ、約2週間寝かせて飼料にする。

「寝かせるうちに発酵が進んでアミノ酸が増え、栄養分が豊かになっていきます。その餌を豚が食べると免疫力が強くなって、腸内環境が整う。酒粕にはタンパク質の分解酵素が多く含まれるので、肉がやわらかくなる効果も期待できます」

微生物の発酵作用は、飼料以外でも有効に活用されている。豚舎の床には金網が張られ、その下に落ちた糞尿は微生物入りの浄化槽へ運ばれる。好気性発酵を経て粉状に変化した堆肥は農業に使われ、浄化された水は豚舎の清掃に使用。

「飼育環境でも、循環型のシステムが確立しているんですね」と目を丸くする久岡シェフ。アグー豚の生育にかける生産者の熱量に触れ、大いに刺激を受けた様子が伝わってきた。

顧問の前花安範さん(左)は、養豚歴5年。石垣牛を育てていた期間もあり、微生物を用いた環境浄化の知見と経験豊かなアイデアマンだ。説明を聞きながら、「豚舎がほとんど臭わないことに驚きました。健全に育てていることの証左ですよね」と感心しきりの久岡シェフ。

泡盛粕と微生物、穀物飼料を発酵機にかけて寝かせ、オリジナルの飼料を作成。微生物が発する熱で水分が抜け、きな粉のようにさらさらとして無臭。脂の融点を下げる効果もあるといわれる。


◎キンアグー
https://www.kinagu.com/
問い合わせ:日新ミートフーズ
http://shokunomiraibin.com/
☎098-851-9546

4. ストレスフリーの環境で育てられる純系のアグー豚【又吉アグー】

月齢6~9カ月の豚を収容する半戸外の肥育棟。広々とした空間で、寝そべったりかけ回ったり、思い思いに過ごす豚たちが見るからに楽しそう。ケージの背面には採石場の山を切り崩してできた崖がそびえ、台風の雨風から守ってくれる。

2軒目の農場視察は、名護市の安和岳山麓で約400頭のアグー豚を飼育する「又吉農園」へ。「又吉アグー」のブランド名をもつアグー豚以外に黒毛和牛、ヤギも飼育する畜産業、地場野菜や果物の栽培、観光農園やレストランなど、幅広い事業を展開する農業生産法人だ。アグー豚の生産においては、とりわけ純系×純系の“100%アグー豚”の飼育を主軸に据えてきた。

アグー豚は体が小さく、繁殖力も低く、脂の多い肉質から“歩留まり”の高さが期待できないことは、前述の通り。それでも、あえて原種に近いアグー交配に注力してきたのは、「沖縄の貴重な豚であり、宝でもあるアグーの系統を絶やしたくない思いが強かった」と、専務の大城博和さん。

「肉質がやわらかく、脂身に旨味がたっぷりで、脂肪融点が低いために口の中ですっと溶けていく。他の豚肉にはないアグー本来の特質を、最も濃く受け継いでいるのも純系アグーですから」。その肉質を保持し、さらにピュアな旨味に昇華させるために、実践しているのが「ストレスフリー」の肥育環境だという。

青いパパイヤの実が自生するのどかな自然の中に広がる。陽光が降り注ぐ明るい豚舎を覗くと色黒の純系アグーに混じって現在試験飼育中であるという西洋豚×アグーの交配種「四元豚」の子豚たちの姿も。久岡シェフが近づくと、我先にと集まって鼻先を付き出す姿が愛嬌いっぱい。

「人懐こいですね! 動きがのびのびしているし、表情もくつろいでいるような(笑)」と話す久岡シェフに、「ゆとりがあるからですね。アグーは数が少ないので、そもそも密飼いが成り立ちません(笑)」と豚舎場長の親川公勇さん。

