HOME 〉

JOURNAL / 世界の食トレンド

Spain [Vigo] 世界のタコ市場を大きく揺るがすか? ガリシア州で進むタコの養殖研究

2022.09.12

text by Yuki Kobayashi

1960年創業、ガリシア州ビーゴに本社を置くスペインを代表する水産大手「ヌエバ・ペスカノバ(Nueva Pescanova)」社が、タコの養殖および商品化を進めている。


ガリシア州といえばタコの伝統料理が有名だが、国内で消費されるタコの80%は輸入に頼っており、国産タコの価格もうなぎ上り。一般的なタコ加工食品には、モロッコやモーリタニアなどの原産地名がついている商品が多い。

同社のタコの養殖は、2018年に研究が始まり、ポルトガル、メキシコとの共同研究を行ってきた。タコには高度な知性があることから、養殖に反対する動物愛護団体もあり、アニマルウェルフェアや環境保全の持続性がプロジェクトの最優先、必須条件になる。研究過程で生まれたタコはすでに5世代目。スペイン高等科学研究所も参加し、副腎皮質ホルモンやアミンを計測することで、タコにかかるストレスを観察している。

メキシコチームはエサの研究を進めており、人間の食糧にならない種類の魚を与えて一定の効果を出しているという。タコは生き餌しか食べないと言われ、また自然状態では共食いもあるため、養殖状況下でのタコの生態のデータ蓄積が何より重要だ。

2022年、ヌエバ・ペスカノバ社は6500万ユーロをかけて、ラス・パルマス・デ・グラン・カナリアに養殖場を設置し始めた。州政府の厳しい環境保全規定などをクリアせねばならないが、太陽光発電を利用したり、地域の雇用促進も含めて期待は大きい。

商品化の時期は未定だが、国内メディアによると2023年とも言われている。結果が良好なら、年間3000トンのタコが出荷される見込みだ。国際連合食糧農業機関(FAO)の見解では、タコの消費は、2028年には21%増(2022年比)になるというから、商品化が始まれば、世界のタコ市場を大きく揺るがすニュースになるに違いない。

(写真トップ)生後55日のタコ。ヌエバ・ペスカノバ社はオグロベ(ガリシア州ポンテベドラ県)の水産養殖の研究所の一部を「バイオマリーンセンター」として、2021年から一般公開を開始。水産エコシステムの啓蒙のための博物館の趣で、同社の養殖の歴史や技術を公開している。



*1ユーロ=137円(2022年8月時点)

料理通信メールマガジン(無料)に登録しませんか?

食のプロや愛好家が求める国内外の食の世界の動き、プロの名作レシピ、スペシャルなイベント情報などをお届けします。