ファーマーズマーケットのフードロス活動にジョイン!フレンチの技で規格外&残り野菜を使い切る
2023.08.07
text by Noriko Horikoshi / photographs by Sai Santo
連載:ブランド野菜に頼らない
ブランド野菜に頼らない。小さくて強い店で見つけた野菜との付き合い方
未利用野菜を活かすため、独自のアプローチで奮闘する、小さくて強い店の野菜使いをクローズアップ。制約を強みや個性に変える、シェフたちの技をご紹介します。今回は、青空市の残り野菜を一括で買い上げる支援システムを活用するフレンチシェフの野菜使いにフォーカス。
目次
小さな店の取り組みが大きな社会につながれば
シャキッと歯応えを残したケールのお浸し。サクランボの甘酸っぱさをまとったビーツのロースト。魚料理は、ラベンダーが香るズッキーニのソテーと。「小泉料理店」の野菜料理は、いつなんどきも驚きに満ちている。その旬の素材づかいの巧みさ、引き出しの多さ。メインの添えものに終わらない圧倒的な存在感。だから、「野菜は、ほとんど売れ残りを使う」と聞き、最初はちょっと驚いた。青山ファーマーズマーケットが出店農家の売れ残りや規格外の野菜をまとめ、近隣の契約レストランに配送するフードロス削減プログラムを、開店時からずっと利用しているという。(注:現在、このプログラムは休止しています。2019年取材当時の情報です)
システムの存在を知ったのは昨年(2018年)11月の開店準備中。「もともとサステナブルなこと全般に興味があって」と小泉洋シェフ。かつて料理修業で仏ブルターニュに滞在した当時、ミシュラン三ツ星保持の名シェフ、オリヴィエ・ロランジェに出会い、衝撃を受けた経験が背景にある。
「まず食材ありきの視点。生産者とのつながりを大切にすること。無理をして高い材料を使わず、無駄を出さない食材を優先的に選ぶ考え方。すべてに共感して、自分も店を持つときは野菜、肉、魚に限らず、ロスのない食材選びで、と決めていました」
しかし、小さな店単体の取り組みでは実務的な負担が多く、人々の関心も呼びにくい。その点、知名度の高いファーマーズマーケットのシステムなら、利用しやすいし、波及効果も十分と踏んだのだ。野菜が配達されるのは、毎週日曜、マーケット終了後の午後5時過ぎ。定休日だが、1週間分の野菜を受け取るため欠かさず店に出る。「生産者も量も種類も、週によって違う。大根ばかり20本も届いて、うわ!と思ったこともあります(笑)」
さらに、いつも満足のいくコンディションの野菜が届くとは限らない。鮮度は申し分ないものの、収穫のタイミングによって微妙に味が薄かったり、甘味が足りなかったり。しかし、使い切らねば! ここからが腕まくりのしどころだ。
“無駄なく使い切る覚悟”が料理をクリエイティブにする
前菜からメインのガルニチュール、アラカルトまで出番の多い根菜類は、コンベクションオーブンで“蒸し”の下調理を済ませておく。足の早い葉物系は、生で食べるもの以外は保存の効く塩茹でやお浸しに。量が多い場合はソースに作り分けることも。ここまでを、野菜がある分だけ仕込んでしまう。
残念ながら野菜そのものの風味が弱かったとしても、慌てることはない。乳製品を足してコクを、フルーツの酸味でメリハリを出す。味噌やナッツ系のオイルで旨味を上げる。
小泉流の救済法は、多種多彩。自在なハーブ、スパイスづかいも、そのひとつ。ラベンダーの穂、カモミールの花、クミンなど、「鮮烈な香りを持つ種類は単体で使う。複雑すぎないほうが個性がくっきり立って野菜を飽きずにおいしく食べられるから」。
これも、“スパイスの魔術師”の異名をとるブルターニュの名シェフからのインスパイア。「無駄なく使いきる」覚悟は、料理をクリエイティブにしてくれるのだ。
◎小泉料理店
東京都渋谷区恵比寿西1-10-12
☎050-5487-9495
18:00~21:00LO
日曜休
JR、東京メトロ恵比寿駅より徒歩4分
https://koizumir.gorp.jp/
(雑誌『料理通信』2019年9月号掲載)
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