ストレスフリーの環境には、「ホルモン剤・抗生剤フリー」の方針が果たす役割も大きい。農場の豚たちは、自社オリジナルの発酵飼料を食べてスクスクと育つ。抗生物質や合成抗菌剤の類は一切使わず、自然から採取・培養された「NS乳酸菌」を活用。強い発酵力をもち、免疫力アップに高い効果効能が注目される乳酸菌群だ。「生後10日目から粉ミルクにNS乳酸菌を混ぜ、豚の成長に合わせて量を増やしながら飼料に足していく。腸が丈夫になって食欲が増し、子豚の死因に多い下痢もなくなります」

月齢6カ月に達した出荷前の豚は、山間の広々とした肥育棟に移され、最後の2〜3カ月を過ごす。1ケージ中に最大15頭しか入れないため、ほぼ放牧に近い開放的な環境。これほど手を尽くされれば、豚たちは心身とも健やか育つ。それが雑味のない上質な肉質に反映されないわけがない。緑の中で走り回る姿を見て、そう確信した。

戸外から明るい光が差し込む豚舎で、親川公勇さん(左)の説明に聞き入る久岡シェフ。
「アグー豚といえば“沖縄の黒豚”という漠然とした知識しかなかったけれど。こんなにも時間と手をかけながら、あえて苦労して育てられているんですね」と感慨深げに話す。

月齢3カ月の純系アグー。西洋豚に比べて2周りは小さい。豚舎の床に敷かれているのは、糞を乾燥させておがくずに混ぜたもの。驚くほど臭いが少ない。

餌のベースになる発酵飼料は、米にビール粕やパイナップル粕を混ぜた親川さん考案のオリジナル。農場の敷地内に生えている青パパイヤの実を切って混ぜることも。「シークヮーサーも好きみたい。飛びついて食べますよ(笑)」


◎又吉農園
https://matayoshifarm.wixsite.com/matayoshifarm
☎0980-53-8141


5.沖縄を代表する柑橘の故郷へ【勝山シークヮーサー】

“青切り”と呼ばれる青いシークヮーサーの実。収穫期には敷地内に生産者の名前が入ったコンテナが置かれ、夕方に届けられるシークヮーサーの果実が翌朝に加工場で搾られて果汁に。

又吉農園からほど近く、安和岳(あわだけ)と古巣岳(ふるしだけ)を背後に抱く勝山地区は、沖縄を代表する柑橘「シークヮーサー」の主要産地として知られる。視察ツアーの締めくくりは、人口わずか160人ほどの小さな集落で2003年から沖縄県産シークヮーサー果汁の製造・商品化に取り組んできた「勝山シークヮーサー」へ。

勝山がシークヮーサーの生育に向く理由について、同社営業課長の仲村尚吾さんは「沖縄本島の場合、酸性土壌で太陽がよく当たる地域であること、北部山間の水はけのよさ」を条件に挙げる。この地域では昔から自生している樹木が多く、「勝山シークヮーサー」で搾られる果汁の一部も自生の古木から手摘みした果実を原料としている。

収穫は青い果実が実り始める8月を皮切りに、実がオレンジ色に完熟する1月頃まで約半年間続く。期間中は総勢100軒ほどの契約農家から持ち込まれる果実を、敷地内の約50坪の加工場で果汁に搾り、主力商品の100%果汁やドリンク類、調味料などに加工して出荷販売。農薬や栽培履歴を可視化するトレーサビリティも早くから導入してきた。

加工場内に入るや、爽やかな柑橘の香りが鼻腔いっぱいに広がる。搾汁は “1回搾り”と、搾汁後の実をさらにローラープレスにかける“2回搾り”の2方式を併用。搾りかすのほとんどは堆肥に使用されたり、乾燥させて粉末にしてサプリの原料になったりと有効活用されているという。

「もともと、やんばるのハルサー(畑人)を守り、ともにシークヮーサーの里を盛り上げていこうというのが創業の動機にありますので、皆さんからいただいた果実を余すことなく活用することが大事だと考えています」

