HOME 〉

JOURNAL / 世界の食トレンド

ビストロ料理の象徴を軽やかな一皿に。パリ初の“ウフ・マヨ・バー”

France [Paris]

2026.06.22

ビストロ料理の象徴を軽やかな一皿に。パリ初の“ウフ・マヨ・バー”

text by Sakurako Uozumi
ウフ・マヨは全6種。季節ごとにトッピングを変えながら展開し、3〜4ピースで各8.40ユーロ。黄身の濃厚さとマヨネーズの酸味を軸に、香味野菜やスパイス、ピクルス、海苔などを組み合わせ、ビストロの古典を現代的なアペリティフへと軽やかに刷新。写真はエスプレット唐辛子入りの自家製マヨネーズ、ローストしたビゴール産黒豚ハムを重ねた一皿。「ウフ・マヨ」をベースにしながら、燻香と辛味、ゴマの香ばしさを重ね、ワインと共につまみたくなる味わいに仕立てている。

近年のパリは、伝統料理をボリュームたっぷり、かつ良心的な価格で提供する大衆食堂“ブイヨン”が急増している。

2023年にオープンしたパリ11区「Ter.(テール)」は、25年5月からビストロ料理に欠かせない「ウフ・マヨ(ゆで卵のマヨネーズソースがけ)」を主役に据え、パリ初の“ウフ・マヨ・バー”をスタートした。素朴なビストロ料理を現代の感覚で軽やかに刷新し、観光客向けの“パリらしさ”ではなく、地元客の日常に根づくことを目指している。

6種類のウフ・マヨの卵は、沸騰したらすぐに卵を入れて8分40秒茹で、黄身がとろりと流れる半熟に仕上げる。エスプレット唐辛子やタラゴン入りの自家製マヨネーズには、バイヨンヌ産ジャンボンやマスの卵を添える。一方、味噌や醤油、乾燥シイタケで作るマリネ液に浸した“味付け卵”には、ショウガのピクルスや海苔チップスを合わせるなど、初代シェフの日本滞在経験を背景に、日本の調味料が、ごく自然なかたちで組み込まれている。

味付け卵/味噌マヨネーズ
醤油、味噌、シイタケ、柑橘を合わせたマリネ液に2日以上漬け込んだ「味付け卵/味噌マヨネーズ」。味噌マヨネーズのコクに、ショウガのピクルスの酸味、青ネギと一味唐辛子の香りを重ね、日本的な味覚をビストロの前菜へと落とし込んだ。
味付け卵/パプリカマヨネーズ
「味付け卵/パプリカマヨネーズ」は、燻香が効いたパプリカ入りのマヨネーズ、海苔チップス、タマネギのピクルス、青ネギの細切りを重ねた一皿。卵とマヨネーズのとろりとした質感に、パリっとした海苔の食感、タマネギのシャリっとした歯触りが重なり、味だけでなく食感のコントラストまで絶妙に構成されている。

「レストランに行くなら、家で5分では作れないものを食べたいはずです」と話すのは、共同オーナーのティボー・ブランカール氏。「ウフ・マヨはフランス料理に欠かせない存在。でも、だからこそ再構築する面白さがあります」。価格はすべて8.40ユーロ。卵の茹で時間“8分40秒”に由来する遊び心も、この店らしい。

自然派ワインやクラフトビールとともに気軽に楽しめる一方で、仕込みには意外なほど時間をかけている。卵のマリネには2日間、ショウガのピクルスには2週間を費やし、鴨のコンフィは26時間かけて火を入れる。軽やかなスタイルの奥には、フランス料理らしい火入れと仕込みの技術が土台にある。

伝統料理を懐古的に再現するのではなく、都市の日常に合わせて更新していくこと。テールのウフ・マヨは、いまのパリのビストロが向かうひとつの方向を映し出している。

共同オーナーのティボー・ブランカール
共同オーナーのティボー・ブランカールは、料理とワインのセレクションを担う。卵のマリネや自家製ピクルス、火入れに至るまで、小皿料理であっても手間を惜しまない姿勢だ。フランス料理を軸に、日本滞在経験を持つ初代シェフから受け継いだアジア的な感覚も引き継ぎながら、この店ならではの味を形づくっている。ワインは自然派、有機、ビオディナミを中心に約100種類を揃え、大半はフランス各地の小規模生産者から選び、料理と同様に“作り手の思想が見えること”を重視する。常連客に合わせてラインナップを頻繁に入れ替えるのも特徴だ。
共同経営者のギヨーム・モタン
共同経営者のギヨーム・モタン。ティボーと共に、料理とワインを気軽に共有するテールのスタイルを築く。
鴨のコンフィ
ビストロの定番「鴨のコンフィ」。鴨は低温で26時間かけてじっくりと火を入れ、照り焼き風に仕立てる。焼きそばや香菜、砕いたピーナッツを合わせた一皿は、フランス料理をベースにしながらも、アジア的な香りや食感を織り込むテールらしいアプローチを象徴している。
香ばしく焼き上げたブリオッシュに、イワシ、サワークリーム、ニンジンとキャベツのピクルスを重ねた一皿
香ばしく焼き上げたブリオッシュに、イワシ、サワークリーム、ニンジンとキャベツのピクルスを重ねた一皿。バターが香るリッチなブリオッシュに、酢漬け野菜の酸味と魚の旨味を組み合わせ、伝統的な保存食を現代的なビストロ料理に仕立てた。酸味、脂、塩味のバランスが絶妙で、食感のコントラストも心地よい。
全30席のこぢんまりとした店内
全30席のこぢんまりとした店内。ナチュラルテイストの空間には、自然派ワインを片手に小皿料理をシェアしながら、ゆるやかに食事を楽しむ空気が流れている。厨房と客席との距離が近く、料理人と客が自然に言葉を交わせる、今のパリのローカルビストロらしい距離感が魅力だ。
Ter.外観
ボルドー色のファサードが街角でひときわ目を引く。2023年にレストランとして開業し、2025年春からパリ初となる“ウフ・マヨ・バー”を導入。観光客向けの演出ではなく、11区の日常に根ざしたローカルビストロとして、近隣客を中心に支持を集めている。

◎Ter.
11 rue Camille Desmoulins, 75011 Paris
☎+33.(0)7.45.28.01.55
火曜~金曜 19:00~23:00
土曜、日曜11:30~14:30、19:00~23:00
月曜休
https://restaurant-ter.fr/

料理通信メールマガジン(無料)に登録しませんか?

食のプロや愛好家が求める国内外の食の世界の動き、プロの名作レシピ、スペシャルなイベント情報などをお届けします。