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SDGs

魚を食卓から消さないために。

「サステナブルシーフード」について知ろう!後編

2018.05.17

海はつながっています。海は世界中の共有財産。だから、世界中のみんなで守らなければなりません。そのための取り組みが広がり始めています。海の魚が減っているのであれば、どんな魚を食べればいいのか、と迷う食べ手をガイドしてくれる取り組みもあります。

食べていい魚、食べられなくなる魚。

「2050年の日本の鮨屋」という短いイラスト動画があります。日本財団ネレウスプログラム(日本財団とブリティシュコロンビア大学の共同運営による国際海洋プログラム)が作成しました。このイラスト動画では、水産資源の減少がこのまま進行すると、食べられなくなる魚がこんなにあると予測しています。

最悪の事態を避けるために、今、私たちは、どの魚を食べ、どの魚は我慢したほうがいいのでしょうか?
ロックフェラー&カンパニー会長によって設立されたNGO団体「SAILORS FOR THE SEA」日本支局による「ブールー シーフード ガイド
では、サステナブルシーフードがリスト化(*1) されて、魚を選ぶ目安になっています。

持続可能な漁業で獲られた魚であることを保証する認証制度も活発化してきました。審査団体によって認証を得た水産物に“水産エコラベル”を表示して、サステナブルシーフードを判別できるようにしようという動きです。
代表的なのが「MSC」(Marine Stewardship Council 海洋管理協議会)。本部はロンドン、1997年に設立され、日本事務所は2007年に開設されています。

MSC認証とは、
1.資源の持続可能性
2.漁業が生態系に与える影響
3.漁業の管理システム
という3つの観点から審査を行い、MSCが定める「持続可能な漁業のための原則と基準」を満たしていると認められた漁業者に与えられる認証で、その水産物には「MSCラベル」、通称「海のエコラベル」を貼ることができます。

MSCラベル付きの商品は、CoC(Chain of Custody)認証を持っていないと加工・販売できないこともあって、まだちょっと馴染みが薄いかもしれません。
現在、世界30カ国341漁業者(2018年5月現在)、日本では4漁業3事業者(*2)がMSC認証を取得。
CoC認証を持っているのは世界4000社、日本156社で、代表的なのはイオン、COOP、イケア、飲食店では東京・世田谷「BLUE」が挙げられます。ユニークなところでは、パナソニックの社員食堂がMSC認証の水産物を継続的に使っていく表明をしています。

ロンドン以降のオリンピックでは環境に配慮された水産物のみを扱うことと定められており、ロンドンオリンピック時にはMSC認証の水産物が優先的に使われて、MSC認証の普及が促進されました。東京オリンピックもサステナブルシーフードへの意識喚起の絶好の機会となりそうです。

MSC認証マークが付いた冷凍食品

MSC認証マークが付いた冷凍食品。ベーリング海やオホーツク海でのMSC認証漁業で捕獲されたすけとうだらが使われている。


日本人がサステナブルシーフードを求めれば。

3月8日、東京・原宿「eatrip」において、MSCとChefs for the Blueのコラボイベントが開催されました。
「サーモン&トラウト」の森枝幹さんも参加、「Lature」室田拓人シェフや「eatrip」の野村友里さんと共に腕をふるいました。
食材はもちろんMSC認証のサステナブルシーフード。日本で認証を持つ3事業者のひとつ、明豊漁業による一本釣りのカツオとビンナガです。

「eatrip」で開かれたMSC認証とChefs for the Blueのコラボイベント

「eatrip」で開かれたMSC認証とChefs for the Blueのコラボイベントで。左から、「Lature」室田拓人シェフ、「Salmon&Trout」森枝幹シェフ、バート・ファン・オルフェンさん、明豊漁業の松永賢治氏。タイトルバックの写真は「eatrip」野村友里さんとバートさん。