仲村尚吾さん(左)の案内で、シークヮーサーの古木が密生する自生林も視察。フランスのレストラン経験が長い久岡シェフは、「ビネガーを作ったら? 欧州の人たちはきっと好きだと思います」と提案。

果実の選別、洗浄、搾汁はオートメーションで行われるが、傷んだ部分を切り取る細かい手作業も。実を搾りすぎると種がつぶれ、皮の渋味も出やすいため、1回目の搾汁はキャタピラー搾汁機で45%ほど。ローラープレスによる2回搾りの果汁は、健康効果の高さで注目される“ノビレチン”の含有率がアップ。それぞれを使い分け、特性を生かした商品化に成功している。

キャラクター違いの“100%果汁”シリーズ。左から「完熟」、「青切り」、2種類のブレンドによる看板商品「sea-sun 勝山シークヮーサー」、2回搾りの果汁のみを瓶詰めした「ゴールド」。


◎勝山シークヮーサー
https://www.mayaga.com/
☎0980-53-8686

6.<2022年11月28日~12月15日 アグーブランド豚フェア開催>
フレンチ×鉄板料理 京都「パーク ハイアット 京都 八坂」久岡寛平シェフ

2つの農場から取り寄せたアグー豚の部位を大胆に組み合わせ、特有の旨味の濃さ、上質な脂の甘味をふんだんに盛り込んだ「金アグー豚のパテ・アンクルート」。京丹後産のカブとミョウガを添え、軽やかさも感じられるアントレの仕立てに。豚と鴨からだしを取った滋味深いコンソメが添えられる。

沖縄アグー豚の生産農場への視察ミッションを終え、京都に戻った久岡寛平シェフ。旅の総括は、自身が指揮を執るシグネチャーレストラン「八坂」のオープンキッチンで、アグー豚の持ち味を“フレンチ×鉄板料理”のスタイルに映し、表現すること。現地では視察の傍ら、様々なアグー豚の料理を食べ比べた久岡シェフは、その肉質の生かし方についても手応えをつかんだ様子だ。

「アグー豚の味わいの特徴は舌にとろける脂の甘味と、味が濃厚な肉のコントラスト。皮下脂肪に厚みがあって、噛んだときにジュワッとあふれ出す風味の濃さが、フランスのレストランで使っていたバスク豚にも似ています。個人的にも好みで、使ってみたいと思わせてくれる肉質ですが、鉄板調理では火の入れ方を工夫しないと赤身の硬さが強調される難しさも。そこをクリアしつつ、できるだけ多くの部位を使って試作しながら、前菜とメインの2品に組み立ててみました」

「金アグー豚のパテ・アンクルート」

スパイスを練り込んだ挽き肉に、頬、肩、背脂、豚トロなどの角切り肉が混じり、みっちりとした肉感とサクサクのパイの食感とのコントラストが味わい深い。

一皿目に登場したのは、さまざまな肉のパテをパイ生地に包み、こんがりと焼き上げた「金アグー豚のパテ・アンクルート」。フレンチの古典的なシャルキュトリであり、「八坂」のグランドメニューでもある王道のレシピを、「キンアグー」と「又吉アグー」の様々な部位の組み合わせでアレンジ。

「背脂が必ず入る料理ですので、脂がおいしいアグー豚に向いていると思いました。パテはいつも3種類くらいの肉で作りますが、今回は挽き肉と塊を合わせて10種類近い部位を使っています」

アグー豚のモモ、ウデ、喉、ネックに鴨も加えて挽き、頬、肩、豚トロ、背脂の塊肉はソミュール液に漬けてから火を入れ、ダイス状にカット。サクサクのパイ皮を切り分けると、変化に富んだ味わいと食感を予感させるモザイクのような断面が現れる。口中ではアグー特有の甘味、しっかりしたコク味がスパイスの香りとともに広がるが、後口はスッと切れて爽やか。温めて真価を発揮するアグーの脂の特質が、冷菜でもいかんなく表現されている。

「又吉農園純血アグー豚のデクリネゾン “五百万石”のパエリアとピキヨス」

ロースを一切れはそのまま、もう一切れはソミュール液に浸けてからロースト、低温調理で生ハム風に仕上げた肩ロースのスライスと共に一皿に盛り込み、3パターンの食べ比べを提案。久岡シェフのシグネチャーのブイヤベースで炊き上げた五百万石(酒米)のパエリア、肉ベースのスープと貝のだしを合わせたバスクスタイルのサルサ、京丹後産の焼き野菜や、伊根の酒蔵の熟成酒粕と黒にんにくを練り合わせたペーストなど、ガルニチュールもすこぶる魅力的。生のつるむらさきは、「沖縄で教えてもらった食べ方を取り入れてみました」と、にっこり。

メインの一皿では、又吉農場のロースを鉄板で焼き、キンアグーの肩ロースはソミュール漬けから低温調理で17時間加熱して塩豚風に。「一気に高温で焼くと肉の繊維が縮んで硬くなりやすいので、ソミュールで柔らかな塩味を入れて、低温で調理するのが向く肉質だと思う」と久岡シェフ。視察先ではしゃぶしゃぶを薦められることが多かったが、アグー豚の良さを生かすには理にかなった食べ方といえるのだろう。

「ただ低温調理でハムっぽく味わうだけではもったいないので、今回はジューシーな香ばしさを楽しめるローストをメインに。脂は切り取らず、熱でゆっくり溶かしながら、肉に旨味を移すイメージで焼いていきます。遠火でじっくり加熱できる炭焼きや薪焼きなら、より理想的なのかもしれませんね」

今回は使わなかったが、ヒレもやわらかさの中にしっかりした旨味があり、「シンプルなグリルやローストに魅力的な肉質」と絶賛する。「肩肉は脂の融点の低さを生かしたコンフィ、頬はたっぷりの白ワインを入れてプロヴァンス風のトマト煮込みに。背脂は塩漬けのラルドにしても、よさそうですよね」と、具体的なレシピ提案も次々に。おいしい妄想が浮かび、膨らんで止まらない。

鉄板の火の入り方は独特。肉焼きにも直火調理とは違うコツと経験がいる。久岡シェフは、鉄板の120℃と220℃のポイントを使い分け、アグー豚の脂を溶かしながらじっくりと火入れ。バター、セージ、ローズマリーをまぶして焼き上げる。ハーブの香りも鉄板ではつきにくいので、一緒にローストしたり、バーナーで炙ったり。「肉の味が単調に感じられないように。フランスの赤身肉でよく使われるテクニック」という。

東山の高台、歴史ある料亭「山荘 京大和」の敷地内に共存する「パーク ハイアット 京都」のシグネチャーレストラン。目の前にそびえる八坂の塔、京都の街並みを眺めながら革新的な鉄板料理を楽しめる。


◎パーク ハイアット 京都「八坂」
京都府東山区桝屋町360
☎ 075-531-1234
ご入店時間17:00~17:30 / 20:00~20:30(二部制)
無休
https://www.hyatt.com/ja-JP/hotel/japan/park-hyatt-kyoto/itmph/dining/yasaka

◎アグーブランド豚フェア
2022年11月28日(月)~12月15日(木)の期間中、「金アグー豚のパテ・アンクルート」「シグネチャーブイヤベース」「又吉農園純血アグー豚のデクリネゾン “五百万石”のパエリアとピキヨス」と、アグー豚を堪能できる特別コース(¥20,240、税・サ込)をご用意します。
※オンライン予約限定。


7. 和食料理人 東京・四谷「荒木町 きんつぎ」北村徳康シェフ

和食の料理人は、アグー豚をどう生かすだろう?