明豊漁業は、元々焼津を本拠地とする水産加工会社でした。東北大震災時に塩釜の出張所が、震災で行き場を失った漁船を受け入れたのを機に、自ら漁船を所有し、漁業から取り組むようになったという経緯を持ちます。
被災経験から持続可能な漁業への意識は高く、MSC認証の取得に取り組んだのでした。

そして、この日のもう一人の重要人物が、バート・ファン・オルフェンさん。海洋の健全化とより良い食の実現を目指すオランダ人シェフで、世界を旅しながら啓発活動を続けています。漁師たちとコミュニケーションをとり、その様子をWEBサイト「Fish Tales」やで本で紹介し、レシピブックを出版。今、世界中から注目を集めています。

ビンナガのグリル ニソワーズ風

この日提供された料理のひと皿、バートさんによる「ビンナガのグリル ニソワーズ風」。

BART'S FISH TALES
バートさんのレシピブック

バートさんのレシピブックから。

「活動を始めた2007年当時、オランダの小売店に並ぶサステナブルシーフードはフィンガーフィッシュくらいでした。それが今では、多くのレストランで当たり前のように使われ、サプライチェーンに並びます。この10年で、オランダにおけるサステナブルシーフードに対する認識は、売る側も買う側も大きく向上したのです」

バートさんは、日本の消費者やシェフの間でサステナブルシーフードへのニーズが高まれば、きっと世界に大きな影響を与えるだろうと言います。
「世界中でおすし屋さんが次々とオープンする時代です。日本の魚食文化は世界に影響を与えています。オランダの人々が魚を食べるのはせいぜい週1回ですが、日本では回数も多ければ、食べ方も多様でしょう。日本人の魚との向き合い方は、世界にとって学ぶところが多く、世界から注目されているのです。日本の人々がサステナブルな魚しか求めなくなったら、きっと世界に良い影響を与えるはずです」

森枝さんや柿崎さんも同様の意見を持っています。
「日本人は魚を食べるリテラシーが高い。活け締めのような鮮度を保つ技もあれば、漬けたり、干したり、発酵させたり、保存の技も駆使します。そのカルチャーをサステナブルな方向に生かせばいい」
もうひとつ、バートさん、森枝さん、柿崎さんに共通した見方があります。
それは「天然魚はジビエと同じ」。

農産物は、人間が飼育や栽培することで生産されるから、飼育量や栽培量を人間の意志で増やしたり減らしたり、ある程度コントロールが可能です。
けれど、天然魚は基本的に自然に委ねるしかありません。養殖でない限り、人間の関わり方は「獲る」か「獲らない」か。その意味では、ジビエの猟師と魚の漁師は、獲物との向き合い方が一緒だと言えるでしょう。だからこそ、「生息環境を整える」というサステナブルな漁業が重要になってくる。正しく獲ることが大切になる。正しく獲った魚しか食べないという選択を、今、世界中で実践する必要があります。
森枝さんは言います、「おいしい天然魚が日常的に食べられなくなってから、『オレたち、馬鹿だった』と気付いても遅いのです」。

*1 水産白書(水産庁)、Seafood Watch(モントレー水族館による水産資源の評価プログラム)、国際的な自然保護ネットワークIUCN、WWF、MSC(後述)、各都道府県の水産データおよび専門家の意見や論文を総合的に検証して選出し、専門の科学者の助言を得て作成。

*2 日本で認証を受けているのは、京都府機船底曳網漁業連合会のアカガレイ漁業(現在一時停止中)、北海道漁業共同組合連合会のホタテガイ漁業、明豊漁業株式会社のカツオ・ビンナガ一本釣り漁業(宮城県塩釜市)の4漁業3事業者


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<OUR CONTRIBUTION TO SDGs>
地球規模でおきている様々な課顆と向き合うため、国連は持続可能な開発目標 (Sustainable Development Goals) を採択し、解決に向けて動き出 しています 。料理通信社は、食の領域と深く関わるSDGs達成に繋がる事業を目指し、メディア活動を続けて参ります。

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