東京「荒木町 きんつぎ」は、和食とこだわりの日本酒が楽しめる店。温かいだしから始まり、料理担当の北村徳康さんが、その日に入荷した季節の食材を調理し、豆皿に美しく盛りつけた幾皿もの料理をつまみに、サービス担当でソムリエの佐藤正規さんが勧めてくれる美酒が進む。

料理担当の北村徳康さん(左)とサービス担当でソムリエの佐藤正規さん(右)。北村さんは学芸大学「件(くだん)」、中目黒「ひぐらし」、会員制すし店などで修業。佐藤さんは溝の口の酒専門店「坂戸屋」を経て、同じく「件」に。件出身で、1986年生まれの二人が2018年に現店をオープン。

皮つきの豚肉を使いたくて、以前から沖縄から皮つきの豚バラ肉を取り寄せていた北村さんだが、アグー豚は食べたことがなかったという。「脂がさらっとしてくどくない。きれいだなと感じました。赤身の部分にもきめ細かに脂が入ってジューシーさがあり、舌触りもいい。特別な香辛料を用いなくても、和の調味料にも合うアグー豚は、和食の色々な料理に合わせやすい食材だと思います」

北村さんが作ったのは、ロース肉を使った「アグー豚の醤油漬け 白菜の酢漬け 炊き合わせ」。軽く塩漬けしたロース肉を角煮のように厚めに切り、肉が硬くならないよう、85℃で3時間蒸し、醤油ベースの調味液に一晩漬け込んで味を染み込ませた。豚肉を温めて器に盛り、スダチを効かせた甘酢でマリネした塩漬け白菜を添え、かつおと昆布でとった温かいだしをはる。透明感のある穏やかな味わいのなかで、アグー豚の脂の甘さ、肉の旨味が際立つ仕立てだ。

「炊き合わせにしたときに、だしに脂が浮かない。アクもほとんど出ないので驚きました。豚そのものの特性に加え、飼育方法や、処理の仕方も工夫されているからでしょう。豚肉は牛肉より安価な素材と思われる場合もありますが、アグー豚なら、歴史や血統、手掛ける生産者さんの飼育技術などストーリーをお伝えできるので、お客様にも価値をわかっていただけると思います」

純系アグー豚にある濃い旨味から、インスピレーションを得た北村さん。「純系のアグー豚はいいだしが出る。米の甘味にも合うので、だしがとれるウデ肉で炊き込みご飯を作ったらおいしい。スパイスや塩を控えめにした肉肉しいソーセージを作って、おでんに入れても、アグー豚とだしの旨味が重なり、奥深い味が作れるでしょう」

「アグー豚の醤油漬け 白菜の酢漬け 炊き合わせ」

佐藤さんがすすめる酒は、アグー豚の旨味と白菜の酸味に重ねるように、日本酒でも酸と旨味がある純米酒の生もとを、だしの温度帯に合わせてお燗で。「ワインなら、自然派の造り手のエッジの効いた酸があるワイン。焼酎だったら水割りが炊き合わせの優しい味わいにフィットします」

飲食店が立ち並ぶ四谷・杉大門通りからすぐのビルの地下1階、隠れ家のような場所にある。カウンター席のほか個室もあり、ビジネスなどの会食にも利用できる。


◎荒木町 きんつぎ
東京都新宿区四谷3-3-6
アイエス共同ビル3 B1F
☎03-6709-8704
17:00~23:00
不定休
東京メトロ四谷三丁目駅より徒歩2分
https://gga4300.gorp.jp/

◎アグーブランド豚フェア
2022年12月5日(月)~12月18日(日)の期間中、「アグー豚の醤油漬け 白菜の酢漬け 炊き合わせ」をコース(¥8,580~、税込)の中で、小さいポーションで提供。21時以降はアラカルトの一品料理としても提供する。


8.豚肉料理のエキスパート 東京・神楽坂「ルグドゥノム ブション リヨネ」クリストフ・ポコシェフ

豚肉料理に精通するフランス人シェフ、東京・神楽坂「ルグドゥノム ブション リヨネ」のクリストフ・ポコさんにも、アグー豚を使って料理を作ってもらった。美食の街、フランス・リヨンの伝統料理をモダンに表現する同店では、ベーコンやパテ、テリーヌ、ソーセージ、ブーダン・ノワールなどの自家製シャルキュトリを常時6種類以上作るため、豚肉は欠かせない食材だ。肩ロース、バラ肉、背脂、レバー、豚トロ、豚足・・・使う部位も多岐にわたる、まさに豚肉のエキスパートだ。

「ルグドゥノム ブション リヨネ」オーナーシェフのクリストフ・ポコさん。フランス・リヨン郊外ヴェニスィウ出身。15歳で料理の修業を始め、パリ「プラザ・アテネ」「ホテル・ブリストル」など名門ホテルを経て98年来日。「ホテルソフィテル東京」総料理長を務めた後、2007年に独立して現店をオープン、今年15周年を迎えた。日本シャルキュトリ協会会長も務める。

「アグー豚のロースは脂と赤身の割合がちょうどよく、脂もさっぱりしている。シンプルに焼くだけで、アグー豚のおいしさを存分に感じてもらえると考えました」

ポコさんが作ったのは、掛け合わせのアグー豚のロース肉を使ったアグー豚のロースト。「アグー豚は普通の豚肉に比べて味が濃い。イノシシを思わせる風味もあるので、ジビエのような感覚で調理してみました」

ロース肉の塊を、ジビエ料理の定番スパイス、ジュニパーベリー(セイヨウネズ)で一晩マリネして香りをつけた。表面をグリルしたあと、180℃のオーブンでローストする。2分おきに出して肉を休ませる工程を繰り返し、肉全体に火を入れる。時間をかけて焼き上げたアグー豚は、赤身部分がしっとりとやわらかく、噛みしめると旨味が広がる。ほどよくとろけた脂身は、すっきりして甘味がある。

付け合わせは、根セロリのピュレ、赤キャベツの酢漬け、焼いて炭にしたニンニクを散らしたレモンコンフィのペースト。仕上げに旨味を凝縮したソースとオリーブオイルをひとたらし。アグー豚のボリューム感に、根セロリの滋味、キャベツとレモンの酸味と香りが鮮やかに調和する。

アグー豚は西洋品種と比べるとかなり小さいことも、「ローストにするときなど、むしろ、ちょうどいいサイズ。ロスが出にくく、レストランにとって扱いやすさにつながるのでは」とメリットに転換。「次は、バラ肉や豚トロでシャルキュトリを作ってみます。リッチな味わいになるでしょう」。フランスの伝統料理においても、アグー豚の魅力を発揮する可能性が広がっている。

「アグー豚のロース ジェニパー風味 根セロリのピュレと赤キャベツの酢漬け レモンペーストとにんにくの炭」

時間をかけて焼き上げたアグー豚はしっとりジューシーで、噛むほどに肉そのものの味を堪能できる。

神楽坂の有名な通り、本多横丁に立つ店は今年15周年を迎えた。伝統的な錫製のカウンターなど、フランスのブション(リヨンスタイルのレストラン)の雰囲気をエレガントに再現した店で、リヨンの郷土料理を味わえる。


◎ルグドゥノム ブション リヨネ
東京都新宿区神楽坂4-3-7
海老屋ビル1F
☎03-6426-1201
11:30~14:00LO
18:00~21:00LO
月、火曜休
各線飯田橋駅より徒歩4分 
http://www.lyondelyon.com/

◎アグーブランド豚フェア
2022年11月30日(水)~12月28日(水)の期間中、「アグー豚のロース ジェニパー風味 根セロリのピュレと赤キャベツの酢漬け レモンペーストとにんにくの炭」を、ディナーの「前菜+メインディッシュ+フロマージュまたはデザート」のコース(¥5,445、税込)、および、ランチの「シェフのおまかせコース」(¥7,645、税込)にて提供します。

※新型コロナウイルス感染拡大等により、営業時間・定休日が記載と異なる場合があります。事前に各店舗に確認してください。

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